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島へ

 アッシュちゃん曰く、ドラゴンの生息地は非常に限られているらしい。

 有名なのは大陸の東に位置する大山脈。

 そこには多種多様なドラゴンが生息していて、強い種類ほど高いところにいる。

 まれにそこから離れたはぐれドラゴンが出る場合もあり、基本的にドラゴンに対する討伐依頼はそのはぐれドラゴン狩りになる。

 だが、はぐれドラゴンなんてそうそう狙って会えるものではない。

 大山脈も遠すぎる。今から行っても、片道で10日を過ぎてしまうだろう。

 だから俺たちは、大山脈以外に唯一ドラゴンが生息するという西の島、ミテラ島へと向かうことにした。

 トラモントの西側には港がある。そう、実はトラモントは海に面しているのだ。

 その割に潮の匂いは感じたことがないのは、そういったものを遮る結界みたいなものを作る魔道具があるんだとか。

 基本中心から東側くらいでしか活動してないから、あんまり西側に縁はなかったんだよなぁ。


「あそこは危険過ぎて観光地にもならないからねー。定期便みたいなものはないし、適当な漁船に乗せてもらうしかないね」


 というアッシュちゃんの言葉により、乗せて貰える漁船探しをする。

 港には木造の船が多数あり、これだけあるなら乗せて行ってくれる人が簡単に見つかるかと思ったんだが――。


「あー、行く場所が全然違うんだ。わりぃな!」

「あんな危険なところ近づきたくねぇよ」

「……(無言で首を横に振る)」

「ダメだ。海流が結構複雑でな、俺の腕じゃ最悪船が沈んじまう」

「ミテラ島って……もしかしてマルシュさんの依頼か? お前らBランクじゃないだろ、ダメダメ」


 ――このざまである。


「まさか運んでもらうだけでここまで苦戦するとは……」

「望って泳げる?」

「泳げるけど泳がないよ!?」


 ミテラ島は結構遠くて、船で半日かかる距離にある。

 いくら体力が無限でも、泳いでいくのは無理だ。海流に流されて遭難するビジョンしか見えない。


「僕が姿を変えて運んでもいいよ?」


 む。

 つまり、泳ぐアッシュさんの背中に掴まり続けるってことかな。

 楽ではありそうだ。アッシュさんなら海流すらかき分けて進めそうだし。

 船も要らないし、ありな選択肢だろう。

 ――ただ一点を除いて。

 そう、これをするにはアッシュさんに抱き着くという行為が必須なのだ。

 何が悲しくて筋骨隆々のオッサンの背中に抱き着かないといけないのか。

 せめてアッシュなら……いや、これはこれで我慢できなくなりそうだ。ダメだな。

 アッシュさんに荷物みたいに運ばれるならまだいいけど、そうすると泳ぎの邪魔になっちゃうしなぁ。


「それは最終手段にしよう。とりあえずは船を手に入れる手段を考えよう」


 普通の手段を考えつくしてからでも遅くはないだろう。

 最悪諦めるけどさ。


「まだ話を聞いてない人はいるけど、このままじゃ多分ダメだよなぁ」

「そうだねー。さすがに船を買うにはお金が厳しいし。気絶させて奪う、とかはリスクが高いし……」


 アッシュちゃんがなかなか物騒な案を出しているが、聞かなかったことにしよう。

 さて、断られた理由は大体「遠い」「危険」「持ち主の技量不足」「俺たちのランク不足」って感じだよな。

 遠い。これはさすがにどうにもならない。転移陣でもありゃ別かもしれないが、ここにはないし、そもそもあったら直接島に行ってる。

 危険。これはアッシュちゃんが頑張って守ってくれれば何とかなりそうだけど、アッシュちゃんは人前じゃ実力が出せないからどうにもならない。

 持ち主の技量不足。これは……技量があるけど船のない人を見つけることができたら、何とかなるかもしれないな。俺は無理だけど、実はアッシュちゃんに操舵技術がある、とかそんなオチないかな。

 俺たちのランク不足。今からランクをBまで上げる……さすがに間に合わないよなぁ。


「アッシュちゃん、船を操作する技術とか持ってたりしない?」

「いやー、さすがに経験がないね。攻めてきた船を壊した経験はあるけど」

「お、おう……」


 斜め上の返答がきて言葉に詰まってしまった。

 そういや魔王だったね。どういう経緯だったのかはちょっと気になるけど、今はやめておこう。


「うーん、どうしたもんか。凄腕の船乗りだけど事情があって船を手放した、みたいな人はいないものかな」

「ん? どうしてそういう結論になったの?」

「俺らが断られた理由ってさ――」


 さっき考えたことを素直に話す。

 俺じゃ行き詰ったけど、アッシュちゃんが他の案を出してくれることに期待だ。

 実際、俺より間違いなく頭良いだろうしな。


「――ってわけ」

「ああ、それでか。聞いてて思ったんだけどさ、ランク不足の理由を潰した方がいいんじゃないかな」

「というと?」

「僕らが受けようとするから、断られるんだよね。だったら、Bランクの冒険者でも違和感のない人が一緒だったら?」

「ああ!」


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


「ということで、マルシュさんの依頼を受けてもらったんですよ。あ、俺は弟子みたいなもんで、見学です」

「ふぅん? まあBランクの冒険者ならいいよ。船を出してやる。坊主は無理すんじゃねぇぞ」

「おう、じゃあ頼むわ!」


 はい、超あっさりいけました。

 さすがアッシュちゃん、この発想はなかったよ。


 俺の目の前には2人のオッサン。

 1人は船乗りのオッサンで、この人もマルシュさんにいろいろと恩があるらしい。

 最初は金を払うつもりだったのだが、マルシュさんの依頼ということを伝えると船も無料で出してくれることになった。

 実際に依頼は受けてないけど、やることは一緒だから許して下さい。

 で、もう1人いるオッサンは我らがアッシュさんだ。

 説得の手順は簡単で、まずアッシュちゃんが物陰でアッシュさんになる。

 次に、俺らがBランクになっていないからという理由だけで断る人を探す。

 そして、アッシュさんをBランクのベテラン冒険者として紹介。堂々とマルシュさんの依頼を受けたという嘘を吐いて、船に乗せてもらうための交渉に移る。

 俺は見学ということにして、ついでで乗せて行ってもらうことにした。

 アッシュさんの体格だとあっさりBランク冒険者だって信用してもらえたし、やっぱ見た目は大事だよな。

 どうせあっちについたらアッシュさんになる必要があったんだし、無駄がない作戦だ。

 後はミテラ島で竜頭苔を手に入れるだけ、だな!

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