21話 キたる種とハイたる種
大分時間があきました。もうしわけございません。
魔神ルシュフェルド様から勅命を受け、我ら魔人族は堕落した地上を浄化せんと他の魔界の住人を率い侵攻した。
我ら魔人族は、特別に新たな力を与えられ他の種族より優れているのだ。
それなのに……
「クソ!あの翔魔妖どもめ!ろくに偵察もできんのか」
西方で、アンデットどもが蜂起したという話を聞き、翔魔妖族をけしかけたのだが、射ち落されやがった。これだがら、非強化の奴らはここぞという時に役立たない。
「しかし少佐。あの純血のクソ雌が、うちの戦力を持って行っちまったから、これ以上戦力をわけるのは得策じゃないですぜ」
「そうだ。あのクソ雌め!人間どもより先に非強化のクズに仕掛けた方が良いんじゃないか?」
オレが真面目に検討していると、伝令の使い魔から報告が上がる。
「申し上げます。南海に進攻していた部隊が『シュカイ』率いる現地軍と交戦した結果、全滅しました」
「なんだと!あのクソが!あの軍勢を退けたのか」
早いうちから守海が警戒していたのは判っていた。これまで、何度もアイツにやり込められているから、ヒュードラも出したというのに何たるざまだ。
「霜の巨人の一族に応援を要請しろ」
「かしこまりました」
オレの命令に出ていく伝令の使い魔を見送り、今後の作戦を練っていた。奴め、目にもの見せてやる。
オレ達魔族が人間界に進攻したのは、我らが神である『ルーシュフェルド様』が人間どもの腐敗に対し世界をリセットする事を決められたからだ。
その助けとなるために、ワレら魔人族を強化し、他の魔界に住む種族をワレらに従属するよう命令なされた。
大進攻により、1つの大陸は落とせたが、もう一つの大陸に攻め込んでいる中それは起こった。
卑怯にも人間の少数部隊により、ワレらの神が暗殺されてしまったのだ。
神を中心にまとまっていたワレらは混乱した。
高貴たるワレ等魔人族以外の部隊は規律がみだれ、略奪を行い私腹を肥やし奴等が出てきた。
そして、それに連鎖するように別の部隊では神の死に怒り(それ自体は良いのだが)、作戦を無視し力を暴走させ所かまわず破壊をし、さらに神への恩を忘れ「解き放たれた」と意味不明な言葉と共に離反していく部隊すらあった。
一番許せないのは、魔界で後方支援をしていた強化不十分の同族が、最近になって補給活動を停止し引き篭もっている事だ。
しかも、こともあろうか純血種(非強化)を公言する牝によって牛耳られている。
まあ、結果として軍として機能しているのはワレ等魔人族の他、いくつかの種族のみになってしまった。
さりとて、一番高貴でまとまりのある魔人族(強化不十分のバカ共は除く)のワレ等が20年もかけ再編した軍を取り仕切っている。
残念ながら、神の配下を全てをまとめる事ができた訳ではなく、いくつかの派閥に分かれてしまった。
交戦派として行動しているのは3派あり、まず最大の主流派はワレ等が取仕切る。軍部派だ。
将軍閣下をトップとし、神から与えられた使命を遂行する為に行動している。
その他に力自慢で破壊を楽しんでいる困った奴等が2派存在している。肉魔妖の族長がトップで筋肉を鍛え上げることに命を燃やしている。
もう、1派は神の配下の中で、神が「扱いが最も難しい」と仰せになった霜の巨人族を中心にまとまった破壊を尽くす派閥だ。
この2派は、軍部からは外れてしまったが、暴れることができれば良いのでワレ等から依頼を出す事もある。
交戦派以外には、略奪した魔大陸を住処にしようとする奴等や、魔界とは違う動植物に興味を持ち研究(と言い張る)するバカどもなど、どいつもこいつも自由にしている奴等ばかりなのだ。
とりあえず、ようやく神が弑し奉つられた衝撃から立て直せたころ、人間側が力をつけ始め、ワレ等に対抗しはじめたのだ。
調査すると、神を弑逆した生き残り『悪天』のエリスが弟子を取り抵抗軍が強化されていたのだ。
それから、数十年もの間、人間との抗争が続いている。
しかし、14年前に出てきた憎き『悪天』の弟子『シュカイ』と呼ばれるが出てきてからは、体勢がおかしくなった。
守りが薄かった南海を攻めていた部隊が、その『シュカイ』によって討たれていった。
おそらく『朱海』とでも書くのだろう。
同胞の血で海を朱色に染めていった。
目下、ワレ等軍部の目の上のたんこぶである。
霜の巨人の派遣により、一時的に抑えられたモノの『シュカイ』を討つ事はできず。
そして一年が過ぎていた。
「少佐……もう、海上は諦めた方が良いのではないですか?」
グヌヌ……。できればオレもそうしたさ。
「海王と『シュカイ』が組んでいるのだ。彼奴を仕留めておかないと、『悪天』みたいに厄介な事になりかねんのだ。今のうちに殺っておくべきだと、将軍閣下のお達しだ。海の化け物どもはある程度無視してかまわん。なんとしても『シュカイ』を討つのだ」
協力する全ての勢力を犠牲にしてでも『シュカイ』を討ってくれる。
「はぁ、わかりました。ところで、死霊族の戦士長がきてますが、どこに通しますか?」
よし!まずは軍部派の中でも魔人族の次に人数が多い死霊族だ。
こいつ等はなんとしてでも作戦に借り出さんといかん。
「ナニかい。オレたちにシュカイのマエにデて、オトリにナれと?」
目の前にいる死霊族の戦士長は皮肉げに言ってくるが、関係ない。
下級魔族は高貴なワレ等魔人族に従えば良いのだ。
「目をそらせれば良い」
ワレ等が横から攻め込むまではな。
「……イイダロウ。ゾクチョウにハナシをとおしておく。タダシ、ミッカはまてん。フツカならなんとかできる。これイジョウはデキん」
条件をつけるとは生意気な。
「ふん。まあ、いいだろう。2日もあれば精鋭たるワガ軍がシュカイを屠ってくれるわ」
「タスカル。では、テハズどおりに……」
そういうと死霊族の戦士長の姿が掻き消えた。
死霊族の特性で、体を霧化させて高速で移動していると聞いた事がある。
まったく言葉遣いといい奇怪な奴等だ。
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魔人族の少佐(笑)と別れた後、オレは族長の下に向かっていた。
我々死霊族は、体の構造を自由に、気体・液体・固体に変化する事ができる。
気体に変化させれば、風に乗る事で高速移動する事も可能だ。
魔神様から改造のようなモノを受けて調子に乗っている魔人族共とは根本的に違いハイクオリティーな魔族なのだ。
魔神様が魔人族を重用されたのは、妄信するのでコントロールしやすかったのだろう。
しかし悪天のエリス等が魔神様を討ったので、魔族連合軍は崩壊し殆どの種族は、同種族毎にまとまり行動するようになった。
オレ達死霊族は魔人族を利用し軍部から旨みを頂く事にした。
魔人族は扱いやすくその気になれば我々が乗っ取る事も可能だろう。
しかし、そんな厄介な事は奴等にまかせておけばいいのだ。
我々の拠点として必要な要素は、肥沃な土地だ。
我々は生体エネルギーを直接摂取するため、肥沃な土地に成る植物やそれを食す動物などから少しづつ奪えば良い。
しかし、誤算だったのは、魔界と比べて土地に魔力が浸透しておらず、土地の回復が間に合わず3箇所ほど砂漠となってしまった事だ。
他にも肥沃な土地はあったが、他の種族の縄張りとなっていたため諦めざるを得なかった。
そこで、穴掘魔が造ったダンジョンを占拠し拠点とした。
ダンジョンなら魔力が何もしなくても集まるからな。稀に何かの視線を感じる事があるが、穴掘魔どもの監視システムが働いているのだろう。
「ディーヴィルどもメ、ゾウチョウしているナ。ワレらもソラのモノたちのタイオウがあるとイウのに」
拠点であるダンジョンに到着し族長に魔人族の会談内容を伝えたところ、案の定族長は頭を抱えた。そこで、オレは秘策を伝えた。
「まずヤツらのイウとおり、フツカのアイダ、ミナミのセンセンをイジします。タショウのヒガイがデますが、ボウセンでスむのならナンとかナるでしょう。ソシテ、そのアイダにトカゲどもをユウドウしておき、ミッカめにブツけます。ワレらはそれをリユウにセンセンをサげます」
「サカナどもと、トカゲそもは、タガイにハンモクしているのダッタな。うまくイけばアシをヒっパりあうだろう。マジンのシュリョクがブツかればトカゲどももタダではすむまい」
そこまで上手くはいかないだろう。だが、すくなくとも魚人どもと竜人どもは牽制しあうだろう。
魔人どもの本隊なら善戦するだろうし、シュカイを討ち取る事も不可能ではない。
我等は弱った魚人もしくは竜人に魔法をぶつけてやればいいだろう。魔人の少佐も言っていたが、我等に求められているのはシュカイ討伐の支援だ。
仕事はちゃんとしてやる。万が一此方が危なくなってもアレを投入すればどうとでもなるだろう。
「このサクセンでチカラをシメし、ワレらがマゾクのジッケンをにぎり、チジョウをワレらガーストのラクエンにするのだ」
族長はそう言って発破をかけてくるが、正直難しいだろうな。
まぁ、為政者の目標が高いのは良い事だと思っておこう。
キたる種=棄種 ハイたる種=廃種 なんですが、本人たちは貴たる種や、ハイクオリティな種と思ってるという話でした。
競作の方が一段落着くので、こっちの方にも手を入れてみました。
ノートに後2話分ストックはあるんですが、なる早で出せれば良いなぁと思っています。
競作の方もよろしくお願いします。
https://ncode.syosetu.com/n5945du/




