20話 ケロビン王と冥王誕生
我々が住むシェニッチ大陸の西端に禁領と呼ばれる場所があった。
猛獣や毒ガスが湧き出す場所で、魔界に通じる場所等とくだらぬ言い伝えがなくとも近づく事すらままならぬ為、この土地を得ようとする国は無かった。
しかし、その地から突如湧き出た奴等によって全てが蹂躙された。収穫間近だった田畑や民が住む町や村。3世帯しか居ない小さな集落まで焼き払われた。我が国は腐敗した周辺国を統一しシェニッチ大陸に覇を唱える為準備していた。その精強な我が軍をもってしても化物の進攻を止める事ができなかった。気が付けばシェニッチ大陸で生き残っている唯一の国となってしまっていた。
ある時を境に帝国からもたらされた技術によって対抗できるようになったが、その時にはすでに戦える人間は居ても、それを支えてくれる民は居なかった。別に全ての民が居なくなった訳ではない。人数が少なすぎて軍を支えれなくなっただけだ。そして我は一つの決断をした。
「諸君。我等ケロビン王国の命運は尽きた。だが、人類の命運が尽きたわけではない。先日民を帝国に任せた際に勇者が魔界に入ったと報告を受けた。我が軍は死兵となりこれを援助する。1匹でも多くの魔物を討ち取って果てよ!!わけのわからぬ奇怪な者共にこの地に住まう者の意地を見せよ」
空が割れんばかりの声が上がり我に応えてくれる。そう、我は民を帝国に渡し奴らに一矢報いる事としたのだ。
我等は南下し魔物どもを討ち取っていく。我はああは言ったが、これは私怨だ。赤や緑といった肌の子鬼共をいくら屠っても、我が民が弄ばれた口惜しさは消えぬ。
口惜しい!口惜しい!! 国力を支えてくれる農民達が「雑魚」等と呼ばれ薙ぎ払われていった。
口惜しい!!!口惜しい!!!! 未来を担う子供達が、嬲られるように羽付の魔物に啄ばれ喰われていった。
口惜しい!!!!!口惜しい!!!!!! 民を守る為出撃した我が子が巨大な鬼に壁に投げられ見るも無残な壁の滲みとなった。
口惜しい!!!!!!!口惜しい!!!!!!!!口惜しい!!!!!!!!!口惜しい!!!!!!!!!!
我は自分の死を認識する事なく果てた。気が付くと亡者の列に並んでいた。獄卒鬼が指揮しているので、ここは冥界の閻魔王庁なのだろう。幾刻が経ったかわからぬが我の順番になり、閻魔王を含む7尊による審理が終わった。そして、我は修羅道へと落された。しかし、それは残り3尊による追加審理までの処置であった。幾時が過ぎた頃都市王様に連れられて閻魔王庁へと戻った。おそらく審理の結果が言い渡されるのであろう。我は暫く待たされた後獄卒鬼に指示され部屋に入った。そこに居たのは、一人の人間と使徒様、それに青白い肌の人間ではない何かと、憎き魔人が居た。
「これは、どういう事ですかな」
この答を持つであろう、都市王様と使徒様に向けての言葉だったが、あまりの事にあいまいになっていたのであろう。その間にいた青年が語り始めた。彼の名前はジョーという異世界から来た者のようだ。我等が信仰する神から依頼を受け使徒様の手助けをする為、近しい世界から残り2人を連れて来たらしい。
「つまり、我を、我が国を滅ぼした魔人どもを異世界の魔人殿と協力して打ち倒せという事か」
我ながら嫌らしい質問だったと思う。だが、ジョーはなぜか納得した顔をして同意した。
「そういう事だな。リリアーナを見て同族を~とか考えているのなら改めてくれ。奴らは世界に蔓延る害虫に堕ちた奴等だ」
「その通りです。むしろその言い方だと害虫に失礼です。人に害があるだけであって、アレは世界に貢献しているのですから。私は魔人ですが、奴らは棄種です。リースバルド様もそれは認めていらっしゃいます」
魔人の娘が一緒にするなとバカリに憤ってきた。しかし…なるほどゴミか。
「まあ、アンタが参加しなくても駆逐する事はできる。しかし、奴等をのさばらせている事自体が世界の危機なのは確かだし、その時間が少ない方が良い。あと、人的被害も減るし、できれば参加して欲しい」
少し意外であった。ジョーは我が居なくとも出来ると言ってきた。元来正直者なのだろう。
「私からも頼む。生前直接の面識は無かったが、ケロビン王国が滅んでしまう前に魔王を倒せなかった事は今でも悔やんでいるのだ。どうか、自身の仇を取ってほしい」
使徒様の言葉に我は目を見張った。彼女は我と同じ時代を生きた者、しかも魔王を倒した者という事か。改めて使徒様を見る。勇者の仲間の女性は3人。稀代の才女と呼ばれ賢者と結ばれた者、彼女には会った事がある。なので違う。もう一人は獣人の娘。違う。ならば最強の聖女と呼ばれ兄と共に戦場を支えた者か。
「そうか、使徒様はあの聖女殿だったか…。わかりました。使徒様の事を信じましょう」
使徒様だからではない。戦場を知り、絶望の中でも人を支え、さらにその中で希望を見つけ、ついには魔王を倒した彼女だからこそ信じた。
「では、審理の結果を申し渡す。リズティールのケロビン国におけるサリームよ。此度怒りに任せ憤死せしも、事情を考慮し、ヤヴキ・ジョーを監督としリズティールにおける問題を解決せんしんば人道における転生を認める」
都市王様からの言葉に我は頭を下げた。この機会を持って我は聖女に従い徳を積もう。我はもうケロビン王サリーム・アムル・ケロビンではない。只のサリームだ。
ジョーに連れられて赴いた先は魔界にある城だった。元魔王城…か。
「おかえりなさいませ。魔人王様」
「うん、ただいま。お客様がいるから、部屋を用意して頂戴」
「かしこまりました。皆様どうぞこちらへ」
案内したのは魔人の女だった。しかし、我が知る魔人共の高慢さは無い。控室で5分程待たされた後、会議室の様な場所へ通された。
「にしても凄いな。秘書にしてる娘。改種まで回復してるじゃないか」
「まだこの娘だけです。爺でさえまだですから」
「卑下す事は無い。この者の資質もあるのだろうが、改善できる証明ができたのだろ。素晴らしいではないか」
エリス様が感嘆の声を上げているが、この女魔人がなにをしたのか、我にはわからなかった。
「そうですよぉ。そう簡単にぃ、出来るものじゃないですからねぇ」
女魔人は「お二方とも勘弁してくださいませ」と愁傷な態度をとっていた。
「とりあえず、この話はおいておこう。サリームが話について行っていないようだしな。説明がてら、状況の報告をしていこう。まずエリスからだな」
「この度は、参加してくれてうれしく思う。先程、冥界で簡単に説明はしたが、サリーム殿の死後、この世界の状況を詳しく説明しよう。ケロビン王国が亡くなった直後、私達は魔王を倒すことができた。それで………」
エリス様は、そう語り始め、自身が使徒となり、ジョーの助力を得てから今までやってきた事を話された。
「………っという事で、徳を積めるカラクリは完成した」
「流石はエリスさん。うちも導入したら、劣等化を改善できるかしら?」
純魔人のセリフに我とジョー以外が沸き立つが(我は無知ゆえだが)、ジョーが抑える。
「そう簡単なもんじゃねーよ。『劣』に堕ちた奴等が改善されるのは、それなりの徳は勿論必要だが、悟りを開く位、もしくは、階位を1段階上げる位の意識改善が必要なんだ。あの娘がどれだけすごいか解るだろ?」
階位が何かは解らぬが、悟りを開く位の事をなしたのであれば、あの女魔人は確かに称賛に価するだろう。
「そうですかぁ、残念ですねぇ。次はぁ、私でよろしいですかぁ?」
「ああ、良いぞ」
「海の中はぁ、8割がた探索できましたぁ。残りはぁ北極と南極なんでぇ、新発見はいくつか出ると思いますけどぉ、これまでの調査からはぁ作戦に影響する物は出てこないと思いますぅ」
間延びした声で報告しているのは水麗人という、この世界には存在しない種の者だというが、禁海領域も踏破したというのか? 聞いてみたところ、その領域に住んでいるという。この娘、いやこの集まりは想定より凄いのではなかろうか。
「それじゃ、次は私の番ね。元々魔界に帰りたかがっていた種族は、ほぼ回収できました。一番の抵抗勢力はもちろん魔人族(棄種)どもですが、死霊族(廃種)と霜の巨人がいます。他に翔魔妖、牛鬼人、肉魔妖の一部が魔界に戻るのを拒否しています。棄種や廃種はなんとかなるとしても、霜の巨人はやっかいですね」
「死霊族が自ら堕落したのであれば、あるいみ魔人よりも罪深いな」
死霊族というのは、骨と皮だけに見える奴等の事であろう。霜の巨人は、巨人というくらいだ。我が息子を喰らった者の事であろうか?
「わかっているだろうが、棄種と廃種以外は1人でも多く魔界に戻すからな。霜の巨人でもあってもだ」
ジョーが強い口調え言ってきた。我は納得いかなかったが、疑問は後にしよう。
「了解しております。次に力ある魔獣の保護は妖羊族の協力を得られましたので順調です。ですが、やはりと言ってはなんですが、予想通りケルベロスやキマイラの抵抗が激しいですね」
「原初個体ならともかく、只の魔獣だろ。だったら、最悪繁殖できる数だけ残して、人間達に狩らせても良いさ」
「今の人間達でぇ、倒せるのでしょうかぁ?」
「カルージュは、もう少し力を付ければ。ミドーなら今でもなんとかできるだろうが」
エリス様が名前を出した二人は余程強いのだろうか。今でも活躍する英雄がいるのは頼もしい。
「そこは、作戦開始するまでに、もう少し練るしかないか。他になんかあるか?」
ようやく質問ができそうだ。
「ん、サリーム。何だ?」
「そも、棄種、廃種とはなんだ?」
「例えばだな。稲(生物)を育てている畑(世界)で、土地の栄養吸い上げているのに、毒しか作らない。しかも、その毒で周りの植物をからしていいくもが出来てしまった。これが棄種や廃種だ。棄種と廃種にも差があるが、方向性の違いで畑(世界)に及ぼす影響は変わらない」
なるほど、世界に害を及ぼし、周囲を巻き込む者か……。しかし、それは余りにも上からの視点では無いか?
「まあ、俺も只の人間だからな、サリームが言いたい事はわかる。しかし、棄種や廃種は救えない。身勝手な種の為に世界が滅ぶのを見過ごすわけには行かないんだよ。これは、生きる糧を得る為に|他の生物(牛や豚)を殺すのと違う。世界に生きる全ての者達の為に奴等を殺さないといけない。俺達は、魔人族より強いが、そういう世界の敵が強くたって、俺たちは戦わなければいけない。記憶にあるだろ。そういう奴の存在を」
……魔王ルーシュフェルド。
「理解できたようだな。それでも気になるのなら、ルーシュフェルドが死んでも続いている呪を仕掛けていたと考えろ。魔王の脅威はまだ終わっていないとな」
結果的に1つの種を滅ぼす事になっても、世界を守る方が大事か。確かに当たり前の事だな。
「よし、良いな。じゃあ、最後に俺からだ。シュニッチ大陸に残っていたルーシュフェルドが創った迷宮は全て掌握した。管理者はアバターどもだったから、乗っといてやった。奴等には入ってきた魔界に還す作業に就いてもらっている。霜の巨人もそっちに誘導できれば良いんだが。なんか良い案があったら、随時受け付けるぞ。あと、サリームの迷宮だが、故国の城と城下町がこんな感じで魔獣の巣になっているんだが」
ジョーがそう言って水晶板を見せてきた。そこには、崩壊した我が城と、幾つもの穴が開けられ、見る影もない城下町の光景だった。
「この巣はミルメコレオの巣だ。頭がライオンで体が蟻という変わった魔獣だ。属性も『冥』だから、こいつをまず取り込んでやればMPを増やすのが楽になるから。後………」
我は、この後ジョーに迷宮管理について教わった。そして、神の御前にも連れていかれ、魔導力という物について学んだ。
考えないようにしていたが、ジョーは我が考えているよりも凄い男だった。
しばらく投稿できず、もうしわけございませんでした。
別垢の競作で時間を取られたり、構想が全然まとまらなかったり。やる気が起きなかったり大変でした。
もう一方の作品は、完成しているし、こっちに影響しないと思ってたら、ガッツリ修正をかける事になりまして……
よろしければ、そちらもご覧いただければと思います↓
http://ncode.syosetu.com/n5945du/




