初依頼で初戦闘?
「そういうわけで、不審者の判断をゴーレムにさせるのは現実的ではない。そこで、私は考えた。情報の後付けは出来ないか、とね!」
情報の後付けねぇ。ゴーレムを作ってから、不審者の判断をする情報を付けるってことか。
出来るのであれば、確かに問題点が解決されそうだけど。
「そこで用意したのはコレ!」
アリスさんは懐から瓶を取り出した。
中には小さな火の玉が一つ、ふよふよと浮かんでいる。
たまに小さく火花を飛ばすのは、線香花火を連想する光景だ。
「それは?」
「ファイアフライ。火属性の下級妖精ですね。姉さんいつの間にそんなものを」
「ふっふっふ。これはゴーレムに宿るよう契約しているんだけど、これには情報を与えているんだー」
おぉ。つまり妖精の所持している情報がゴーレムに影響を与えないか、という実験なわけか。
「というわけで、とう!」
アリスさんは瓶の蓋を開け、泥人形に接触させる。
すると、ファイアフライはふらふらと泥人形に近づいていき、重なって見えなくなった。
妖精が宿る瞬間って結構地味なんだな。
妖精が宿った泥人形は、ゆっくりとした足取りで動き出した。
「おおぉぉ! 成功だよイリス!」
……あれ?
泥人形はこっちに近づいてきてないか?
「ねぇ、アリス姉さん」
「何ー?」
「ゴーレムに付与した情報を教えて」
「勿論不審者を判断する基準だよー」
「うん。その具体的内容を教えて欲しいんだけど」
「そりゃー、私とイリス以外を……あ」
あぁ、なるほど。
イリスさんが頭を抱えると同時に、俺にも分かった。
これ、泥人形は俺とアッシュちゃんを不審者認定してるってことだよね?
「姉さんこれまずいよー!」
「やっべー。こりゃある意味失敗かなー。はっはっはー……ごめんね?」
はっはっはーっておい!
泥人形は少し離れた場所で動きを停止すると、身を屈めていく。
嫌な予感がしたため、俺は慌ててソファから立ち上がり、その場を離れた。
直後。
ダン、という音と一緒に泥人形が飛び上がり、俺が座っていた位置に拳を振り下ろしていた。
ソファーには穴が空いている。笑えない。当たったら俺の内臓がぐちゃっとかいいそうだ。
ちなみにアッシュちゃんは俺より早く離れていたらしく、今はドアの近くに陣取っていた。
逃げる気満々だな、俺も連れて行ってくれよと言いたいんだが、これは酷い。
反射的に斜め前に逃げてしまったせいで、出口のドアと俺の中間地点に泥人形がいる。
しかも泥人形は明らかに俺に狙いを定めているんだが。
対象は二人いるんだから、俺とアッシュちゃんを交互に狙うとかしてもいいんじゃないかなー。
アッシュちゃんはアッシュちゃんで、俺に向かって手を合わせて謝っている。
うん、そうだよね。アリスさんとイリスさんがいるから実力出せないよね。知ってた。
ていうか、アッシュちゃんも縛りプレイがかなり酷いよな。人前じゃ戦えないって、戦えないケースの方が明らかに多くなる気がするんだけど。
あの泥人形さん、また身を屈めなくていいんですよ?
あぁいや、攻撃モーションが分かりやすいのは助かるんですけど、俺は一応君の主人の助手になる人物で、不審者ではないですよ?
「うおおおおおおおお!?」
俺の心の訴えを無視してまた突っ込んできたので、必死で避けた。
今度は高そうな絵画に穴が空いている。俺は悪くないぞ!
大体泥人形の癖にちょっと機敏でかなりパワーがあるってなんだよ、くそっ。変な踊りでも踊ってろよ!
「一人だけ・水属性・槍・0m・1分・攻撃。アイスランス!」
イリスさんが泥人形に向かって氷の槍を放つ。
助かった。
一瞬そう思ったが、間違いだったらしい。氷の槍は泥人形から微妙に逸れて、壁に突き刺さった。
おいおい……この世界はノーコンが多いのか? 勘弁してくれ。
泥人形は何事もなかったかのように、またこちらを狙っている。
「あー、外に逃げていいかな?」
幸いなことにさっきの突撃を避けたことで、俺がドア側に来ている。
今なら逃げ切れるだろう。
「ごめんなさい。そのゴーレムが外に出ると、最悪無差別に通行人を襲いかねないので……出来ればここで倒して貰えませんか? ごめんなさい! 勿論迷惑料は払います!」
「いやー、そうだよね。助手がいたらこうなっちゃうよね。ごめんねー」
ギリギリで逃げ続けているだけの俺に泥人形を倒せとか、イリスさんは一体何を言っているんだろうか。
そしてアリスさんは謝っているのだが何というか軽い感じがして微妙にムカつく。
全部無視して逃げたいなと思いつつ、窓の外に目を向ける。
屈強そうな冒険者や兵士がいれば、押し付けることを考えてもいいと思うんだ。
だが、そこから見えたのは願望とは真逆の存在。公園で遊ぶ子供たちと、それを見守る大人たちだった。
残念だけど腹は決まった。決まってしまった。
夢の中とはいえ、さすがに子供が犠牲になる可能性を選ぶのは胸糞が悪い。
ああ畜生。全員大人の野郎でサッカーしてる、とかならそれほど気にせず巻き込めたのに。やってられない。どうしてこの夢はこんなに都合の悪いことが多いんだ。
「ぬぉっ!?」
視界の端で泥人形が動いたため、慌てて再度突撃してきた泥人形を避ける。
考え事してる時くらい待てよ。面倒くせぇ。
とりあえず巻き込まないと決めたのなら、イリスさんの言う通り、ここでなんとかするしかない。
そして戦えるのは俺とイリスさんくらいか。
アッシュちゃんは無理だし、アリスさんは……なんか手を出されると状況が悪化しそうだよな。
魔法の属性も火って言ってたから、最悪この家がなくなる。うん、数に入れるのは止めておこう。
で、イリスさんはノーコン。俺は素手。結構ハードモードなんだけど、どういうことだこれ。
俺は別に被虐趣味はないんだが。
唯一の救いは、泥人形が同じパターンの攻撃しかしないことか。バカでよかった。
突撃してくるルートに武器置いたら自滅してくれねぇかなぁ。
うん、というかそれしか思い浮かばん。
泥人形がまた飛びかかってくる前に、イリスさんに声をかける。
「イリスさん、さっきの槍を俺の近くの床に刺してくれませんか? 武器として使うので」
さっきの槍はもう溶けてなくなっているから、新しいのが必要なんだよな。
「は、はい! 地面・水属性・槍・0m・1分・攻撃――」
あ、ヤベ。泥人形も攻撃モーション入ってやがる!
「アイスランス!」
慌てて飛び退くのと、魔法の発動、そして泥人形の突撃は綺麗に重なった。
結果。俺は無事、逃げ切れた。
そしてアイスランスは狙いすましたかのように泥人形を貫いている。
泥人形はこれで倒せているのだろう。ピクリとも動かず、ただの土塊みたいになっている。
うん、なんだろう。結果だけ見ればよかった。
泥人形は倒せたし、人的被害もなかった。
俺が倒す、っていう決意は無駄になったが、まぁそれはいい。
ただ――。
「イリスさん?」
俺の声に、イリスさんがビクリと震える。
「ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
あぁ、この様子なら撃った後で気付いたのか。
俺が避けてなかったら、アイスランスが俺に当たっていたであろうことに。
フレンドリーファイアとか笑えないって。
床に刺すだけなら大丈夫だろうとか考えてた俺が甘かったのかな。ノーコンを舐めていたよ。
まぁかなり真剣に謝ってるし、今回は良しとするか。
「もういいですよ。結果的に倒すことも出来ましたからね」
しかし疲れた。
多分冒険者ギルドにいた人たちは、こういうことになりかねないと知っていたんだろうな。
イリスさんのノーコンが毎回発生するとは思えないから、一番ありそうなのはアリスさんのうっかりからのトラブルか。
どれくらいの人が被害に遭ったんだろう。仲間がいたらその話だけで酒が飲めそうだ。
「はい。あの、明日も来て貰ってもいいですか?」
うぐ。そういえば期限は要相談って書いてあったよな。正直、このレベルのアクシデントが頻発するのであれば勘弁願いたい。
「あー……考えさせて下さい」
「で、でしたら、宿の場所を教えて貰えませんか? 明日の朝に改めてお話しさせて下さい」
うぅん。まぁそれくらいならいいのか?
「宿は魔狼の牙亭ですよ」
「魔狼の牙亭ですね、分かりました。今日はもう帰ってもらっても大丈夫です。この状況だと、他の実験も出来ませんから」
「あぁ、そうですか。では失礼しますね」
まだ外は明るいけど、早く宿に戻ってゆっくりしよう。
あぁ、ついでにアッシュちゃんからも色々聞かないとな。




