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3-2 ミル王女と披露会のための試験(上)

魔獣の話により一度は沈んでしまった空気の中それでも他愛もない話をしながらやがて再び和やかな雰囲気を取り戻した頃、モルバレフが話を切り出した。


「すまぬがミツキ殿、これから共に城に行って貰いたいのじゃがどうじゃろう?」

「城?」


突然のその申し出にその意図が読み取れず首をかしげる僕。

以前バウバッハに会いに行くと言った時にはそんな約束をした覚えがあるが、今は当のバウバッハがここにいるのでそれとは違うはずだ。

理由が見えない。


「ほらあれじゃ。ミツキ殿が以前披露会に出たいと言っておったじゃろ?あれの手続きをしたいのじゃよ」


そういえば確かに前回ここにきた時にそんな話をした気がする。


「あー……。いや出たいというか話を聞いていただけなんだけど。それに予選会って日にちが過ぎてるんじゃなかったっけ?」


以前ここにやってきた時に確かにそんな話をしていた事を思い出す。

ただし前回聞いた時は確か予選会が一週間後にある言っていたはずで、今はそこから10日は優に越えているはずだ。


「確かに先日予選会は終わってしまったがの。じゃからギルドの推薦枠でミツキ殿を推薦しておいたのじゃ」


にやりと笑うモルバレフをみて僕はなんだか嫌な予感しかしない。

無名の新人を推薦するなんて一体どれだけ力押ししたんだろうか。

僕はどう反応したものやら悩む。


「確かにイリアを出したら面白いかなーと思った時期もあったけど今となってはねぇ」

「なにッ!?イリアを披露会に連れてくるのか!?」


バウバッハが身を乗り出して声を上げる。


「いやいや今は考えてないよ?っていうかバウバッハ驚きすぎ。モルバレフも伝えてなかったの?」

「面白そうな事は後に取っておくタイプでな」


くっくっくと笑うモルバレフは相変わらずいい性格をしている。


「そもそもバウバッハだって僕の正体を知っているんだから止める立場なんじゃないの?」

「む、ミツキ殿の希望であれば枠の一つくらい取らなければなるまいと……」


バウバッハは何とも言えない表情をしている。

内心どんな感情が渦巻いているのか知らないがずいぶんと優遇して貰っているようで頭が下がる。


「ちなみに今から不参加ってなるとまずい?」

「推薦者の面目はつぶれるな」

「推薦者って?」


モルバレフが自分とバウバッハを交互に指さす。


「あーなるほど。バウバッハはともかくモルバレフの面目なら少しくらいつぶれてもいい気がするにゃ~」

「それは確かに」


同意してきたバウバッハと共にモルバレフをじと目で見るがしかしモルバレフは堪えた様子もなく逆に笑った。


「ダメ元で推薦しただけじゃ。辞退するならそれもよかろう」

「……えらく素直だね。なんだかそう言われると出なきゃいけないみたいになるんだけど」

「お?そうか?」


再びにやりと笑うモルバレフはきっとわかってやっているのだろう。

本当に喰えないじいさんだ。


「わかったよ。バウバッハの顔を潰すわけにもいかないし社会見学も兼ねて参加してみようかな」

「いやいや社会見学っておぬし……。披露会を社会見学と言えるのはミツキ殿くらいじゃろうな」


少しだけあきれ顔のモルバレフだったがすぐに気を取り直したのかそのまま促されすぐに城に向かう事になった。

ちなみにギルド職員を先に城に走らせ準備をさせておくから時間はかからないだろうとのこと。

それなら終わったらどこかでお昼ご飯を食べてから帰ろうと内心算段を付けておく。


「そいや披露会って確かチーム戦だったよね?チームメンバーってもう登録されてるの?」


ふと気になって尋ねる。


「いやミツキ殿は一人で参加となっているはずだ。後から変更するようなら言ってくれれば対応するが?」

「んー今のところ変更するつもりはないかな。主催側が一人で参加してもいいって言うなら僕は一人で構わないよ」


他の参加者が五人チームで出てくる中僕だけ一人っていうのは目立ってしまうが仕方がない。

レティさんのレベルがごろごろしているようなら正直イリア達にはまだ荷が重いと思うし。


「んじゃそれはそれでいいとして。よく周りが納得したね」


繰り返すが無名の新人の推薦なんて簡単ではないと思う。

ましてたった16組しか参加出来ないわけだし。


「なーに、面白い事があれば全力を尽くすのは当然であろう?」


くっくっくっと笑うモルバレフを見て、どうも性格が僕に似ていて困るなと苦笑しながら城に向かうのだった。


*********************


さて城に行ってさっさと手続きを済ませてお昼ご飯を、なんて考えていた僕は現在絶賛後悔中である。


「お兄様!この様な子供を披露会に推薦されるなど納得出来ません!!」


城に到着し事務室で手続きを始めようかと思った矢先、突然ドレス姿の女性がやってきて騒ぎ始めた。

今にも僕に飛びかかってきそうな勢いでまくし立てている。


「ミル!失礼な事を言うんじゃない!!」


バウバッハが慌てて声を上げその金髪の女性をたしなめたがどうにも聞く耳をもたないようで二人の言い合いになってしまい今に至る。

僕とモルバレフはそれをただ傍観していた。


「お兄様は何を考えているのですか!?披露会ですよ!死んでしまうかも知れないのですよ!?」

「ミツキ殿は大丈夫だ!だから落ち着くのだ!!」

「お兄様こそ冷静になってください!!」


収まりそうにない二人の言い合いにモルバレフがやれやれと首を振る。

その顔を見るにまたかと言ったものだった。


「なぜ推薦されるのがこんな子供なのですか!!モルバレフの様な歴戦の戦士ならばいざ知らず、皇帝による異例の推薦がこのような子供など誰が納得しますか!!」


ミルと呼ばれた女性は僕を指さしながら髪が逆立ちそうな勢いでまくし立てている。

確かにいきなり僕みたいなのが現れたら普通は納得しないよね。


「以前言ったようにミツキ殿は私もモルバレフもその実力を認めているのだ!」

「それが納得できないのです!どう見てもこんな子供が強いはずがないではないですか!!」


キッと睨み付けられたがそんな風に睨まれても困る。

文句ならモルバレフに言って欲しい。

どうしたものかと思いながら顔をモルバレフに近づけて聞いてみる。


「この人だれ?」

「バウバッハの妹君だ。披露会に出たいと言われておったのだがいかんせん王族なのでそう簡単にはいかなくてのぅ。そこにきてミツキ殿はミル王女よりも若いので火がついたのじゃろう」


再びかぶりを振るモルバレフだったが今の言葉がどうやらミル王女にも聞こえたようだ。


「モルバレフ!王族である事は関係ありません!!」

「ミル!いい加減にしないか!!」


バウバッハがなんとか押さえ込もうとするがミル王女は聞く様子がなく二人の言い争いは続く。


「王女様は自信家なんだね。僕はもう帰りたくなってきたんだけど」

「そうじゃのう」


いつもならのらりくらりと引き留めそうなモルバレフまで同意してきたのだからそのくらいこのミル王女は扱いが面倒なのだろう。

僕はこのまま逃走してしまおうかと本気で考え始める。


ふと周りを見回せば次第に人が集まり始めていた。

城の中で皇帝とその妹が声を張り上げているのだから当然だろう。


(なんだか都に来るといつも面倒事に巻き込まれてるよね……)


目立たないようにしているはずなのになんでなんだろうと思わずため息が出てしまった。

そしてそれをミル王女に見られてしまいさらにテンションをあげるミル王女。


「ミツキとやら!そんなに強いというのならこの私と勝負しなさい!!」


勝負しなさいと言われても困ってしまう。

戦うこと自体は別になんとも思わないがどういう結果が出ても火に油を注ぐだけの様な気がする。

隣を見れば再びモルバレフはかぶりをふり、さらに慌てたバウバッハが止めに入る。


「ミル!そんなことが出来るわけがないのはわかっているだろう!」

「お兄様は黙っていてください!これは私とこの者の問題です!」


いつのまにか僕らの問題になっていた。

僕は参加したつもりはないんだけど。


勢いの衰えないミル王女が唐突に僕に指を突きつける。


「この弱虫!」


おまえは子供かッ!?

いきなり会話のレベルが下がりさらに僕はげんなりする。


「別に僕は弱虫でいいんだけど」

「弱虫じゃないというのなら」

「じゃあ出場権を君に譲ればいいんだよね」

「私と……え?」

「うんそれがいい」


面倒くさくなってそんな提案をする。

微妙にかみ合わない会話と僕の予想外の言葉に唐突に素に戻った様子のミル王女はぽかんとした顔で固まってしまった。

黙っていればかわいいのにもったいない。


「僕が出場するのをやめて変わりに王女様が出れば万事解決だよね?」

「え?あ……ええ!ええ!それがいいわ!!」


ようやく思考が追いついたらしい。

そうだそうだと一人で納得している。

いやぁよかったよかった解決だ。さあ帰ってお昼ご飯を食べよう。


僕が回れ右をしようとして、だけどそうは問屋が卸さなかった。


「お嬢様!いけません!!」


せっかくまとまりかけたところに響く声。

ついで周りを取り囲むように展開を見守っていた兵士達の間から執事姿の老人が現れミル王女に近づいていく。

僕は再びぐったりした表情でその執事の動向を見守る。


「お部屋にいらっしゃらないので探しに来てみれば!」

「う、少しくらいはいいではないですか」


ミル王女が初めてひるんだ。

いいぞ執事!そのままミル王女を引っ張っていくんだ!!


「これだけの騒ぎは少しとは言いません!」

「そこを何とか!せっかく出場権をもらったのに!!」

「出場権とは簡単にあげられるものではありません!よしんばそうだとしても姫様が出場など危険すぎて容認しかねます!」

「大丈夫よ!きっと!!」

「大丈夫じゃありません!!」


そのまま今度はミル王女と執事さんが言い争いを始めてしまった。

って、おーい僕は当事者なんだぞー無視するなよー。


「すまぬのぅ」


取り残された形になった僕にモルバレフが静かに謝ってきた。

なんだかモルバレフの様子がいつもと違いすぎてこちらは別の意味で調子が狂う。


「姫っていつもああなの?」

「いつもかと言われれば……いつもじゃな」

「むぅ……」


普段からあんなでは王族としてはどうなのだろうか。

少なくとも交渉ごとには絶対に連れて行きたくないタイプだ。


「それではミル王女の代わりに私がこの小僧めと戦いましょう!」


突如喧噪の中からちょうどそんな宣言が聞こえた。

ちょっと待って執事さん目的が変わってるよ!

あと小僧とか言うなし。


「皇帝陛下もそれでよろしいですか?」

「よろしくないわよオーグ!こいつとは私が戦うのよ!」


今度はミル王女が宣言する。

この執事さんはオーグと言うらしい。

まぁどうでもいいし、っていうか王女もこいつとか言うなし。


だんだんとおなかが空いてきたので早く終わらせて欲しいというオーラを込めてちらりとバウバッハに視線を送る。

困った顔をしていたバウバッハだったが僕の視線に気づくと一瞬びくりと焦った後慌てて頷き返してきた。


「二人とも落ち着け!」


バウバッハの威厳のある声。

今まであれだけ騒がしかったミル王女と執事両方がその一言で口を閉じる。

皇帝モードのバウバッハはさすがだった。


「このあとミツキ殿に対する試験があるのだからそれで強さを見極めればいいだろう!」

「……は?」


その言葉にむしろ驚いたのは僕だ。

ちょっと待て試験なんて聞いてないんだけど。


今度は非難がましい視線で訴えてやるとバウバッハが再び焦ったようにびくりと動揺する。

だが兵士達が見ているからかその威厳は崩さなかった。

そしてその様子を見るにどうやら試験は決定事項らしい。


「こ、このあと訓練場にて試験を行う!私の推薦に異議のあるものはその試験を見た上で進言せよ!!」


どうやらミル王女だけでなく他の兵士達に対しても強さを証明したいらしい。

そうならそうと先に言っておいてくれれば参加を辞退したのに!


とはいえここで辞退してしまっては逆に恨みを買いかねない。

仕方がないと半ば諦めつつも今度はモルバレフに恨みがましい視線を送ってみる。

すると疲れた表情で見返されてしまった。

なにげっそりしてるのさ!いやいや疲れたのは僕なんだけど!!


色々不満な僕はしかしその後口を挟む事もできず、流されるままに城の訓練場というところに連れていかれたのだった。

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