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同じ過ち

「さて、じゃあ望。この後の話をするぞ」


 鬼人と死体を少し離れた位置に移動させながら、アッシュさんが言った。


「この後って、帰ればいいんじゃないの?」


 メモは取り返したんだし、他の用事はなかったよな。

 他にするべきことがあっただろうかと首を傾げるが、何も思いつかない。


「まず、鬼人相手に俺らが生き残った理由を話さなきゃまずいだろ」

「あー、そっか。アッシュさんのことは説明できないもんね」

「ああ。まあこれに関しては俺が説明する。死体を渡す代わりに見逃して貰ったって線で進めれば多分平気だ」


 なるほど。それで死体も一緒に動かしたのか。

 またあの無駄な演技力がさく裂するんだろうか。

 ちょっとだけ楽しみだな。


「次に、アリスとイリスの仕事を今日で辞めて、距離を置く」


 へ?


「何というか、急だな。理由はあるの?」

「前にやらかしたのと、同じミスをやった。しかもフォローは効かないレベルだ」

「やらかしたのって、もしかして……俺?」


 違ってくれと思いながら聞くも、アッシュさんは重々しく頷いた。

 マジか。

 え、俺何やったっけ。

 魔法言語について情報与えたつもりはないし、アッシュちゃんが魔王とか夢魔とか言った覚えもない。

 逃げたがってるのがばれたとか?

 でもやらかしたってほどじゃないよなぁ。


「ごめん、俺は何をやったの?」

「あー、悪いのは俺だから気にしなくていい。まぁあれだ、また言語の話なんだがな。さっき鬼人と会話したろ?」


 この展開、もしかして……。

 先が予想出来てしまい、冷や汗が出てくる。

 いやいや、まさかね。

 言語が実はいっぱいあるとか、そういうオチじゃないよね?


「あれ、鬼人の言語だ」


 はいアウトー!

 くっそ、なんだよこのライン、便利だけど融通全く効かないな。

 ていうかアッシュさんは一体どれだけの言語に精通してるんだよ。

 あれか、マルチリンガルってやつか。

 翻訳の仕事とかやりたい放題じゃないっすか。

 ってことは俺もやれる?

 本の翻訳とかって需要どれくらいあるのかな。

 あーでもダメか。それ以前の段階で、鬼人の言語分かりますとか怪しいことこの上ないな。

 詠唱を中断するくらい驚くってことは、一般的なわけがない。

 敵対種族なわけだし、下手したら陽族側に鬼人の言葉が分かる人が皆無の可能性だってある。

 で、それがアリスとイリスに聞かれたと。うん、ダメだな。


「で、誤魔化すのは無理なの?」

「ああ。そうだな、さっきの会話を意味のない似た音だけで表現すると、鬼人の発言が『ぐが。ぎ。ぐげっぎ』で、望のが『ごが』みたいな感じだった」


 ごがってなんだよ、ごがって……。

 そんな力の抜けそうなこと口にしてたのか、俺。

 特殊過ぎるし、これはさすがに他の言葉と聞き間違えたという方向でごり押せる範囲に収まってないよ。


「ちなみに、二度と同じことをやらかさないように、俺が理解している言語を言うとだな」

「うん」


 この言い方だと、後二~三種類はありそうだな。

 いや、五種類くらいあってもおかしくはないか。

 よし、驚く準備はOKだ。


「ヴァラドで言語として認識されているもの、全てだ」


 ……おおう。

 凄そうだけど、数は大したことないとかそういうオチかな。


「えっと……種類としてはどれくらい?」

「言語の種類か? 魔法言語に妖精語、陽族の汎用言語だろ。エルフ語にドワーフ語。陰族なら妖魔語、鬼人語、巨人語、竜人語、半獣語に――」

「ストップ。ごめん、もういい」


 十種類以上列挙するアッシュさんに待ったをかける。

 ちょっと想定が甘かったらしい。

 ていうか全言語って凄いな。

 で、その恩恵を得ている俺も全言語が分かるってことか。

 いやはや……。

 これ、やらかさずに通すの無理だわ。

 口の動きと伝わった意味から何語か察することが出来れば一番良いんだけど、それをするにはその言語を理解している必要がある。

 自慢じゃないが無理だ。英会話すら出来ない俺に、片手で余る以上の言語を理解出来るわけがない。

 アッシュさん、どんだけ頭良いんだよ。

 凄すぎてちょっと引くわ。


「今後俺が知ってたらおかしい言語で話しかけられたら、何か合図送ってくれないかな? そうしたら反応しないようにするし」

「そうだな。咳払いでもするか」

「んー……もうちょっとさり気ない動作にしない? 腕を組むとかさ」

「じゃあそれでいいや」


 適当だなぁ。

 特にこだわるような部分でもないからいいんだけどさ。


「でまあ話を戻すと、だ。望はアリスから、一般的に知られていない魔法言語だけでなく、陰族の言語も理解する男、と思われてるわけだ」


 そうなっちゃうな。


「この一週間のこと考えると、別に大したことないんじゃ?」

「かもしれない。だが、俺ならこう考えるぞ。こいつ、他の言語も知ってるんじゃないかって」


 俺はその状況を想像し、思わず口元を引きつらせる。

 ありそうだ。次も誘惑されたら、打ち勝てる自信なんてない。

 しかも魔法言語じゃないから、更に口が軽くなってしまいそうだし。

 で、気付けば全部喋ってしまっていて、取り返しのつかない事態に……笑えねぇ。


「前はアリスだけだったが、今度はイリスもだからな。イリスがどう動くかは予想がつかないし、二人で協力して探ろうとしたならまた違う状況にもなりそうだ」

「影で調べられる方がまだマシ、と」

「ああ。それに人を雇って望を調べるにしても、今思えばあの二人が人を雇うってだけで結構難しいだろうしな。トラブルも今回ほどのものに巻き込まれるなら、距離を置いた方が安全だ」


 ふむ。

 イリスにはちょっと悪いけど、確かにそれなら距離を置いた方が安全だな。


「了解。Eランクになったっぽいし、少しは稼ぎも増えるだろうから、それもいいね」

「こっちの話も俺の方でつけよう」

「それは助かる。よろしく」


 しかし、次の仕事はどんなのにしようかな。

 殺すという行為に慣れにいくかどうかで、大分選択肢が変わるよな。

 今回で死を見ることに対する耐性がないってことが分かったからなぁ。

 軽いグロくらいなら平気なんだけど、グロ+死ってのが目の前で起きると落ち着いてられない。

 完全に無反応なのはどうなのって感じではあるけど、今のままじゃ多分あわあわやってるうちに死ぬだろう。

 やるとしたら、完全に戦闘を避けるか、ガンガン殺して慣れるか、だ。

 前は棚上げしたけど、結論出さないとそろそろまずいからなぁ。

 むしろ手遅れだった感あるし。

 うーん、慣れるまでか……。

 さっきの盗賊の死亡シーンをちょっと思い出してみるが……きつそうだなぁ。

 正直慣れることがあるのかすら怪しい。

 やっぱり殺すとかそういうのは避けられるなら避けたいところだ。

 アッシュさんに相談してみるか。


「殺し合いを避けて冒険者ってやれるかな?」

「あー、やっぱ望にはきつかったか。まあ相手が陽族じゃなくて、他の陽族と一緒に行動しないなら俺が対応できるぞ」

「それはやっぱり、さっきみたいに眠らせて……?」

「まああれは手段の一つだな。一時的に気絶させてその場を切り抜けるとかも余裕だし」


 おぉ、心強い。

 永眠じゃなくて一時的な気絶ならそれほど気にならないからな。

 となると、危険地帯で何かを採取する、みたいに何かの排除を前提にしていない依頼なら受けられるな。

 俺がヒモっぽい状態になるけど、下手に手を出すと邪魔になりそうだ。

 圧倒的な戦闘能力とか、相手を無力化できるチートでもあれば手伝えるけど、ないものねだりしても仕方がないし。

 戦う力を手に入れるために頑張ろうとしても、それって結局殺し合いを避けるために殺して実力をつけるっていう状況になるからな。

 ヒモ万歳、とでも思っておこう。

 採集とか荷物運びは俺がやったらいいから、完全なヒモではないし、セーフだろ。


「じゃあ、今後も冒険者で問題ないか」

「ああ。むしろ冒険者の方が場所を移動するときに使える言い訳が多くて便利だな」


 へぇ、冒険者になるってのはあっさり決まったけど、そういう理由もあったのか。

 金稼ぎの手段として冒険者を選んだのは正解だったわけだ。

 偶然とはいえ、俺グッジョブ。


「俺がしようと思ってた話はこんなもんだな。望から何か話しておきたいこととかあるか?」

「んー、特にはないかな」


 俺の返事にアッシュさんはそうか、と頷くと、体から靄を出してアッシュちゃんに変わった。


「じゃ、戻って二人を起こそうか」


 笑顔で言うアッシュちゃんの頭を撫でながら、俺は頷いた。

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