表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/49

3-1 皇帝の謝罪と情報収集

今日の天気は曇り。

世間一般ではどんよりとした空模様とでも言うだろうが僕にとっては絶好の昼寝日和だ。

だが残念ながら今日の僕は目的があって動いているので昼寝をするわけにはいかないのだった。


あのペットコンテストから既に十日以上経っている。

こちらは仕事斡旋所で依頼を受けたりキノコ狩りに行ったりとちょこちょこ動いているにもかかわらず未だに皇帝側の動きはない。

実際のところ家臣のいる前であれだけ挑発したのだから何かしら動いてくるだろうと思っていただけに少しだけ拍子抜けだ。

今日はそんな辺りの情報が聞けるといいなーという事でやってきましたダラウライ。

いつも通り人の姿で串焼きを口にくわえつつ僕は冒険者ギルドに入っていった。


ざわざわざわ。


相変わらず騒々しい所だが僕が入った途端さらにざわつきが加わった。

原因は……ってまぁ今更説明の必要はないと思う。

興味や畏怖など様々な視線を受けつつ僕はまっすぐカウンターに向かう。


「こんにちわー」


別の人の対応をしていたらしいレティさんに僕はにこにこと声を掛ける。

にこやかな笑みを浮かべたレティさんが僕の方を振り向いて、その笑顔がぴしりと固まった。


「み、みみみ……」

「みみ?」

「み、ミツキ様ッ!!?」


幽霊にでも会ったかのように驚かれてしまった。

なんだろうやっぱり城での出来事が伝わっているんだろうか、というかそうとしか考えられない。

そしてそんなレティさんの仕草のおかげで背後ではさらにざわつきが増してしまった。

ほらそこ、変な噂をたてるんじゃない。


「とりあえず元気そうで何よりだね。モルバレフはいる?」

「は、はい!ただ今呼んで参りますのでしょ、少々お待ち下さいぃ!!」


レティさんが走り出す。

相手をされていた冒険者らしき人はほったらかされてしまいぽかんとした表情のまま去っていくレティさんを見守っていた。


「おーいそんなに急がなくても……」


慌てるレティさんにそう声をかけるがその直後。


どんっ!


レティさんは通路の向こうから歩いてきた人にぶつかり尻餅をついてしまった。

痛たたと鼻を押さえるレティさん。


「ん?レティ殿?そんなに慌ててどうしたのだ?」


ぶつかった相手はバウバッハだった。

どうやら今日も冒険者ギルドにきていたらしい。

相変わらず暇そうだ。いや偏見だけどね。


不思議顔のままのバウバッハがレティさんに声を掛けると手を引き立ち上がらせる。

この辺はさすが王族って感じの仕草である。


だがレティさんはそんな事はお構いなしに急ぎ立ち上がるとお礼の言葉もそこそこに慌てて僕の方を指さした。

バウバッハが不思議そうな顔でこちらを向き、


「やぁ」


僕の気の抜けた挨拶を聞いた途端今度はバウバッハがぴしりと固まってしまった。

いやいやそんな反応されても困るんだけど。


「バウバッハよ出入り口で立ち止まらないでほしいのじゃが……」


固まってしまったバウバッハを避けるように今度はモルバレフがやってきた。

そして呆れ顔のモルバレフと目が合う。


「遊びにきたよ」

「おやミツキ殿。なるほどのぅ……」


幸いというかモルバレフは固まらず逆に何かに得心したようにうなづきながらバウバッハに視線を移した。

つられて僕も視線を動かすとバウバッハは未だ固まったまま滝のように汗をかいていた。

変な病気だろうか、ってそんな事はなくあれはたぶん冷や汗だろう。


「まぁ立ち話もなんじゃし奥の部屋に行くか」

「ん、そうしてもらえるとありがたいかな」


話す内容もそうだけど周りから聞こえてくる声もささやかながら非常に面倒臭い。

皇帝陛下を視線だけでびびらせるだとッ!?

弱みでも握っているのか!?

……どちらも違いますから。


固まるバウバッハを促してさっさと応接間に移動したのだった。


*********************


「ミツキ殿!あの時はすまなかった!!」


応接室に移動した後、バウバッハの開口一番がこれだった。


「反省している!この通りだ!!」


立ち上がり深々と頭を下げてくる。

あ、うんえーっと……


「一応確認なんだけどなんの事で謝ってるの?」

「イリアに討伐隊を送った事、魔獣を使った事、催し事をめちゃくちゃにした事だ」


あーなるほど。

確かにバウバッハから見れば負い目にはなるだろうか。

僕は出されたお茶を一口飲んでから口を開く。


「いくつか聞きたいことがあったんだけど、それじゃまずそこから解決しようか」


未だ立ったままのバウバッハにソファーに座るように促す。

皇帝陛下を立たせるなんてどんな横柄な輩だ。はい僕です。だから座って下さいお願いします。

バウバッハは少しだけ抵抗したものの後ろめたさもあるためか大人しく僕の言うことを聞き正面に座った。


「んじゃまずは討伐隊の派遣についてだね」


イリアに対して、そして僕に対して兵を向けた事を謝っているらしいのだが。


「あれについては一応理解しているつもりだよ。だから謝ってもらう必要はないかな」


逃亡者があれだけおおっぴらに行動しているのに組織として何もするなという方が無理があるだろう。

まず一本指を折る。


「次に魔獣を使った事についてだけど、僕は別に魔獣を兵器として使ったからどうだという感想は持ってないんだよね。強いて言うなら使った場所がどうかとは思うけどそれに対する謝罪の相手は僕じゃないはずだし」


街の人にも被害は出なかったはずだから、謝罪するならフランにだよね。

というわけで二本目の指を折る。


そこでふと聞いてみたいことを思いついた。


「そうそう、話の途中で悪いんだけど聞きたいことがあるんで少しだけ脱線してもいい?」

「ああ、構わない」

「そんなに畏まらなくても大丈夫、別にたいしたことじゃないから」


神妙な顔つきのまま聞いてくるバウバッハに笑いかけてから続ける。


「この国ってさ、魔獣がどうして生まれるのかって解明されてる?」


僕の質問にバウバッハが眉をひそめた。


「……魔獣の発生原因ということか?魔獣とは獣に魔力が集まり変異したものであると理解しているが」

「それは確かにその通りなんけどさ、聞きたいのはそこではなくなんて言うのかなぁ」


一度言葉を止め、続ける。


「なぜ魔力が獣に集まるのか。より正確に表現するなら生き物に魔力が集まるその理由かな」


返答はない。

バウバッハとモルバレフは共に目を細め僕の言葉を待っていた。


「あー、まぁ特に気にされてないならいいんだけどね」


僕は二人のその無言の催促を笑ってごまかした。


「そいやえーっと……あの大臣の人元気にしてる?」

「グウラか?」

「そうそうその人」


太ってて子煩悩な人だ。


「今は自宅謹慎中だ。さすがに街中に魔獣を放った罪は不問にはできん。後は息子が消えて帰ってこないという話が城中で話題になっている」

「あーそりゃそうだよねぇ……」


僕が苦笑いをしているのを見てバウバッハが再び眉をひそめる。


「グウラの息子、確かミティスといったか。ミツキ殿の所にいるのではないのか?」


その言葉に僕は乾いた笑いを返す。


「結果的にはそうなっちゃったね。確かに僕の手元にいるし元気にしてるよ」


とはいえまさかミティスが自分でついてきたあげく僕の方が弱みを握られているとは思うまい。

まぁ転移魔術の存在はバウバッハも知っているので弱みと言えるのかは正直微妙だけど。


「ちょっと迂様曲折があったんだけど今はミティスを返してもいいと思う程度には怒ってはいないんだけど……」

「なにかトラブルでもあったのかの?」


歯切れの悪い僕に不思議顔のモルバレフが聞いてきた。


「トラブルというか、まぁ色々とね」


再び笑ってごまかす。

さすがに自分から残りたいと言っているのは公にはできないよね。


「ごめん結構話が脱線しちゃったね。後は催し事をめちゃくちゃにした事だっけか」


主人の役に立つペットコンテスト。

確かに最後はまさかの魔獣登場で順位はうやむやになってしまったが……、


「あれはむしろグッジョブ!!」


満面の笑みで言い切った僕を見て二人が目を丸くする。


あのコンテストを改めて考えてみると、やった事と言えば変な衣装を着させられたりウナギを捕まえさせられたり毒を飲まされたりといい思い出が一つもない。

むしろ今まで何十回も続いていたのが不思議なくらいだ。

果たして過去どれほどのペットたちが犠牲になったのだろうか。

ペットを代表して礼を言う事にしよう潰してくれてありがとう!


「さてそんなわけで特に僕が謝罪を受ける理由はなかったわけだね」

「それは……だがあの時のミツキ殿は……」


そこまで口にしてから再びバウバッハが固まり滝のような汗が流れ出した。

城での事を思い出したのだろうか。

確かにあの時は僕も大人げなかった。


「あの時はちょっと自分の中での問題が解決してなかったというか」


僕自身が優柔不断なせいでフランの将来を壊したと自問していた時だったと思う。

だからようするにあれだ。


「客観的にみると僕の八つ当たりだったんだよね」


あははと笑う僕。

その様子を再びぽかんとした様子で見る二人。


「いやね、あの時僕が怒った理由を突き詰めていくと結局は自分で蒔いた種だったからさ」


なにせ最初から自分で動いていれば何も起こらなかった訳だし。

本当に自分勝手な事だ。


「というわけであの時のことは僕の方こそ謝るよ。ごめんね」

「あー…なんだかよくはわからぬがとりあえずミツキ殿は怒ってないということじゃな?」

「そうだね」


その返答によかったのうとバウバッハの肩を叩くモルバレフ。

バウバッハはよほど緊張していたのか大きく安堵のため息をついた。


「バウバッハはのぅ、ここのところ毎日ここに顔を出していたんじゃぞ?」

「なッ!?そ、それは……!!」


慌てるバウバッハに構うことなくモルバレフがにやにや顔で話し始める。


「ここにくるたびにミツキ殿は来たかーとな。先日までそれこそ国中大忙しだったにも関わらずそれでも顔を出すところなどそれはもう恋い焦がれる乙女のようじゃったわい!」

「モルバレフッ!!」

「えぇー?そうなの……?」


僕は若干身を引きつつにやにやしながら本人に聞いてみた。

当の本人は慌ててそれを否定する。


「そんな事はない!モルバレフもわかっているだろう!!」


にやにや顔のモルバレフ。

もちろん僕もわかっている。

それでも一応確認の為に聞いてみればとにかく僕に謝らなければという気持ちでいたという。


「んー気持ちはうれしいんだけど最高権力者があんまり一つの物事に固執しない方がいいと思うけどねぇ」


冗談交じりのまま一応忠告しておく事にする。

理由はどうであれ要するにここしばらく仕事をほったらかしているわけだ。

それは決して周りにいい影響をあたえないだろう。

ついでに言うとしわ寄せがいった部下の人たちかわいそうに。


「さてミツキ殿、和やかな雰囲気のところで話を戻して済まぬがさっきの魔獣の話について少し教えてもらいたいのじゃがいいだろうか」


なにやら少しだけ神妙な面持ちで聞いてくるモルバレフ。

僕は特に断る理由もないので頷く。


「先ほどのミツキ殿の質問をきくに獣に魔力が集まる理由に心当たりがありそうじゃが、それをミツキ殿は知っておるのじゃろうか?」


視線が交差するが僕はその問いに答えない。


「……質問を変えよう。ミツキ殿は魔獣が存在する事に意味があると思っているのじゃろうか」


先ほどからのモルバレフの表情はいつもの人を喰ったようなものではなく真剣だった。

何かを見極めたい、そんな風に感じる。


さて存在する事に意味があるかという質問。

それはある意味で真理だ。

人はなぜ生まれ死ぬのか、言ってみればそれと同じようにも聞こえるこの質問。

だが、


「……魔獣が生まれる事に意味はあるよ」

「ッ……!」


モルバレフが目を見開く。


「ミツキ殿は魔獣がなぜ生まれるのか知っておるのか!?」

「……知ってる」

「なら教えて欲しい!魔獣となった獣を元に戻す方法はあるのじゃろうか!?」


モルバレフがいつもは決して見せない興奮し慌てたその姿。

それを見て僕は少しだけ眉をひそめ、そしてふと気付く。


「……魔に染まった人がいるの?」

「ッ!!」


僕の言葉にモルバレフが狼狽し愕然と固まった。

僕たちのやりとりに隣ではバウバッハが目を見開く。


「人も獣も魔に染まる意味は同じだよ。だけどそれ以上の事は僕からは教えられない」


そして僕は口を閉じる。

モルバレフはそれでも諦めきれずに言葉を発しようとし、だが僕の様子をみて口をつぐむとソファーに座り直した。


「……そうか。いやそれが聞けただけでも大きい」

「モルバレフ……」


バウバッハが何かを聞きたそうな顔でモルバレフを見る。

どうもその様子を見る限りではバウバッハも知らない何かをモルバレフが抱えているのだろう。

そしてそれが何かは先ほどの質問で十分察する事が出来た。


(結局世界を超えてつきまとうんだね)


僕は怒りとも諦めともつかない感情にため息をつく。

もちろん僕は決してそれを表に出す事はない。

ただいずれ向き合わなければいけないその問題を考ええると心底憂鬱になるのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ