ファフナ魔術学院
ファフナ魔術学院
私達が現在いるトールカ国の建国当時から存在する歴史ある学院で、ウサちゃんの所属している学院でもあります。
名称こそ“魔術”学院と言いますが、学院で教わることができるものは多岐に渡り、魔法と聞いて一般に思い浮かべるような火や水を生み出す基礎魔術、ウサちゃんの研究している古代魔術、自然界に存在する精霊や動物、魔獣といった特殊な獣を使役する使役術、ウサちゃんの部屋にあった魔法器のように魔術が込められた道具を生み出す魔器術などといった魔法的な技術・学問だけでなく、冒険者や騎士などのための冒険術や剣術、商人のための算術など様々な分野についての授業が行われているそうです。
この中でも特に算術や冒険術、剣術などについては国が奨励しているらしく、補助金が出されているおかげで一般市民でも簡単に学ぶことができ、それが国力の増強につながっている――と学院の行く途中でウサちゃんから教えてもらいました。
妖精さんことリンドさんのお店を出た後、一旦ウサちゃんの家に帰った私達は召喚に使った資料や肝心の召喚物―私の丼―を持って学院に向かいました。
もちろん手をつないで仲良し子良しです。年齢相応…よりもだいぶ小柄な私と全体的にちまっとしたウサちゃんがとてとてと仲良く歩いて行くのを道行く人々が微笑まし気に見ていますがウサちゃんは気づいていないようです。
そんなこんなで道行く人々を微笑ましい気持ちにさせながらしばらく歩いているとやがて大きな建物が見えてきました。
「これは…とても綺麗ですね」
「どうですか?こんなに綺麗で大きな建物は王宮以外にはほとんど無いんですよ」
ウサちゃんが少し自慢気に教えてくれます。どやっと胸を張るうさちゃんは本当に可愛いですね。
学院入り口である大きな門に備え付けられている学院の看取り図によると、学院は円筒形の塔を中心にして、その周囲を建物がドーナツ状に囲んでいる造りになっているようです。ちょうどポン・○・リングの中心の穴に塔を、周りの○の部分に建物を並べていった感じでしょうか。
中心の塔はほんのりと青みがかった白い金属のようなものでできており、その高さは目測で100mほどはありそうです。
不思議な質感の材質でできた塔は遠目にも美しく、高さと相まって光の柱のようです。
なんでも中心の塔には学院の各種施設の他、学院所属の学生や学者の研究室や実験場が。周囲の建物には各学科の授業が行われる講堂や学生のための寮などがあるそうです。
また私達のいる学院の正面からは見えませんが、敷地内には魔術科や剣術科、冒険科の学生達が訓練を行うための広い訓練場なども存在するとか。
「学院の中は広いし危険な場所も多いので私から離れないで下さいね。…本当に離れないで下さいね小鳥ちゃん」
ウサちゃんが私の手をぎゅっと握りながら注意してきました。え、私ってそんなに危なっかしい娘だと思われてますか?
まぁ、うさちゃんの家を出て以降道を行き交う種々様々な獣っ娘や私の世界では二次元にしか存在していないであろう髪色の人々に目を奪われる度にキョロキョロフラフラして、慌てたうさちゃんに手を引っ張られることが3、4、5、6…21回ほど有りましたが…。
「あ…あとたまに使役術科の人が連れている動物や魔獣が学院の中をうろついてることがあるんですけど、人には手を出さないように躾られているのでこちらから手を出さない限りは大丈夫です。魔獣といっても可愛い子も多いんですよ。後で見せてもらいに行きますか?」
精霊や動物、魔獣を使役・調教する使役術科…ふかふかもふもふした生き物がウサちゃんと戯れている絵を想像して思わず頬が緩んでしまいます。
「それは良いですね、たくさんもふもふしましょう。ウサちゃんを」
「はい!……え、あれ?!」
戸惑うウサちゃんの手を引いてそのまま中心の塔へと歩を進めます。
目指すは塔の最上階。学院長の部屋です。
◇◆◇
塔の中に入った私の目にまず入ってきたものは、塔の中心からおそらく最上階まで続いている吹き抜けでした。
各階から別の階へと移動しようとする人達は基本的にこの吹き抜けを利用して魔法で移動しているそうです。
当然階段も備え付けられていますが、ほとんどの学生や研究員は初歩的な浮遊魔法・飛行魔法を習得しているため利用者は少いとか。
「最上階まで一気に飛ぶので私にしっかりと捕まっていて下さいね、小鳥ちゃん」
そして当然初歩だろうがなんだろうが魔法なんて使えない私はウサちゃんに運んでもらうことになります。
「はい、絶対に離しません」
「……あ、あの、もうちょっと下に!下に捕まって下さい!そこだと私のむ、胸にっひゃあ!ぃ、息がっ」
ウサちゃんの控えめな胸部に顔を押し付けてすーはーすーはーと息を荒げると、なんだかウサちゃんがエロい。やだ興奮しちゃう。
「ア、アエイオールさん?!何をしてらっしゃいますの!?」
「ひ、ひゃい!え、ぁ…シャロナさ…あひゃっ?!…こ、小鳥ちゃんそこだめ、えちょ徐々に下に行かないで下さぁい!?」
私がうさちゃんのお腹に顔を押し付けてすーはーすーはーしていると、うさちゃんの後ろから誰かの悲鳴じみた声が聞こえてきました。すーはーすーはー。
「あの…アエイオールさん?先程からあなたの腹部で息を荒げている変た…いえ、そのお方は一体…?」
「私の名前は葉羽小鳥といいます。どうぞ気軽に小鳥ちゃんと呼んで下さい」
「きゃあ!?」
どうやら私に話題がいったようなので、うさちゃんの控えめな胸部からぷにぷにした腹部にかけてをすーはーすーはーするお仕事を止めて挨拶をすると驚かれてしまいました。
うさちゃんの腰に抱きついまま横から顔を出してみると、イチャイチャしていた私達に声をかけてきた人物は女性…それもどうやら学院の生徒のようでした。
肩口で切り揃えられた綺麗な金髪と、その髪と同色の瞳。金髪金瞳の大変華やかな少女です。年は私の同い年くらい…といっても年齢の割りに小柄な私とは異なり、18歳相応の外見ですが。背とか。胸とか。くそぅ。
「はぁ……小鳥…さん?ですか。こちらではあまり聞かれないお名前ですが、アエイオールさんのお身内の方でしょうか?あ、名前も名乗らずに失礼致しました。私、シャロナ=メナリスと申します。この学院の生徒の代表となる学生長を務めておりますわ」
自己紹介を終えてぺこりとこちらに頭を下げるシャロナさん。どうやら私の世界でいう生徒会長のようなものをしているようですね。これは後から聞いたことですが、生徒の代表である学生長と学院の教師や研究員の代表である学院長によってこの学院は運営されているそうです。
「えと、シャロナさん。小鳥ちゃんは……ちょっと事情があって私のお家で暮らすことになって――」
「うさちゃんは私のご主人様です。ただいま同棲中です」
「「えっ」」
うさちゃんは私がこの世界にいる間の雇用主ですからご主人様で間違いありませんし、一緒の家に棲むのですから同棲で間違いありません。うん問題はありませんね。
「え、あの、えぇ…?」
「こ、これから学院長に会いに行かなければいけないのでこれで失礼します!」
うさちゃんは短く呪文らしきものを唱えると、ずっとうさちゃんに抱きついたままだった私を連れて勢い良く浮き上がります。口をぽかんと開けて固まるシャロナさんを置き去りにしてしまいましたが良かったのでしょうか?
何はともあれ今度こそいざ学院長室へ。
おおよその世界観説明と主な登場人物は次話で出揃う…かな?
次話はできるだけ早く投稿できるように頑張ります