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22話 古の聖女と破壊の権化

「ふぅ~」


 思わずため息が出る。ジョー殿からもたらされた情報に他の皆も苦虫を噛み潰したかのような顔をしている。

 まったく廃種め、やっかいな事をしてくれる。

 しかし、まあ本格化する前に判って良かった。

 ジョー殿はトリフネ様に報告に上がるとのことで、合同会議には遅刻すると連絡が入っており、この場にはいない。

 そんな中一番最初に口を開いたのはグリムだった。


「ひとまず、直ちに危険はないんだろ。まずは南方開放作戦の状況をどうするかだ」


 話はミドー率いる人間の南洋船団(正式に聖威軍として登録された)とサリーの魚人軍団の混成軍が南洋からシュニッチ大陸に上陸する作戦についてだ。


「そうですねぇ。わたしたちはぁ誓約で直接は出れないのでぇ、魚人(マーマン)たちが中心なんですけどぉ、ミドーちゃんの能力が意外に優れてたんでぇ、準備は万端ですよぉ」

「サリー。竜の方はどうなの?あなたの管轄でしょ」

「そうでしたぁ。彼らには廃種(死霊族)の挑発に乗るフリをしてもらってぇ、魔人棄種の部隊を叩きますぅ。細かい調整はブルースにおまかせですねぇ」


 ミドーかあの子は私達に似ているからな。


「ミドーは俺たちよりの存在だからな。頼りになる」


 ジンも同じことを思ったのか言葉に出す。というよりもファム以外は頷き同意しているな。

 魔王を倒した私たちの中で、特別だったのは、【勇者】フォルテと【獣王】ファムの2人で、私や兄貴(イジェス)、ジンやグリムも普通の人間だったが、変位を繰り返すことで、リンは覇王(現天使長)が残した太古の健康法とやらで英雄と呼ばれる力を得た。

 ミドーは現在【天牙】で、【聖女】や【賢者】と同位とも言われるものに変位している。

 魂の質(階位)もB++と解脱まであと一歩といった所だ。


「サリーの所のモンスターに少々被害が及ぶだろうが、うまくやれば廃種の大部隊をつぶせる……作戦だったんだがな」

「あの話が本当ならサリー自身が出ても勝てるかどうか……」


 誰からともなくため息が漏れた。

 最初の状態に戻ってしまったな。

 しかし、その空気を一変させたのは一人の聞き覚えの無い言葉だった。


「なるほどな。だいたいわかった」


 瞬間ジンが殺気と刃を言葉を発した者の方に向け、私とグリムは魔法の準備、兄貴が全員をカバーできる体制をとる。ファムとリンは姿を満たしている。

 侵入者をジックリ観察する。赤紫を基調とした中に黒のラインが入ったアーマー(素材は不明)を着ており、蟲の複眼をもした大きな装飾に黒のラインが縦に並んだ兜を被っており顔が見えない。


「どこから侵入した?」

「いいのか? 話を続けなくて。まだ終わってなかったんだろ?」


 私が威嚇をしたのをノラリクラリとかわしてくる。ふざけた奴だ。


「つまり、お前の手下じゃ手に負えない奴が出るかもしれないってことだな」


 シャ! っと空気を切りジンの一閃を軽くのけぞりかわす。

 ファムとリンが、それに合わせて背面と側面から襲いかかるが、ファムの攻撃は手甲に弾かれ、リンは腕を捕まえて抱きかかえられるように避けられてしきった。


「オレの(おんな)に、気安く触れてんじゃ……おっと」


 魔法で狙っていたグリムにリンを突き飛ばし牽制する。


「貴様、何者だ」

「通りすがりの破壊神だ。覚えておけ」

「はぁ?」


 サリーとリリアーナの方を見ると平伏していた。


「ま、まさか本当に……」

「お前たちもあの野郎から聞いているだろ。責任者は戦乙女のお前だな」


 あまりの事に呆然としていると、リリアーナから声をかけられた。


「エリスさん。皆さんも、御前です。お控えください」


 言われるまま魔法の集中は解いた。皆もそれに続いてくれたが、警戒は解かない。


「今の問題を解決しろ。できたら、この世界は残してやる」

「慈悲深き大いなる方。希望を頂き有難く思います」


 サリーがいつもの間延びした声ではなく、怪しい奴に礼を言っている。精神魔法でもかけられたか……。


平常心(サニティ)


 精神状態を正常に戻す魔法をサリーとリリアーナだけでなく、全員にかける。


「エリスさん。助かりましたぁ」

「そうね。助かったわエリスさん。生きた心地しなかったもの」


 2人は立ち上がり、怪しい奴へ向かっていき――


「どうぞ、こちらへおかけ下さい」

「お飲み物はいかがされますかぁ」


――接待を始めた。

 怪しい奴は、さも当然とばかりに鷹揚にふるまいリースバルド様用に準備をしていた椅子に座り込んだ。

 私達全員が茫然としていると、部屋の隅の空間が歪み、ジョー殿が降りてきた。


「ダメだ。魂が変質していて取りつく島が()え。あの廃種ども最悪だ……ぞ」


 ジョー殿はこの部屋の状況を見て固まる。


「おのれ、DK堂。全て貴様のせいだ」

「成多木か……」

「ってネタはもういいでしょうか?こちらも心労がキツイんで」


 一瞬だけ張り詰めた緊張を自ら破壊したジョー殿は、空いている席に座った。

 もうなにどうなっているのかわからない。


「エリス達も座れ。イキナリの事で中断したのはわかるが、報告会やるぞ」


 釈然としないが、直ちに害があるわけではないようなので、それぞれの席に着いた。


「まずは、シ…「通りすがりの破壊神だ」……そのキャラ引っ張るんですね。では、DK堂様。この度は御降臨頂きましてありがとうございます。状況を見るにまだかと思いますが、御紹介させていただきます。こちらの戦乙女長が、今回の責任者であるエリスです。エリス。こちらが俺たちの世界の破壊神様だ。こんなナリだが、本当に破壊神様だからな」


 なん……だと。こんなふざけた格好をしたのが、破壊神様だと?


「どこからどう見ても破壊神だろうに」


 そうなのか? 私はジョー殿の顔を伺うが、困った顔をしている。


地球の一部の人間(特撮オタク)しかわかりませんって」


 本当に本物の破壊神様なのだな……。だとしたら、私は礼を失した事になる。


「破壊神様。この度の無礼、誠に申し訳ございません」

「気にするな」


 短い言葉でそういわれても、気になります。


「はぁ…。とあるキャラになりきっているので、言葉が足りないが、これはシ……DK堂様の悪ふざけが過ぎているから、気にするな。……DK堂様、キャラは守りますから殺気飛ばさないでくださいよ。いくら俺でもちびりそうです」


 どうやら、破壊神様はふざけていらっしゃったので、先程までの事は無かった事にするようだ。

 しかし、先程の殺気は……。『平常心(サニティ)』の効果が続いてなかったら、気を失っていたかもしれんな。


「伯父上様。破壊神様から、今の問題を解決することで、この世界の存続を許すとのことです」

「このタイミングでぇ、”今回の問題”ってぇ、やっぱりぃ、アレのことですよねぇ」


 リリアーナとサリーがジョー殿を気遣いながら話を進める。

 廃種が行った。この世界を揺るがす大問題。


 異世界からの召喚。


 ジョー殿が最も嫌う、世界間の犯罪である。

 しかも、今回召喚された者がまた、問題だった。


「俺たちが直接手を出すことはできないが、俺が故郷の弟分に口出しする分には問題ないだろう」


 ジョー殿の尋常じゃない怒りで、また気を失いそうに……あ、『平常心(サニティ)』が切れてたな。

お久しぶりすぎて申し訳ございません。

競作の方の手入れ、思ったよりかかってしまった。


開始時から一番出したかった破壊神様をようやく出せました。


設定としてムースガルドの邪神戦の後、ジョーと破壊神様は出会っています。

そこで、ジョーが仮面ライダーネタでツッコミを入れて、破壊神が興味を持ってしまった。っという流れがあり、今回のシーンに繋がっています。


次回予告:ジョーの幼馴染がジョーの本名を暴露します

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