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アッシュちゃん

 目を開けると、いつの間にやら俺は地に足をつけていた。

 衝撃などは一切なかったが、数秒の間にどうなったんだろうか。

 いつの間にやら契約書などがなくなって、周囲は少し暗くなっている。

 空を見上げれば、青い月と大量の星々の光が目に入った。

 月明かりが強いため、あまり夜らしさは感じられない。


「日本ではこんな光景見れないだろうな」


 本当に異世界に来れたのだろうか。

 だとしたら嬉しいんだが。


「成功した、かな」


 後ろから聞こえた声に振り返る。

 そこにいたのは一人の少女だった。

 多分十歳前後だろう。

 金髪碧眼、人形のように整った顔立ちで、真白な肌。

 黒いドレスのような服を身に纏っていた。

 さすが夢、とでも言うべきか、十人に聞いたら十人が美少女と答えるだろう。

 そこにロリコンが混ざってたら犯罪者が増えるかもしれない。

 それくらいの美少女だ。

 しかし、さっきの俺の願望が通ったというわけではなさそうだ。

 若すぎる。せめて後十歳、年を取っていれば……。


「異世界にようこそ。歓迎するよ」


 おおう、なかなか偉そうな子だな。

 というか、やっぱり異世界なのか。


「いろいろと話すことはあるけど、まずは移動しようか。ついてきて」

「え、あ……うん」


 ちょっと展開早過ぎね?

 お約束的にはここでもう少し言葉を交わすとかさ、あるじゃん。

 しかしそんなことを思っている間に、少女はこちらに背を向けて歩き出している。

 とりあえず、ついていくか。


 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


 どうも俺がいた場所は、小さな丘のようなところだったらしい。

 十分程度歩いたところで、ようやく道にたどり着き、更に十分程度歩いたところで半壊している元は立派だったであろう洋館? にたどり着いた。

 夢なんだったら特に意味のない道中はカットしてくれてもいいと思うんだけどな。

 変なとこでリアルだ。

 歩いている間、少女からは一切話しかけられなくて、俺もいろいろ考えたかったから話しかけなかった。

 とりあえず考えながら決めたのは一点。

 状況に流されよう、ということだった。

 いや、どうせ夢だし、自分で思い通りにする方法が分からないなら、異世界に召喚された気分だけでも味わおうと思ったんだ。

 異世界なら俺の常識が通じないことも多そうだし。

 うん、だから館が半壊してるのは……スルーしよう。そういう設定なだけだろう、きっと。


 少女は手慣れた感じで瓦礫の山を登り、直に館の二階に入り込んだ。

 なかなか斬新な入り方である。

 まぁ流されると決めたから、そのまま同じルートで館に入りましたとも。

 足場が崩れそうで怖かったが、少女の通ったルートはかなり安定していたので助かった。

 館内部はなんというか、物が少なかった。

 規模は大きいのにがらーんとしている感じで、小金持ちが頑張って外側だけ作って、内部は諦めたらこんな感じになるんじゃないだろうか。

 絵画とか壺とか、そういう高価そうなものは一切見当たらなかった。

 館も半壊しているところから考えると、実は元の持ち主はここを引き払っていて、少女が勝手に住んでいる、という状況が一番あり得そうだ。

 個人的な願望で言うと、実はここはどこかにある小国の王家の隠れ家で、この少女は王女。

 国は何かが理由で乗っ取られたから、それを取り戻すために俺を召喚した、などだと嬉しい。

 ついでにチート能力があったりすると尚良し、だ。

 あーいや、逆か。

 余程凄いチートでもないと、俺には活躍なんて出来ないだろうな。

 スキルとか自分で選べるタイプの方がテンション上がるんだけど、そういうこともなかったし、自然と身についているパターンに期待だ。

 ともあれ、もうしばらくは様子見だ。

 思考停止して流されるだけとも言う。

 少しして、少女が入った部屋に入ると、そこはデカいベッドが一つだけある部屋だった。


「ついたよ。椅子なんかはないから、ここに座って」


 そう言って少女はベッドに座ると、自分の横をポンポンと叩いた。

 もしかしてそっち系の夢か?

 いや、さすがにちょっとロリが過ぎるよなぁ。

 現代日本だとお縄になること間違いない。


「あー、いやいいよ。立ってる」

「そう? じゃあこのまま話をするね。最初はざっくり状況を説明するから、気になることがあったら後でまとめて聞いて」

「分かった」


 割と賢そうな子だ。

 もしかして合法ロリなパターンだったのだろうか。

 ちょっと惜し――くもないか。実年齢がどうであれ、外見的に手を出す気にはちょっとなれないな、うん。


「まず僕の名前はアーシュライト。長いからアッシュでいいよ」

「俺は高村望。望が名前だけど、好きに呼んでくれていいよ」

「分かったよ。望を召喚したのは僕で――」


 という出だしで、小一時間程度はこの子、アッシュちゃんがほとんど話し続けた。

 これだけ長時間話し続けられるのは素直に凄いと思う。

 そして思ったよりも長引きそうだと判断した時点で、前言撤回しベッドに座らせて貰うことにした俺の判断は正しかった。

 あ、勿論座って話を聞く以外のことはやってない。ノータッチである。

 ずっと立ってたら今頃足が無駄に疲れてただろうからね。

 あんまり運動しないから仕方がない。

 話の内容としては軽い自己紹介とこの世界について、そして今の状況についてと愚痴だった。

 アッシュちゃんについて分かったことを端的に言うなら、『合法ロリ(具体的な年齢は不明)で男っぽい口調の僕っ子、しかも魔王』という感じだろうか。

 属性詰め込み過ぎな気はするが、とりあえずアッシュちゃんはそういう存在らしい。王女より凄かった。

 話聞いてる感じ百歳は超えてそうだが、外見的に「ちゃん」付けでいいだろう。

 というか見た目十歳程度の子に「さん」付けは違和感がある。嫌がってる素振りもないし大丈夫だろう。

 この夢の世界は「ヴァラド」という名称で、他にも通貨についてとかいろいろ教えてくれてたんだけど、ぶっちゃけほぼ覚えてない。

 いや、説明は口頭だけだし、割とテンポも早かったし、何より最後の愚痴ラッシュが凄すぎて他の話が頭から抜けてしまったのだ。

 唯一ちゃんと覚えているのは、日本とヴァラドで言語が違うということ。

 今会話が通じているのは、召喚されるときの契約書の効果で、俺とアッシュちゃんにラインが繋がっているからだとか。

 俺が知っていて、かつアッシュちゃんが知っているものであれば近い表現に自動翻訳されているらしい。

 俺が喋っているのも、日本語のつもりだったがヴァラドでの言語になっているんだとか。

 意識したら確かに口の動きが違った。ちょっと面白い。

 しかも会話だけじゃなく文字も大丈夫らしい。よくある便利機能である。

 ただ欠点があって、アッシュちゃんと離れすぎるとラインが切れてその効果がなくなるのだとか。

 一定距離に近づけばラインはまた繋がるらしいが、覚えておかないとまずいだろうとこれは意識的に覚えた。

 これに意識割き過ぎて、その後に言ってたこと聞き逃したりしてボロボロだけど。

 俺を召喚した理由とかも言ってた気がするけれど、本当にうろ覚えになっている。

 人間たちと争う気はないし、むしろ大規模な争いがあるなら面倒だから止めたいとか言ってたはず。

 一緒にのんびり旅をすればいいんだったかな?

 言ってることは魔王らしくない気もするけど、夢ならそんな魔王もありなんだろう。

 最後の愚痴の内容としては、主にこの館の現状についてだった。

 なんでも数日前までは質素ながらも魔王の威厳を失わない館だったのだが、ソレイユ帝国というところの最新兵器の試し撃ちで半壊したらしい。

 認識阻害の魔法があるから狙われたわけではなく、試し撃ちが偶然館に直撃したのだとか。

 そこから館を作ったときの苦労話(最初は城が作りたかったが予算がなくて諦めたらしい)やら、最新兵器が作られるような世界情勢についてやら、難しい言葉を織り交ぜながら愚痴られたのである。

 アッシュちゃんの頭は確実に俺よりも良いのだろう。

 俺の頭が悪すぎるとか、そういうことじゃないはず。


「――というわけだ。どうだい、分かったかな?」

「あーうん、多分」

「何か質問などあるかい?」

「いや、大丈夫」


 ホントは全然ダメだが、どこがダメか把握すら出来てない。

 まぁ流されるだけならきっと大丈夫だろう。

 最悪困ったらその時に聞けばいい。


「そうか。じゃあ、早速測定しようか」

「測定?」

「望に何が出来るのか、僕が把握出来てないからね。能力測定、だよ」


 おぉ!

 ここでチートが明らかになるわけか!

 万能な能力よりは、どっちかというと癖のある能力の方が好きだけど……どうなるかな。


「ちょっと待ってね。えーと、確かここにあったはず」


 一言俺に断って、アッシュちゃんがベッドの下に頭を突っ込む。

 結果としてお尻が突き出され、スカート部分がめくれそうになった。

 タイプの子がやってたら思わずスカート覗き込みそうだな、この体勢。

 やらないけど。


「あったあった。じゃ、これ持って」


 ベッドの下から取り出された青い石が手渡される。

 言われたように素直に持つが、何も起きない。

 ここから何かするんだろうか。


「うん、魔力はないね」

「え」


 なん……だと……。

 インドア派な俺からすると、一番期待していたのは魔法方面だというのに……。

 持つだけで終わったせいで、気合いを入れるとかそんなことすらできなかった。

 早過ぎるし残酷過ぎる。


「あ、ええと、この世界の人間は基本魔力なんて持ってないから、望は普通だよ。普通。

 これは念のための確認だし。そんなにガッカリしないで。ね?」


 あからさまに残念な顔をしたのだろうか、ちょっと慌てた感じでフォローされた。

 アッシュちゃん魔王だけど良い子だ。天使か。魔王だけど。

 思わず頭を撫でてしまう。

 触れた瞬間ぴくっと反応するが、後はされるがままな感じは昔飼っていた猫にそっくりだ。

 あいつはやりすぎると蹴ってきたが、アッシュちゃんはちょっと気持ち良さそうに目を細めている。

 ほんわかできたから、ショックは大分緩和されたよ。


「ありがとう、アッシュちゃん。基本ってことは例外もあるのかな?」

「ほあ……あ、うん。あるよ」


 ほあってなんだほあって。なんだこの可愛い生き物、ここが夢の中なのが惜しくなってきたんだが。

 可能なら現実に連れて帰りたいが……ダメか。出来たとしても確実に俺捕まるわ。

 捕まらなくても悪評は立つだろうし。

「あそこの望君、十歳くらいの女の子を部屋に連れ込んだんですって」とか近所のおばさんに言われたら死にたくなるな、うん。

 夢の中だけで我慢するか。


「妖精と契約して、体内に妖精を宿せばその妖精の魔力を自分のものに出来るね」


 妖精もいるのかこの世界。しかし――


「体内に妖精を宿すってなんか怖いんだけど、この世界じゃ一般的なのか?」

「妖精は物質体じゃないからね。ゴーストとかが近いのかな。契約をちゃんとすれば問題ないよ。ちなみにこの世界では宿せるという知識は一般的だけど、実際に宿すには技術が必要で、その作業やる値段も高いから、やってるのは貴族か成功した冒険者、一部の商人くらいかな」


 おっと、冒険者までいるのか。テンプレちゃんと入ってるな。


「じゃあ俺も金を貯めれば――」

「あー、契約条件には年齢も関係しててね。契約時には五歳以下である必要があるんだ。だから残念だけど望には無理なんだよ」


 マジか……。

 救いなんてどこにもなかったのか。


「ほ、ほら、魔力なんてなくても凄い人はいっぱいいるんだから、大丈夫だよ! それにまだ測定は終わってないよ? ね? 外行こう、外!」


 アッシュちゃんに励まされると、まだやれるって気分になる。

 確かにアッシュちゃんの言う通りだ。

 チートは魔法だけじゃないし、まだ諦めるのは早い。

 身体能力を活かした無双だって楽しそうじゃないか。

 うん、あれだ。

 アッシュちゃんマジ天使。

11/7

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