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ヴィクターとヘンリー、そしてペップスによる魂の契約の魔術式確立に向けた研究は、日に日に形になっていった。
『その直感というのはどういう物か、もう少し具体的に言えないのか』
『んーだから、なんかこう。ペップスの魂が目に入った時にピカーン!って光ったつーか。これだ!ってかんじ』
『バァァァ!』
『……全く理解できない』
ペップスが、そうだ!と言わんばかりに鳴き声をあげた。
感覚派のヘンリーの感じたことを伝えるのが一番難航し、ストレスになって何度か爆発しかけたヴィクターだったが、背に腹はかえられない。
ヴィクターは、あながち彼のいう“直感”がパートナーとなる精霊を決める上で、一番大事な事なのではないかと感じていた。
実際に一ヶ月もすれば、ペップスはヘンリーの指示を8割は理解するようになっていた。
複雑なニュアンスを含む指示や言葉の理解は難しそうだったが、ヘンリー自体がシンプルな考えの持ち主だったためか、ペップスとの相性はとても良かった。
この意思疎通がより太く繋がることで、魔力の通りも良くなり連携が上手くいくとヴィクターは考えていた。
……同時に、自分に相性のいい精霊の魂を選べるかが、騎士としての素質なのだろう、とも感じていた。
かなり根を詰めて研究室で魔術の構築をするヴィクターに、ヘンリーは少し心配になっていた。
早く作れと急かしたのは自分なのに、寝食を疎かにするヴィクターに焦っていた。
『おい、ヴィクター。何も三日も徹夜してくれ、なんて言ってないだろ』
『ヘンリーか。仮眠はとっている。……それより、ここの魔術式がどうしても重なりが悪くて、魔法陣が作動しないんだ。……いや、ここはもしかしたら』
『あーほら、分かったって。取り敢えず食堂行くぞ、な?』
目の下のクマはくっきりとしているのに、瞳はギラギラと魔法陣を書いたメモから、一切目を離さないヴィクター。
彼が暴走していることに気付いたヘンリーは、首根っこを掴んで研究室から連れ出し、定期的に無理やり食事や休息を取らせる羽目になった。
***
ヴィクターが育成学校最後の年の春。
満を持して、幾重にも重ねられた複雑な魔法陣を床に刻み込んだ。
ヘンリーとペップスも期待に満ち溢れていた。
『光魔法で繋がった使い魔との“絆”に、闇魔術を上掛けし“魂の契約”を行う。内容は出来るだけシンプルかつ、契約を結ぶ魂が拒絶しないことが理想だ』
『ああ、わかってる。もう決めてるよ』
ぶわっとヘンリーが魔力を練り上げ、魔法陣に力を込めていく。
相対するペップスは、どこか嬉しそうに体を揺らしている。
『改めて、お前の名前は【ペップス】。俺と一緒に【自由に空を飛び回ろう】』
『バアアアア!』
闇魔術の黒いモヤの鎖が、ペップスとヘンリーを繋ぐように伸びて、がっちりと結びついた。
まるで今まで窓越しに会話していたようなペップスとの隔たりが、パリンと割れたように感じたヘンリー。
ペップスもご機嫌で頭をヘンリーに擦り寄せている。
『……上手く契約が終わったようだが。お前ペンギンで空を飛ぶつもりか?』
『ああ!ヴィクター知らないのか?ペンギンは飛ぶように泳ぐんだぞ!』
ヴィクターの確立した闇の魔術式“魂の契約”は、ヘンリーとペップスの風魔法の威力を格段に跳ね上げた。
ヘンリーがペップスに魔力を通すまでもなく直接通るような即レスさ。
戦闘時の意思疎通のレベルが脳を直結するような感覚になり、攻撃魔法発動だけでなく全てにおいて、ペアコントロール能力が飛躍していた。
ヴィクターが国に正式に提出し、新しい魔術式として運用されると、卒業するまでの間に使用した国の騎士たち、ほぼ全ての能力を劇的に向上させた。
もともと精霊との相性が悪い者や契約内容を欲張った物には成果は芳しくなかった。
結果として、騎士として素質のあるもの達の能力の向上に著しく貢献したヴィクターは、卒業と同時に国の軍事力を向上させたとして、一代限りの伯爵位が与えられた。
ヘンリーはその後も、手にした高い能力に甘んじることなく鍛練に勤しみ、騎士育成コースの学年首席の成績で騎士団に入隊した。
新人戦にて、ペップスの轟速飛行とヘンリーの風魔法を駆使して、難攻不落だった敵国の要塞を攻め落とすという戦果を得ていた。
ーーヘンリーとペップスは、“轟速の誘導弾”という異名を付けられることとなった。
***
二人の学生時代と経歴を全て聞き終えたベルフェリアは、驚きで開いた口を手で隠す。
ニコニコと明るく笑うヘンリーが、熱い情熱と野望を持ち、実際にやり遂げる能力を兼ね備えていることに驚いていた。
……めちゃくちゃ、すごい人なんじゃん。ヘンリーさん。
「今では確か出世されて、騎士団の一つを任される隊長のはずです」
「……はぇぇ、すごい方なんですね」
「この屋敷にいる時は、ただのお酒好きの声のでかい客人ですわ」
メアリーがアイゴールの話を聞きつつも、ヘンリーに対して辛辣な見解を述べる。
「そうですとも、お客様には変わりません。
しっかりおもてなしをしなければ!……ジャスティン、ペップスさんのお世話は任せましたよ。気にいられてますからね」
「ひぇぇぇ、そんなぁ!どうしていつも私ばかり追いかけられるんですかぁぁぁぁ」
「逃げるから面白いんでしょう。気持ちは分かりますわ」
「ふふ、お手伝いしますよ。ジャスティンさん」
ベルフェリアは、使用人達がキャッキャと楽しむ姿を見て、笑みを浮かべた。
ヴィクターとヘンリーの馴れ初め話を聞いて、楽しくなっていた。
……学生生活の中で夢を叶えるなんて、二人ともすごいし青春のいい話だったなぁ。
それと同時に、ヴィクターのことがもっと知りたい気持ちになっていた。
***
一方その頃。
バシャンと音を立てて、ペップスが広い内湯の中をスイスイ泳ぐ。
ーカポーンー
体をざっと洗って木桶を置くと、風情のある音が響き渡った。
ヴィクターとヘンリーは、過去の話をされているなど知らずに、温泉をゆっくり堪能していた。
「ふぅん、ベルは異世界出身?の魂ってことか。見つけるの大変だったんじゃないか?」
「……魔力はかなり消費はした。それでもお前の言う“ビビッと”来る相手を選びたかったんだ」
「お、直感がついにお前にもわかる日が来たか」
ヘンリーがしみじみとした表情をするのを見て、ヴィクターはふっと口角を上げる。
彼から、血液の提供だけでない助力を得ていたことに気づいていた。
ヴィクターはヘンリーの人生における価値観を、良い形で影響を受けていた。
「なー、ヴィクター!俺ん家にも温泉掘ってくれよ〜」
「……嫌だが?」
「ちぇー!ま、入りたくなったら遊びに来ればいいか」
頭では理解していても、それはそれで面倒臭いという顔を隠さないヴィクターだった。
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