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3-3 ミル王女と披露会のための試験(下)

「逃げるなら今ですよ!」

「あーわかったわかった。じゃあ帰ろうかな」

「なッ!?待って待って待って本当に帰らないであなたはそれでも男ですか!!」


訓練場に着いてからも僕は引き続き僕はミル王女からちょっかいを掛けられていた。


「僕は特に披露会に思い入れはないから出ても出なくてもいいんだけど」

「ぐッ!私だってどちらでもいいですわ!」

「じゃあやめようかな」

「そ、そんな訳にはいかないです!やってもらうに決まっています!!」


さっきは私にやらせろといい、今は帰ろうとする僕を引き留める。

この子は僕にどうして欲しいんだろうか。

相変わらず意図が読めない。


「それで試験って言うけど僕は具体的に何をすればいいの?」


ひとまずよくわからないミル王女は放っておきモルバレフにそう訪ねる。


「なに、基本的には武器や魔術を使用した戦いを行ってもらうだけじゃな。戦意を喪失したと判断されるか死亡した場合に決着じゃ」

「それって披露会と同じルールなの?」

「そういう事じゃ」


訓練場と呼ばれた場所には冒険者ギルドの裏庭と同じように円形のステージがあり、どうやらそこで試験官と戦う事になるらしい。

試験というけど要するに実力を確認するという事でよさそうだ。


「それはじゃあそういう事として、試験って言う割には妙に観客が多くない?」


見回せば集まっていた兵士達はどうやら部隊ごとに整列してる様子が伺える。

まぁ訓練場なので兵士がたくさんいてもそれ自体に違和感はないんだけどなにゆえ整列までするのだろう。


「皆興味津々じゃからのぅ」

「それって試験が?」

「いやミツキ殿個人が、じゃな」


当然じゃろうという風に見てくるが僕なんて見学しても別に面白い事もないだろうに。


「あなたが推薦なんて受けるからよ!」


再び隣のミル王女が口を開く。

口で文句を言いつつさっきからずっと僕の隣にいるんだけどこれまた一体どういう事なのか。


「あなたなんてやられてしまえばいいですわ!」


僕の視線に気づきふんっと横を向かれてしまった。

だからこの子は僕にどうして欲しいんだろうか。


「ミル王女はこれでも優秀な魔術師じゃからのぅ。プライドが高いのじゃ」


モルバレフがやれやれと首を振りながら説明してくれた。

加えて僕にしか聞こえないように呟く。


「ミル王女にしても兵達にしても相手の実力くらい計れるようになってもらわぬと困るのじゃがのぅ」


そんな事僕に愚痴られても困ってしまう。


「……ま、いっか。面倒臭いしさっさと終わらせちゃおうか」

「あ、あなた!そんなに気楽にしていて殺されても知りませんわよ!?」


ミル王女がなぜか心配するように忠告してきた。

なにそれあなたはツンデレな人ナノデスカ?

僕は首をかしげつつも気にしないことにしてそのままステージに上がる。


「相手はーっと」


見るとステージの反対側から5人の兵士が上がってくるところだった。

たぶん兵士に標準配布されるのだろう鎧を着けているがズボンなどは全員ばらばらの格好だ。

そしてなぜだか皆やる気のようでものすごく集中している様子が見て取れる。


「なんであんなに気合いが入ってるの?」

「ミツキ殿が出ることによってあの者達が落選したからじゃろうな」

「あーなるほど」


人生の晴れ舞台の場を僕に奪われたのか。

しかもその相手に実際に会ってみればこんなの(僕)だし。


「でもそれって悪いのは僕じゃなくて推薦したモルバレフじゃないの?」

「それを言われると返答の余地はないのう」


その言葉とは裏腹に全く悪びれた様子のないモルバレフ。

肩をすくめる僕。


「ちなみに参考までに聞くけどこの戦いってどういう勝ち方でもいいの?」

「勝ち方に規則はないが、また何か考えておるのか?」

「どんな方法で勝てば面倒くさくないかなぁって」

「出来れば穏便にすませてほしいところじゃな……」


変な期待をしないでほしい。

そりゃ僕だって穏便に済ませたいと願っているよああもちろん。

ただこれから相手をする5人組は殺気がみなぎっているのでどうしようか悩んでしまう。

殺してでもうばいとる、ってなもんだ。

むーホントどうしようかな。


ちらりとミル王女に視線を動かせばどうもそわそわした様子だ。

さっきは怒り7割心配3割ほどだった表情が今は心配が7割ほどにあがっているように見える。

はて最初に出会った時の怒り10割は一体なんだったんだろうか。


首をかしげてから再び兵士5人に視線を移す。

と同時にモルバレフが口を開いた。


「それではこれから披露会出場のための試験を開始する。双方全力を出し切り戦うことを望む」


言っていることは恰好いいが宣言した後ちらりと僕を見るのは頂けない。

全力を出すなって?

一応僕だって自重って言葉を知ってるんだからね。


内心文句を言う僕を無視するように試験が始まった。


*********************


兵士達5人は剣を持った前衛3人と杖を持った後衛2人という編成のようだ。

バランスがいい。


試験開始と同時にすぐに後衛二人が魔術を構成するのが視える。

正直遅い。

そのまま傍観しているとやがてその魔術が完成し辺りに効果が広がる。

どうやら補助の魔術だったようで二人から広がった魔力が5人をふわっと包み込むのが視えた。

魔術は人の想像力次第で千差万別に変化するので見ただけじゃ何の魔術かはわからない。

だがセオリーで考えればあれはきっと筋力とか速力アップ辺りなんじゃないかと思う。


「あ、あなた!集中しなさい!!」


ぼーっと相手を観察していたらステージの下からミル王女に注意されてしまった。

せっかくなのでミル王女に向き直りにこやかに手を振ってあげる。


「んなッ!何をしてるんですか!前を見なさい!前を!!」


ミル王女が大あわてで僕を急かしてくる。

少しだけ赤くなった様子はかわいいがあまり遊ぶと後で怒られそうなので忠告通り前を向く事にする。

ちょうど前衛3人が僕に向かって走り出したところだった。


(うー遅い……)


兵士達の走る速度はモルバレフやレティさんには到底及ぶ物ではなかった。

ちゃんと地面を蹴って走ってくるのがその証拠だ。


(もっともあんなおっかない人たちがあちこちにいても困っちゃうけどね)


苦笑しながらのんびり兵士達が到着するのを待ってみた。

一人目が到着する。

僕に向かって剣を振り下ろしてきたので僕はひょいと半身になって躱した。

これまた当然ながらモルバレフの剣戟には威力、速度共に遠く及ばない。

次いで到着した二人目がふるった剣は跳ねて躱し、三人目は一人目の体を間に挟むようにして攻撃を止めさせる。


「みんな剣が素直すぎだよ」


二人目が再び剣を振り抜くが今度は一人目の後ろを取る形で動き躱しつつ、そこから僕は踵を返して魔術を準備していた後衛二人を目指し走りだす。


速度は大体ラークを目安にしているがそれでも兵士達の速度よりは遙かに早いはずだ。


視線の先では後衛二人が迫り来る敵(僕)に焦りそれぞれに魔術で応戦してくる。

だが威嚇やフェイントなしの直進するだけの炎でありまるで避けてくれと言っているようなものだった。

実際僕が射線上から少しずれただけで炎は僕に当たることなく後方に抜けていってしまう。


(ホントこの世界の人って炎の魔術好きだよね。いや先日判明した理由を考えればしょうがないんだけどさ)


今度モルバレフ辺りにでも属性について語ってみようかと本気で思ってしまう。


さてそれはともかくとして、あっという間に二人の兵士に肉薄した僕はそのまま近距離で雷を生み出すと手のひらでタッチするようにそれを兵士達に押し当てる。

バチンッ!っという派手な音と共に一瞬だけ体を硬直させた二人の兵士はそのまま倒れた。

これくらいならたぶん気絶ですむと思うが魔術に抵抗がなさすぎて逆に加減が面倒くさい。


二人が息をしている事を確かめたうえでのんびりと後ろを振り返ると、前衛三人は今必死にこちらに向かって走っていた。

わかっていたがやっぱり遅い。

もうちょっと早く走ろうよ……。


「んー、なんかこのまま終わるのもつまらないし久々にこんなのでもやってみようか」


ふと思いつき僕は両手を掲げ呼びかけた。


「おいで、ゴーレム」


その言葉に応えるように僕の足下に光の線が走りあっという間に魔法陣ができあがる。

そしてその魔法陣の中にあった石畳が徐々にはがれ砕けて僕の掲げた両手の間に集まり始めた。


舞台の周りでざわめきが起こる中ごつごつとした石はどんどんくっついていき、それはやがて僕の背丈ほどの石人形を作り上げる。


「なんだあれは!?」


ステージの外ではそんな声が飛び交っている。

うん、予想通りしっかり驚かれていて満足。


ちなみにこのゴーレムだが、見た目はただ石を積み上げて人の形を作っただけのように見えるがこれでもちゃんと動くようにできている。


突然出現したその石人形に驚き足を止めてしまっている兵士三人に向けて指を指しつつ僕は叫ぶ。


「いけ!ロケットパンチ!」


その声に従いゴーレムが兵士達に向かって腕をあげ、そしてその腕がそのまま兵士達に向かってものすごい勢いで発射された。


まさか腕が飛んでくるとは思わなかっただろう彼らのうち二人はゴーレムの右腕と左腕の直撃を受けて吹き飛ばされ場外へ転がり出ていく。

見た目は異常なものの威力はたいしたことはないはずなので大きな怪我はしてないだろう。

ちなみにこのゴーレムには腕を飛ばすなんて機能はなく、今回は単純に腕を切り離した上で僕が魔術で飛ばしただけだったりする。


それはともかくとして、残る一人は唖然としているその隙に僕自身がこっそり近寄り捻りなく電撃で気絶させる。

これによりゴーレムを使った以外は特に盛り上がる事もなくあっという間に試験は終了してしまった。


案の定場外では先ほどのざわめきが嘘のように静まりかえりしばし無言のまま時間が流れる。

そんな中モルバレフが口を開いた。


「……なんとも不可思議な戦いじゃったのぅ」


驚きとも呆れともとれる表情のモルバレフの言葉。

考え事をしているようだがはてロケットパンチの合理性でも考えているんだろうか。

それであれば断言しよう、そんなものはない!


「せっかく魔術が使えるんだからこんな風にもうちょっと工夫して使ってほしいと思うんだよね」


敢えて理由をつけるとすれば皆が同じ魔術ばかり使う事が退屈なのでこんな変わり種を使ってみただけだ。

まぁロケットパンチが工夫かどうかは微妙なところだが、それくらい茶目っ気があってもいいのにと思う僕は一度肩をすくめてから何事も無かったようにステージを降りたのだった。

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