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プロローグ

SF的な存在をファンタジー世界にぶっこんだらどうなるかな、という試み。

高度に機械技術が発展した世界。

発展した技術の恩恵により、文明は高度に成長し、技術によって生み出された様々な機械が人々の生活の中へと浸透していった。

やがて、特に高度に技術的発展を果たした都市が全世界に向けて声明を発表する。


人類は、より高度に完成された機械によって管理されることで真に繁栄を得ることができる。


この声明は各国に衝撃をもたらした。賛同する国も、否定する国もあった。

やがて機械による管理を是とする勢力「アルゴンキン」と、器械による管理を「支配」として異を唱える「オーヴェルニュ」の全面戦争へと発展してゆく。

双方の争いは熾烈を極め、開戦より一年の時が過ぎた頃、オーヴェルニュによるアルゴンキン中枢への一大攻勢が行われていた…。


「ここを突破すれば、アルゴンキンの管理用AIにたどり着く。お前達、まだ大丈夫か?」

中枢への突入部隊の一つ、武装を施されたパワードスーツ身にまとった隊長が、部下たちに声をかける。

彼が視線を向けた先に並んでいたのは、同じようなパワードスーツが五機と、それとは明らかに異なる影が二つ。

一つは、その見にそぐわぬような重武装を施した少女。身体にフィットしたインナースーツらしきものを身にまとい、その上から所々に装甲や武装を装着している。

もう一つは、他のパワードスーツに比べると幾分かスマートな姿。見た目はパワードスーツに似ているが、中に人が入れるような余裕があるとは思えない。色合いも、黒を基調としたパワードスーツに比べるとダークブルーが基調となっており、ところどころに白やグレーがアクセントとして配されている。こちらも両手には武器を持ち、体の所々に箱状のものを装着している。よく見れば、右腕だけが左腕より一回り太く、その形状もやや異質であった。

この二人は、人間ではない。この世界の高度に発展した技術によって作られたロボットである。

女性形の方は戦闘用ではなかったものを彼女の意思もあって戦闘用に改造したもので、もう一体は元から完全に戦闘用である。

「問題ありませんよ、隊長!」

「残弾もまだ大丈夫! ここを越えるくらいは何とかなりますって」

「いよいよってとこまで来たんだ。ここまで来て無理ってこたぁ無い!」

「ここを越えれば決着が付くんだ。やりましょう、隊長!」

「俺達の手で終わらせましょう!」

パワードスーツを身につけた部下達から、口々に答えが返る。みな、一様にその士気は高い。

「気を引き締めて行きましょう」

静かな声音でそう言ったのは、女性型アンドロイド。

『ここは敵にとっても最後の砦。なら、配備されている戦力も強力なもののはずです』

右手に持った大型火器を担ぎ直しながら、ロボットが言った。

それらを聞いて、隊長は一同を見回し、一つ頷く。

「では…この戦い、皆の命、預かるぞ!」

隊長の言葉に全員が「了解!」と返す。それを聞いて、隊長は指示を出し始める。

「前衛はオレとダニエルとジョニー。ロバート、ウォーカー、ブラウンはそれぞれのサポートだ。フォーメーションA、リンとニッカは火力支援を。トップはオレがとる」

支持を受けて、全員が素早く動き始めた。パワードスーツ隊が二人一組になり、隊長を先頭に三角形になるように陣形を組む。その後方に、ニッカとリンがついた。

「突入!」

全員で通路へと飛び出し、武器を構えて進む。曲がり角では一旦止まり、パワードスーツの手首に内蔵された小型カメラで状況を確認しながら奥を目指す。

だが、もう少しで最奥部という所で、隊長が全員にストップを掛けた。

「全員止まれ。この先にいる」

それを聞いて、全員が気を引き締める。この状況で「いる」と言ったら、敵以外にはありえない。

『ジャック隊長、敵戦力は?』

ニッカに問われ、隊長…ジャックは緊張した声で答える。

「数は一体だ。だが、その一体ってのがな」

そう言って、ジャックは先ほど確認した画像をニッカに送った。

そこに映っていたのは、一言で言えば異形の機械だった。一応人型の上半身は付いているが、その背中からはハリネズミか何かのように多数の砲塔がつきだし、下半身に至っては多脚の甲殻類を思わせる構造で、そちらにも箱状の部品…おそらくミサイルポッドだろう…や銃火器の銃口と思しきものが装備されている。

だが、最大の問題はそこではない。一応くっついている人型の上半身の方だ。その形状は、細部が異なっているがどことなくニッカに似ていた。

『…兄さん』

そう、あの機体は、ニッカの兄弟機…トリス。向こうのほうが完成が早かったため、兄に当たる機体なのである。

元々はニッカと色以外ほとんど同じ姿だったのだが、今はほぼ完全に別物と化していた。

「やはりか。随分姿が変わっちまってるが…」

『ええ』

ジャックに短く答え、ニッカは歩を進めようとする。それを、ジャックが手で制した。

「…行くつもりなのか、一人で」

『身内の問題ですからね。身内の僕が終わらせないと』

穏やかな声でそう言って、ニッカはジャックとの距離を詰める。

『兄さんは僕が倒します。だから、皆さんは僕が兄さんを引きつけている間に行って下さい。行って、この戦争を終わらせて下さい』

ジャックはニッカの顔をじっと見つめる。戦闘用の機械故に表情というものは浮かばないが、ニッカの声からしてその決意は固そうだ。

「…分かった。だが、無理はするなよ? オレ達はチームだ。全員で帰還するんだ。分かったな?」

『…ハイ』

ニッカの返事を聞いて、ジャックが道を開ける。ニッカは小さく『ありがとうございます』と呟くと、ジャックの横を通りすぎて歩を進めた。

『お前がここへ来るとはな。…いや、やはり、というべきか』

姿を表したニッカを見て、トリスが言う。

『きっと兄さんが控えてるだろうと思ったからね。…まさかそんな姿になってるとは思わなかったけど』

トリスに対するニッカの声は、どこか侮蔑の色を含んでいた。

『兵器としてより完成された姿になったのだ。今度こそ決着を着けるためにな…我が愚弟よ』

対するトリスも、ニッカを見下す発言をする。二機はその袂を分かって以来、今まで幾度と無く戦場で相対し、決着をつけられなかった因縁の相手でもあるのだ。

『ハッ、言ってろバカ兄貴!!』

愚弟扱いしたトリスに対して暴言を吐き、ニッカが飛び出す。展開された背面から光球が出現し、その光球の後ろに光のリングが展開される。そして、それと同時にニッカの身体が飛翔した。ニッカは両脚に装備したミサイルポッドの残弾を全弾発射してパージ、左腕に装着されたガトリング砲をぶっ放す。だが、ミサイルも、連続して放たれたガトリング砲の砲弾も、トリスには届かない。不可視のバリアに阻まれてしまう。

『その程度か愚弟!』

今度は、トリスがお返しとばかりに全身の武器で反撃してくる。その攻撃はまるで戦艦か何かの対空砲火並だ。

『くっ!』

ニッカはわずかに後退しつつ、その弾幕の隙間を縫うように回避する。しかし、完全に回避はできず、何発かが機体をかすめ、左側頭部のアンテナは被弾で吹っ飛んでしまった。

『実体弾でダメなら…!』

ニッカは回避運動を取りつつ右肩に担いだ大型化器をトリスに向ける。直後、その砲口から人間の胴程はありそうな太さの閃光が迸った。本体にジェネレーターを搭載したビーム・ランチャーだ。

だが、そのビームも不可視の壁に阻まれる。

『無駄だ!』

『クソッ!』

再び放たれる弾幕の回避に集中するニッカ。

と、その時、側面からトリスめがけて攻撃が飛んでくる。

『何っ!?』

側面から攻撃を仕掛けていたのは、ニッカとは別行動を取り、先に進む手はずになっていたジャック達だった。トリスがニッカに集中している間に、気付かれないように通り過ぎてもらおうと思っていたのだが、ニッカが苦戦していると見たのか援護してくれているようだ。

『ジャック隊長!? 僕のことは…』

「こっちが移動してる間の牽制だ! お前はお前でやれ!」

援護よりも先に進んでくれ、と言いたかったのだが、ジャックはそれを読んでいたようであくまでも「援護ではない」と言い放つ。

ニッカは苦笑のような声を出しながら『まったく』と呟くと、自らの兄に視線を戻す。

と、そこでふと気がついた。

…バリアを展開している間は攻撃が止まっている…?

ジャック達の攻撃を受け、バリアを展開しているトリスだが、先程まで続いていた弾幕が途切れているのだ。

…そうだ、攻撃と防御を同時には展開できるはずがないんだ! 一方通行で攻撃を通せるバリアはまだ開発中で完成していない!

ジャック達の攻撃が、弾倉交換のために途絶える…その瞬間を狙って、今度はニッカがガトリング砲を叩き込む。

『ハッ、無駄だということがわからんのか愚弟よ!』

ニッカはトリスの言葉を無視。

『皆さん、今のうちに行って下さい! 急いで!!』

『何!?』

「分かった! 行くぞ!」

ジャック達はニッカが攻撃を続けている間に部屋を横切り、奥へと向かう。

『おのれっ!』

『行かせない!』

バリアを張ったままそれを追おうとするトリスの進路上に、ガトリング砲を打ち続けながらニッカが割り込み、ビーム・ランチャーを発射する。異形とも言える巨体へと変容したためトリスは動きが鈍重だ。

『くっ!』

結果としてバリアを張り続けることとなり、攻撃に移れない間にジャック達の通過を許してしまった。

『この愚弟め! 人類という不完全な生命体は、より高度に完成された機械に管理されることではじめて繁栄を得ることができるとなぜ分からんのだ!』

そこでニッカの持っているガトリング砲の連射が止まる。本来なら自動的に連射が止まる時間を、セーフティを外して無視して発射し続けたために砲身が焼き付いて使えなくなってしまったのだ。ニッカは迷うこと無くガトリング砲をトリスに向かって投げつけ、ビーム・ランチャーで撃ちぬく。弾倉に残っていた弾丸が誘爆を起こし、爆煙が一瞬ニッカとトリスの間を遮った。

『ふざけるなよバカ兄貴!』

再び展開された弾幕を回避しながら、ニッカはトリスに向かって怒鳴り返す。

『管理されて決められたことをするんじゃ、機械の部品と変わらないじゃないか!』

ビーム・ランチャーを撃とうとするが、弾幕のうちの一発が直撃。ニッカが慌ててそれを手放した直後に、ビーム・ランチャーが爆発する。

『僕達ロボットならそれでいいかもしれない! けど、人間は機械の部品とは違うんだ!』

そう言いながら、ニッカは左手で腰の後ろにマウントされた二本のナイフの内一本を引きぬき、逆手に構える。

『確かに人間は不完全かもしれないさ! けど、不完全だからこそ前へ進んで発展できる可能性を持ってるんだ!』

そう言って、己の兄に向かって突撃するニッカ。

『戯言を! 所詮愚弟は愚弟ということか!』

まっすぐ突っ込んでくるニッカに対し、トリスは弾幕形成を中止。ニッカのそれより前方に大きくつきだした胸部を展開し、その内部に内蔵されていた砲口を露出させる。そこには、すでにぼう、と光が灯っていた。高エネルギー砲が発射準備を整えている。

『引導を渡してやる、我が愚弟よ!』

『戯言言ってんのはそっちの方だクソ兄貴っ!!』

ニッカは一気に加速し、逆手に持ったナイフを叩きつけるようにして斬りつけようとする。だが、それはトリスに掴まれて阻まれてしまった。

『終わりだ!』

『アンタがな!』

ニッカは迷うこと無くナイフを手放し、何も持っていない右手を相手の胸部の砲口の中へと突き入れる。

『! 貴様、何を!?』

左腕よりも一回り太く、むき出しになった鈍い金属色をした右腕。それを砲口に突っ込んだまま、ニッカは叫ぶ。

『インパクトディスチャージャー、最大出力!』

ニッカの右腕から、キュイイイィィィン、と甲高い音が響く。砲口を損傷したため、トリスはエネルギー砲を放つことが出来ない。

インパクトディスチャージャー。ニッカの右腕に内蔵された、攻撃性衝撃波発生装置。射程距離こそ短いが、その威力は絶大だ。

『貴様、分かっているのか!? こんなことをすれば貴様もタダでは…!』

『承知の上さ。…終わりにしよう、兄さん』

そういった直後、インパクトディスチャージャーを起動する。

炸裂した衝撃波は発射寸前で臨界に達していたエネルギーを暴発させ、室内を爆音と閃光で埋め尽くす。

その音と光が収まった時…そこに、ニッカの姿は無かった。


プログラムチェック完了

躯体状況異常なし

システムオールグリーン

シークエンス全工程終了

再起動開始


『……?』

再起動したニッカは、仰向けになって倒れていた。

『…ここは…?』

身を起こしながら、周囲を見渡す。そこは、緑の深い森の中であった。

状況が理解できない。そもそも、彼が爆発に飲まれたのは室内だったはずだ。それも、最奥部だったのだから外部とはかなり離れているはず。爆発の勢いで吹っ飛ばされたとは考えにくい。そんな勢いでふっとばすほどの規模の爆発なら、原型をとどめていられるとは思えないからだ。

『とにかく、位置を確認しないと』

ニッカは、内蔵されたGPSを起動する。しかし、数秒の後に「エラー」という結果が出た。要するに現在位置が分からないのだ。

『…どういうことだ?』

彼に内蔵されたGPSは非常に高性能なものだ。それこそ、例え人里から遠く離れたジャングルの奥地でも正確に位置を把握できるくらいには。

だが、そのGPSがエラーを出している。

…よっぽどの僻地に来たのか…それとも、GPSが故障してるかのどっちかなんだろうな。

ニッカはそう結論づけた。

だがそうすると、自力で現在位置を調べなくてはならない。そのためにはまずどうしたものか、と考えていると、彼のセンサーが人の話し声を拾った。

「こらこら、あんまり慌てるんじゃないよ。っていうか、本当にこっちなのかい?」

「うん! たしかにこっちの方から聞こえたよ!」

声から察するに、女性が二人。センサーの感度を上げると、足音も聞こえてくる。

…現地の住民かな?

なら、ある意味ちょうどいい。ここがどこなのか聞けば、帰り方も分かるはずだ。

「この辺に…」

がさり、と草をかき分け、近付いてきていた人物が顔をのぞかせる。

確かに、ニッカの予想通り、それは女の子であった。だが、ニッカにとって予想外な部分があった。

…え、耳?

ショートカットの金髪、その頭から生えているのは、犬や猫のような三角形の獣の耳。

よく見ると僅かに動いており、サーモカメラなどで観測した結果、それが飾り物ではなく体温を持った「本物」の耳であるということが分かる。

こちらを見たきり固まっている獣耳少女の後ろから、別の女性が顔を出す。

「オイオイどうした、固まっちまって。なにか見つけたのかい?」

…今度は角か。

その女性の額には、二本の角が生えていた。立派といえるような大きさではないが、髪がかかっても目立つ程度ではある。こちらもセンサー類をフル活用して観測してみたが、装飾品のたぐいではない。間違いなく「本物」だ。

…どうなってるんだ、一体。

ニッカは、獣の耳を生やした人種や、角の生えた人種がいるなどという話は聞いたことがない。

だが、事実として目の前にそれがいる。

いったい自分の身に何が起こったのか、ここはどこなのか。

明らかに、彼の理解の範疇を超える状況になっていた。

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