第17話 (マーヤ様Side)あの子の今を守る為にも
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「奥様! 大変です! 香りの令嬢からお手紙が!」
「なんですって?」
公爵家に嫁いだ私がここまで取り乱すなんて、何時ぶりかしら?
メイドが持ってきた手紙を受け取り、文字を見て間違いなくアメリアだとわかると、ペーパーナイフで綺麗に封を切り中を読む。
突然姿を消した理由。
それは、私が手を回して調べさせたことで、今や貴族たちの間ではすでに周知の事実。
ダグリスト家の馬鹿どもが何をやらかしたのか――貴族社会の誰もが知っていること。
そのうえで、今回の手紙には、ダグリスト家から届いたという「義母と義妹による、和解を装った卑劣な手紙」について綴られていたわ。
さらに、自分たちが今なぜ窮地に追いやられているのか、その理由がアメリアだと、ようやく理解したようね。
「一度戻って正式に家名で活動を」など、支配の意図を滲ませた文面もあったとあり、私は思わず眉根を寄せた。
「……『世間もあなたをダグリスト家の者として見ている』『和解すれば今後の地位も安泰』……挙句の果てに『妹の結婚話』? 貴族社会から追い出されて、今さら焦ってすり寄ってきたのね。彼女のことですもの、今の自分を否定されたように感じているでしょうね」
「アメリア様がお可哀想です……」
「ええ。こんなもの、許されるはずがないわ。そもそも、追放など本来できることではないのに、〝ダグリスト家の正式な当主〟を排除した上で、家を乗っ取ろうとする馬鹿がいるなんて……信じられない話よ」
これは、まだ公にはしていない。
何故なら、時が来たら――私の口から、国王たる兄に直接申し上げるつもりだから。
あの役立たずの父親には、貴族として最低限の知識すらないのだわ。
いいえ、もしかしたら――。
「アメリアは、自分が当主であることを、黙っていたんじゃないかしら」
「それは……何故」
「わたくしと一緒。時が来れば全員追い出すつもりだったわ」
おそらく、そうでなければアメリアが沈黙を選ぶはずがない。
その上で、あえて追放を受け入れたというのは、きっと――事が十分に公になった頃、皆に真実を伝えるつもりなのね。
今や、エルメンテスでのアメリアの活躍は、王都にまで届いている。
毒霧に包まれた街の浄化、そして被害に苦しむ人々への調香による癒し。
献身的な働きにより、今では「エルメンテスに香りの令嬢あり」と新聞の見出しに載るほどなのよ。
アメリアの調香を懇意にしていた者たちは、今はエルメンテスのアメリアの元に使いを出し、調香を頼むのだと動き出している。
わたくしも……エルメンテスにはタウンハウスをひとつだけ持っている。
かの地には、兄から賜ったタウンハウスを、今まで使わないにしても持っていて正解だったわ。
「夫に伝えて頂戴。そして貴族たちにも。私は、マーヤ公爵夫人は〝香りの令嬢〟に癒やしてもらうため、エルメンテスのタウンハウスで療養に入ると。それと、出立の準備と、現地の手配もお願いね」
「かしこまりました」
「まったく、ハンナからいろいろ聞いているけれど……やはり一度、直接話を聞かなくてはならないわね」
これからのことを思えば、旧友ハンナ――元令嬢からの情報は、今や私のささやかな楽しみでもある。
なにより、アメリアが今エルメンテスにいると教えてくれたのも、ハンナだったのだから。
「ハンナにも会えると思うと……胸が踊るわね」
ハンナとは学生時代の友人でもあり、好きな男性と結婚すると言って駆け落ちしたの。
その時は愚かなことをしたと思ったけれど……添い遂げる相手が本当に好きな人なら、それはとても素晴らしいことだと今なら思う。
わたくしだって今を満足してないなんて言わないわ。
ただ、そんな未来もあったのなら……と、思わなくはない。
「恋の一歩が踏み出せないふたり……若い頃の私たちなら、焦れったくて仕方がなかったでしょうね。ふふ、わたくしもハンナも年と取りましたものね……」
そう思うのは、ハンナの手紙にあった一節――。
『若き辺境伯と香りの令嬢の恋がなかなか進展しない、もどかしいふたり』
……これが理由かしら?
ひとつ、私から背中を押してあげるべきかしら?
どちらかと言えば、若き辺境伯のほうを……ね。
この国では、領地を持たない伯爵家はそれなりに存在する。
特にスキル職として働く者たちは、貴族であっても定住しないことも多い。
アメリアの家が領地を持っていないことは承知しているわ。代々、調香師として王都に拠点を構えてきた家系なのだから。
だからこそ、この国の制度上。
スキル職の伯爵であれば、住居を変更することも可能と言うは、それほど知られていない制度だけれど、辺境伯には教えてあげてもいいかもしれないわね。
「もし、それでアメリアを望むのなら……」
その時は……応援してあげましょう。
辺境伯が、男として、アメリアを守れるだけの立場ならば……ね?
でも、ハンナが応援している以上、何かしら動きがありそうだけれど……。
「それよりも、夫に伝えておいてくれる? ダグリスト家から目を離すなって。情報は常に新鮮なものを送って頂戴って伝えて」
「かしこまりました!」
さあ、忙しくなるわ。
アメリア――待っていてちょうだい。
これまでの恩を、倍にして返さなければ気が済まないの。
「エルメンテスへ、行きますわ」




