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2-4 初めての仕事とその報告

《イリア視点》


「イリアー!行ったよー!」

「は、はいっ!」


ラークさんの声に私は慌てて返事をする。

剣を構え待っていたらすぐに茂みの向こうから何かが駆けだしてきた。

黒猫の倍くらいの大きさがあるネズミだ。


「せーの!」


構えていた剣を振り下ろし慌てて方向転換しようとしていたネズミの首を半分ほど切り裂いて絶命させた。

だがうまくいったと安堵する間もなくラークさんから声がかかる。


「イリアー!もう一匹いったよー!」

「はいっ!」


再び現れたネズミを同じように斬りつけた。

だが今度は躱されてしまいそのままネズミが走り逃げ出してしまった。


「このっ!」


とっさに魔術で炎を生み出しそのネズミへと放つと、うまく命中しネズミを中心に炎をまき散らす。


「あ、あぁーーーっ!!」


ネズミは逃がさなかったが代わりに周りの雑草に火がついてしまった。

慌てて近づき踏みつけて火を消していく。

様子に気づいたラークさんも慌てて近寄ってきて燃える雑草を踏みつけ始めた。

それで何とか火は消えてくれたがへたをすればこの林が燃えてしまうところだ。


「うぅ、またやっちゃった」


頭の中で黒猫のどじっ子~という声が聞こえるようだった。

実際に言われた訳ではないのにひどく落ち込んでしまった。



なぜ二人がこんな事をやっているのかと言えばそれはお金を稼ぐためだ。


黒猫と別れた二人はお昼までに必要な物を買いそろえた。

去り際に黒猫から必要な物は遠慮せずに買うようにとのお達しを受けたため着替えなどを含め様々な必要品を買い込み、結果渡されたお金はほとんどなくなってしまったのだ。

渡した黒猫としては当然承知の上なのだが使った側からすると少し不安になってしまう。


というわけで少しでもお金を稼ごうと思った二人はさっそく仕事斡旋所に行き依頼を受けた。

その依頼内容が大ネズミの討伐だったという訳だ。


なお冒険者ギルドではなく仕事斡旋所で依頼を受けた事には深い理由はない。

ただ単純に冒険者ギルドがヒューザの街には無かったからだ。


冒険者ギルドと仕事斡旋所が別々に存在する理由は簡単だ。

基本的に冒険者になる人種は夢を持っているのでプライドが高く雑用的な仕事はやらない者が多い。

冒険者はトイレ掃除などやらないのだ!とはある有名冒険者の談である。

そのため危険で見返りの大きい討伐依頼は冒険者ギルドが、雑用的な依頼は仕事斡旋所が扱うという区分となっている。


そしてこの性格上冒険者ギルドは常にある程度の討伐依頼が集まることが要求される。

だが獣や魔獣は種類によって繁殖力が異なるため常時討伐依頼が発生するような地域は偏ってきてしまう。

結果として冒険者ギルドは特定の街にしか存在しないのだった。


この為ヒューザの街のように冒険者ギルドがない街ではお金がない冒険者がトイレ掃除などの雑用をやる事もあり、結局最終的には冒険者うんぬんというよりは人によるという話になってしまうのだが。



「これで10匹目っ!おーわり~!」


ラークさんが10本のネズミのしっぽを掲げて喜んでいる。

今回の依頼では大ネズミを倒した証拠にしっぽを提出することになっていたので倒した大ネズミから切り取っていたのだ。

私もそれを見て安堵し、だが同時にため息をついた。


「三時間で200カルか」


宿代が一日二人で140カルなので一日一回依頼を受ける程度ではほとんど手元に残らない計算だ。

そしていい武器を買おうとすれば数千カルは必要になるだろう。

イリアが王女だった頃も無駄遣いをしたつもりはないがそれでも今こうして労働の対価としてお金を得るとお金の大切さが身に染みるようだった。


「イリアー早く報告してお風呂に行こうー!」


ラークさんが声をかけてきたので返事をして歩き出す。

悩みは多いがひとまず目先の事を考えよう。

旅の間に川や湖で水浴びは何度かしたが湯浴みは久々なので少し楽しみだ。


「前は毎日お風呂に入っていたのになぁ……」


思わず昔を思い出しそうになり慌てて顔を振る。


「だめだめ!考えるのは皇帝に会ってから!!」


一度両手で頬をぺちんと叩いて気分を変えると私は小走りでラークを追いかけていった。


*********************


夕方、猫の姿に戻った僕はイリアとラークと合流すると宿で食事をとり部屋に戻ってきていた。

イリアとラーク二人だけで行動させたので少しだけ心配していたのだがひとまず何事もなかったようで安心する。


「さてさて今日はどうだった?」


そんな内心はおくびにも出さずしっぽをくねらせながら聞いてみた。


「まずミツキ様のおかげで服が買えました。ありがとうございました」

「それはよかったね」


二人ともシャツとズボンという格好は変わらないがあちこちすり切れた様な今までの服とは違いしっかり縫製された厚手の服となっていた。

残念な服からちょっと小綺麗に見える服にランクアップだ。


「それとお風呂に入った?」


なんだかさっぱりしたように見える。


「あ、はいそれで……」


仕事斡旋所で依頼を受けてネズミ退治をし、その汚れを落とす為に浴場に行ったという話を聞いた。


「うん、やっぱり清潔な方がいいよね」


多少お金がかかってもお風呂はちゃんと入った方がいいと思う。


「後は?」

「はい、その後ミツキ様と合流して終わりです」

「……」

「……あの何か?」


思わずイリアの顔をまじまじと見てしまう。

その後ラークを見て、ラークはいつも通り話を聞いていなかったのでこちらは放っておく事にした。


「イリア、一応確認しておくけど今の目的はなんだったっけ?」

「え?お…お金を貯めることです」

「そう、それはそうだよね」


予感が的中している事に内心ため息をつきつつ一度頷く。

対してイリアの方は僕が何かを言おうとしている気配を感じたようだが、ただその正体がわからず困惑しているようだ。


「何のためにお金を貯めるんだっけ?」

「あの、装備を整えるため……」

「その装備は何のためにいるんだっけ?」

「それはえーっと、披露会で……あっ!」


思い出したらしい。


「お金を稼ぐのももちろん大事だけど披露会自体を逃したら本末転倒だと思うんだよねー」

「ち、違うんです!ちゃんと覚えてたんです!……途中までは」

「途中までかぃ!」

「うぅ……」


うつむき唸るイリア。

披露会の開催される場所や日にちがわからなければ装備が整ったとしても目的は達成できない。

優先順位って大事だと思うんだよねー。


そしてふと思ったけどイリアは失敗した時だけ歳相応になる気がする。

そもそもよく考えればイリアはまだ17歳なのだから失敗しながら学ぶ年齢なのかもしれないなとも思い至った。


「ちなみに大ネズミは失敗せずに倒せた?」

「は、はい!ちゃんと……倒せました」

「……」

「……」


声が小さくなっていくイリアのその頬に流れる冷や汗を僕は見逃さない。


「……また燃やしたの?」

「めめめ滅相もない!」


ぶんぶんとかぶりを振るイリアだったが、


「そうなんだよ、イリアってば火事を起こすところだったんだよ」


危なかったーと笑うラーク。

聞いていないようで聞いているあたりがラークらしい。

そしてその思わぬ伏兵の発言にイリアが冷や汗を垂らしながらうつむく。


「イリア?」

「……はい」

「やーいどじっ子~」

「うぅぅぅ」


ぽふっと布団に顔をうずめいじけてしまった。

その姿をみて僕は苦笑し、でもまずは一日目が何事もなく終わったのでよしとする事にした。


「とりあえず明日またがんばってね」


それでイリアへの追求は終わりにする。


その後は少しだけだらだらと思ったことなどを話し合いそしてする事が無くなった僕たちはさっさと寝ることにした。

僕は布団の隅に移動して丸くなりラークが部屋の中で燃えていたろうそくの火を吹き消す。


訪れる暗闇。

今日は色々と美味しい物を食べる事が出来たし、最後はこうやってふかふか布団で寝る事ができたのでいい日だったと思う。

明日もまた同じようにいい日になるようにがんばろう。

そう誓いながら僕は眠りについた。


……

……

……ちなみにミティスの家で感謝の宴を催されそうになった僕は面倒臭くなり窓から逃げ出した事を追記しておく。

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