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アッシュさん

「ここ、アッシュちゃんの部屋じゃないの?」


 ベッド以外ないけど、慣れてる感じがしたからそう思ってたんだけど。


「そうだよ」


 あぁ、やっぱり合ってはいたのか。

 まさか一緒に寝るなんて言わないよな?


「俺が寝る部屋に連れてきてくれたんだよね?」

「うん」

「アッシュちゃんは他の部屋に行くってことかな?」

「どうして? 僕もここで寝るよ」

「どうして、と言われると……」


 もうちょっとアッシュちゃんの見た目が若かったなら、多分微笑ましい光景になって問題なしな気はする。

 あるいは見た目が俺と同じくらいの年齢に見えたなら、そういう関係という前提があれば、問題なしになるだろう。

 そういう意味で、ぎりぎりアウトなんだよなぁ。

 しかも合法ロリだから余計にややこしいし。

 いやまぁ、俺の夢だからアウト判定するのは俺だけなんだけどさ。やっぱり俺的にはアウトなんだよ。

 とはいえ、どう伝えたものか。

 淫魔がNGワードということを鑑みると、潔癖症な面があるかもしれないんだよな。

 下手な言い方をすれば怒らせかねないし、一般論で押し通すしかないか。


「一定以上親しくない異性と一緒に寝るのは良くないから、かな」

「そんなものなの?」

「そんなものなの」


 ここは断言しておく。こっちヴァラドの常識は違うかもしれないが、そんなことは気にしない。


「でも、ベッドはこれしかないんだよね。他のは消し飛んじゃっててさ」

「じゃあソファとかあるかな? 最悪適当な布みたいのでもいいけど」


 一晩くらいなら、適当な布に包まって横になってても平気だろう。

 元々眠る気はなかったしな。


「ないことはないけど、僕はそんなところで寝たくないし、望をそんなところで寝させるつもりもないよ」

「そう言われてもなぁ」


 引いてくれる気がないのか、アッシュちゃんは俺の方をじっと見つめてくる。

 そんな訴えるような目で見られても、俺的にアウトなんだから仕方がないじゃないか。

 どうしたものか。


「あ、そうだ」


 アッシュちゃんが急に、良いこと思いついた、とでも言いたげな顔をした。

 なんだろう。


「望は異性と一緒に寝るのがダメって言ったよね?」

「言ったね」

「だったら」

「え?」


 唐突に、アッシュちゃんの体から靄のようなものが出てきた。

 詠唱はなかったが、これも魔法だろうか。

 靄はあっという間にアッシュちゃんの全身を覆い隠し、シルエットしか見えなくした。

 靄の密度が上がっているのか、シルエットもどんどんぼやけていき、何も見えなくなった。

 直後。

 靄の中心から強い風が吹いて、靄が全て吹き飛び――


「これなら問題ないだろ?」


 中から、赤いシャツに黒いズボンというラフな格好のオッサンが出てきた。

 どうやら俺は疲れているらしい。

 あんなに可愛かった十歳前後の美少女が、たった数秒で可愛さとは無縁のこんな姿になるわけがない。

 身長2m近い筋骨隆々のオッサンで、顔が凄く厳つい。威圧感も凄まじい。

 オッサンはただ立っているだけなのに、全身から汗が吹き出し、呼吸がし辛くなる。

 正直こんなオッサンと町ですれ違ったらそれだけで逃げたくなるし、もし睨まれたら財布の中身を全て差し出しながら即座に謝ってしまうだろう。

 そう、だからこれは幻だ。

 慌てず騒がず、目を擦ってもう一度見直せば、そこにはあの可愛いアッシュちゃんが――


「おい、望どうしたんだ。変な顔して」


 誰か嘘だと言ってくれ……。

 どっきり大成功とかでも構わない。今なら許す。

 今日一番のダメージだ。チートが使えないことよりショックを受けるだなんて思ってもみなかった。

 神様、俺が一体何をしたというんですか。


「あぁ、そうか。久々だから忘れてた。これでどうだ」


 オッサンがそう言うと同時に、威圧感が消え去った。

 別にオッサンの体形や顔が変わったわけではないのだが、これなら話しかけるくらいは出来そうだ。


「……アッシュちゃんはどこに行ったんだ?」

「あ? アッシュは俺だよ」

「う、嘘だっ!」


 俺は信じない、信じないぞ!

 アッシュちゃんの正体がこんなオッサンだなんて、許されるわけがない。

 それは詐欺だろう。

 アッシュちゃんがこのオッサンに攫われたから、チートのない俺が助けに行く、とかいうシナリオの方が何億倍もマシだ。


「嘘じゃねぇよ。落ち着け」


 再度、先ほどの威圧感が叩き付けられた。

 そのあまりの強烈さに、オッサンに向けて声を出すことが出来なくなってしまう。


「俺の種族についてもうちょっと詳しく話してからやるべきだったな。そこはすまん。まぁ仕方がないからこのままで話すぞ。

 まず、夢魔には決まった性別や外見がない。好きに性別や外見を変えることが出来るんだ。

 だからさっきの十歳程度の少女も、今の四十歳程度の野郎も、どっちも俺、アーシュライトということに変わりはない。

 性格とか口調は割と姿に引っ張られちまうから、その姿によって変わってくるんだが、記憶とかはちゃんと保持してるから、そんなもんだと割り切ってくれ。

 ちなみにこの姿だと、見て分かるように俺は大分粗野な感じになるな。殴り合いとかする必要が出た場合は大体この姿になる。

 意識しないと勝手に周囲を威圧しちまうオマケがついてて、面倒なんだがな。

 そうそう、さっき望はサキュバスとかインキュバスって名称を出したよな?

 その名称は人間が俺たちの女の姿を見てサキュバス、男の姿を見てインキュバスってつけたんだ。同じ存在とは思えなかったんだろうな。

 話としてはこんなもんだ。一気に長々と喋ったが、どうだ? 理解できたか?」


 あまり信じたくはないが、言っていることは理解できた。

 とりあえず、真っ先に確認すべきことは、だ。


「ということは、アッシュちゃんに戻れるってことだな?」

「いや、俺もアッシュではあるんだが。まぁ、言いたいことは分かるから答えると、戻れる。こんな感じでな」


 また靄が出てきて、あっという間にアッシュちゃんに戻った。

 オッサンを見た直後だから凄く癒される。

 というか、性別や外見だけじゃなくて服も変わっているんだが。

 いや、変わらないと破けたりするだろうから、それでいいんだけど。


「制限なんかもないよ。まぁ毎回変えてたらややこしいから、僕の姿は3パターンくらいだけどね」


 そうか。良かったー。

 思わず安堵の息が漏れる。

 ショックはショックだったけど、どっちも真の姿? ならまだ救いはある。

 まだ見てない姿はちょっと気になるが、今はもうお腹いっぱいだ。

 オッサン以上に危険なものが出る可能性を考えてしまうと、怖すぎる。

 あー、ずっとオッサンというのもあれだな。オッサンの姿のときは、アッシュ「さん」とでも呼ぶか。「ちゃん」は嫌だし。

 おや、なんでアッシュちゃんはまた靄を出しているのかな?

 その姿でいていいんだよ?

 変わった姿は、アッシュさんのものだった。


「よし、じゃあ理解してもらったところで、寝るか!」

「え」


 え?


「異性だとダメなら、同性になった今ならいいんだろう?」


 そういうことか。

 え、むしろこっちの方がダメじゃね?

 でもどうやって回避するんだ、コレ。

 同性もダメって言うか?

 いや、じゃあなんでさっき異性って断定したんだよってなるよな。

 どうしたもんか。

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