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1-7 復讐者と復讐者

結論から言えば盗賊達からの八つ当たりはなかった。

黒猫とその黒猫を運んでいた盗賊の子供がその部屋を通り抜けようとしたその時にイリアの魔術が発現したからだ。


被害者である盗賊達ですら何が起こったのかわからなかっただろう。

盗賊達が集まっていた通路から黒猫たちがいる部屋の中央付近まで一気に赤く染まり、盗賊達はその通路に近い者から次々と発火し炎に飲み込まれていった。


仲間が発火していく様を見た盗賊達はとっさに逃げようと振り返り、だがその彼らもすぐに炎に包まれていく。

燃えていく盗賊達の中の一人がまるで助けを求めるように炎に包まれた手を黒猫たちに伸ばしてきた。

黒猫はその盗賊をまっすぐ見つめたまま無言で魔術障壁を展開する。

結果その盗賊は見えない障壁に抱きつく様な形になり、だが当然炎は消えることなく彼は生きたまま焼かれることになる。


盗賊の子供は盗賊達がもがき苦しむ様を見ながらも、なにもすることができずただ呆然と眺めるしかなかった。


************************


「派手にやったねぇ……」


僕は静かになった周囲を見回す。


幸いな事に炎はそういう魔術だったのか盗賊達を残らず燃やし尽くしていた。

もしこれが普通の炎だったのであれば今頃この洞窟内は半焼けの盗賊達で地獄絵図と化していたことだろう。

もっとも先ほどまで盗賊達のあげる悲鳴やうめき声が響き渡っていたのだから既に大差ないような気もするが。


盗賊の子供は今のところ身動き一つせずに座り込んでいる。

目を見開いたその表情は恐怖、怒り、悲しみなどが混在しそこから心中を察することはできない。

仕方が無いだろう、一緒に暮らしていたであろう大勢の盗賊達が目の前で生きたまま焼かれていったのを目撃してしまったのだから。


「み、ミツキ様!」


そこにイリアの声が飛ぶ。

敵の生き残りがいないか部屋の中をのぞき見たところ僕がいるのを見つけたようだ。


「すいませんでした!ミツキ様がいるとは思わず!お怪我はありませんか!?」


近寄って来ながらそう言ってきた。

なぜだか昨日以上に気を遣われている感じがする。

いやそれよりもとても気になることがあるのだけど……


「あの程度の魔術でどうにかなったりはしないよ。……で、イリアが裸なのはなぜ?」


そう、近寄ってくるイリアはまたも裸であった。

呆れながら僕は聞いてみた。

このままだとイリアの印象は全裸の人になってしまいそうだ。


「これは……盗賊が集まってきていたので炎の魔術を使いました。私自身は炎系の魔術は効かないんですけどいつも服の方は耐えられずに燃えてしまうんです」


イリアは恥ずかしそうにしながらそんな理由を告げた。

どうやら盗賊が集まっていたので一網打尽にしたくて広範囲を攻撃できる炎の魔術を使ったらしい。

しかもイリアの事だからどうせまた全力でやったのだろう。


まずセオリーから言えば洞窟の中で炎の魔術は使わない。

洞窟内では熱量の逃げ場がないので熱しすぎると自分が焼け死ぬ場合があり、また崩落のリスクもつきまとう。

加えて酸素が無くなったり一酸化炭素中毒になる事もあるなど悪いことばかりだからだ。


ちなみに見たところ今回イリアが使った魔術は生物にのみ干渉して発火させる術式だったようだ。

もっとも火が付く以上は必ず酸素も消費するのでリスクが無いと言うことは決してない。


「まぁ無事だったからいいけど。でもそれなら服も一緒に耐火(レジスト)すればいいのに」

「あーいえ、炎が効かないのは、耐火(レジスト)ではなくそういう体質なもので」

「……へぇ」


聞くとどうやらイリアは生まれた時から炎系の魔術が効かない体質なのだそうだ。

魔術が存在する世界ではたまにこういう特異体質の人がおり過去にも同様の特異体質を持った人間を見たことがあった。

ちなみに僕の知るその特異体質者は、炎自体は効かなくても酸欠や一酸化炭素中毒になるのは確認しているのでおそらく今回イリアが無事なのはたまたまだ。


「それは興味深いけど。でもそれはそれとして耐火(レジスト)を使っておけば服が燃えなくて済むんじゃないの?」

「……え?……はッ、そう言われてみれば!?」


気がついていなかったらしく愕然とし次いで本気で後悔していた。

思うに自分は炎が効かないからと耐火(レジスト)を学ばなかったりしたのだろう。


そもそも今回の魔術にしても自分を中心とした一定範囲内の生物の発火という条件が組み込まれていたようだけど、そこから自分を対象外にするだけで事はすむはずだ。


ため息をつく。


「まぁそれも今はいいや。それよりも」


一回言葉を切り周りを見回してから続ける。


「イリアはもうちょっと人を殺す事に躊躇するかと思ったけど、あっさりたくさん殺しちゃったね」


あっけらかんとそんな話題を振ってみる。


実は昨日の村人襲撃の会話から僕はイリアが人を殺すことを躊躇するだろうと考えていたのだ。

だが先ほど見えていただけでも十名程度は確実にこの世から消滅させている。


そしてこの問いにもてっきり落ち込むかと思ったのだが、イリアはただ苦笑いをしながら言ってきた。


「確かに人を殺すことにためらいが無いとはいいませんが、今回は明らかに悪人でしたので」


その様子は気まずそうではあるが、特に罪悪感を感じているようではなかった。


悪人だから殺した。

なんだか命に対する考え方の違いを実感する。


「んーでも個人的には悪人だから殺していいっていう考え方はちょっと見方が一方的過ぎる気がするけどにゃ~」

「?」


イリアが首をかしげた。

そういう倫理観の中で生きてきた人はそりゃそういうものだと思うんだろうね。


でも僕は疑問に思う。

イリアにとっては悪でも相手にとって正義であると言った場合は一体どうするのだろうか。


「……まぁ考える事とかやる事は色々ありそうだね」


僕はそう誤魔化しつつ話題を変える事にした。

一度考える時間が欲しいと思ったのだ。

やるべき事を一つずつこなしていこう。


「そしたらとりあえずなんだけど」

「?」

「そろそろ服を着ないと風邪ひくんじゃないかな?」

「え?……あッ!!」


僕の言葉を聞き自分の身体を見下ろした事でイリアはようやく自分が裸だった事を思い出したようで、慌てて身体を縮こまらせた。


(なんかこのやりとり昨日もやったよね。どうして服を着ていないことを忘れられるんだろう……)


真っ赤になったイリアを見て肩をすくめると、先ほど食料庫の近くに服が入っている箱を見つけていたのでそちらをしっぽで指し示し教える。

イリアは軽く会釈をしてそちらに走り去っていった。


僕はその小ぶりなおしりが走り去る様を眺めながら、容姿と中身のギャップにため息をつくのだった。


************************


「お待たせしました」


戻ってきたイリアはゲームの序盤に出てくる村人が着てそうな素朴な服を着ていた。

男物のせいか肩幅があっておらずだらっとしている事と、イリアの足が長いためズボンは逆に七分丈になってしまっている。

残念なイリアは服装までなんとも残念な感じになってしまった。

いや、もはや何も言うまい。


「あー、じゃあちょっとその子に声をかけてみて」

「その子?」


僕がしっぽで指す先には例の盗賊の子供がいまだ呆然と座り込んでいた。

視線は盗賊達が焼けていた空間を見つめており、だがいまだその焦点はあっていない。

先ほどの出来事が衝撃的すぎて泣くこともできていないようだ。


「盗賊の子供だってさ」

「そう、ですか……」


若干だがイリアが眉をひそめた。


(苦悩しているという表情ではないか。子供が残っていた事で罪悪感でも感じるかと思ったけど)


イリアの表情はこの子をどうしようかただ単純に悩んでいるだけのように見えた。

なので僕は聞いてみた。


「こういう風に盗賊の子供だけが生き残った時は、イリアの国だとどうするの?」


その質問にイリアが少し考えてから言った。


「こういう場合は親次第ですがよくて奴隷落ちか悪くて死刑ですね」

「それは、子供は罪を犯して無くても?」

「そうですね」


それは当然のことと言う風に言われた。

どうもこの世界では親の責任は子供も負うシステムのようだ。


「それじゃ今回はどうするの?」

「それは、ミツキ様が決めていいと思います」

「盗賊達を倒したのはイリアだけど?」

「私はミツキ様の、ど……奴隷ですから」


相変わらず奴隷という単語に言いよどみながらもそう答えてきた。


「そっか。じゃあどうするにしてもとりあえずその子に声をかけてみて」

「……わかりました」


答えたイリアがゆっくりとその子に正面から近づいていき、そしてその子の肩をトンっと叩く。


ビクッ!!


その子はそのわずかな衝撃に異常なほどの驚きを見せるとバッと後ろに跳び退き警戒した目でイリアを睨み付けた。

今の動きを見るになかなかの運動神経だ。

というかしゃがんだ状態から3mくらい跳んだのはちょっと驚きだ。


「……あなた、名前は?」


イリアはその動きに少しひるみつつも改めて聞く、が答えはない。

代わりに質問が来た。


「父さんを殺したのはおまえかッ!」


野生の獣のような目でイリアを睨み続ける子供。

おそらく父さんとは燃えてしまった盗賊の中の誰かなのだろう。

イリアもそのことに気付いたようでその子に向かって頷いた。


「そうね、私が殺しました」

「ッ!?なんで殺した!!」


なんで殺したか、この質問は一昨日も聞いたばかりだ。

なにか変な縁でもあるんだろうか。

嫌な縁だこと。


イリアと子供のやりとりは続く。


「人を誘拐して奴隷として売るような人であれば殺されても文句は言えないはずです」

「それでも殺す必要はないだろ!!」

「なら放っておいてこれからも誰かが誘拐され売られてもよかったというんですか?」

「そんなこと知るかッ!!」


吐き捨てるようにそう叫ぶと子供が背中側に隠し持っていたらしい短剣を抜き放った。

そしてその短剣を構えるとイリアに向かって走り出す。


(だいぶ脚も早いな。普通の人間より身体能力が高そうだしもしかするとこの子は……)


僕は盗賊の子供に少し疑念を持つ、がその確認はまた後ですることにしよう。

イリアの方を向く。


イリアは盗賊の子供が向かってくるのを見ても冷静だった。

少し顔には緊張が浮かんでいるが慌てることなく相手を見据えている。


短剣が届く距離まで近づいたところで、子供はイリアに向かって短剣を突き出した。

その短剣が身体に届く直前に、イリアは右足を後ろに下げるように半身になる。

結果腹を狙っていた短剣は空を切る事になった。

空振りした事で走ってきた勢いを止められず身体が泳いでしまい盗賊の子供は慌てた。

急いで体勢を戻そうとするもその隙をイリアは逃さず、突き出されたままになっている子供の右手を手刀でたたき短剣を落とさせる。

盗賊の子供は一瞬ひるむが、すぐに体勢を整えると短剣を拾わずに直接素手でイリアにつかみかかってきた。

イリアはその伸びてきた手の首を冷静につかむとその勢いのまま背負うように一瞬だけ持ち上げ、そしてその子を背中から地面にたたきつけた。


「イリア、実は強かったんだねぇ」


茶々を入れるとイリアが少し照れつつ嬉しそうに小さく会釈してきた。

実はって言葉に少し皮肉が入ってたんだけど……まぁ喜んでるからよしとする。

昨日もそうやって盗賊達を倒せばよかったのに。


そんな思いをひとまず振り払い、地面にたたきつけられた衝撃でむせかえっている子供に視線を移す。


(この子はどうするかなぁ。ほったらかして帰ってもいいんだけどはてさて)


考えているとイリアがおずおずと言ってきた。


「もし奴隷にしないのでしたら殺してしまわないとまた周りに被害がでると思います」

「ッ!!」


殺されると聞いて子供が怯えた表情を見せた。

対するイリアは子供を怯えさせたという事はどうでもいいようで、どちらかというと意見した事で僕が不機嫌になっていないかという事に不安を感じているようだった。


(まぁイリアの考えも一方では正しいのは確かなんだけど……)


イリアの顔を見つめる。

不安そうに見返してくるイリア。


「イリアは気付いてる?」

「えーと……何にですか?」


イリアがさらに不安そうな顔をした。


「……まぁそうだろうね」


盗賊の子供がなんで親を殺したとイリアに問うた。

状況や返答は違えど一昨日イリアが皇帝に言った言葉だ。

イリアはその事にきっと気付いていない。


(人の世ってのは本当に難しいものだねぇ)


思わずため息がでてしまう。


もし仮にイリアの両親が民をないがしろにし苦しみを与えるような存在だったのだとしたら。

イリアの両親は害になるからと皇帝に殺され、その皇帝に復讐を誓ったイリア。

そしてそのイリアは盗賊達を悪者だからと殺し、その子供がイリアを憎むというこの状況。


(正義だ悪だなんて所詮は主観でしかないから別にどちらでもいいんだけど、イリアには最低限その辺を理解した上で復讐をするかしないかを選んで欲しいねぇ)


イリアは黙り込んでしまった僕をまだ不安そうに見続けている。

再びため息をつく。


「とりあえず、イリアはこの盗賊達を殺した事によって一つの恨みを背負う事になったわけだね」

「それは……それで将来誰かの命が救えるのであれば」

「……そうだね」


それも一方では確かに正しいのだけど。

でも誰かが救われるかも知れない反面それによって苦しむ人がいるのも事実。

じゃあどちらを救えばいいのか、僕に答えが出せるはずもなく。


だから結局僕はイリアに何も伝えることはせず、未だ苦しそうにしながらも四つんばいで起き上がろうとしていた子供に向き直った。

その子は怒りと恐怖が混じり合った表情で僕を睨み付けてきた。


「きみ、名前は?」

「……」


やはり口を開く様子はない。

ただでさえ得体のしれない猫がしかも親の敵と親しげに話をしているのだから当然と言えば当然だ。

たださっきまで表情に表れていた感情に加え、今は若干の怪訝も混じっている。

僕は続ける。


「僕はミツキ、悪の大魔術師だよ。見た目はただのしゃべる猫だけどね」


まるで世間話でもするかのように自己紹介をしさらに続ける。


「実は君に一つ選択をしてもらいたいんだけどいいかな」


黒猫からされた妙な提案に訝しむ子供。


「簡単な事だよ。この後君がどうしたいかを決めてもらうだけだから」

「……何を企んでるのさ」


口を挟んできた。


「企んでるといえば企んでるけど別に君に危害が及ぶような企みではないから安心して欲しいな」

「……答えないと殺されるんだろう。父さんみたいに」


怒りの表情が強くなる。

だが僕はそこではなく、この子の声を聞いていてふと気になったことがあった。


「ねぇ、よければ名前を教えてもらえないかな」

「……」


やはり答えない。

でも僕は繰り返す。


「もう一回きくよ。君の名前は?」

「……ラーク」


少しの間の後、今度は教えてくれた。


「ラークは女の子だよね?」

「……」


ふぃっと横を向かれた。


盗賊という事で無意識に少年だと思っていたが、どうやら女の子で間違いないようだ。

そう言われてみると中性的な印象は女の子と言われれば確かにそういう風にも見える。

見た感じが幼いこととバンダナをしていることでだまされていたようだ。


……もっとも今のところそれがわかったからどうだというものでもないが。


「ごめん話がそれたね。もしラークが選択をしなかったら、殺しはしないけど死んじゃうまでこき使おうかなと思ってるよ」


さらりと悪者の様な台詞を言いにゅふふと余裕の笑いをしてみる。

少し離れた所で立っていたイリアがぴくっと動揺したのが分かる。


「別に難しい選択じゃない。例えば逃げたければ僕たちは追いかけないからここから逃げて好きなように生きるといい。例えば復讐のために闘うというなら挑んでくる事も認めよう」

「……ふざけてるのか?」


真面目に選択肢をあげたのにどうやら信じてもらえなかったらしい。

見た目が猫だからでしょ?わかってますって。


「こんな姿をしてるけどイリアは僕の奴隷だからね」


しっぽでイリアを指してやる。


当のイリアは僕のこの言葉にショックを受けたようでうなだれていた。

とばっちりくらってるし。

っていうかイリア、いい加減慣れようよ……。


視線を戻すとラークが目を見開いていた。


「つまり君の父親を殺したのは僕とも言えるわけだ」

「ふざけるな!」


怒りでふざけるなレベルが疑問系から断定にレベルアップしてしまった。

まぁこれまたどうしたということはない、僕はさらに続ける。


「別に逃げてもいいんだよ?それとも君も復讐者になって僕やイリアに復讐するかい?」


またちらっとイリアに視線を送るが、その言葉には特に反応はしていなかった。

そこから再び視線をラークに戻……そうとした瞬間にしゃがんだ格好になっていたラークが跳ねるようにして僕に飛びかかって来た。


「油断してるところを責めるのはいい判断だね。でも僕は手強いよ?」


しっぽを一振りするとふわっと空気が踊り、飛びかかってくるラークと僕の間に障壁が展開される。

飛びかかってきた勢いのままラークは強引にその障壁に飛び込むがふわっと押し戻されてたたらをふむ。


「馬鹿にするな!」


ラークが体勢を立て直し今度は逆に後ろに飛ぶ。

そして壁際にあった樽に手を突っ込み引き抜くとその手には長剣が握られていた。


「んー僕は至って真面目に対応しているつもりなんだけど」


正直なところである。

だがラークはそんな返答を聞くことなく剣を構えて再び僕に向かって走り出した。


「復讐なんてお勧めしないんだけどそれがラークの選択なら尊重する事にするよ」


僕はしっぽをくねらす。

すると僕の足下から4本の黒い触手が飛び出し走ってくるラークに襲いかかった。


「ッ!?」


ラークはとっさにブレーキをかけると、迫ってきた黒い触手のうち一本を長剣で切り落とした。

だが残りの三本はそのままの勢いでラークの右手と両足にそれぞれ命中しトリモチのように貼り付く。

そしてそのままラークの身体を持ち上げると後ろの壁にたたきつけた。

背中を強く打ち付けられたラークは再びむせかえった。


「聞いたところによると盗賊は捕まると奴隷か死刑になるんだってね。ラーク、君には僕の奴隷になることを命じるよ」

「ふざけるな!誰がお前の奴隷になんかなるか!!」


ラークは叫び、手足の拘束を外そうともがく。

しかしその程度ではびくともしない。


「ラークは復讐を選んで負けたんだからもう文句は言わせない」


僕とラークの間に魔力が固まり、そしてそれが散るとイリアの時と同じように契約書が現れる。


「今回は強制契約だからサインする必要はないからね」

「奴隷になんかなるもんか!」


ラークが横を向きぎゅっと目をつぶる。

その仕草だけみればなんだか年相応だなと思う。


「でも残念ながら目をつぶっても関係ないんだよね」


契約書がふわっと消えた。

それと同時にラークが突然目を見開きうめきだした。


制約魔術はイリアの時と同じようにあくまで契約を受ける側、今回であればラークが理解する為に契約書という形で顕在化しただけであり、別にそれを目視するかどうかに関わらず強制的に認識させる事に代わりはない。

ただ今回は制約事項を認識させる際にラークが抵抗しているようであり、そのことで一時的に混乱し苦しんでいるようであった。


触手の拘束を解くとラークは力なくその場にぺたんと尻餅をつく。

本人は拘束が解かれた事にも反応せず目を見開いたまま苦しげにうめくだけだ。

落ち着くには少し時間がかかりそうだった。


しょうがないのでラークはそのままにし別の用事を済ませる事にする。


「イリア」

「は、はいッ!」


ラークを見ていたイリアは声を掛けられるとは思っていなかったのか慌てたように返事をして駆け寄ってきた。


「方法は問わない、あいつらを倒して」

「え?」


あいつらとは誰か、そんな疑問をイリアが投げかける前に洞窟内に声が響いた。

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