第5話 (エドワードSide) アメリアと言う女性②
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アメリア・ダグリスト。
彼女の名は、この辺境の地でも【調香師】として知られている。
むしろ、調香師であれば、一度は耳にしたことがあるだろう。
『あの気難しいことで有名なマーヤ公爵夫人のお気に入り』と名高い彼女。
まさか〝自分から〟このエルメンテス領に来るとは思ってもみなかったが、ふたを開けてみれば、どうやら父親の差し金だったという。
――しかし、父親も軽率なことをしたものだ。
マーヤ公爵夫人のお気に入りである彼女を手放して、得することなどあるはずがない。
香りと調香において最大の発言力を持つあの公爵夫人。
彼女の残された家族が、同等のレベルの調香師と言うのなら問題はないだろう。
だがもし――それ以下の酷い調香師だったら?
ダグリスト家は、社交界から退けられるかもしれない。
もちろん、アメリアが戻ってくるまでのことだが。
厄介ごとに巻き込まれるのはご免だが、今回の件は彼女の父親の一存で決まったのだろう。
普通の令嬢なら、こんな辺境の土地に飛ばされる等……涙に暮れるのが関の山だ。
それでも彼女は、気高く、真っ直ぐに自分の足で立っていた。
「……あんな風に、立っていられるものなんだな」
堂々としていて、何者にも穢されないその気高さに、胸が震えたのは言うまでもない。
彼女は強い――そう感じると同時に、その強さの源を知りたいとさえ思った。
気の強そうな赤い炎のような瞳。
漆黒の闇をあらわすような美しく真っ直ぐな髪。
唇は魅力的な色合いをしていて、まさに静かなる炎の女神のような人だった。
その彼女がくじけるところを見る事になるかも知れない……。
その時は、彼女を支えてあげられれば……とは思う。
この毒霧の街では特殊だから……。
発生源は今は伝えることが出来ない。
伝えれば根本的な解決をしてくれそうではあるが、今はこのエルメンテスの過去に起きたあらゆる悲劇を隠さねならない。
本当に彼女が信用に値すると感じれば、その成果を出せば――その時は話そう。
しかし――。
「彼女の残り香……これは【雨香】か?」
「エドワード様、女性の残り香を嗅ぐ等……褒められたことではありませんよ」
「仕方ないだろう。とても懐かしい香りなんだ……。雨の匂い……懐かしい。母の部屋にも、似た香りがあった気がするな」
『彼女の作る香りが、誰かの記憶と静かに重なる』。
それが彼女の持つ調香の強さだと、以前マーヤ公爵夫人は言っていた。
それと同時に、彼女の纏う香りは別の意味を持つような気がしたんだ。
アメリアの持つ調香の強さ、だがそれと同時に俺は彼女の残り香に安堵すると同時に、気付いたことがあった。
「この香り……心を守る香りなんだな。彼女の香りは、武器でも装飾でもない。たぶん――盾だ」
強い言動。
実際、彼女は本当に強いのかもしれない。
だが、その強さの裏には、香りという盾で、自分や誰かを守ろうとする意思がある。
そんな調香師……聞いたことがない。
彼女の芯の強さに何故か惹かれながらも、今は何をするわけでもなく見守るのみ……。
自分でも、気の強い女性で、会ったばかりのアメリアに惹かれるなんて可笑しいとは思ったが、案外こういう想いと言うのは突然始まるのかも知れないな。
◆◆◆
それから一週間ほど過ぎた頃、部下から報告があがった。
「例の〝香の令嬢〟が、街で調香店を始めたようです」
部下は淡々と彼女の報告を常にしてくれる。
この一週間毎日だ。
そんなに俺が気にしているように見えるのだろうか……気をつけてはいるんだが。
「そうか。出来れば見守ってやってくれ。無理はしても限界は超えるなと。……そう誰かが傍で言ってやってほしい」
「恐れながら、それはエドワード様のお役目かと」
「俺の?」
「ええ。タウンハウスの持ち主は、どなたでしたか?」
部下の意地悪な質問に苦笑いし「確かに、俺が言うべきだな」と椅子から立ち上がり出かける準備を始める。
店がオープンしたのなら、一度顔を見せに言って挨拶くらいはしていいだろう。
今は急ぎの仕事もない訳だしな。
「そんなにお急ぎでなくとも、かのご令嬢は逃げませんよ」
「……急いでいるわけでは」
「でも、早くお会いしたい気持ちはご理解しておりますので。屋敷の前に馬車は既に待機しております」
「君たちのほうが気が急いているのではないか?」
「ふふ、我が領主にも、ようやく……と思うと、一同力が入るものです」
思わずそんな事を言われて頬が赤くなりそうだったが、そんなに露骨にアメリアの事を頻繁に口にしていただろうか……?
少し、自制しなければいけないな。
「兎に角、礼だけは伝えよう。直ぐに馬車に乗る。街のタウンハウスへ」
「かしこまりました」
身支度を整えると俺は早足で屋敷を移動して馬車に乗る。
かの〝香りの令嬢〟アメリアに会う為に。
「君の今日纏う香りは……どんな香りかな?」




