コサックダンス
翌日、俺とアッシュちゃんはアリスとイリスの家に来た。
前回は助手らしいことは全くしなかったから、今回が初仕事みたいなものだ。
「おはようございます。依頼、受けてくれたんですね」
「おはようー」
「おはよう、そういうことになったね」
「ありがとうございます。ではついてきて下さい」
軽く挨拶をして、先導するイリスについていく。
途中で階段を上ったが、今日は二階の部屋なんだろうか。
「姉さんは今、一昨日の実験を発展させる方法を考えているんですよ」
「一昨日の……ですか」
またゴーレムとの戦闘、なんてオチにはならないでくれよ?
「多分大丈夫だとは思いますよ。ゴーレムの命令をもっと穏やかなものにしたみたいなので」
「あぁ、そうか。命令の組み合わせにさえ気を付ければ大丈夫なのか」
「はい。なので安心して下さい」
なるほどな。
しかしイリス。微笑んでいるところ悪いけど、戦闘以外のことは普通にありそうだから安心なんて出来ないぞ?
胸の内だけでそう返して、笑って誤魔化そう。
少し歩いてたどり着いたのは、一辺が1mほどの銀色の立方体が置いてある部屋だった。
何だアレ?
立方体から数m離れた位置には、耐久性重視としてゴーレム屋で売られていたごつい石のゴーレムがいて、その横にはアリスがしゃがんでいた。
「おはよう。アリス」
「おはよう! 今準備中だからもーちょっと待ってー」
「おう。イリス、あの四角いの、何?」
「あれはマナミエールといって、魔法のマナを観測する魔道具ですよ。あの小さい二つの立方体に挟まれた位置にある魔法のマナが、大きい立方体に表示されるんです」
マナミエールって……名前つけたやつ適当だな。
言われた位置を見れば、確かに大きな立方体の影に一辺15cmほどの小さな立方体が置いてあった。
全部立方体だから分かり辛いけど、カメラとテレビみたいな関係かな。
「ゴーレムのような魔法で作られたものの観測も出来るので、結構便利なんです」
「なるほどねぇ」
「よし、こっちは準備出来た。じゃあノゾムはマナミエールの小さいの持ってそこに立って。アッシュも小さいの持って、そっちに立って」
言われるがままに、マナミエールの小さい方を持とうとする。もう名称はマナミエール(大)とマナミエール(小)でいいかな。
銀色ってことは何らかの金属で、重そうだよな。
これアッシュちゃん持てるのかな?
そんなことを思っていると、アッシュちゃんがかなりあっさりとマナミエール(小)を持ち上げた。
「あれ、それ重くないの?」
「うん。かなり軽いよ。見た目とは全然違うね」
俺も持ってみると、確かに軽い。
中身が空なんじゃないかと疑う軽さだ。
これなら多分昨日の水晶とかまとめた布の方が重かった。
「確かに軽いな。これなら持っててもそれほど辛くはなさそうだ」
片手でも十分な軽さだが、念のために両手で持って指定された場所まで移動する。
アッシュちゃんも移動を完了すると、俺とアッシュちゃんの間に丁度ゴーレムがいる位置取りになった。
「オッケー。大体こんなもんでしょ。イリス、マナミエール起動してー」
「うん。マナミエール、起動!」
イリスがマナミエール(大)に両手を押し当てた。
するとイリスが触れているところから、マナミエール(大)の色がどんどん黒くなっていく。
数秒かけてマナミエール(大)が全て真っ黒になると、連鎖するかのようにマナミエール(小)も黒くなった。
みんな平然としてるから平気なんだろうけど、なんかちょっと怖いな。
「よっし、じゃあ準備出来たし、とりあえずリベンジといこうか」
早速といった感じで懐からファイアフライを取り出すアリスに、イリスさんが慌てて声をかける。
「姉さん、今回の命令はどうなってるの?」
「ああ。今回の命令は『疲れたら踊る』だね。で、ファイアフライには『三歩歩いたら疲れる』という情報を入れてるよ」
ふむ。踊るだけなら安全……か?
何故疲れたら踊る、なんていう更に疲れそうな命令したのかは謎だけど。
前のゴーレムなら泥人形だから踊りはぴったりだったんだがな。
ちなみにゴーレム屋で見たら、前回の泥人形は戦闘能力重視だった。あんな見た目なのに。
「じゃ、いっくよー!」
アリスは一昨日の焼き増しのように、ファイアフライをゴーレムに入れた。
しかし、ゴーレムは一昨日と違って動かない。
まだ命令の条件が満たされてないのだから、当然だな。
「イリス、この状況は安定してるかなー?」
「うん、姉さん。普通の契約時みたいなマナの動きだから、ゴーレムに妖精を入れること自体は大丈夫そう」
「よしよし。じゃあ歩くねー。あ、ノゾムとアッシュもこっちに合わせて動いてね」
「おう」
一歩、二歩とアリスがゆっくり足を動かす。
すると、ゴーレムもアリスについていく形で足を動かした。
命令の条件が満たされていない場合は、命令を出している人に追従するという、ゴーレムの基本機能だ。
まぁそれがなかったら不便なんだろうな。
少なくともなかったらゴーレム屋なんて成り立たなかったろう。
俺とアッシュちゃんもゴーレムに合わせて移動する。
そのままアリスが三歩歩くと、ゴーレムも三歩目を歩いた。
途端、ゴーレムが深く腰を落とした。
……おい。やめろよ?
微妙に違うとはいえ、その体勢は一昨日の泥人形に似ている。
命令が違うと分かってはいても、攻撃されるんじゃないかとドキドキしてしまう。
アリスはゴーレムが命令に従いだしたのを確認すると、素早くその場を離れた。
ゴーレムは腰を落としたまま腕を組み、素早く足を交互に前に出す。
その動きを見て、つい気が抜けたたのは仕方がないだろう。
なんでゴーレムがコサックダンス踊るんだよ。
ツッコミたいけど、ここにコサックダンスに該当する名称ってあるのか?
「なかなか独特な踊りだね。これも姉さんの指示?」
「いや、命令にどういう踊りを踊るかってものは指定してないね。だからあり得る可能性は三つ。ゴーレム屋が踊りといえばこれと認識していたか、ゴーレムの基本性能に組み込まれた踊りなのか。あるいは――妖精の影響を受けたのか」
「それって――」
「面白いねー! どうせなら妖精の影響であって欲しいね!」
なさそうだな。
しかし、二人してテンション上げてるけど、これ床平気なのか?
ゴーレムの踊りで、若干床がミシミシ鳴っている気がするんだが。
「ここ二階だよな? 床がやばそうな音出してるけど、平気?」
「え? あー、ホントだ。まぁこれくらいならぎりぎり平気じゃないかな。飛び跳ねたりしたらまずそうだけど」
と、アリスが言ったのはフラグだったのか。それともトラブルメーカーが言ったからなのか。
ゴーレムは急にコサックダンスを終えると、高くジャンプし始めた。
「おいおい……」
もしかしてあのジャンプも踊りの一部なんだろうか。
止めないとまずそうだが、止め方など分からない俺は見守るしか出来ない。
二回、三回、とゴーレムがジャンプする度、ドスンという音と共に床の軋みが大きくなる。
四回目でパキっと鳴り、イリスさんが慌てて動き出そうとした。
「一人だけ・水属性――」
だが、詠唱をすぐに終えることは出来ない。
その間に五回目の跳躍が行われ、着地と同時に今までで一番大きい音が鳴った。
途端、ゴーレムの体が床に呑まれ、更に派手な音を立てて落下した。
お笑い芸人が落とし穴に落ちるときも、あんな感じだったな。
轟音と共に生じた建物の揺れを感じながら、俺は溜息を吐いた。
しかし、やっぱりトラブルは起きるんだなぁ。




