東京にいた時の話から
羽の初列風切の部分からちょっとが黒の羽を持った文鳥を飼っている。
チェッ
舌打ちのような鳴き声だ。ジメジメとした部屋に文句を言いたげな眼つきでこちらをみている。あんたが1番窓際の日の当たる場所にいるんだ。我慢してくれ文子。ほぼ日の当たらない1ルームマンション2階。バイクさえおく場所がないアパートに俺は一人で住んでいた。東京渋谷区は田舎の蝉より煩い。早朝7時には起きて近くにある居酒屋チェーン店に行く。
高校を卒業してから一人暮らしに憧れ上京をしてから早くも二年が過ぎようとしていた。
しかし、東京という街は私には優しくない。履歴書の注意事項に軽度短期記憶障害という字を書いて出すと必ずと言っていいほど電話は返ってこなかった。
私は10度目の履歴書を送るときにはこの文字を書かず、綺麗な字で偽造履歴書をとある会社に郵送させてもらった。
見事、この履歴書で一発合格!受かったことに浮かれている私がいた。しかし、考えは甘くなかった。就職したのはいいものも、一年の雇用期間が過ぎる頃には戦力外通告を受けてしまった。理由は聞いていない。おそらく私は知らないところで私の不具合があったのだろう。
生活費に困っていた私は万を喫して居酒屋へのアルバイトをすることとなった。
居酒屋バイトとは良い噂は聞かない。
そのことはどこも一緒だが私が入ったところはすべてが最悪であった。
特に上下関係が最悪であったといっておく。
最初の一ヶ月はとても優しく仕事を教えてもらえた。
おそらくそれは作戦だったと今となっては分かる。
始めてから何日間はアルバイトにすぐ辞めてもらっては困るのだ。
それは人間関係で辞めさせられたと思われるリスクを少しは減らすためだと今更ながら思う。
話は戻るが、混む居酒屋というのは、朝から仕込みをしなければ夜の行列には立ち向かう事は出来ない。しかし、この朝の時間に夜のお客に出す野菜やら何までも準備する面倒さは到底計り知れない。
「仕込みぐらいとっととできるだろ!!」
剞む野菜を出したばかりでそんなことを言われたが、戸惑う暇さえない。
いつか軍隊物のアメリカ映画にありそうな1シーンにこの現場はよく似ている。
仕込みをする当番は私が知る限りいつもは3人のはずなのだが今日は一人足りない。私もホールの人間もその事について語ろうとしないし、そんなこと日常茶判事だ。
卸器に大根を呑呑と突っこみ卸していく。
大根が卸される速さは人によって違う。これは卸す人間が大根に対してどれだけ重力を掛けれるかによるというものだ。体が小柄な者に対して、それは大きなデメリットのある仕事内容だったといえる。何十本もの大根を捌いていくのにかかる時間は大柄の人間と比べてそうは変わらない。しかし、この現場の人間はそういう人の特徴的なものでさえ愚痴を言う心無い人がいた。出来ない、目立つ人間に対してはとても目を光らせ、嫌がらせこそを生き甲斐とし生きているかのようだ。
目をつけられた奴の退職率は120%。
それは店員だから出来る技であろう。
店員の目線からして使えない奴はゴミ以下、さらには使える奴でもムカつく対象は虐めの対象となりうる。理不尽としか言えないが、社会での上下関係には逆らうことはできない。
「お前、体小さくて他の人と出来る仕事量が違うのわかる?」
目をつけられた。
「その言い方はパラハラですよ?」
目をできるだけ合わさずにそう言い返した。
大柄なヒッター店員はタバコを吹かそうとしている手を止めて、いきなりの私の返しに返答できずに、出すに出せない手を押さえつけブツブツを聞こえない声で念仏を唱えている。
また、痛い目にあいたいのか…
いい度胸だな、コイツ…
もう分かっていたのだが、彼は敢えて私にこの仕事を振り分けている。私が目を付けられたのは、たぶん一ヶ月前のことだと思う。
いつも欠かさず付けている日記には『目を付けらてる。大原辰夫に気をつけろ』とシールで書かれていた。何故シールで書かれていたのかは私にも分からない。
とにかく、終わらない仕事を早く終わらせなければならない。もう分かっていたのだが、ヒッターの仕事は職場に顔を出し、タバコに火をつけることだ。いわゆる、仕事着に着替えて何もせず、眺めているだけということだ。毎度のことで誰も文句を言わない。
「文太?ちょっと話したいことがある。」
と私を呼んだのは、店長だった。
「文太最近仕事を自分の適量以上させられないか?」
私はこの店に紹介を通じて雇わせてもらった身である。最近のことを覚えていない私だが一ヶ月も続いた過酷の労働により焼き付いた体はこの全貌を明かすには容易いものだった。
「適量だとは分かりませんが、今日は人が一人足りなかったので千切り以外の仕事は全てやりました。あと、すみません。。顎がちょっと上がらなくて話しづらくて、会話がうまくとれないで迷惑を掛けてしまっているかもしれないです。」
「そうか。。」
店長は理由を知っているようだったが、戸惑いを隠せない状態でいた。
「一週間ぐらい前のこと、覚えているか?」
咄嗟にメモを見ようとした私は流石にコレは普通の行動ではないと感じて一度当てはした手を止めた。、
「仕事内容ですか?」こんな返答しかできなかった。
キッチンの人が足りないから文太を呼んで欲しいと社員の一人がここまで話をしに来たが、店長は「文太は今日は是迄」と踏ん切りをつけたかのような大きな声で言った。
確かにあの格好はキッチンを業する者の格好をしていたが、今さっき仕事に入ったのか。それにしても、次のシフトまではまだ一時間以上の時間があるのに大した奴だなと私は店長の口蹄に甘んじて、先にアガることになった。
※
羽の初列風切の部分からちょっとが黒の羽を持った文鳥を飼っている。
チェッ
舌打ちのような鳴き声だ。ジメジメとした部屋に文句を言いたげな眼つきでこちらをみている。あんたが1番窓際の日の当たる場所にいるんだ。餌を変えてやるから我慢してくれ文子。
ほぼ日の当たらない1ルームマンション2階。
『本日、バックを職場に忘れる 16日』
私にも分かるがこの部屋の昨日と今日の違いは出口扉の目の届きやすい場所に張り付いてある祇くらいだ。
この財布だけを持ち何度も繰り返された一日を繰り返すのか思い、階段を一歩ずつ降りていく。体が今日も痛い。
筋肉痛とは違う痛みも多々あったが、今は急いで職場へと走り込んだ。職場に着くと丁寧にも私のバックはスタッフルームの店長の机に置いてある。きっと店長が昨日のうちに気づいておいてくれたんだと思い私はバックの中身を確認したその時だった。
「無い。。」
私が使っていたメモ帳があるはずのバックから消えていた。
これがないと仕事ができないワケではない。しかし、これが無いと私は変な人間と化す。キッチンでの仕事内容は曜日、時間、季節によって特に変わりやすい。もし、昨日新人が入っていたら私は彼の名前を覚えていない。心配と不安で息が喉を通さない。
頭に嫌な予感がよぎる。
私は部屋の隅々、知らない人のロッカーから机の奥まで必死になって探した。ロッカーの上を確認しようとして椅子の上に立ったとき、左端の一番奥のロッカーの上に赤茶色をした障害者手帳があるのが分かった。
ヤラれた。。
きっとヒッターのせいだ。見つけた時には断続した呼吸のせいで過呼吸を起こしていた。気持ち悪くなり咄嗟にゴミ箱に手をやると、その中に私の字らしい紙がくちゃくちゃに丸められて捨てられていた。
店の人間の価値が私の中で底辺を着いた。
「ちくしょう。。ちくしょう。」
潰れそうな声を出して言ってみた。言ったからって気が収まるわけでも無い。繰り返していう事により忘れないようにしているのだ。
私の脳天は青ざめて何も感じないでいる。体が動かなくなったのはこれで何回目だろうか。
「あ、。」
ゴミ箱の把手から手を滑らせて、地面に急降下しゴミ箱に顔を埋めた。空気が飛び出すボンって音が狭い部屋に拡散する。倒れた衝撃により、私は過去の違う記憶を思い出すことができた。
何日前までかは思い出せないが、この痛みが未だに存在するということはつい最近の事といえる。私は2,3人の男にリンチにあったのだ。どうにも体が動かない訳だ。倒れた勢いでゴミ箱に入っていた私の手帳の欠片が其処らじゅうに拡散された。バイトを始めて約半年の記憶が無残にもただの紙屑となった。
その時、ロッカールームの方へと足音が聞こえた。かなりの震えを押さえつけようと、体を持ち上げようとしてもゴミ箱に嵌った体を持ち上げようとする気力さえ残されていなかった。これがきっとベジータにヤられかけて動けなくなった悟空の気分だなとクダラナイことを考える余裕さえあったが今すぐ立つ気力はなかった。
「大丈夫か?」
。。。
その声は店長だった。
「ごめんなさい」
店長は私の元へ寄ってきて、何枚かゴミを拾う姿勢をとった。
「文太のか?」
「はい。」と簡潔にかえした。
がさっと顔を持ち上げて足元は店長の机へ向かう。
酸欠でふらふらしているが、ゴミ箱のなま臭い匂いで多少目が覚めている。
「もう、辞めますわ」
私の二言目はこれだった。
店長は私の手に持った『人間ではない証明書』を何かを分からず、じらじら見ていた。また、動揺で何も声には出せない様子。
出口に出ようとした時にヒッターこと大原が私を見つけたが、唖然とした顔で私をみて何も言わない。
鏡の前を通ったとき、私の目は赤く腫れ上がり、ほっぺの目の下あたりが捲れてゾンビのような顔になっていた。きっと涙で目が赤くなり、ゴミ箱に顔を突っ込んだ時にプラスチックか何かで頬を切ったのだろう。
仕事を休むことにとても後悔したが、手帳を見られた限りこの場所には居られない気がした。
『帰りに絆創膏を買わなきゃと…』
正直、この一言は今の自分の弱さを隠そうとする一言と分かりながらも、今の自分にはそう言わざる終えなかった。
あともう少しで、私は普通の人間として生きられた
何故かこう思えてしまう自分が面白く滑稽で愚かで、客観視することでしか耐えられない自分を見て妙に不甲斐なさでいっぱいだ。
私は障害者。明日には障害者手帳の噂はきっと全員に広がるだろう。
あぁ…でも、辞めたから関係ないか。
※
一年前、おばあちゃんとの最期の時を思い出していた。いつかは忘れたが、お婆ちゃんは一匹の文鳥を買ってきた。
「文太、コイツの世話はあんたがしてください。」
「え。。」
藁の丸い籠のような物からピュルルルーというような笛の狂ったような音が響き渡る。私がこの藁のふたを開けると、この中には小さな雛鳥が入っていた。触りたかったが、恐竜のような刺とあまりに貧弱そうな体に私は戸惑った。
「この紙をよく読むんだよ」
と手渡された紙には、『朝昼晩、粟を茹でたやらかい餌を与える。あまりしつこいシキンシップはダメ』と書いてある。何のために買ってきたかは理解不能だ。
「よくわからないけど、分かった」
高校3年生の卒業前の2月、私はお婆ちゃんの住んでいる神奈川県鎌倉市にいた。お婆ちゃんは一人、この古いオンボロの一軒家に住んでいる。母から聞いた話だと、離婚して以来ここにずっと住んでいるらしい。
爺ちゃんの行方は誰も知らなかった。離婚の理由に興味は無いが、親戚も殆どが遠方のために私の叔父の瑛太さんぐらいしか此処には顔を見せない。私もきたのは久しぶりだ。
昔もよく母と一緒に来ていたのだが、年をとるに連れて何年に一度というペースになってしまった。遠くに行くよりもテレビゲームや勉強をすることのほうが多くなったのが一番の要因。
何故久しぶりに来たかというと、末期医療で死にゆくお婆ちゃんの様子を誰も見送れないのは、親からしても心休めないからと言っておこう。
といっても、心配していたよりもお婆ちゃんは元気であった。
死にそうだというのに歩いて買い物は行くわ、パチンコ打ってビール持ってくるわ、知らない婆ちゃん友達たちと海岸を歩きながら貝殻を拾っているわ。終いには文鳥を飼う始末だ。
しかし、家に帰ると体調の悪いふりをして私に家事、洗濯、庭の手入れなどほとんどの仕事を私にやらせた。本人はというと、窓辺のアンティークな藁の椅子に座って本を読んでいるか、庭の手入れをする私を見ている、たまに指示をするだ。死が近づいているのも確かだったが、婆ちゃんは末期医療で死ぬことを選んでいた。
治療をするようにと訪ねたとき「人は何時か死ぬことは決まっているだから、私はもういいんです。」と言われた。
それっきり、このような話は一切しないうちに婆ちゃんは息を引き取った。
死んだのは文鳥が少し大きくなり飛べるようになった3月の話だ。
本当、人が死ぬときは一瞬と知らされた。私が庭の種植えを終え、庭から見えるお婆ちゃんに声をかけたときには膝に小さすぎる鳥かごを抱え文鳥を見るように前屈みになって、そのまま目を瞑っていた。没後と知ったのは、夕食の買い物に行かなかいことが可笑しいと声を掛けた時。
そのあとの葬式で、この家は売りたくないという叔父の訴えでこの家は叔父のモノになった。私は卓袱台の裏に貼ってあった遺言から『文田のバイト代は文鳥』という紙通りに文鳥を引き取った。そのまま東京へと逃げるように出稼ぎにでた。そして今、一年足らずで、最初の職場をクビとなった。万を期して働いていた居酒屋バイトも今日をもって退職。
私は人間じゃないのだ。
そんな念慮が私に降りかかる。私は私以上にはなれないことを知っていた。そう、バイトで書いてある『健康な方』というのは全てで私たちのような人間を省く言葉。
生まれてこの方、一度も私の中の健康という言葉は存在しない。健康人の見方はそんなもんだ。
何故今、お婆ちゃんを思い出したかは分からない。しかし、とてもお婆ちゃんに会いたい。私はこれから先どうやって生きていけば良いのだろうか分からなくなった。
たどり着いた部屋には、お婆ちゃんがくれた文鳥が鉄の籠の中で跳ね回っている。
どうして文鳥を買ってくれたかなんてどうでもいい。
障害があっても、なくてもこの人だけは私のこの部分を贔屓しないで接してくれた気がする。認められたいワケじゃない。
ただ、普通に生きて死んでいきたいだけです。
それは私が婆ちゃんに何故末期医療を受けないのか訪ねた時に返ってきた返事とどこか理由が似ている気がした。
部屋に入り風呂の中で泣いたあと、『がんばれ…がんばれ…』なんていってみたりする。
そうやって、もうひとりの自分に助けてもらうしか、他に応援してくれる相手はいないと思っていた。
※
チェっという声で目覚めた時、私は昨日文子の餌を取り替えるのを忘れて知ったのではないかと急いで取替えようとする。
ドアの掲示板には『仕事辞めた。』と書いてある。
正直、ここまで印象的な出来事を忘れるほど私の障害は悪くないことを読者には分かってもらいたい。
しかし、携帯電話を確認すると電話の着信が約20件ほど溜まっているのがわかった。
そのうち3件ほど留守番電話だ。
時計の針は1時を指しており、外のあまり届かない明かりから私はバイトに間に合わないことを察していた。
だからと言ってもうこのバイトに行く気など断然ない。
ましては電話をするもんか!
しかし、留守番電話を通話には興味があった。
どんなこの人が怒っていたとしても、それを聞いたか、聞いてないかは相手には分からないのだ。
一種の覗きのような快感で私は私宛のメッセージを聞くのだ。
留守っ番電話が…三軒…お僅かりしている最初メッセージです…
前から思っていたが、なぜ留守番電話の再生をするのにこんなに時間がかかるのか不明である。イライラしながらも留守番電話お姉さんは通話を奪いながら実に遅く曜日を読み上げていく。
ピー
『俺のせいになるから早く来い。』プツ‥ピー
何ともバカらしい絵に書いたような阿呆の顔が目に浮かぶ…
きっと電話で謝るように店長が施したのではないだろうか?
二軒目…新しいメッセージです…1月…10日…
とにかく遅い!
ピー
『ワ●ミの店長です。ほかの店員から昨日の話は聞きました。文太があぁだったとしても、それに対する仕事に支障はなかったと思う。やめるにしても、もう一度話をしてもらえないだろうか?連絡待ってます。』
やめる瞬間に優しくなる店長はこの世の中にはたくさんいる。
それは恰も円満でやめた雰囲気を醸し出すためだ。
高校時代に働いていた店長はほぼこれだったが、ここの店長はそういう人では無いと今までの行いがあらわしている。
珍しい人間だと思う。
三軒目は…とどうせまた、違う店員かなと思いながらも聞いてみた。
『叔父の です。』
へ?と思わず声が漏れる。
前文にも書いたが、叔父は鎌倉でお婆ちゃんの看護?をしている時にたまに私たちに顔を見せていた。
叔父は母方の3人兄弟の長男で唯一鎌倉付近に住んでいる。
近くといっても静岡の鶴屋駅のほうなのだが、親戚の中で一番近い。
『今仕事中でしたら、夜中に連絡してくれ。私はいつでもウェルカムです!』
こういう話し方は私が小学生に入る前から変わっていない。
高校生に上がる寸前まで、私と年が近い親戚だと思い、叔父が母と兄弟であることを疑っていたぐらいだ。
それぐらい彼には威厳がなく、歳が相応のように接してくれていた。
ふと我に返る。着信履歴には知らない着信が1件、おそらくこれが叔父の電話番号だろう。
着信比率で言うと、叔父1件、店長3件、ヒッター16件だ。
この時間はおじが仕事していると知っている私は、今現在迷惑をかけているだろう元職場の居酒屋に電話をすることにする。
本当なら電話もしたくない。
しかし、最低限の社会人としてのマナーだけは通したいと理性が働く。
誰か代わりにやってくれと逃走心満々で、携帯電話を手に持った。
嫌、無理、心の整理ができんわい。
何か飲み物を飲んでから電話しなおそうと、小さい冷蔵庫から飲み物を取り出した。
30分が経過した。
私は冷蔵庫の清涼飲料水だけで留まることができず、ポットで温めておいた水をお茶っぱに掛けてもう何杯ものお茶を飲んでいる。
その間、どのように対応しようかなど様々な言い訳を考えた。
考えたことを紙にまとめた結果、とにかく辞めたい、それ以上店に行くつもりはない。ということを簡潔に話すことに合意。
避けていた30分の成果を今こそ店長に話すべく携帯に手をかけた。
ボタンを押し電話をかける。
かけてから5秒ほどで店長に繋がった。
「あ…もしもしー、文太です。はな…はなさいことガガってシマシタ。ハイデン 以下略」
紙にまとめたはずの言葉は話すうちに変化に退化を進め、終いには私でさえ何を言いたいか不明であった。
内容は想像に任せてもらいたい。
とにかく、簡潔に言うと仕事辞めたい、もう行かない、来ないでだ。
本当にこういう電話は苦手だ。
しかし店長はこの有様な暗号に対して「わかった。店では無くほかの場所なら話せないか?」と言う。
そんな返答が来るとは思わなかった。
焦るに焦って、その返答にYESをしてしまったのは言うまでもない。
電話を切り終わったあと、少し後悔をした。
だが、けじめと思い、我慢はしよう。
これで最後だ!ファイナルフラッシュ!
意味がわからなかった。
わかる人はそれはそれでいいや。
正直、冷静を保っていても電話を鳴らした瞬間からのあのプレッシャーは生半端ではない。
店長との約束の時間には随分あった。
かけ直して断るわけにも行かず、私は呆然としたが、身支度、着替えをする準備に取り掛かった。
※
『夕方四時に職場近くのスタバックス』と紙には書いてある。
紙通り間に合う時間に私は家から出た。
行ってきます。と目つきの悪い文子に声をかける。
シカトだ。
もう慣れたわあい!
外は雨が降っていて、体に繋がれた傘を天にさす
今日は久しぶりに音楽を聴きながら、街を歩く余裕があった。
いつもはギリギリに出ていくため、聞く暇さえない。
けじめをつけにいくとか、必殺仕事のきぶんだな。
こんな晴らせぬ恨みでもないし、人を殺すわけでもない。
唯一死ぬのは私の財布だ。
自分を殺してどうするんだよ。
しかし、そのままじゃ空腹の前に自分を殺す羽目になるのも確かだ。
そして、今聞いている曲はクリスタルキングの『愛をとりもどせ』だ。
小話をするが、あの歌詞はyou are shokではない。You は ショックである。なんてダサい。そして、この曲は今私に向けられて流れている。
Youはっショック!
妙にムカつく曲だ。
旅立ったのは確かだが、そのせいで明日を失ったなんてことは無い。
いや、明日が見えないのも確か。。
なんて、思っているうちにスタバについて中に入った。
店に入るとアメリカンのミディアムを頼み席に着いた。
そこには店長の他にヒッターの大原がいる。
何を言ったかは分からないが、最初に店長が謝り、そのあとヒッターが謝った。
すまなかった。このようになって反省している。気づけないですまない。というような言葉が綴られていたが、今一私はどのような態度をとればいいのかわからないでいた。
その後、店長が話を仕切り、私の居酒屋のバイトは本当の終わりを告げた。
ヒッターは今までサボっていた給料を減給され、その幾らかの額を私の顎の治療費にすることになり俯いていた。
しかし、私はこれを断り、今までしたことされたことを言葉上和解し、即座にこの場から離れた。