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到着

 目標が出来た俺は、トラモントにつくまでの間、アッシュさんから冒険者についての話を聞いた。

 冒険者にはランクがA~Fまであり、ランクによって受けられる依頼が変わること。

 冒険者は何でも屋のようなものであり、依頼としてはテンプレのゴブリン退治や薬草採集といったもの以外にも、ペットの散歩や家の掃除といったものまであること。

 依頼は基本的に自分で選べるが、ランクを上げる際に受ける依頼だけは選べないこと。

 そんな話の中で俺が一番惹かれたのは、高ランクの冒険者だけが受けられる依頼だと一気に大金を稼げることだった。

 素早くランクを上げられたならば、それだけ奴隷を手に入れる可能性が増える。

 皮算用だと分かってはいても、やる気が出るというものだ。

 そして昼を少し回ったくらいの今、俺はアッシュちゃんと一緒に、トラモントに入る人の列に並んでいる。

 トラモントが遠くに見えた段階で、アッシュさんはアッシュちゃんに替わっていた。

 理由を尋ねると、「この方が扱いがよくなるから」とのこと。案外計算高いらしい。

 またその際、今の格好――シャツやジーンズ、靴などは俺がよく着ていたものになっている――がこちらにはない素材であり、あまり目にしないデザインだからと、俺は大きめのマントを着て誤魔化すことになった。

 そのようにして対策を取ったからか、特にアクシデントもなく順調に列は消化されていき、俺たちの番になった。

 気さくそうな壮年のおっちゃん衛兵が俺たちのことをじろじろ見る。


「次、見ない顔だな。どうしてトラモントに? 転校生がいるという情報はなかったはずだが」


 どうやら俺もアッシュちゃんも学生に見えるらしい。

 大学が存在するのかは分からないが、日本人は童顔だってよく聞くし、高校生くらいに見られているんだろう。中学生ではないことを祈る。

 ちなみにここでの対応はアッシュちゃんに全てお任せだ。

 俺だとどこかでボロを出しかねないからな。


「僕たちは冒険者になりに来たんだ。家がなくなっちゃったから」

「学生じゃないのか。しかし家がなくなった? お嬢ちゃんの親は?」

「親は……いないから」


 うわぁ。何も嘘は言っていないんだが……うわぁ。

 意味ありげに溜めなんか作っちゃったからか、おっちゃんの目が「ちょっと不審な人を見る目」から「気の毒な子供を見る目」になっている。


「あー、悪かった。お嬢ちゃんと坊主はあんまり似てないが、そっちの坊主も似たような理由か?」

「似てないけど……お兄ちゃんと僕は、兄妹だもん」


 どうやら兄妹設定でいくらしい。お兄ちゃん発言には少しくるものがあるな。

 俺は思わず苦笑して、アッシュちゃんの頭をポンポンと軽く叩く。

 あ、おっちゃんの目が「複雑な事情を持ってしまった気の毒な子供を見る目」にランクアップしている。

 脳内ではどんなストーリーが繰り広げられているのか、何となく想像がついてしまうな。


「すまん。そうだよな、似てなくても……ぐすっ」


 訂正。想像していた以上の感動ストーリーだったらしい。

 うん。おっちゃん、何というかごめん。

 別に中入って悪さをしようとかは思ってないから、許してくれ。


「あーっ! 畜生。すまん。変なもの見せたな。二人とも、冒険者頑張れよ!

 仕事はきっちり吟味しろ。危険な仕事や厄介な仕事も多いが、うまい仕事もちゃんとあるらしいからな。無理して要らん怪我だけはしないようにな。

 それから、冒険者ギルドの裏手の通りに、『魔狼の牙亭』という店がある。宿を取るならそこにしとけ。

 おかみさんは気の良い人だし、飯も旨い。俺のことを話せば、少しは割り引いてくれる……かもしれんからな」


 応援して情報をくれるとか、おっちゃん良い人だ。特に宿のことは助かるな。


「助かります。ありがとうございます」

「ありがとう」

「俺にはこのくらいしか出来ないからな。気にするな。さぁ、通っていいぞ」


 俺とアッシュちゃんは改めてお礼を言って、促されるままトラモントに入った。

 少し歩いてから後ろを振り返ったら、こちらのことを見ていたが、あの様子だと仕事がなかったらついてきたんじゃないだろうか。


「良い人だったな」

「うん。良い人だった。途中からちょっと悪いことした気分になったよ」

「アッシュちゃんもか。俺も内心で謝ってたよ」


 クスクスと笑いながら歩を進める。

 せっかく教えてもらったのだから、ということで、まずは魔狼の牙亭とやらに向かうことにした。昼飯も食べてないからな。

 あぁ、途中で俺に服も買わないとまずいか。

 冒険者ギルドの場所はアッシュちゃんが知っていたので、その裏手に行くだけなら迷うこともない。

 道中にあった古着屋で男物の服をいくつか見繕い、アッシュちゃんがパッと買ってしまった。

 しまった、値段くらいは聞いて通貨を把握しておくべきだった。次は見逃さないようにしないと。

 その後は焼きっぽいのの屋台や、サンドイッチ(っぽいの)の屋台、肉まん(っぽいの)の屋台などを尻目に――って屋台ばっかだな。

 祭りでもやっているのか?


「アッシュちゃん、なんでこんなに屋台が多いの?」

「えっと、料理が出来ない人は外で買うことになるけど、食堂みたいなところよりも屋台の方が手早く済むよね。しかも、物を選べば食べながら作業が出来る。そんな点が、研究とかにのめり込んでいる人たちに受けてね。味はそれほど気にされていないのか、凄く美味しいってところじゃなくても売り上げがいいから、結果として屋台が増えたんだよね」

「あぁ、そういう理由なんだ」

「うん。だから逆に、ゆっくり食事がとれて美味しいお店は少ないんだよ」

「なるほどね。だったら旨い飯が食べれるところを教えて貰えたのは、ますます運がよかったな」

「そうだねー」


 そうして、たどり着いたのは一軒の二階建ての建物。

 木造で小奇麗にされており、第一印象は悪くない。

 ちゃんと「魔狼の牙亭」と看板が出ているから間違いもなさそうだ。

 客は並ぶほどいるわけではないが、テーブルが全て埋まっていることから、それなりに人気があるのだと窺える。

 屋台でもないのにこの人気なら、きっと当たりだ。

 二階への階段はあるが、客や店員はほとんど二階に行っていない。恐らく二階部分が宿屋として機能しているんだろう。


「よし、入るか」


 ドアを開けて入れば、食欲をそそる料理の香りが漂ってくる。


「いらっしゃい。テーブルは埋まってるからカウンターになるよ。二人かい?」


 笑顔で迎えてくれたのは、恰幅のいい40歳程度の女性だった。

 なるほど、おかみさんと呼ばれるのも頷ける。


「うん、二人だよ。カウンターでいいよね? 望」

「問題ないよ」

「あいよ。じゃあそこの席に座っておくれ」


 座席に座ると、使い込まれた感じのメニューが手渡された。

 うん、メニューの文字も読めるな。ただ、一部の固有名詞が分からないのが辛い。「ボヌイの香草焼き」とか。

「豚の角煮」とか、分かるやつは分かるから、分からないのは俺が知らないから翻訳されてないものなんだろう。

 まぁアッシュちゃんの館で食べた料理がこの世界の基準じゃないと分かったから一安心か。

 ていうかむしろ、異世界で豚の角煮ってなんだ。がっつり和食じゃねぇか。

 いや、明確に食べられそうなものがあるのは助かるんだけどさ。

 チャレンジor安パイ、どっちにするか悩むが……よし。

 せっかくだからチャレンジだ。どうしてもダメそうだったら、パンだけで我慢すればいい。

 どんな料理かを聞くのは敢えて避ける。


「俺はボヌイの香草焼きとパンで」

「僕は豚の角煮とパンにしようかな」

「あいよ」


 おお、角煮頼むのかアッシュちゃん。


「角煮とパンって合うの?」

「タレがパンと結構合うよ。僕は好きかな」


 ほー。角煮とセットは米のイメージだったからな。言われてみるとありな気がしてくる。今度試してみよう。

 アッシュちゃんが好みって言ってる時点で、今の俺の味覚からも好みになるんだろうが。

 しかし、豚の角煮とか聞くと、俺以外にも日本から召喚されたって設定の人がいるんじゃないかと思えるな。

 ここで聞くのはまずそうだから、後で聞くことにしようか。


「ボヌイ」というのは魚の一種だったらしい。

 しばらくして運ばれてきたボヌイの香草焼きは、塩加減がよく、香草の風味がしっかりとついていて美味しかった。

 パンに合うかと言われると少し首を傾げるが、単品で美味しいのだからよしとする。

 食事を終えると、アッシュちゃんが代金の124ヘルトを払っていた。

 手渡したのは銅硬貨が7枚で、内1枚に丸い穴、2枚に正方形の穴、4枚に細長い長方形の穴が空いていた。

 単純に計算すると、丸いのが100ヘルト、正方形が10ヘルト、長方形が1ヘルトなんだろう。

 そういえば最初の説明のとき、線銅貨って名称をアッシュちゃんが話してた気がする。

 長方形はかなり細長いから、もしかしたらあれが線銅貨なのかもしれない。


「衛兵のおっちゃんからここを教えてもらったんだけど、ここでは宿も取れるんだよね?」

「ああそうだよ。宿泊するなら一部屋300ヘルトだよ。一部屋にはベッドが二つあるけど、何部屋にするんだい」

「じゃあ二部屋で――」

「一部屋でいいよ」


 反射的に答えようとしたところで、被せるようにアッシュちゃんが部屋数を指定した。


「あ、うん。じゃあ一部屋でお願いします」


 まぁベッドが二つあるならいいか。

 具体的に所持金がいくらなのかは聞いてないけど、節約もした方がいいだろうし。


「とりあえずは三泊で。多分延びるとは思う」


 アッシュちゃんは丸い穴の銅貨を9枚取り出すと、おかみさんに手渡す。


「うちは宿泊客だと、朝食はタダになるよ。要らないなら前日の内に言っておいておくれ。昼飯と晩飯を食べる場合にはお代を頂くけど、次から多少は割り引いてあげる。お得意さんの紹介もあったみたいだし、ちょっと多めに割り引こうかね」


 おぉ、おかみさんに衛兵のおっちゃん、ありがとう。

 おかみさんから部屋の鍵を受け取ると、部屋でさっと着替えてしまう。

 これで服装という面では目立たなくなったな。

 さぁ、次は冒険者ギルドだ!

11/7

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