隆二襲来
真っ赤な顔で泣く美咲をあやしながらドアをあけた。
汚いけど入って、と隆二を促して美咲に大丈夫だからねーと背中をポンポンする。
あたしが美咲を抱っこするときに気をつけることは、小さい体を抱きしめるように抱っこするようにしている。
……当然、加減はしてるよ?
あたしは所詮叔母だ。
母親ではない。ベビーにとって絶対は母親。
しかし、だっこする以上「私は美咲を愛してるよー」って安心させてあげたい。
そんでもって、母親と違う抱っこが叔母ちゃんのものだって覚えて欲しい←本音こっち。
努力のかいがあったのかなかったのか、美咲の泣きがエグエグになった頃……
ーーなんで泣き出したのかっていったら、インターホンに驚いて固まったあと、あーーーーって泣き出した。どちらにしろあんなところで話なんてできないから、あがってもらうしかなかったんだけどーー
と、考えたところで振り返った。
「……なにやってんの?あがってよ」
隆二は戸惑ったようにまだ玄関につったっていた。
なにやってんだ。
少し戸惑って隆二があがってくる。
「お前……今日、親は?」
「ん?言ったでしょ?親いないって」
ああー……とちょっと大きい箱を渡してきた。
某有名どころのケーキ。
「御両親がどんなケーキ好きかわからなかったから適当に買ってきたんだが……食べてくれ」
そこで私は、自分の言葉のチョイスを間違えたことを悟った。
「違うんだわー、隆二くん。私、高校のときに親を亡くしたから親、いないんだわー」
そっかー。二年付き合ってて、ずっと親いないって言ってたけど外に出てるんだと思ってたのかー!!
そっかー!!
またあたしのミスかー!!
隆二は固まっていた。当然だ。
すまん。
私の高校卒業直前で親を交通事故で亡くし、大学は親の保険とアルバイトで行った。
そして、大学を卒業させてくれたのは5コ上の姉、そして当時は姉の彼氏だった姉の旦那だ。
隆二がみるみる自己嫌悪に陥って、口下手ゆえに私になんて言っていいにかわからず負のサイクルに入ったのがわかった。
感情が表に出にくく、とっつきにくいと大学の時から女子に敬遠されがちだった隆二とは、彼が入社した会社に私が入ることで再会した。
そして、大学のサークル時から彼の表情で会話ができる希少な女として扱われてきたので、入社してからもその特技を如何なく発揮できた。
そして、当然のようにくっついた。
なので、私にとって隆二の言いたいことは大体理解できるのだ。
「隆二、あたしは大丈夫よ、もう。そして、私が勘違いさせてゴメン」
「いや…気づかなくてすまない」
気まずい雰囲気の中、隆二をダイニングに連れていって座らせた。
エグエグの美咲を片手で抱きかかえたまま、お茶を出してコップにいれる。
「香澄、その赤ちゃん誰の赤ちゃんだ?」
「うん?お姉ちゃん」
とたんにホッと息をつく隆二。
あれ?私の子供と勘違いしてた?失礼な。
「昨日、お姉ちゃん夫婦が事故してさー入院したから唯一無事だった美咲を預かって帰った次第で」
「は?おい、お姉さんたち無事だったのか?」
お茶をテーブルに置きつつ事情を説明すると、隆二が血相をかえた。
「うん、骨折してるからしばらく入院だけどね、両方。美咲はなんにもなかったし!車にたいして恐怖が残らなければいいんだけど、まー、まだわかんないよね。うん、信じてる」
「……昨日?」
「昨日」
「……なんで連絡してこなかったんだよ、大変だっただろ」
大変だったもなにも、あわや天涯孤独になるかと思って半狂乱で家飛び出して、病院のお姉ちゃんところでわんわん大泣きして、義兄さんに抱きついて大泣きして、美咲抱き締めて大泣きしただけなんだけど……
と説明したら、疲れたようにもういいわかったと返された。
「ってことで、今から病院行くから。申し訳ないが」
言外に帰れと言ったつもりなんだが、隆二は大丈夫だ車できてるとか言い出した。