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香りひとつで世界は変わる ―追放された令嬢は辺境で『調香の奇跡』を起こす―  作者: 寿明結未(ことぶき・あゆみ)


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第4話 (エドワードSide) アメリアと言う女性①

 数週間程前、毒霧で苦しむ人々のために【調香師】を募集した。

 毎回長続きしない【調香師】を募集するのは気が引けたが、それでもわが領にいてもらわね毒霧には対抗できない。

 どの調香師たちも、毒霧の前では無力だったようで、彼らは去っていった。

 そして今回出した調香師募集に、何故か〝彼女〟が。

 不思議に思ったが、これもひとつの経験の為なのだろうかと思いつつ採用した。



「こんな僻地に来るなんて……よほど、理由があるんだろうな」



 アメリア・ダグリスト。

 かの公爵夫人お気に入りの、腕のあるダグトリス家の――。

 そんな彼女が来るのだから、前もってタウンハウスは掃除をしておいた。

 前任者がそのまま放置していった商品棚も片づけ、すぐ住めるように掃除を済ませておいたのだ。


 芯の強さを秘めた女性。その佇まいからは、ただ者ではない気迫が感じられる。

 これまでの調香師たちとは明らかに違う。そう思わずにはいられなかった。



「ようこそ。長旅、お疲れだったでしょう」



 わずかに揺れた彼女の眼差しに気づいたが、あえて触れず、静かに椅子をすすめる。

 アメリアは簡潔な挨拶を交わすと、すぐさま現状の確認に入った。



「ご挨拶のすぐで申し訳ないけれど、休むより、状況を聞かせてほしいわ」

「わかりました。現在このエルメンテス地方の特に首都である街には、【毒霧】に悩まされて百年が経っています。毒霧の所為で体調を崩すものも多く、特に最近は毒霧の濃度が高いのか、体調を崩す街の人々が多いのです。彼らの体調を調香で治しつつ、出来ればでいいので、街の浄化にもあたっって欲しい」

「ええ、この街に着いたとき、空気に微量の毒を感じたわ。なるほど、長く住めば蓄積もするでしょうし、未成熟な子どもには負担が大きいでしょうね」



 そこまで既に知っていたのかと驚きを隠せなかったが、彼女は気にすることなく言葉を紡いだ。



「調香師として、調香でやれることは全てやるつもりです。ですが、毒霧の発生源を突き止めなくては大本は消せないわ」

「毒霧の発生源は……今はまだ語れません。せめて、街の中の毒が少しでも減れば考えますが」

「信用は……してない訳ね。ポッと出の娘に話せる内容じゃない。と言ったところかしら?」

「そこまで貴女を見くびっている訳ではありません。ただ、語るにしても結果を出してから……と言うのがあるのです」

「分かったわ。時間が少し掛かってでも結果を出してみせます」

「頼もしいお言葉です。ただ、あまり無理はなさらぬように。俺も定期的に街の視察に出かけますが、その際には貴女のタウンハウスにも立ち寄らせていただきますよ。成果も伺いたいですし」



 かの有名なマーヤ公爵夫人が注目している調香師。

 アメリアの力を疑っているわけではない。だが――結果が伴わねば、意味はない。

 そう告げると、彼女は臆することなく胸を張って言った。



「かしこまりました」

「ふふ、貴女は放って置くとドンドン前に進んでいくような気がしますね。それが良い結果になるか悪い結果になるかは定かではありませんが……走っても、立ち止まっても構いませんから、着実に一歩ずつお願いします」

「ええ。着実に一歩ずつ……必ず、毒を減らしてみせますわ」


 

 毅然とした態度。

 まっすぐな瞳で、強い意志を宿して語る姿に、俺は思わず息を呑んだ。

 彼女は、大物――否応なしにそう思わされる。



「調香師としてそれなりに有名な貴女が応募してくださったことは嬉しいことですが」

「あら? 応募したのは父よ」

「……え?」

「私が応募したのではなくて。父に、ここに行ってこいと命じられたの。追放だと、そう言われて」

「……なっ⁉ 追放⁉」

「ええ。どういう意味なのかは、いずれ分かると思うわ」



 思わぬ言葉に持っていた彼女の履歴書を手にして見ると、アメリアはクスリと笑い――。




「では、改めてよろしくお願い致します。一度タウンハウスにて休んだら、色々準備に取り掛かりますので」

「そうですね……。とは言っても、本当に小さなタウンハウスですから。掃除と料理が出来る方を用意はしています」

「何から何までありがとうございます。それでは失礼致しますわね」



 そう言うと彼女は淑女の礼を取って部屋を後にした。


 追放……追放⁉

 これは、大変な事になった……いや、巻き込まれたかも知れない。

 そう思わずにはいられなかった。

 だが彼女が外に出たのを確認すると、俺は思わず窓辺に立ち、まっすぐに背筋を伸ばして歩く彼女の姿を目で追っていた。



「……追放と父親に言われ、こんな事になってしまったのに……あんな風に、立っていられるものなんだな」



 ――自然と口から出た、彼女への驚きと……尊敬にも近い何かがあった。

 それは本当に尊敬か、はたまた……。

 思わず考えそうになった言葉を振り払い、履歴書に目を通す。


 アメリア・ダグリスト。

 彼女は、我が領を救える救世主となれるか――。



「お手並み拝見と行こう。だが……放ってはおけないな」



 小さな背中に、何か大きな傷を隠しているかのような……そんな危うさも感じた。

 だからこそ、こんなににも惹きつけられるのかも知れない。

 彼女は――不思議な人だった。

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