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香りひとつで世界は変わる ―追放された令嬢は辺境で『調香の奇跡』を起こす―  作者: 寿明結未(ことぶき・あゆみ)


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第3話 負けないわ。新天地で私は調香師として生きるのよ

ブックマーク、評価、感想、誤字脱字報告ありがとうございます。

 負けないわ。

 負けてたまるものですか。

 今は涙が溢れても、次の一歩に繋がるのよ!


 涙をぐいっと拭い、私は前を向く。

 そう、私は私。この身ひとつで、アメリア・ダグリストよ!


 気合を入れ直した私は、鞄から家で作ってきたお香と、お母様の形見の品である香炉を取り出した。

 インセンスコーンの形をしたお香を焚くのにピッタリの香炉は、私と母の思い出の品。

 その中から【雨香(うこう)】と言うお香を取り出し、魔法で火を付ける。

 私は僅かな魔力はある為、これが出来るのだ。

 普通だったらマッチ等でつけるのだけれど、ごく僅かでもお香を焚くくらいには丁度いい炎を出せる。義妹やセベクには魔力はないと言う話は以前聞いたことがあるくらいかしら?

「お義姉様だけずるいわ!」なんて言われたのも懐かしい話。


 【雨香(うこう)】とは、名前の通り雨の香りがするお香で、心を落ち着かせる効果があり、私の作り出す雨香にはそれに〝懐かしさ〟や、〝記憶を呼び起こす〟作用があった。

 こんな時くらい……お母様の思い出に浸ってもいいじゃない……?

 あの家にいる時は、雨香を焚くことすら難しかったのだし、思う存分お母様との思いでに浸りましょう。

 一通り落ち着いたら……御者がお父様から受け取ったと言う書類を読んでみようかしら。新天地での内容が書かれているかも知れないわ。

 そんな事を考えながら御者から受け取った書類を隣に起き、香りに身を任せる。

 お母様との幼い頃の記憶に身を任せ、香炉から淡い青緑色の煙が立ち昇り、静かに心を包み込みながら、馬車は静かに進んでいった――。



 ――お母様の遺言。

 それはとても重要なものでもあったように思う。

「将来は自分を支えてくれる、自分だけを愛してくれる男性と結婚しなさい」と言う、女の望みとも取れる、父への確かな裏切りへの不満だったと思うわ。

 きっとお母様は、もっと素敵な殿方と結婚したかった筈。

 それは子供ながらに強く感じたもの。



「……私は、あんなお父様のような人とは結婚なんてしないわ」




 その時、ふと書類の存在を思い出し、封の中から数枚の紙を取り出す。

 アチラに既に履歴書を送っていることや、エルメンテスの街についたら領主様にお会いして挨拶をすること等も書かれてあった。


 どうやら借りる店は、領主様の持っている小さいタウンハウスらしい。

 確かにお借りするのだし、ご挨拶にいかねばならないわね。



「今はお父様やあの家の事を忘れて、私の第二の人生の場になりそうなエルメンテスでの生活を考えたほうが良さそうね」



 タウンハウスを浸かっての調香師としての仕事。

 それは、かなりの重要度があるように思えるわ。

 そもそも、毒霧のある街の所為で、あまり人が寄り付かないのが、かの土地であり、何より辺境にあるため、防衛の要にもなっていて、気の荒い兵士も多い。

 そこに、女一人を送り出すって、よく考えれば普通の令嬢なら泣き出すわよね。

 でも御生憎様。

 私、そういうのってワクワクするの。


 どこまで私の作る香りが通用するか。

 どこまで人々を救えるか。

 どこまで私の手が届くのか。


 それを想像したら血が滾るわ。

 令嬢らしからぬ? 上等じゃない。

 私は元々、令嬢らしいと言う人間ではないもの。

 もしそうであるのなら、実母でなくとも「お義母様」くらい言うわよ。

 でも残念ね。

 私、そんなに可愛い娘じゃないのよ。



「だからこそ、お父様も私が可愛げがないって思ったんでしょうけど」



 泣き寝入りするとでも思った?

 それは嫌だと懇願するとでも思ったのかしら?

 そうだとしたら、父と義母と義妹の器が、たかがしてれてるのよ。



「面白くも何ともないわね……。まぁ、あの家から出るきっかけをくれたのなら、まずは良しとしましょうか。追々苦しんでもらうけれどね。ふふふ。それよりも、かの土地で自分を試せるというのが、たまらなく魅力的だわ」



 領主様への挨拶は少し面倒だけど、タウンハウスを借りる上で必須。

 仕方ないことですものね。

 後は、碌でもない領主様でないことをいのるばかり。

 下心の有りそうな爺だったら、目にもの見せてやるわ。



「さて、私の人生を賭けた大勝負ね……。ああ……腕がなるわ!」


 

 落ち着いた香りを焚きながらも、私静かに、でも確実に闘志は燃えている。

 それでも深呼吸をすれば、雨を閉じ込めたような香り。

 腕を組んで令嬢らしからぬ足を組み、ゆっくりと目を閉じる。

 馬車はガタガタと無駄に揺れ、香炉から香りが消える頃、ふと目を開ける。



「私は調香師としての出発点にいるのよ……今こそが、新たなる出発点」



 そう口にして、真っ直ぐ前を見据えたのだった――。


 それから五日後。

 私は酷く揺れる馬車から開放されると同時に、辺境領であるエルメンテスへ到着した。

 活気もなければ空気に微量の毒が交じるこの土地こそ、私の調香師として歩む道。

 そのまま服を軽く整え、領主の館でもあるお屋敷へと向かい、求人募集の紙を手渡し中に入る。

 屋敷の中で待つこと一時間ほど。

 随分と待ったように感じるけれど、私の中でもう一度この領で行きていく為の心の準備には丁度良く、呼ばれるがまま領主の部屋へと入っていく。


 領主の椅子には、二十代後半と思われる薄い金髪に、私とは違う優しげな雰囲気を持つ男性が一人座っていて――。



「ようこそ。長旅、お疲れだったでしょう」



 禿げた嫌なおじさまを想像していたなんて言えず、思わず目が僅かに揺れてしまったけれど、それには領主様は触れず、静かに椅子を勧めてくれたのだった――。


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