第33話 〝香りの令嬢〟から〝香りの辺境伯婦人〟へ
これにてラストとなります。
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こうして暫く時は過ぎ――タウンハウスが出来上がり、また元のように通いながらの調香師しての仕事もスタートさせた頃、春が訪れ香りの祭りが開かれる日がやってきた。
その日ばかりは、皆さん「自分にとっての香り袋」を持って歩き、香りについて語りあいながら、そして〝香りでこのエルメンテスが浄化されたことを忘れない為のお祭り〟でもあるのだと、エドワード様が仰っていたわ。
「私は調香師として当たり前の事をしただけですのに……」
「だが、香りで毒霧を晴らし、街に光をもたらした功績は大きいからね」
嬉しげに語るエドワード様がそういうのならば……と、私は受け入れたわ。
こちらに来たばかりの時は大変だったけれど、やり甲斐も大きくて楽しかった。
挑むことの大切さも知り、負けられないのだと自分を叱咤激励したのも懐かしい。
そんな前のことを思い出しつつも、香炉塔には春を告げる【和香】が設置され、教会の鐘の音と同時に火が着けられ香りが焚かれる。
すると――街に春風のような安らぎを届け始めた。
「まぁ、上品で素敵な香りだこと」
「マーヤ様!」
「こんな素敵なお祭りに参加できないなんて嫌だわ。ねぇ? お兄様?」
「ははは、全くだな! 急いで王位継承を済ませてこっちに来た甲斐があるわい」
「こ、こ……」
「国王陛下⁉」
「元、国王じゃよ。今は隠居した身。これからはエルメンテスでマーヤと共に生活しようと思ってな」
「夫とは月に2回程会うから安心してね?」
「はっはっは!」
まさか、元国王陛下がエルメンテスに住まわれるようになるなんて……。
驚きを隠せない私達を他所に、お二人は嬉しそうに空を見上げておられるわ。
「毒霧で空も見えなかったこの土地が、香りによって浄化され、香りによって癒やされ、そして……香りによって春を告げる……か。実に良いではないか」
「元々、エルメンテスは香りの香木等の産地ですもの。実に素晴らしい案だと思いますわ」
「恐縮です」
「ありがとうございます」
深々と頭を下げてお礼を伝えると、マーヤ様と元国王陛下は嬉しげに笑っておられたわ。
「【和香】を焚き、守りの要である辺境の土地から、平和を祈りながら、春を告げる」
「ドラマチックですわね」
そのお言葉にエドワード様は誇らしげに私を見つめ、等の私は首を傾げてどうしたのかと思っていると――。
「香りだけじゃ足りない。君が必要なんだ、アメリア」
「……え?」
「エルメンテスに香りの辺境伯婦人あり……と、伝えるために、何より俺のために……俺と、結婚してるかい?」
思わぬところで思わぬプロポーズが来て驚いていると、元陛下やマーヤ様は笑顔で私とエドワード様を見ていて……これは……断ることも出来ないじゃない。
もとより、断るつもりなんてないのだけど。
「……そのお言葉、受け入れますわ……」
「ありがとうアメリア!」
「浮気はないですよ?」
「君と言う最高の香りがいるのに、他の香りに行くはずがないよ」
「まぁ! ふふふ!」
「これはまた、めでたいな! マーヤよ!」
「ええ、春の祭りで平和を願いながら、エルメンテスの領主様がプロポーズなさるだなんて!」
元陛下とマーヤ様の通る声が響きわたり、この事は徐々に街に広がっていったわ。
〝春を告げる祭りで、領主様はプロポーズして成功したらしい〟と言うのはあっという間に広がり、数年後、〝春のまつりにプロポーズすると成功する〟と言うジンクスが生まれるのはまた別の話で――。
その後の私達はと言うと、春を告げる祭りが終わり、夏にはウエディングドレスを作り、秋に領をあげての結婚式が行われた。
私は両親がいないため、なんと父親役に名乗りをあげてくれたのは――元国王陛下だったわ。
大変恐縮視っぱなしだったのだけれど――。
「うちには娘がいなくてね。バージンロードを娘と歩くのが夢だったんだ」
嬉しそうにしてくれて、共にバージンロードを歩き、エドワード様と今後の未来を約束する結婚式ができた。
多くの方々に祝福され、私はこうして――名実共に、〝香りの令嬢〟から〝香りの辺境伯婦人〟へとなったのだ。
「これからもずっと、俺がそばにいる」
「はい。私も傍にいます。そして領地の為に、調香師として出来る限りの努力を惜しまないわ」
「君ならそうだね。頼りにしてる」
「はい!」
誓いのキスは一瞬だったけれど、とても熱くてとても幸せな瞬間だった。
【結香】のバラの香りに包まれた式場で、私達は皆さんに見送られながら、再出発の一歩を歩む。
教会のドアを開けて外に出ると、多くの領民が来ていて、皆さんに祝福されながら私達はお互いに微笑みあい、今ある青空を思う。
私は自分の使命を自覚し、エドワード様の支えにより、強く前を向く決意を新たにする。
――私の再出発は、まだ始まったばかり。
一歩ずつ確実に、このエルメンテスで生きていく。
エドワード様と共に。
「新たな調香師としてのスタートですわ」
「ははは、そこは俺との新しいスタート出会ってほしかったな」
「それはこれから、ずっと寄り添って着いてきますもの」
「ありがたい言葉だ。俺もずっと君と寄り添ってついていくよ」
「ええ!」
追放劇から始まった私の物語は、こうして幕を閉じる。
最後は――愛しい人とともに。




