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貸し借り清算

「おぉー……」


 何かのイベントかと錯覚するほどの人々、客を呼び込む声、店頭に並べられた品々、整然と並ぶ建築物。

 それらを目にして、思わず声が出てしまった。

 今まで見た中で一番都会っぽいのだ。おのぼりさんっぽくなるのは許して欲しい。実際間違ってないしな。

 10日ほどかかった馬車の旅はついに終わりを告げ、俺たちは帝都ソレイユに入ったのだ。


「ようやくついたな。俺らは冒険者ギルドに行くけど、ノゾムたちはどうするんだ?」


 ホルンさんに言われ、少し考える。

 まず、帝都ソレイユはこの世界で一番大きな都市である。

 そのため基本的には街に1つしかない冒険者ギルドも、ここには4つあった。

 いつもなら宿を見つけてから冒険者ギルドなんだけど、それだとホルンさんたちと行く先が違う可能性が出てきてしまう。

 無理に合わせる必要はないけど、やっぱ詳しい人についていけた方が安心なんだよなぁ。

 逆に、ホルンさんたちと別れることで何か得をすることがあるか。

 ……特に何もないな。うん。

 時間が遅いなら空いている宿が無くなるかもしれなかったけど、今は真昼間。そんな心配は無用だ。

 むしろホルンさんたちは元々帝都(ここ)を拠点にしていたらしいので、良い宿を教えてもらえる可能性すらある。


「俺らも一緒に冒険者ギルドに行くことにします」

「おう、そうか。じゃあついでに案内してやろう。ついて来い」

「ありがとうございます。助かります」


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 はぐれないように後ろをついて歩いていると、10分くらいで冒険者ギルドについた。

 特に寄り道などはしなかったが、道中では「ここの焼き鳥が美味い」だの「ここのオヤジは偏屈だが、置いてある装備の質は良い」だの「この宿は安いが手癖が悪いやつが多いからやめておけ」といったように、結構しっかりとした案内をしてもらえた。

 とりあえず、宿屋は看板娘が美人と言われたところにしようと思う。

 教えられた宿屋の中で、一番費用対効果(バランス)が良さそうだったからな。うん。看板娘というのに惹かれたわけではない。

 目の前にある冒険者ギルドは、周囲の建物よりも二回りほど大きかった。

 結構古くからあるのか、壁の塗装は一部剥げており、窓枠には補修されたような痕がある。

 ドアはかなりしっかりした感じで傷痕も少なく、新しかった。多分最近付け直したんだろう。

 そんなドアを押して三本の矢の面々が冒険者ギルドに入ると、俺たちもその後についていく。

 冒険者ギルドの中は様々な冒険者で溢れていた。

 昼間から酒を飲んでいるドワーフの女、それを見てたしなめているエルフの男、我関せずと依頼を探す人間の男。

 依頼達成後の報酬をどう分けるか相談しているパーティーに、パーティーぐるみでソロの女性に声をかけるもあっけなく振られている男たちなんてものもいた。

 トラモントよりもエルフやドワーフの割合が多い気がする。それでも人:エルフ:ドワーフ=4:3:3くらいなのだが。

 多分種族的には人間が一番多いんだろうな。


「まずは依頼見てくるか。依頼の更新がされたばっかりだろうから、良いのがあるかもしれんしな」


 ホルンさん曰く、帝都の冒険者ギルドでは1日に朝と昼過ぎの2回、依頼の更新が行われるらしい。

 トラモントでは朝一の更新だけだったから、それだけ依頼されることが多いということなんだろう。

 昼過ぎでも良い依頼があるかもしれないというのは助かるな。

 ホルンさんたちとは一旦別れ、Dランクの依頼がまとめられたボードへと向かう。

 何か良い依頼があればいいんだけどな。

 えーと、どれどれ。

 ゴブリンナイト狩り。狩りはダメだな。パス。

 隣町までの護衛。何かに襲われたときに戦う姿は見せられない。パス。

 ヴェノムバットの血液採集。採集だけど結局狩りだな。パス。

 時間をかけてじっくりと見ていくも、残念ながら全ての依頼に狩りまたは戦闘が絡んでいた。

 ううん、純粋な採集がない。ガッデム。

 メイヴォスさんに鍛えてもらったけど、癖が多少マシになって防御の技術が少し手に入ったくらいだ。

 こちらから攻撃する手段に関しては前とほぼ変わらない。

 注射器みたいなものがあればヴェノムバットを一時的に無力化し、死なない程度に血液採集という手段も取れるのだが……残念ながらそんなものはないし。

 仕方がない。下のランクの依頼から探すか。

 そう結論づけたところで、「おーい」というホルンさんの声が聞こえた。

 視線を向ければ、ホルンさんたちが1人の少年とともに俺を手招きをしている。

 はて。何かあったんだろうか。

 とりあえず呼ばれているっぽいので、ホルンさんたちの元へと向かう。


「もう依頼何か受けたか?」

「いえ。いいのがなかったので、下のランクから探そうかと思っていたところです」

「おお、じゃあ丁度いいな。メイヴォスの貸しがあったろ。それを返して欲しいんだ」

「はあ……どんな内容なんです?」


 問いながら、ちらりと少年に目を向ける。

 人間の少年で、年は多分10歳前後。服は結構ボロボロなのを繕いながら使っているようだ。

 この少年がらみなんだろうなぁ。


「こいつ、シオンって言うんだがな。シオンの出したFランクの依頼を受けてやって欲しいんだ。余裕があったら俺らで受けたんだが、シオンが依頼を出していることに気付く前に俺らは別の依頼を受けちまったからな。その代わりだ」


 やっぱりか。


「えーと、Fランクだから大丈夫だとは思いますけど、念のため依頼内容を聞かせて下さい」

「こ、これ!」

「ああ、ありがとう」


 若干食い気味にシオン君が答えて、依頼書を見せてくれた。

 冒険者ギルドでは代筆サービスがあり、依頼を出す側は文字が書けなくても問題がない。

 見せられた依頼書の文字はかなり綺麗だ。多分代筆サービスを使ったんだろう。

 で、内容は――。


 ランク:F

 依頼:猫の捜索

 内容:孤児院によく来ていた猫が急に来なくなりました。探して下さい

 期間:該当の猫が見つかるまで

 報酬:200ヘルト

 募集人数:不問

 依頼人:シオン


 うぅん……。つい苦い顔をしてしまう。

 下手したら何日もかかってしまう上に、報酬は日数などに関わらず200ヘルトで固定。しょっぱい。

 正直、普通にこの依頼を見てもスルーするだろう。

 報酬の相談とかしたいところだけど、内容から察するにシオン君は孤児院の子なんだろう。

 であればこの額が出せるぎりぎりって可能性はあるよな。

 ……はぁ。借りがある以上、仕方がないか。

 出来るだけ早く終わらせよう。


「分かりました。これで貸し借りなしですからね」

「おう。細かい話はシオンに直接聞いてくれ。じゃあ俺らは別の依頼してくるから、頑張れよー」


 そう言って、ホルンさんたちはさっさと去っていった。

 さて、それじゃシオン君に細かい話を聞かせて貰おうかな。

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