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孤児院

 軽いノリでアッシュちゃんと一旦別れ、待っていてもらったシオン君と合流。

 今日は下調べ程度であり、本格的に動くのは明日からになることと、他にやることもあるためアッシュちゃんはそちらに行ったことを説明すると、冒険者ギルドを出てシオン君の案内で孤児院へと向かう。

 ちなみに勝手に人員減らしたことに対する文句はなかった。

 募集人数が不問であり、人数関係なく報酬が一定の依頼の場合、パーティーで受けてもどのように人数割り振りをするかは基本的に自由とされているからな。

 まぁ明日になったらアッシュちゃんと一緒にやるんだけども。

 道順を覚えるためにきょろきょろしながらも、シオン君についていくことしばらく。

 俺は明日孤児院にたどり着けるのか不安になっていた。

 こりゃ確かに説明し辛いわ。そして同時に覚え辛い。

 道中は道が入り組んでいるし、目印になるようなものが少ない。

 ずっと特定の方向に進むとかなら良かったんだが、どうも一直線に目指すと所々で突き当たりになっているらしく、複数個所で一見遠回りに思えるルートを選んでいた。

 何で街中で迷路を攻略してる気分にならなきゃいけないんですかね……。

 あーやばい、もう自信がない。結構な部分でうろ覚えになってる。というかもう覚えようとする努力を破棄していいですか?

 そんな感想を抱き始めたとき、シオン君が声をあげた。


「着きました。ここが孤児院です」


 た、助かった……のか? 帰りは覚えようとした道が合ってるか確かめながら帰ろう。アッシュちゃん、遅くなったらごめん。

 目の前にあるのはお世辞にも綺麗とは言えない、所々に修理跡のある木造の建物。

 それなりの大きさはあるが、一見しただけでは孤児院には見えなかった。ちょっと大きな普通の民家って感じ。

 いやまぁ、脳内にあった孤児院のイメージが看板か何かに「○○孤児院」って書いてある、壁に穴とかの開いた超ボロイものだったからね。

 そのイメージから看板を外して、古いなりに修理とかはちゃんとしてる建物にすれば案外こんなものなのかもしれない。

 実際にそんなイメージ通りの孤児院があるのかは知らん。


「どうぞ、入って下さい」


 シオン君が扉を開けて、俺を中へと誘導する。

 入ってさっそくあるのは客間だろうか。

 学校の椅子を連想する椅子が4脚、低めのテーブルを挟むように2脚ずつ向かい合わせに置かれている。

 椅子も少し低めなのは、孤児院の子も座るからかね。

 テーブルの上はすっきりしたもので、何も置かれていない。

 というか部屋全体がかなりすっきりしてるな。物らしい物が椅子とテーブルしかないよ。


「依頼人はシオン君ってことだったけど、院長先生みたいな人は今いないのかな?」

「あ、いますよ。ただちょっと足腰が弱いので、何かあったときに動きやすいようぼくが依頼人になった方がいいだろうってことで、ぼくが依頼を出したんです。呼んできましょうか?」

「なるほどね。うーん、挨拶をおきたいから、問題がないなら案内してくれるかな。足腰が弱いのに無理に歩いてもらうのも悪いし」

「あぁ、それでしたらやっぱり呼んできますよ。長距離は無理ですけど全く歩けないわけじゃないですし、むしろ少しは動いた方がいいらしいので。そこに座って待っていて下さい」


 そう言って、シオン君はこちらの返答を待たずに部屋の奥にある通路へと歩いていった。

 仕方がないので言われた通りに座って待つ。

 こういう時間があると、俺はいつも周囲を見て時間を潰すのだが……ううん、やはり何もない。

 せめて壁に絵がかかってるとか、テーブルの上に花瓶があるとかすればぼーっと観察出来たんだが。

 いや、まあそういうのって金かかるから、貧乏そうな孤児院にないのは仕方ないって分かってるんだけどさ。

 いっそ無意味に天井のシミでも数えてやろうか――。


 ポトン。


 ――ん?

 軽い音がした方を見ると、そこには大量の頭があった。

 といっても別のホラー的な意味ではない。噓でもないけど。

 シオン君が出て行ったところとは別のところから、子供たちが顔を覗かせているのだ。

 一番手前の女の子が慌てたように小さな人形を拾っているから、さっきの音はこの子が人形を落とした音かね。

 その女の子以外は体を壁に隠して、顔だけ突き出すようにこちらを見ている。うん、大量の頭だ。生首ではない、はず。

 下の部分を見たわけじゃないので断言は出来ないけど、そんな展開普通はないだろ。

 大方、見知らぬお兄さんが入ってきているから、気になって観察しているといったところか。

 頭の数は少女も含めて7つ。

 スペースに余裕がないからか、一番下の子なんかは多分高さからして床に寝転んでるんじゃないか。

 そこまでして見たいんだろうか。よく分からん。

 というか、既に互いの視線が合っているわけで、この状況でも出てこずに状態を維持しているのもよく分からん。

 どうすりゃいいんだ……これ。


「お待たせしました……ってお前ら」


 地味に困っていたところでシオン君が戻ってきた。

 隣には院長先生らしきエルフのおじいさんがいるので、さっと立ち上がる。


「気になるのは分かるけど、冒険者さんと先生の邪魔をしちゃダメだよ。ほら、あっちの部屋で一緒に遊ぼう?」

『はーい』


 シオン君の呼びかけに、子供たち(もっとも、シオン君も子供ではあるのだが)は素直に従ってついていく。

 後に残されたのは俺と、シオン君と一緒に戻ってきた杖をついた白髪のおじいさんだ。

 おじいさんは柔和な笑みを浮かべており、見るからに人が良さそうだ。

 着ている服はなぜか白衣。院長先生っていうと俺は神父さんのイメージがあるんだけど、違うっぽいな。

 いやまあ、白衣を着た神父がいてもいいんだけどさ。

 とりあえず挨拶を――あ、よく見ると足が若干ぷるぷるしている。

 こりゃさっさと座ってもらった方がいいな。


「初めまして。Dランク冒険者の望といいます。猫のミーちゃんを探す依頼を受けてきました」

「ああ、初めまして。ここの院長をやっているクランクです。依頼を受けて下さってありがとうございます。どうぞおかけ下さい」

「はい、失礼します」


 こちらが改めて椅子に座るのを確認してから、院長先生はゆっくりと椅子に腰を下ろした。よし。

 とりあえず挨拶も終わったし、後は簡単に聞き込みかな。


「ええと、猫を探すにあたって何点か質問をさせて頂いてもいいでしょうか?」

「はい、大丈夫ですよ。ほとんど子供たち任せでしたのでお役に立てるかは分かりませんが、私で分かることでしたらいいんですが」

「ありがとうございます。あ、それと可能であれば後で他の子供たちにも同じ質問をしたいのですが」


 活動範囲がちょっとでも分かれば助かるからな。出来れば誰かが知っていて欲しい。

 あ、そういや餌をやってたかはシオン君に聞いてなかったな。確認するか。

 飯時に来て餌をやってなかったなら、近所で他の人が餌をやってた可能性もあるわけだし。


「ああ、それなら一緒に聞いた方が良さそうですね。シオン、シオン!」

「あ、ちょっと待ってて。ついて来ないでね。――はい、先生。なんでしょうか」


 パタパタとシオン君が小走りで戻ってくる。ううん、ちっさい子の世話は大変そうだな……。


「ノゾムさんがミーのことでみんなに質問したいらしい。悪いんだけど、みんなを連れてきてくれるかい?」

「分かりました。呼んできますね」


 そう言って、またパタパタとシオン君は小走りで部屋を出て行った。


「院長先生を除くと、シオン君がここで一番年上なんですか?」

「ええ。自分から他の子の面倒を見てくれる良い子でしてね。お陰で私がこんなでも何とかやっていけてます。勿論、他の子もみんな良い子ですけどね」


 子供たちのことを語る際に、院長先生の笑みが少し深くなった。

 たったそれだけのことではあるが、ここは良い孤児院なんだろうな、と思えてくる。

 貧乏そうではあるが、子供たちの血色は悪くはなかった。多分運営もそれなりに上手いことやってるんだろう。

 限界ギリギリなら猫の世話をする余裕もないはずだしな。


「みんなを連れてきました」


 声と一緒にシオン君が部屋に入ってきた。

 その後ろを子供たちがぞろぞろとついて来ているが、その姿はアヒルの行列を連想させる。

 なんかほっこりするな。

 明らかに椅子の数よりも子供たちの数が多いため、一番小さい子が院長先生の横に座り、他の子たちは机の近くで立つことになった。


「えーと、初めまして。Dランク冒険者の望です。猫のミーちゃんを探すことになったんだけど、いろいろ教えて貰えるかな?」


 ミーちゃんの名前を出したのが良かったのだろうか。

 子供たちの目が、知らないお兄さんを見る目から大切な猫(ミーちゃん)を探してくれるお兄さんを見る目になった、ような気がする。


「ぼーけんしゃさんがミーちゃんをみつけてくれるの?」


 問いを投げかけたのは、先ほど人形を持っていた女の子。

 どう転ぶかは分からないと感じているが、それを小さな子に正直に伝える必要もないか。無駄に不安にさせるだけだしな。


「うん。でも俺はミーちゃんについてあんまり詳しくないから、ミーちゃんについて知っていることがあったら教えて欲しいんだ。そうすれば、きっとミーちゃんを見つけ出せるよ」


 目を見て、意識的に笑顔を浮かべながらゆっくりと言葉を返す。

 万一、ここで子供たちから嫌われたりして得られない情報があったりすると困るからな。

 そんな俺の態度と言葉は子供たちのお眼鏡にかなったらしい。

 子供たちはこちらに近づいてくると、思い思いに口を開いた。


「あのね! あのね! ミーちゃんはしろくてかわいくてね!」

「あんよがちっちゃいの! にくきゅうがやわらかいの!」

「両目の色がちょっとだけ違うんだよ!」

「おにくがすきなのー」

「せんせー、おなかすいたー」

「おみみがね、ぺちょーんってなってるよ。ぺちょーんって」

「ミーって鳴くから、ミ―って名前なのよ」


 ……お、おう。

 ありがたいんだけどすっげー勢い。

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