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第三章 王と依頼

 城門でひと悶着あった後、俺たちは一直線で王座まで通されたが、さすがに仲間は入ることを許されなかった。入れなかった者達は別室で待機することに。

 まあ無理を通して全員を王座までねじ込めば良いのだが、そこは勘弁してやることに。あれだけ大事をやっておいて言うのもなんだが、喧嘩をしにきたわけではない。

 王座は想像していた豪華なものとは程遠い、簡素な造りとなっていた。

 およそ10歩ほどで横から横までたどり着けるぐらいの狭い部屋で、物はほとんど置かれていない。ただ下には赤い絨毯がビッシリと引かれていて、おそらく小さな村ぐらいなら買えるであろう一つ一つの装飾品が壁に張り付いてある。

 部屋の中央には赤いテーブルがあり、対極するように椅子が置いてある。どちらの席も豪華なのだが、王が座る方には所狭しと金が使われていて、おそらく世界でも有数の代物なんだろう。

 逆側の席にどっかりと腰を下ろす。


「あれ? そういえば今まで案内してた警備兵の奴どこいった?」


 てっきり後ろにいると思っていたのだが、左右を確認してもいない。


「すみません。そこは本来、王以外は絶対に入ってはいけない場所なので、私は外で待機しております」


 俺たちを案内してくれた男の声がドアの方から聞こえてきた。どうやら王座は身内でも入れないほど、丁重な扱いを受けている部屋らしい。


「かぁーーーーーーっ、ダルい」


 ぐーっと背伸びをしていると、自然にアクビが出てきた。上品な町を歩く気疲れっていうのは、魔王を倒すのよりも疲労が溜まる。

 椅子の座り心地も良いし、お宝に興味はない。

 軽くではあるが、仮眠をとる事にした。


 およそ半刻後、ぐらいだろうか。

 意識は現実へと強制連行され、俺の目は完全に開かれた。目の前には……丸っこいジジイ。行儀良く一人で座っている。

 自己主張の激しい金の王冠をかぶり、栄養を蓄えきった豊満な体。偉そうな白いヒゲをたくわえ、毛皮の赤い衣に身を包んでいる男。

 まるで王様みたいな格好だ。

 てか、多分王様だろう。


「ほう、ようやく起きたか若僧よ。王座で寝るなど、良い度胸をしておるじ

ゃないか」


 口調こそ優しいが、俺への敵意を隠しているのが見て取れる。部屋が充満するほどの殺意が──。

 この王様も俺と同じ人種だ。俺は力を使って自由奔放に動いているのに対し、こいつは財力を使う。闇に人を葬り去るのが得意なのだと、俺の本能が教えてくれる。

 ジジイには黒い噂も多く、自分の利になることなら貪欲に何でもするらしい。例えそれがたくさんの人の命が犠牲になるような事でもだ。

 まあ、それが事実でも俺は恐れる必要などない。『本当の力の前では財力など所詮無に等しい』。そう確信しているからだ。


「ああ、おはよう王よ。なかなかの居心地だったぞ。普通の人なら見つかれば死ぬって環境で寝ることはな」


 平然とした口調で返す。もちろん、動揺などカケラもしていない。


「ほうほう。ではもし、ワシが殺意を持っていたとしてじゃ。ちょっとこれを見てみい」


 すっとジジイの腰から短剣が出てくる。取っ手が黄金で刃先は鋭い。なかなかの逸品と見える。

 むろん価値は観賞用としてだが。もしくは拷問など。


「そのオモチャがどうしたってんだ?」


「いやなに。オモチャでも薄皮一枚ぐらいは簡単に貫ける代物でな。力は無いワシじゃが──無防備な男の首ぐらいなら容易く貫ける」


「ほう、おもしれえ。ならやってみるか?」


 挑発するかのように俺は腰を落とし、机の上に両手を乗せ、顔を王の前まで持っていく。ドデカイ俺の体が完全に前のめりになった。

 互いの息が聞こえる程の至近距離。オッサンとジジイが睨み合ってるとなれば、第三者から見れば異質極まりない光景だろう。

 しかしこのジジイ、怯える仕草をまるで見せない。動揺が全く表面に出てこない。

 本当に人なのかと疑うほど不気味な存在だ。


「おいどうした? 斬らねえのか俺のクビ?」


「だから言っておるじゃろ。斬る気があればの話しじゃ。ワシは斬る気は無

いんじゃよ」


「おいジジイ、拍子抜けだぞ。一国の王のくせしやがって、一人の無礼な男を殺すことにためらうなんてな」


「そうだの。お前さんを殺してしまえば、血をワシが拭くことになるじゃろ。王座はワシ以外が入ることを法律で禁じているからの」


「はっ! 言うじゃねえかジジイ。なるほど、王座で寝たのが逆に命拾いだったってわけか。違う部屋で寝ていたら、俺は既に死んでたってことだな」


「もちろんじゃ。お主を殺った後は、家族、親戚、仲間まで。全員を殺してたかの」


 ハッタリ……ではない。目が本気だ。ぶれがない。

 怖くなったわけではないが、俺は元の席に戻った。


「ジジイ、今まで何人ぐらい殺ってきたんだ。常人に出せる殺気じゃねえぞ」


「ほっほっほっ。ワシが殺さずとも、周りが勝手にやってくれるわい。実際に我が手を汚したのは、ほんの一握りの──数百人といったところかの」


 信じられないが、百人をゆうに越える死に、このジジイは関わっている。金が無ければただの殺人者といっても過言ではない。

 まあそんな殺人マシーンとはいえ、その欠点を補って余りあるカリスマがこいつにはあるのだろう。王に人間性などいらない。


「で、そんなクソジジイが俺を呼んだ理由は何だ。さっさと本件を言いやがれ。俺を脅したいのなら言葉では不可能だぞ」


「まあまあ。落ち着きなさい勇者よ。ワシは勇者にしか出来ないであろう依頼を頼もうと思っていてな。要は取り引きじゃ」


「依頼か──依頼書は持ってきてるんだろうな」


「もちろんじゃ」


 依頼とは。

 村人や町人が困ったことを旅人へ依頼する。依頼の内容はモンスターを討伐を筆頭に多岐へ渡る。

 そして昔の話ではあるが、旅人と依頼者の間でトラブルが相次いだ。

 トラブった原因は主に二つあり、まずは金銭面だ。旅人があらかじめ出された金額より高く請求したり、また依頼者が安く支払った例もある。

 もう一つは依頼の内容の相違だ。依頼とは違うモンスターを倒してしまったり、相手モンスターが戦いの途中で逃げてしまうケースも。そこでも旅人と依頼者は揉めに揉めた。

 よって色々なトラブルを防ぐために作られたのが『依頼書』である。

 依頼書は誰でも簡単に入手でき、役所に行って紙を貰って必要事項を書くだけ。依頼の内容は何でも良いし、年齢制限などもない。

 しかしそこからが大変で、依頼書を旅人まで持っていき、依頼の内容や報酬を細かく決めていくのだ。ここで条件が合致しない場合、依頼は無効となる。

 というわけで、普通は依頼者よりも旅人の方が立場が上なケースが多いが、逆のパターンもある。

 それは旅人の位が低いケースと、依頼者の立場が高すぎる場合だ。このジジイ、異常な金持ちかつ傲慢さを持っているような奴は特に。


「いいから早く依頼書を出せっつーの。ジジイの戯言に付き合ってる暇はねーんだぞ俺は」


「ほっほっ。これからワシの出す依頼は難易度が高くてのお。もう既に何人もの優秀な旅人に頼んでみたが、生きて帰って来た者はおらん。結果、死亡保障という無駄金がかさんでしもうたわい」


「要するに俺を試したいってわけだな。その依頼が達成出来るか否かってのを。ところでジジイ──俺の職業は知ってるんだよな?」


 熊さえも怯えさせれる殺気のこもった目で睨んでみる。ジジイは困った仕草で顎に手をやるぐらいで、相変わらず反応は薄い。


「もちろんじゃとも。お主を伝説級の勇者と知って呼んだのはワシじゃ。数々の武勇伝は聞いておる。

 しかし、それでもワシは実際に見たものしか信じないタチでの。力の強さはもちろん、頭の回転も見たいんじゃよ」


「くだらねえ。俺は帰るぞ、試されるのは好きじゃねえんだよ」


「まあまあ。これを見てから言うてみい若僧よ」


 ひらりと一枚の紙が、俺の前に舞う。

 書かれている内容は──報酬、二億グラボースキーと書いてある。

 働いている大人の平均年収がおよそ五十万グラボースキー。要するに一人が一生懸命に生涯を働いた金の、二百年分の金を一気に貰うことになる。

 いくら俺が勇者とはいえ、この単価はなかなかお目にかかれない。


「えらく奮発するじゃねえかジジイ。雑魚に頼んで捨てた金で勉強したのか?」


「ああ、死亡保障ってのが存外に高くての。既に二億グラボースキー以上の金が使われておる。ワシも学んだんじゃ、ゴミを集めても所詮はゴミなんじゃ」


「はっ! 死んでいった奴らをゴミ呼ばわりか。なかなか素晴らしい王様なことだな」


「ほっほ。褒めてもなんもでないぞい。しかしまあ、今回は遊びじゃすまされない額じゃからの。ちょっとワシにつきあえ」

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