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18話 最後の対話者と聖女の霊堂

 王城の一件の後、僕はとても忙しくなった。正式に対話者となった事で、前任者のカルージュさんから指名を受けた頃よりも依頼(しごと)が入ってくるようになった。

 もちろん、よく話を聞いても無理な物は断るし、僕じゃなくてもこなせる簡単な物は討伐者ギルドにまわしている。とは言え、目まぐるしい忙しさだ。この忙しさとエリス様の祝福の影響か『聖者』へと変位も果たし、【清祓】という二つ名で呼ばれるようになった。親しくなったカルージュさんが言うには、清廉な瞳で依頼を見定め、邪を祓うからだろうと、言われた。あと、様付けはくすぐったいからやめろと言われたのでさん付けで呼んでいる。

 ちなみにカルージュさんは『狩師ハントマスター』に変位を果たし【魔獣狩り】の二つ名で呼ばれている。

 それから1年が経った頃、妙な噂話が入ってきた。


曰く

  魔人以外の魔族達を前線で見なくなった。ついに愛想をつかされたのではないか


 僕たち人間は120年前に魔界から溢れてきた邪悪なる存在もの全般を魔物。その中でも知能が高く他の魔物を率いている奴等を魔族と呼称し、力が強く巨大な獣型の魔物を魔獣と呼称している。その魔族の中でも特に自意識が高く、戦場で他の魔族を罵倒したり、声高に支離滅裂な事を叫んだりと、とても魔族(知能が高い)とは思えない事をする魔人なのだが、なぜか他の魔族は魔人達に率いられていた。しかし、最近見る機会が少なくなったという事は、つまりそういう事なのではないかというのだ。

 聖威軍にも顔が効く兄上に聞いた所、完全に他の魔族が居なくなった訳ではないらしいが、少なくなったのは確かなようだ。その変わり、魔人達が性質(たち)の悪い魔法を連発してくるので依然、膠着状態のままなのだと言う。軍上層部は、他の作戦に駆り出されている事を考慮し海洋国家との連携も強めるようにしていくらしい。

 そんな中、僕が最後の対話者でなかったら、次の対話者に指名していただろうなと思う討伐者が現れた。本名は不明だが、周りからは『なんでも屋』と呼ばれている。どんな依頼だろうとなんでもやるから…では無く、なんでも武器にしてしまう事からついたと周りの討伐者たちが言っていた。

 2度ほど同じ仕事に立ち会ったけど、剣や槍などの普通の武器は勿論、麦刈り用の鎌や包丁など本来武器じゃない刃物、更には椅子や箒や鞄など身近にある物で赤肌の小鬼や、豚や犬など動物の顔をもった小鬼を退けていた。

 また同じ仕事をする事もあるだろうと思っていたが、彼が行方を眩ませ(いつもの事だとギルドの職員が言っていた)、エリス様の死期が近くなり僕が帝都からエリシェールに向う事になった為、会う事は無かった事は残念だ。


 エリシェールでは、正教会を始め様々な国や組織の代表が集まっていた。一番のビッグネームはアークシルド帝国皇帝シェムド・ハイド・ラム・アークシルド陛下だろう。天使より地上戦闘代行者として任じられており、徳の高さではエリス様の次に位置するだろうと言われている。

 そして僕が何より嬉しかったのは、先輩の対話者であり、すでに引退をされ後進の育成に勤しんでおられる【雷瞳】カルファ様【巨鬼殺し】リルム様【魔牢】ミッチェル様の御三方と会えた事だ。


「君が、新しい対話者のジェームス君だね」

 優しい口調で話しかけてきたのは【巨鬼殺し】と物騒な二つ名を持っているリルム様だった。

「はい。勇猛な御三方にお会いできるとは光栄です」

 僕は深く頭を垂れ畏まった。

「ふふふ…もう引退しているし、現役の時の力はもうないよ。それに、君はもう気付いているのだろう。本当に凄いのはエリス様だという事を…。私達、祝福を受けた者同士、上も下も無いのだから畏まらなくてもいいわよ」

 そう言ってくれたのだが、尊敬する先輩としての礼儀は持たせてほしいと言って納得してもらった。(ミッチェルさんは「ディーン家の躾はスゲェな」と呆れていたが)

 他にも休暇中の対話者が数人参列するのだそうだが、正式に呼ばれているのは僕たち4人だけなのだそうだ。そして数週間は司会を務める正教会の主教様達と打ち合わせをしながら過ごした。


 そして、数日後。エリス様が亡くなった。予めわかっていた事もあり、予定通り恙無く葬儀は進んでいった。僕達が棺を運ぼうとするまでは…。



 目の前に降臨されたエリス様は30代くらいに若返っておられ、さらには右腕も復活されていらっしゃった為、最初は戦乙女様たちの言葉通り戦乙女長様がエリス様をお連れになられるのだと思っていたが、呼びかけられた事で魂に響き、気付く事が出来た。感動に打ち震える僕達だったが、南の方で何かが起きたらしく、その対処にエリス様が向かわれた。納棺の儀や座主様や主教様の説法や説教で間をつなぎ、エリス様が戻られたのは夕暮れに差し掛かってきた頃だった。その後行われた神の奇跡を目の当たりにし茫然としている中、いつの間にかエリス様達は神殿(としか言いようのない外観となってしまった洞くつ)へ入って行かれた。使徒戦乙女のマーガレット様が立ち止まってこちらを促したのが見えたので、僕は何も考えずそれに従い足を進めていた。その中は広く大きな石像が立っていた。おそらく勇者フォルト様とエリス様をはじめとした6英雄を模した物なのだろう。

 エリス様はここを自由に使ってよいとの事だったが、管理を行う者の選出で一悶着ありそうだと感じたが、下階を見た後はどうでも良くなった。


 下階は、ちょっとした都市の大通りみたいな造りをしており四方に馬車も通れそうな道があった。エリス様はそのうち、北側に歩を進められ、突き当り付近に人影があるのを確認できた。普通に考えれば、何もなかった場所に人がいるとは不可思議な物なのだが、上で見た奇跡を考えれば、何が起こっても不思議じゃないと思えた。

 やがて、彼らの顔が見え始めた頃、数人(主に聖職者)がざわめき出した。僕も顔が引きつっていたと思う。なんせ、そこにいたのは守護騎士、剣士、獣人の女の子、魔法使い、その魔法使いにしな垂れる女性。つまりは六英雄がそこにいたのだから。

「もう、気付いている者が多いようだな。彼等は一緒に魔王を倒した私の仲間だ。フォルト…勇者の魂は有事に備え神の御許にいるから、私が行う事に参加できないのが残念ではあるがな」

 どうやら最高の英雄の称号をもつ【勇者】フォルト様はいないらしい。あの奥の扉から出てくるのかと思ってたのだけど…。残念だ。

「さて、ここからが本題なのだが、西にいる魔族を本来いるべき場所へ戻すのが私達天界の者の目標だ。今回魔王に率いられた事で魔界から出てきたが、魔界は魔界で世界の理を担っている。しかし、それを阻む者達がいる。グリム変わってくれ」

 まだ、魔物達との戦い方が分かっていなかった頃、フォルト様が勇者として覚醒される前から活躍をされていた天才魔法使い【賢者】グリエール・フォスター様。彼のおかげで人類は魔物に対抗する手段に気付いたとされている。

 「始めましてだな、諸君。エリスから紹介があったように、俺たちは魔物どもを魔界に追っ払う為にこの場を神に用意して戴いた。俺たちがこの場を使い指導するから、お前らはそれを学び戦場で活かせ。75年前の技術がどれ程のモノか疑う者もいるだろうが、おいミッチェル。お前の得意技は廃れているか?」

 急に呼びつけられたミチェルさんだったが、「いいえ、弟子達の実力でも十分にその威力は発揮できます」と答えた。

「あれは、俺が魔王城までの道中でエリスに教えた物をお前に伝えた物だ。他にもここにいる連中だと、カルファはファムの、リルムはジンの技を継承していると言える。ジェームスは珍しくエリス自身の技を継承しているな。まあ、ミドーみたいに俺とリンとイジェスの3人の技を継承したもっと特殊な奴もいるが…。しかし、これらはちゃんとした下地があったからこそできただけで、そこの警備の騎士にジンやイジェスが技を教えても使いこなすことはできないだろう。不満そうな顔をしているが、事実だ。お前が年老いたカルファに一本取れるようだったら訂正してやるよ」

 そうだったのか、確かに元々浄化の技を得意としてきたが、エリス様の教えを受けて向上した。これがグリエール様が仰る下地があった上での継承という事なのだろう。それにしても、『雷の動きを見る事ができる瞳をもって【雷瞳】となす』とされるカルファ様に一本って無茶を仰られる。

「まあ、それは良い。ひとまず北以外の3つの道の先にダンジョンを模した迷宮を作っている。ここで下地をつけて貰う。魔物に似たモンスターを配置する。モンスターは純粋に下階へ行かせまいとしてくるが、魔物と違い命を奪おうとはして来ない。だが、油断するなよ。押し出した拍子に頭を壁にぶつけ最悪死ぬ事もあるし、命を奪おうとしないだけで、傷つけてはくるぞ。その迷宮の先に俺たちが直接管理する部屋がある。そこまでたどり着けたら、授けてやるよ。魔物に対抗する力をな」

 途轍もない話だ。4年に一人という制限があった事で英雄になれる程の力がある者の中でも前対話者がコレだと思う者にしか権利がなかったものを、力がある者が英雄の部屋まで辿り着く事ができれば教えを請う事ができるという事だ。更には、まだそれだけの力のない者でも、迷宮で修練する事で習得のチャンスをもらえるという事だ。

「よろしいかな。先々代の竹馬の友と聞き及ぶ【賢者】グリエール殿。余の様に使途の祝福を受けた者や対話者になれるような者ならともかく、下地が無い者が迷宮を我武者羅に進んでも技を習得する事は叶うまい?」

 皇帝陛下がグリエール様に説明途中で質問するのでハラハラしたが、グリエール様は気にした様子も無くそれに答えた。

「ああ、現皇帝か。流石だな。ちゃんと奴の血を引いていて頭がきれる。ん?元は覇王様の血か…。まあいい。それを説明する前にこれを見ろ」

 グリエール様が壁に装飾されたフォルト様の彫刻から伸びる何も装飾されていない壁を指された。そこだけ装飾がされていない為、目だっている場所だった。すこしの間を置き壁に字が現れた。そこには人の名前と数字、その後に命令の様なモノが続いていた。

 例えば、僕ならこうだ。


【清祓】ジェームス 72 浄化祓いの技を30人に習得させよ(2/30)


 僕だけだとがわかり辛いので、その下の人も見てみる


■■■■■ 36 フェアリーウルフの攻撃をはじき返せ


「名前の隣の数字は徳の高さだ。その隣にあるのが、試練(クエスト)だな。これをこなす事で下地()着ける(積む)事ができる。もちろん俺たちの技を使うという事は迷宮のモンスターをどうにかする事も求められるから、力をつける為の事も書いてある場合があるな。気付いている者もいると思うが戦わない者でも試練はある。徳を積んで悪い事は無いだろ」

 僕は少し勘違いしていた様だ。強さ=下地ではなく、技を正しい事に使える徳の高さが必要だったんだ。

 それにしても、僕の浄化祓いを教えたのはカルファさん達だけで、しかも使えるようになったのはカルファさんだけだったんだけどなあ…。後はカルージュさんとミドー様に話をしただけだし。どうなっているのだろうか。

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