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2-8 情報収集とレティさん

あの後すぐにバウバッハは急用が出来てしまったと言い残し、名残惜しそうに退室していった。

とても嫌そうにしていたのでやはり公務は面倒なのだろう。


そして残ったモルバレフからはまた一戦やらないかと誘われたが生憎僕は戦闘狂ではないので丁重にかつバッサリとお断りさせていただいた。

あまり僕を働かせないで欲しい。


ひどくがっかりした表情のモルバレフと共に僕は応接室を出る。

当然姿はちゃんと人型に戻っている。


「モルバレフ様!ごごごご無事ですか!!」


部屋の外で待機していたらしいレティさんが怯えながら確認してきた。

このじいさんは僕についてどんな説明をしたのかとても気になるところだ。


「なぁに(くだん)の黒猫は儂が10人いても勝てぬ相手だと教えただけじゃ」


愉快そうに笑うじいさんだがこんなじいさん10人に囲まれたら僕なら戦わずに降参するだろう。

ちなみにレティさんが僕の事を聞いたのはモルバレフの参謀的な立ち位置だったからだそうで、この二人以外の職員や冒険者は僕の事は知らないとのこと。


「何かを強制するつもりはもちろんないのでな。暇だったらまた遊びにくるといい」

「冒険者ギルドに遊びにくる暇人ってのもかなりひねくれてるよね」

「儂みたいにな」


なんだかよく笑うじいさんだ。


「っとそうだ最初の目的をすっかり忘れてた。披露会ってのがいつ開催されるのか教えて欲しいんだけど」

「もしやお主参加するのか?」

「さあどうだろ、流れ次第かな。でもたぶん一つの大きな分岐点にはなると思うよ」


あの時ああしていたらと思い返す事になるであろう分岐点。

もちろん未来の事など具体的にわかるわけは無いが、少なくともイリアと皇帝にとってはそうなる予感がする。


「披露会は今から32日後だ。お主に勝てる者などおらぬだろうが気が向いたら参加して圧勝して貰いたいところじゃな」

「ん?なんでまた?」

「天狗の鼻も伸びすぎたら折らなければならぬのでなぁ」


何か思い出したのかモルバレフが盛大にため息をついた。

よくはわからないがモルバレフがため息をつくならきっとよほど面倒な事なのだろう。


「んまぁ考えとくよ」

「そうしてくれ。あぁそうそう、もし大会に出るなら今から一週間後に予選会があるから頼むぞ」

「え?」


驚いたが確かに国を挙げての大会ならば予選くらいはあるだろう。


「参ったなぁ一週間か。予選ってここでやるの?」

「ここも含め国の何カ所かでやるが。なんじゃどこか遠くにでも行く予定があるのか?」

「あーいや、行くんじゃなくてここにこないといけないというか」


モルバレフがよくわからないという顔をする。

そりゃそうだろう。


「それともう一つ、予選を突破するにはどのくらいの強さが必要?」

「そうじゃのう……レティくらいの力があれば大丈夫じゃと思うが」

「わ、私ですか!?」


いきなり話を振られたレティさんが困惑する。


「と言われてもレティさんが戦ってるところを見てないからなぁ」


イリアを披露会に出したとしても予選を突破しなければ意味がない。

となるとせめて出場者がどのくらい強いのかは知っておきたい。


「強さの基準が知りたいならばレティと戦ってみればよかろう」


モルバレフが提案してきた。


「あー、そうしてもらえると助かるなぁ」

「え!?そそそそんな無理ですって!!」


僕の言葉にレティさんが両手と顔をぶんぶん振り回して断ってきた。


「そもそもモルバレフ様が勝てないのにどうして私なんですか!?」

「別に勝てとは言っておらぬのじゃが」

「勝てない勝負なんて出来ません!!」


勝てる勝負ならするらしい。

なかなかに現実的な人のようだ。


「どうしても無理かの?」

「どうしても無理ですッ!!」

「じゃあ戦ってくれたらボーナスを出そう」

「だいた……ボーナスッ!?」


反論していたレティさんがボーナスの言葉に固まった。

面白い人だ。


「ほれほれ買いたい物があると言っておったろう?」

「そ、それは確かにかわいいワンピースが私を呼んでましたけど……」

「ならばそれを着るために特別休暇も一日付けようではないか!」

「んなっ!?」


レティさんの背後で稲妻がずがぁんと落ちたのではないかと思うくらいな驚愕の表情で固まった。

それを見てモルバレフがにやりと笑う。


「どうじゃろうのぅ、ただミツキ殿と戦ってくれるだけでいいんじゃがのぅ」

「ぐっ、卑怯な……」


レティさんが壮絶な表情で悩んでいる。

そんなにおおごとだったっけか?


「……わかりました、ワンピースのためです。恥を忍んでお受けいたします」

「いや別に恥をかかすようなことするつもりはないんだけど」

「くっ……」


大層屈辱的な顔をされているがまぁ人それぞれ思うところはあるんだろう、うん。


「それでは早速移動するか」

「え!?あのその、ちょっとだけ準備に時間を頂きたいのですが」

「あーそれは確かにそうだのぅ」


訳知り顔のモルバレフが頷くとレティさんが足早に去っていきそして廊下には僕とモルバレフが残された。

とりあえず立ち話もなんなので二人で先に裏のステージに向かうことにする。


「レティさんって面白いよね」

「そうなんじゃ。面白くて仕事も出来る逸材じゃ」

「戦いの方はどうなの?」

「そうじゃのぅ。うちのギルドで扱う依頼ならおよそどのような依頼でもこなすじゃろうなぁ。本人はやりたがらないだろうが」


どうやらその辺の冒険者よりも優秀らしい。


「ってことはそのレティさんくらい強くなきゃ予選突破出来ないって事なの?」

「そりゃそうじゃろ。この国中の猛者が集まっている中で16組しか勝ち上がれないんじゃからのう」

「あー確かに」


これまた考えてみれば至極当然な事だった。


「そうすると……って16組?」

「なんじゃもしかしてルールもわからんで聞いていたのか?」


図星だった。


「披露会というのは武芸を披露しあった事が最初なのでこういう名前になっておるが実際は何でもありの勝ち抜き戦じゃ。そしてそこで審査されるのは個々の強さのみならずパーティとしての技能も含まれる。そのために出場者は最大5人までのパーティでの参加が認められておる」

「なるほど、そりゃ合理的だ」

「そうじゃろう?」


ただしお荷物になるようなメンバーが入っていると一斉にブーイングが起こるらしいので僕だけががんばってイリアを優勝させる、という作戦はよろしくなさそうだ。


「なかなか難しいねぇ、どうしようかな」


一週間しかないってのもネックだ。

うーむ。

考えているうちに裏のステージに着いたのでその端に腰掛ける。


「もしかして姫さんを参加させようとか考えておるのか?」


モルバレフは僕の正面に立ったまま小声で聞いてきた。


「ん?んーそうしたかったんだけどよくわかったね」

「なに簡単じゃ。お主自身なら笑いながら優勝するだろうからのぅ。なのに難しいなどと言うということは別の誰かを参加させる算段をしておるという事で、しかも話の流れを考えれば姫さんを、となるのが自然じゃろ」


む、ただの戦闘狂のじいさんかと思っていたら頭も使うらしい。


「じゃがそれはやめておいた方がよいじゃろ」


モルバレフが珍しく真面目な顔で忠告してきた。


「いくら皇帝がアレでも国としての体裁があるからさすがに見逃してはくれんじゃろう」

「むー」


それもそうなんだよなぁ。

いざとなればどうにでも出来るとはいえ、それだと強引な方法にならざるを得ない。


腕を組み悩む僕だったがそこで準備が整ったらしいレティさんが歩いてくるのが見えた。


「とりあえずもう少しゆっくりと考えてみることにするよ」

「そうじゃな、それがいい」


国を左右しかねない内輪話はここで終わった。


************************


「さて一般的な強さってのを知るためにレティさんに一肌脱いでもらおうと思った訳なんだけど」

「よ、よろしくお願い致します!」


ステージに上ったレティさんが畏まってお辞儀をしてきた。

そんなレティさんは長袖長ズボンというどこにでもありそうな格好の上にローブを羽織っており一見普通の魔術師のように見える、のだが。

気になったのでモルバレフに聞いてみる。


「……こういう戦闘スタイルって一般的なの?」

「驚いた、一目で気付くのはさすがじゃが……残念ながら珍しい部類に入ると思うぞ」

「だめじゃん」


一般的な強さを知りたかったのにレティさんは一般的ではないらしい。

いや、それでも知らないよりはいいか。


「まぁ色々と試してみる事にするよ」

「ッ!?お、お手柔らかにお願いしますッ!!」


ぺこぺこ何度もお辞儀をされる。

レティさんってホント面白いなぁ。


「あともう一つ聞いておこうと思うんだけど」

「は、はいなんでしょうか」

「……冒険者ギルドって暇なの?」


周りを見渡せば昨日に引き続き大勢の野次馬たち。

格好を見るに結構な数のギルド職員も参加しているようだ。


「あーなんといいますか……お祭り好きなんです」

「なるほど、大変なんですね……」

「えぇーそれはもう」


闘う前から泣きそうなのでこれ以上触れないことにした。

と、そんなくだりを経て僕とレティさんがステージの真ん中で向かい合う。


「「よろしくお願いします」」


二人の声が重なり、レティさんが鞘におさめていた短剣を抜き構える。

対する僕は相変わらず武器も持たず構えもしない。

そんな僕に不安そうな顔のレティさんが声をかけてきた。


「あのミツキ様?」

「あー気にしないでいいよ。普段通りやっちゃって」


若干躊躇をしたもののレティさんは目をつぶり一つ深呼吸をした。

そして、


「っふッ!!」


いきなり狩人のような目つきになったかと思うとモルバレフと同じように僕めがけて飛んできた。

そしてその速度はモルバレフより早い。

あっという間に僕の目の前まで来るとそこから短剣で突いてきたのでそれを半身になり躱す。

レティさんは続けてその短剣を横に薙いだ。

僕は後ろに退こうとしたところで思い至りしゃがむ。

背後で金属が地面に落ちる音。


「いきなり暗器を使っちゃっていいの?」


声をかけながらレティさんの足を払おうとするがレティさんはそれを小さく飛んで避けると短剣による振り下ろし。

さらにそれを僕が躱したところに何も持っていない反対の手を斜めに薙ぐ。

再びその袖口から飛び出て僕に向かう尖った金属を回り込む様に避けつつ僕は右手でレティさんの横っ腹めがけて突いた、が。


パシュンッ!!


僕の突きはレティさんが展開した魔術障壁を叩いて終わった。

ありゃ、と間抜けな声を出してしまった僕に対してさらにレティさんの短剣が二振り三振りと襲いかかり僕はそれを捌いていく。


「なるほど。昨日とっさに障壁を展開できた理由がわかったよ」


日頃から条件反射的に障壁展開ができるのであれば昨日モルバレフがとばした破片を防ぐこともたやすいだろう。

納得した僕の言葉にしかしレティさんは反応することなく短剣を僕に向かって振り、再び暗器を飛ばしてくる。

集中力も文句なしだ。


「じゃあこんなのは?」


飛び退き僕とレティさんの間が空いたところを見計らって僕は魔術を展開する。

何の変哲もない炎の球。

一瞬で生みだしそして一瞬でレティさんに向かって打ち出す。

レティさんは躊躇せずその炎の球につっこんでいった。

着弾と同時に炎をまき散らすが、これまた障壁を展開したレティさんは無傷で飛び出してくると再び僕に肉薄する。


「こりゃモルバレフが褒めるわけだ」


レティさんは攻撃と防御どちらもバランスよく高い。

例えば身体能力の大半を攻撃に割いている今のラークでは勝てないだろう。

またイリアも暗器に対応できないと思われる。


近距離で攻防を続けるレティさんの目の前に再び炎の球を生み出しぶつけてみるがレティさんはこれまたひるむこともなくさらに攻撃を加えてきた。

魔術障壁は本当に反射的に使えるらしい、頼もしいね。


なんて観察していたら突然僕の目の前に炎が生まれ間髪入れずに僕に向かって炎をまき散らした。

今度は僕ではなくレティさんが使用した魔術だ。

唐突に現れしかも効果範囲が広い分暗器よりもこちらの方がよほど凶悪だと思う。

レティさんに倣い僕も炎を障壁で防ぐ。


その一瞬だった。

近距離でしゃがんだ格好になっていたレティさんと目があった。

おびえなど一切無い刺さるような視線。

スローモーションの様にレティさんがゆっくりと両手を僕に突き出す。


(うーんホントに優秀だなぁ)


そう思った瞬間、僕の視界は白で埋め尽くされた。

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