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知ってたのと違う

 何とも言えない気分で島に上陸すると、とりあえず砂浜で服を乾かすことにした。

 周囲に他の人もいないということで、パンツ一丁に靴というなんとも変態チックな格好になる。

 ズボンとかシャツは良い感じに熱されていた岩の上に置いておいた。

 陽は低いが気温は高めだし、そのうち乾くだろう。

 ちなみにアッシュさんはいない。


「ちょっと周囲探ってくるわ」


 と軽い調子で、砂浜から見えている森へと入って行ってしまった。

 全身から靄を出すと一瞬で別の服装に変わっており、服を乾かすという必要がなかったのだ。

 あの変身で服も変わるのは知ってたけど、こういう使い方があるとは思わなかった。

 便利だよなぁ。服代とかもかからないし。

 今更だけど、どういう仕組みなんだろう。

 服のように見える肌、とかそういうオチじゃないのは間違いない。

 触った感じは間違いなく布だし、アッシュがからかうために目の前で服を脱いできたこともある。

 その時脱いだ服は、アッシュちゃんに戻ったときに消えていた。

 ずっと残り続けるわけではないということだ。

 うーん……不思議だ。

 魔法とかも不思議ではあるけど、あれはちゃんとルールがあるっぽいからなぁ。

 夢魔の特性ってのは間違いない。はず。詠唱もしてないから魔法じゃないのは確かだ。

 好きな姿になれるって特性で、その範疇に衣類も含まれている、とかだろうか。

 で、他の姿になるときには前の姿になっていたものが全て消える、とか。


「筋は通ってそう、か?」


 となると、さっき否定したばっかだけどある種肌のようなものになるのかな。

 イメージ的には脱皮とか切り離されたトカゲのしっぽ、みたいな。あれはあれで体の一部と考えた方がいいのかもしれない。

 ……そう考えると、消える方がある種自然か?

 もし服が残るなら変身する度に服が増えるってことだもんな。

 質量保存の法則じゃないけど、服が増え続けるのには違和感があるし。

 てか増え続けるならその服を売るだけで暮らせそうだよな。


 変身する→普通の服に着替える→元の服を売る→変身する→以下ループ。


 みたいな感じで。

 今でも無理すればやれるだろうけど、消える服を売るのは詐欺だよなぁ。

 最初の数回で怪しまれてしまうのが目に見えているし、さすがにやれない。

 調べられたら困ることだらけだもんな。

 なかなか楽はできないもんだ。

 冒険者を楽しんでるから別にいいんだけど。


「おーい望、服乾いたか?」


 考えがずれ始めたところで、アッシュさんが木々の間から姿を見せた。

 小腹でも減ったのか、保存食の干し肉を右手に持って、食べながらの帰還だ。

 あのまま考えてたところで結論は「そういうものだから」になってただろうし、丁度良かったのかもしれない。

 岩の上の服に手を当てると、ぽかぽかした熱と一緒に湿り気が伝わってくる。


「んー、もうちょいかかりそうかな。そっちはどうだった?」

「ちょろちょろと気配はあったな。少し奥に行きゃ会えるだろうさ」

「お、じゃあさっさと終わりそうだな。見つからない、みたいなことがなくて良かった」


 採集系の依頼は結構探すのが手間な場合が多いからなー。

 後の問題は、竜頭苔の採取方法か。

 順当な方法は、やっぱサクッと()ッちゃってから安全に採取する方法なんだろう。

 でもなぁ……。人型の何かよりはマシだろうけど、他の方法があるならそっちがいいなぁ。


「あー、アッシュさん。竜頭苔を取るときだけど、どういう取り方する予定?」

「適当に眠らせて、普通に採取したらいいだろ。……ホント望は優しいな」


 近くまで来たアッシュさんに顔に似合わない優しい口調で言われたが、反応に困ってしまう。

 別にドラゴン(恐竜)が可哀想とか、そんなことは全く思ってないからなぁ……。

 どう返すのが正解なんだろうか。

 何となく脳内にエ○ァの某キャラクターのセリフが浮かんだので、その返答で言われるようにとりあえず笑って誤魔化した。


「乾いてないならもうちょっとだらだらして……って……あー、悪い望。要らないのがついてきた。いや、ある意味で要るやつなんだけど」

「へ?」

「グルルルル!」


 何やら唸り声っぽいものが聞こえる。

 森の方に視線を向けると、そこには一匹の恐竜――っぽいものがいた。

 口から涎垂らして俺たちを襲おうとしているそいつは、昔に何かの本かTVで見たことがあるような姿をしている。

 恐竜に詳しくない人でも名前くらいは聞いたことがあるであろう、多分トップクラスに有名な恐竜。

 ティラノサウルス。

 今視界内にいるそいつは、まさにティラノサウルスによく似た姿をしていた。

 一部を除いて。


「えぇと……ちっさくない?」


 俺の記憶が確かなら、ティラノサウルスってデカかったような気がするんだけど。

 このティラノサウルス(?)は3m前後くらいの大きさだ。

 さすがに小さすぎるよな……?


「いや、あれがティラノサウルスの標準的な大きさだぞ」

「そうなのか……。そしてやっぱりティラノサウルスなのか……」

「知ってそうな反応だけど、一応説明しとくぞ。あいつは肉食で、かなり獰猛な性格をしている。結構嗅覚に優れていたはずだから、多分こいつの臭いに釣られて出てきたんだと思う。分かっているとは思うけど、近づくなよ」


 そう言って、アッシュさんはひらひらと右手の干し肉を振った。

 干し肉ってあんまり臭いしないと思うんだけどなぁ……どんだけ鼻がいいんだ。

 まぁ探しにいく手間が省けたのはよかった……のかな。

 ドラゴン退治が小さい恐竜退治になったと思うと、何となく気分がモヤモヤするけど。


「了解。じゃあ、アッシュさんよろしく」

「おう、任せとけ!」


 まるでアッシュさんの言葉を理解したかのように、ティラノサウルスが走り出す。

 げ!

 ティラノサウルスの進行先には、当たり前だが俺とアッシュさんが並んでいる。

 俺は慌てて距離を取るように後ろに下がり、逆にアッシュさんは迎え撃つため前に出た。


 筋骨隆々のオッサンvs小さい恐竜という、何だかよく分からない組み合わせの戦闘が始まる。

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