十一話 全力弾幕戦
全力も弾幕もないです正直。
「じゃあ……いくぞ!!!」
一紀が声を発し、椛へと突撃する。一紀は本当は女の子を攻撃するのは嫌だったが、ここではそんなことを言っている暇はない。山の中に木々もある。その地形を利用しつつ、一紀は木々を蹴って飛びつつ、接近。椛との距離をつめて、自身の勘の射程距離になって突進。空中で体をひねって右かかと落としを当てる。
ドムッと一紀の脚から体に衝撃が伝わる。すぐに見ると椛が盾で防御していた。すぐに一紀はかかとは当てたまま、さらに左足でかかと落としを、あえて盾の方へ決めて自分の体を浮かし、また上昇するが、その場に留まらずに重力に身を任せてまた落下した。
「くっ…」
危機と化したのか、椛は一旦後退して距離を離し、「の」の字を模した弾幕を放つ。その弾幕を見て、すぐに一紀は空中で横へ飛翔。木へ足を置いてまた蹴って突撃、弾幕をかいくぐる。
「おらぁ!!」
さらに体をひねらせて勢いをつけた左回し蹴り。だが今度は椛はあえて左手で受け止め掴む。そのまま背後へと一紀を叩きつける。もちろん一紀は地面へ叩きつけられた衝撃は防げなかったが、すぐに受け身を取って椛を見て、さらに無理やり体を動かしてつっこむ。
「なっ」
その人間とは思えない体の動きに椛は驚き、体勢を一瞬だけ崩す。それを見た一紀は好機と言わんばかりに前進蹴りで椛の胸の方を蹴り飛ばす。
もちろん盾での防御が間に合わず、そのまま突き飛ばされる。椛は自分の剣を地面へ突き刺して勢いを殺す。素早く払って一紀を見る。また一紀は突撃してくる。
椛はすぐに戦闘思考を考える。今弾幕を放ったところでまたかいくぐられる。だがよく考えると今まで一紀は防御はとっていない。そこを逆手に取れば―――。
すぐに椛は弾幕を放つ。案の定一紀は体を動かしてつっこんでくる。予想通り。椛も弾幕を盾にするように突撃する。
椛の剣が上段へ振り下ろされる。防御が無理と感じた一紀はすぐにのけぞらせて避けようとする。さらに椛はそこに付け狙っていた。
突然、一紀の視界が回転し始める。
「うわっ…!」
訳が分からないまま、一紀は弾き飛ばされた。木に激突し、だがすぐに体勢を立て直す。そのとき、足に違和感があった。簡単にたとえるなら、衝撃。
すぐに一紀は分かった。今のは椛が足払いをしかけ、そして斬られた感覚がないから、恐らく盾ではじかれた。剣に切れ味はあるはず。となると、手加減されたか、あるいはためらったか。いや、違う。と一紀は考えを変えた。椛はまだ一紀の実力なんてわかっていない。それにここでの殺傷は嫌なのだろう。
「なんつーか………あまちゃんだな」
誰にも聞こえないように言って、すぐに正面を見る。今の打開策は分からない。分からないと言えば今の一紀の力の一つ、『【共同心身】で力を貸してくれた味方のスペルを自分も使える』と言うこと。それらの一つは使った。あとは二つぐらいありそうな感覚だ。それだけはなんとなくわかっている。
「じゃあ………こいつだ!!」
一紀は右手を構える。そして宣伝した。自分に植えられた力の一つを。
「星風【連雨流れ星】!」
自分の力を無自覚に放つ。一紀の右手から無数の星弾が放たれ、一直線に椛へ放たれる。それを見た椛は盾を構えつつ、一紀の方角へ突撃する。一紀は上空へと飛び、だが椛の目線は上空だ。さらに一紀はもう一つのスペルを使う。
「魔走【ブレイジングアウェイ】!!」
一紀は空中を蹴って、超高速で椛の背後へ、水平に回り込み、瞬間的に方向を変えて、椛の方へ突撃する。椛は盾を構える。だが一紀の移動速度は変わらず、直角に、瞬間的に方向変換して回り込む。
「えっ!?」
椛は驚いて背後へと斬りかかろうとしたが、それよりも速く、椛の利き手である右手がはじかれ、剣が空中へ舞う。すぐに一紀はキャッチして着地。すぐに椛の顔面へと剣を持った右手で突きを加える―――!!
「ッ!!!」
思わず目を閉じる椛。攻撃は………来ない。
恐る恐る目を開ける。剣の先端が見えたが、それ以上動かない。一紀はゆっくりと剣を下ろす。
「俺の勝ちだ。いいな?」
「………」
真剣な表情で一紀は椛を見ていた。椛もしばらく見ていたが、あきらめたかのように瞬きをして息をつく。
「そうですね。認めます」
「あやや。椛が負けを認めるとは」
いつの間にか文が降りてきた。一紀はそれを見て、椛を見た。何かを考えているような顔だ。
「どうした」
一紀は表情を変えずに椛を見続けた。椛は一瞬上空を見て、また一紀を見る。
「また手合わせを……その、その内」
「おう。今度はこの剣は斬れないようにな?」
一紀が左手を差し出す。椛は一瞬ためらったが、すぐに左手で握手する。と、一紀の体に異変が起こった。
あの時の感覚だ。魔理沙の力を体ごと取り込んだあれ。と、ふと思い出したかのように一紀は椛に問う。
「二つ質問。一つ。名前は?あ、俺は獅綱一紀」
「犬走椛です」
「そして二つ目。何か異変が起きてないか?」
「異変…?そう言えば…」
椛は思い出したかのような顔をした。どうやら何かあるようだ。
ちなみにこんなことを言い出したのは一紀の直感と今までの感覚だ。もし文が山の上のことを知っているなら先にその事情を説明するはず。でも文は知らない。そして霊夢の届け物。封筒一つであり、それにどこか不安に思っている様子だった。
一紀はその時の状況を思い出していた。
「そう言えば……来ないのよね」
「来ない?」
「ええ。近日中に顔を出すって四日ぐらい前に言ってたけど、こないのよ。だから」
「あ。そうなんだ」
あの時若干軽く受け流してしまったが、今思えば少し不安だ。文も気にかかることがあると言っていた。もしかしたら…。
一紀は今までつないでいた手を離して懐から封筒を取り出す。開けるな。とは言われていない。恐る恐る開ける一紀。そこには一枚、手紙じゃないものが入っていた。手紙はない。そして一枚はどうやらお札のようだった。
「まさか……霊夢、分かっていて…!!?」




