表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/85

ここは現実

 結局、その日の残りは片付けの手伝いだけで終わった。

 後片付けでもアクシデントに対応した、という判断で、最低額ではあるけどボーナスがもらえたのは嬉しいな。

 ゴーレムは歩くだけで踊られるとやってられないので、ゴーレム屋を呼んで命令の上書きをしてもらい、持ち帰ってもらった。

 騒ぎの中でいくつかの資料やメモが紛失したが、バラバラになった紙片も結構な量見つかったから、どうなったのかはお察しだな。


 翌日からの実験は、アリスの家で一番耐久度の高い実験室で行われることになった。

 最初からそうしろと言ったら、一回目は「ようやく助手が来たからテンションが上がった」二回目は「マナミエールがあの部屋にしかなかった」と返された。

 二回目はともかく、一回目……。

 穴の開いた床を一部取り外すことでマナミエールが移動させられるようになったため、マナミエールもその実験室に持ってきている。

 これは不幸中の幸いってやつだった。


 改めて助手になってから四日が経った。

 助手の仕事としては、トラブルの頻度は相変わらずだった。毎日一回ずつだけどトラブルに遭ったよ。

 ちなみに命の危機を感じたのはその内一回。

 これはコサックダンス事件の翌日に、安全な命令を繰り返しやらせてたら、ゴーレムが爆発したのだ。

 汎用型のストーンゴーレムは爆発すると石が散弾銃のようにまき散らされる、なんて知識は得たくなかった。

 顔の横を超高速で石が飛んで行ったからな。あの時は肝が冷えたよ。

 その後も爆発の対策を念入りに取って、数回爆発させつつも研究した結果、分かった情報は以下の通り。


 1.ゴーレムに妖精を入れることで、情報の後付けが出来る。

 2.妖精入りゴーレムの命令で曖昧な部分は、妖精の性格などが反映される(コサックダンスの原因はこれ)。

 3.妖精入りゴーレムは命令を完遂すると一旦沈黙するが、命令を出した人が一定距離に近づくと再度追従モードに入り、条件を満たせば再度命令に従う。

 4.妖精入りゴーレムは三回以上命令をこなすか、30分以上時間が経過すると爆発する可能性がある(100%じゃないから検証が面倒だった)。


 情報1~3はかなり画期的だけど、情報4のせいで技術を公開出来ないらしい。

 特に時間経過という条件が厄介で、これをなくすか、時間をもっと増やさないと厳しいんだとか。

 マナミエールがあれば爆発の兆候が分かるんだが、マナミエールはかなり高価なため、所有している人が少ないから、対策がそれだけでは不十分らしい。

 まぁ下手なことやったら普通に死人出るからな。そうならざるを得ないんだろう。

 アリスとイリスの二人で対策を考えると言っていたが、どうなるだろうな。

 正直次のトラブルの呼び水にしか感じられないから、対策が思いつかないことを祈っている。


 ちなみに、助手になってからだと四日だが、俺がこの世界に来てからだと今日で一週間経った。

 勿論夢から覚めてはいない。

 時間が飛んだような感じは一切なかった。

 現実で一週間過ごした場合と同じような感覚だ。

 さすがに夢として考えると長すぎないだろうか。

 この夢が長く続く分には嬉しいんだが、少し不安が過ぎる。

 俺は起きられるのか。起きても大丈夫なのか。そして、これが万が一現実なら、俺は元の場所に戻れるのか。

 現実でもさすがに多少の付き合いはあるのだ。

 起きられないと、家族や友人、バイト先の同僚などに迷惑をかけてしまう。

 起きたら浦島太郎状態というのも同様に困る。

 そろそろ確認を取った方がいいだろう。

 ということで、俺とアッシュちゃんは魔狼の牙亭の一室にいる。

 他に良い宿のあてもなく、魔狼の牙亭の料理も美味しいので、引き続きここに泊まっているのだ。


「アッシュちゃん、俺はいつ頃に目が覚めるのか知ってる?」

「それは元の世界に戻るのがいつって意味だよね。もしかしてだけど望、契約書読んでない……?」


 アッシュちゃんの目の前で書いた二回目について聞かれる意味はないし、多分落下中のやつだよな。


「うん」

「なんで?」

「夢の中で読むのが面倒だったからな」


 アッシュちゃんは溜息を吐きつつ自身の頭に手を当てて、首を左右に振った。

 そんな反応されてもなぁ。


「うん……かなり予想外だったけど、理解したよ。じゃあ、結論から言うね。望は元の世界には戻れないよ。そういう契約だったから」


 マジか。ちょっと予想はしてたけど困るな。


「あー、どうやっても?」

「うん。少なくとも僕は方法を知らないね」

「連絡を取る程度のことも無理?」


 連絡が取れるなら別にいいんだが。


「うん。ねぇ望……やっぱり召喚されるのって迷惑だったかな?」


 そう言ったアッシュちゃんは、凄く落ち込んでいるように見えた。

 もしかしてこれ、俺が悪いのか?


「いや、迷惑ではないけど」

「でも帰りたいんだよね? ごめんね。契約は極力フェアに行ったつもりだったけど、夢の中って認識なら契約も適当になっちゃうよね。正直言って、そうなる可能性を完全に失念してた僕のミスだよ」


 アッシュちゃん、割とマジメだからな。どんな場所でも契約=注意深く行うもの、くらいの認識だったんだろうな。

 神様じゃないんだ。想定外の状況があるなんて普通だろう。

 しかしこれ、単純に俺の判断ミスでもあるよなぁ。


「あー、謝らないでくれ。俺の自業自得な面の方が大きそうだ。それに、どうしても帰りたいってわけではないからな」

「……そうなの?」


 確認に対し、大きく頷く。


「異世界にはむしろ来たかったくらいだからな。好きに行き来出来るのが理想ではあるけど、来れただけでも万々歳だよ。ただあまりに急だったから、周囲の人に心配とか迷惑かけてそうだなってのが心残りなんだよ」


 むしろ、そっちの条件さえクリア出来たなら、他のものは全て捨ててでも来たと思う。


「えっと、周囲の人には影響がないと思うよ。元の世界にも望はいるから」


 ……ん?

 元の世界にも俺がいる?


「代役がいるってことか?」

「ううん、望本人だよ」

「じゃあ俺はどうなるんだ?」

「望本人だよ」


 ……なるほど、分からん!

 分身なんて出来ないし、増殖した覚えもないんだが。


「えっと、僕の目の前にいる望は、夢の存在を完全に切り離した望なんだ。召喚された時点で、元の世界の望とは別の存在になってるんだよ」

「俺はクローンみたいなものか?」

「ごめん、クローンが何を意味しているのか分からないや」


 む、クローンに該当する言葉がないのか。

 他にどんな表現があったかな。


「あー、模造品? ちょっと違う気もするけど、そんな感じ」

「うーん、そういうのじゃないね。例えるなら、一つのパンを二つに割った感じかな」


 明らかにやばそうな例えをされた……。


「それ、量減ってるけど平気なの? 特に元の世界の俺」

「うん。細かい記憶が抜けたりはするけど、少しすれば自然に治るからね。元の世界の望に影響があるとすれば、夢が見られなくなったってくらいかな」


 自然に治る、か。なんだかプラナリアを連想したわ。

 どっちがメインでどっちがサブとか、そういうのは無いんだな。俺は俺で問題がない、と。

 あっちで夢が見られなくなっているくらいは別にいいだろう。


「えーとつまり、元の世界では俺の存在も含めて、何も変わってないってことか」

「そうなるね」


 なんだ、じゃあ現状で何も問題がないじゃないか。

 というか、仮に何らかの手段で帰れたとしても、帰った方がまずい状況になるよな。

 俺が二人になるわけだし。


「じゃあいいか」

「ええ!? ホントにいいの? 帰れないんだよ?」

「帰りたかった理由がなくなったからな。しかしこうなってくると、アッシュちゃんが前に言ってた状況が正しいって認識でいた方が良さそうだ」

「どれのこと?」

「ほら、俺は夢だけど、俺を取り巻く環境は現実だってやつ」


 ああ、とアッシュちゃんは思い出したかのように頷いた。


「むしろ、まだ夢だと思ってたんだね」

「それだけ俺にとって現状が非常識なんだよ。まぁ今でも非常識だけど、元の世界に戻ることがないのなら、周囲は現実だと判断しても大差ないからな。俺の思い通りにならないことばっかりだし」

「そうだねー。もしアリスの起こすトラブルが望の思い通りに起こってたなら、僕は今頃望に説教してたよ」

「そりゃそうだ」


 アッシュちゃんと二人で声を出して笑う。

 うん。アッシュちゃんも夢の存在じゃないと認めなきゃな。

 アッシュちゃんが魔王でも(魔王らしいところは全く見てないが)、今まで俺に気を遣って、助けてくれたのは間違いない。

 だから――


「アッシュちゃん」

「うん?」

「俺、夢だからって適当に流されてたんだ。でも、これからは自分の意思で、アッシュちゃんの手伝いをしながら旅をするよ」


 だから、これは言っておこう。


「改めて、これからよろしく!」

「うん。よろしくね、望!」

11/8

誤字修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ