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確保

 美人な奥さんの家から孤児院までの間を、ルートを変えつつ行ったり来たりすることにした。

 白い子猫の捜索に加え、周囲の地理把握が目的だ。

 特に意識しておくのは人間では通れない細道がないか。あるいは道でなくとも猫ならば通れる場所がないか。

 猫ってそういうルートをよく通る印象があるからな。

 で、そんな道を見つけた場合は、どこに繋がっているかまで出来る限り把握する。

 仮に行き止まりであっても、隣接している建物の屋根に上れそうならそれはあり得るルートとして判断。

 頭の中で地図を作りながら、猫が通りそうなルートをいくつか想定した。

 次にするのは可能性の高そうなルート周辺での聞き込み。


「白い子猫? さあ、見たことないなぁ」

「忙しいから他当たってくれ」

「数年前にこの辺で見たことはあるよ」


 残念ながら、聞き込みなんて大半がこんなもんである。

 前回みたいにピンポイントに欲しい情報など、そうそう出てこない。

 今の子猫情報が欲しいのに、数年前の子猫情報を言われてもねぇ。

 それでもくじけず、頑張って聞き込みをすること約50件。

 子猫が使っている大体のルートが絞り込めたので、そのルート上で聞き込みをしていたら、ようやく怪しい情報を掴むことが出来た。


「そういや最近、たまに猫の声がするんだよな。建物の裏で鳴いてるんじゃないか?」


 そう教えてくれたエルフのお兄さんは、とある商店の倉庫で荷物整理の仕事をしているらしい。

 倉庫は絞り込んだルートに隣接しているので、実に怪しい。


「よし、行ってみよう。どうもありがとうございました」

「頑張ってねー」


 倉庫の位置を教えてもらって移動すると、そこにあったのは木造の倉庫。

 敷地面積的にはここら辺の家2件分程度で、凄く大きな倉庫というわけではない。

 使っている商店の名前を聞いたりはしなかったけど、多分そこそこの店止まりなんだろうな。

 しかし木造の倉庫か……火事とか起きたら損失がやばそうだ。

 俺が考えることじゃないけど。

 お兄さんの推測を信じて、まずは倉庫の裏手に向かう。

 倉庫の裏手には、大人が2人入れるかどうかという程度の狭い通路があった。通路の途中には汚らしい角材がバラバラに数個置かれている。

 猫の姿は残念ながらないが、ここを通り道にでもしているんだろうか?

 そう思ったとき、微かに何かが聞こえた気がした。


「アッシュちゃん、何か聞こえなかった?」

「うん。聞こえた気はするけど、猫の声じゃなかったような……?」

「ホント? でも気になるし、もう一回聞いておきたいな」


 ちゃんと聞けていたわけじゃないから、もしかしたら猫の声かもしれないし。

 聞き逃さないようにしっかりと耳をすませる。

 可能であれば、音が聞こえた方向まで特定したい。

 一秒、二秒、三秒……。

 ジッと待つが、猫の声らしきものは聞こえない。

 それでも根気強く待つこと数分。

 猫の声ではないが、カリカリ、という音が聞こえた。


「聞こえた?」

「うん。そこら辺から聞こえたね」


 アッシュちゃんが指差すのは、通路にある角材付近。

 俺も通路の方から聞こえた気がしたから、多分間違いはない。

 角材を爪で引っかいたなら、さっきみたいな音がする……よな。

 風か何かでごみが転がって、角材に当たっただけという可能性はある。

 でも、子猫がそこにいる可能性もまたあった。

 ごくりと唾をのみ込み、あまり大きな音を立てないよう、ゆっくりと通路に入っていく。

 角材のすぐ手前までたどり着くと、さっき鳴った音の原因が何か、探るようにじっくりと周囲を観察した。

 角材にたどり着くまでに原因らしきものはなかった。

 奥側はというと、これまた原因らしき点はない。通路が奥に続いているだけだ。

 では一番怪しい角材はと言えば、土による汚れとかが付着している程度。

 加えて周囲に風で転がって音が鳴りそうなゴミは見当たらない。あれ?

 もしかしたらネズミとかが隠れているんだろうか。

 猫がいた場合に備えて、出来るだけ静かに来たけど……よし。

 俺は大きく足を上げると、わざと足音が響くように地面を踏みつける。

 タンッと軽い音が響く。

 すると、一瞬遅れて倉庫側からカタカタ、という音が返ってきた。


「もしかして倉庫の中、か?」


 足音に驚いて反応したんだろうけど、倉庫の中かぁ……。

 多分ネズミだよな。子猫が入ってたらさすがに気付いて、倉庫の外に出すだろうし。


「望、ちょっとそこの角材を蹴ってみて」


 アッシュちゃんが指で示している先にあるのは、一番下にある倉庫側の角材。

 見たところ特に変な点はない。その横にある角材も、上にある角材も、似たようなものだ。

 んー、よく分からんけど……せいっ!

 アッシュちゃんはきっと無駄なことなんて言わないだろうと、言われたままに角材を蹴る。

 それなりの重さがあるから大きくは動かないが、衝撃によって位置が少しだけずれて――倉庫の壁に空いていた穴が姿を見せた。

 おお!?

 俺は全く気付かなかったけど、穴の一部でも見えていたのか。

 さすがはアッシュちゃん。素晴らしい観察眼だ。

 穴の大きさは子供が頑張れば入れる程度。子猫なら余裕で入れるだろう。

 もしかして、ここに?


「ちょっと入ってみる。望は無理だろうから、ここで待ってて」

「あ、うん。よろしく」


 アッシュちゃんが俺の横を通り過ぎて、匍匐前進をするような体勢となり穴に頭を突っ込む。


「あ、いた。こっちおいでー」


 おおお!

 やった! こんなところにいたのか!

 どう足掻いても詰んでるみたいな結果じゃなくて良かった!


「んー、ちょっと警戒されてるのかな。ほら、おいでおいで」


 アッシュちゃんは頭と腕だけを穴に入れ、猫を捕まえようとしているらしい。

 傍から見ると不審なことこの上ない。いや、小さい子だから遊んでいるだけに見えるのかもしれないが。

 ……むしろそんなアッシュちゃんを見てる俺の方が不審人物か? この状況って。

 いや、きっと大丈夫だと信じたい。大丈夫だ、きっと大丈夫。

 ちょっと倉庫の穴に頭を突っ込んでる少女を見てるだけ……ん?

 字面的にダメっぽいけど、それより更にダメっぽい何かがあるような。

 …………あ。

 これ、どっかの商店が使ってる倉庫なんだから、下手したら泥棒と勘違いされる可能性があるじゃん!


「ア、アッシュちゃん、出来るだけ急いで! あ、さっき貰った干し肉も使って!」

「あー、そうだね。僕の左手に置いてくれるかな。あ、これ? よし」


 一旦穴から出てきた左手に干し肉を置くと、アッシュちゃんは再び左手を穴の中に戻す。


「ミー」


 お、猫の声だ。干し肉が自分の餌だと分かったのかな。


「ほら、お前のだよ。食べていいよ。こっちおいで。みゃー」


 !?


「みゃー。みゃー。あ、食べた。美味しい? ここにまだあるよ。みゃあ」

「ミー」

「みゃーお。みゃー。よし、捕まえた! 望、子猫捕まえたよ」


 ア、アッシュちゃんがみゃーって! みゃーって!!

 予想外過ぎてビックリした……そして可愛過ぎてビックリした。

 くっそ、ボイスレコーダーとかあったら録音したかった……。


「おいしょっと……望? おーい」


 っと、落ち着かないとな。


「あ、ああ。ありがとうアッシュちゃん」


 穴から出てきたアッシュちゃんは、両手で子猫をしっかりと捕まえていた。

 子猫はちょっと汚れているが、毛色は白。耳が垂れていて、目の色は青と黒。情報通りだし、ミーちゃんに間違いないな。

 脇の下の部分をアッシュちゃんに掴まれていて、下半身が空中でぷらぷらしているのにほとんど抵抗していないのは、口だけで器用に干し肉を食べているからか、それとも慣れているからか。

 ちょっと間抜けな図だが、捕まえているのには変わりない。無事に依頼が達成出来て良かったよ。

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