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香りひとつで世界は変わる ―追放された令嬢は辺境で『調香の奇跡』を起こす―  作者: 寿明結未(ことぶき・あゆみ)


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第16話 (エドワードSide) アメリアと言う女性④

ブックマーク、評価、感想、誤字脱字報告ありがとうございます。

 屋敷に戻った俺は、アメリアから受け取った【夢香(むこう)】の香り袋を手に取った。

 何とも言えないやさしい香りがふわりと漂い、心がすっと軽くなる。

 自然と顔がほころぶ。



「……いい香りだ。こんなにも静かに、休まるなんてな」



 気の強いアメリアが作る、優しい包み込むような香り。

 対局にあるようで、でも彼女の芯の優しさを感じるような香りに、胸が一杯になる。

 その時、ノックの音がして、「入れ」と告げると、部下のテリーが一枚の手紙を手に入ってきた。

 それは――ダグリスト家に婿入りしそうになっていた、アメリアの元婚約者からの手紙だった。



「もう一通、届いていたのですが……」

「アメリアのもとに向かったか。読んだらすぐ様子を見に行く」



 部下に告げると、封を開けて中を読む。

 手紙には、ダグリスト家の現状と、「復縁したい」という虫のいい申し出が書かれていた。

 思わず頭に血が上ったが、深呼吸して冷静に読み進める。



「……ダグリスト家は、どうやら貴族社会から追い出されたようだな」

「アメリア様がいなければ、あの家が保つはずもありませんし」

「ああ。マーヤ様をはじめ、アメリアを追い出したことへの不満と怒り、そして――例の件も再燃しているらしい」

「となると、アメリア様の方に向かった手紙は……」

「恐らく〝帰ってこい〟と言う連絡だろうな」

「身勝手すぎます!」



 テリーですらそう叫ぶ程の怒り。

 俺だって、この手紙を今すぐ破り捨てたい。

 嘘の愛を並べ立てた文面――。アメリアがこれを読まずに済んでよかった。

 どうせ連れ戻して義妹と結婚し、彼女を道具のように働かせる魂胆なのは見え透いている。



「アメリア嬢への〝再利用〟……反吐が出るな」

「実の娘にここまでするなんて、正気の沙汰じゃありません」

「ああ、まったくもって異常だ。……この件はアメリア嬢には伏せておいてくれ」

「かしこまりました」

「直ぐにアメリア嬢の元へ向かう」



 言うが早いや、直ぐにとんぼ返りするかのように馬車に乗り込み、タウンハウスへと急ぐ。

 アメリア嬢が実家からの手紙を読んだら……きっと傷つくだろう。

 気の強い彼女でも、折れてしまう可能性がある。

 ならば、隣に立って支えてやらねば……。


 馬車は急がせたこともあり、タウンハウスにすぐに付いた。

 ドアをノックしてすぐに中に入ると、涙をボロボロこぼすアメリア嬢が目に飛び込み、その手には手紙が――。



「アメリア嬢……」

「……実家から、偽装のような和解の手紙が来たんです。嘘だとすぐバレるっていうのに……私のことを馬鹿にしすぎだわ!」



 怒りに声を震わせる彼女に近づき、そっと手紙を取り上げて中を読む。

 それは義母と義妹からの、〝和解〟を装った卑劣な文面だった。

 しかも「一度戻って正式に家名で活動を」など、支配をにじませた言葉まで書かれていた。



「……『世間もあなたをダグリスト家の者として見ている』『和解すれば今後の地位も安泰』……挙句の果てに『妹の結婚話』? どこまでも自分たちの都合しか見えていないようだな」

「――今の私を、否定されたようで……耐えられない!」



 叫ぶ彼女の肩が震え、俺は頷いて、俯いた彼女の頭にそっと手を添える。



「そうだな。アメリア嬢はこのエルメンテスに必要とされる、立派な調香師であり、かけがえのない女性だ。いまさら返せ、帰れなどと言われて、戻る必要なんてない」

「エドワード様……」

「だが、無理に縛りつけるつもりはない。でも――。誰かに傷つけさせるわけにはいかない。少なくとも今は、ここにいてほしいと思う俺は……我儘だろうか?」



 思いのすべてを告げると、アメリアは唇を噛み、首を横に振った。



「ここに……エルメンテスに、居させてください……」

「……無論だ。もしまた家族から手紙が届いたら直ぐに俺に伝えてくれ」

「はい……」

「ひとりで悩まないでくれ、アメリア嬢……。俺も一緒に君と悩みたい。支えたい」

「……ありがとうございます」



 そっと肩に触れ、一瞬戸惑いながらも彼女を抱きしめる。

 こんなにも細く、そして柔らかく小さい彼女を傷つける等、あってはならない。

 例え最後は彼女がこの街を離れ、俺のもとを去る日が来るとしても。

 ――それでも、守り抜くと決めたんだ。



「君は香りを盾にする。だが物理的な盾も必要だろう」

「物理的な……盾、ですか?」

「俺がその盾になろう。剣にも、盾にも」

「エドワード……様?」

「君は強い。芯の強さは一級品だと思っている。そんな君を守れるのは、男として誉だな」

「も、もう! エドワード様⁉」

「はは! やっと涙も止まったかい?」



 彼女がいつか誰かに恋をした時、その相手が自分でなかったとしても、祝福できるか……それも、まだわからない。

 それでも笑顔で伝えると、アメリアは小さく頷き「涙も消え失せるほどの言葉でしたわ」と笑ってみせた。

 嗚呼――本当に強い。

 だからこそ惹かれる。

 傍にいたい。

 傍に居てほしい。

 でも、それはきっと叶わぬことで――。



「君を守るよ、アメリア嬢。頼りないかもしれないが、それでも」

「いいえ。エドワード様が守ってくださるというのなら、その盾と剣……ありがたく受け取りますわ」

「――ありがとう!」



 この言葉は、愛でも恋でもない。

 それは分かっている。

 けれど、一人の男として、元騎士として。

 彼女に必要とされることが、何よりも嬉しかった――。

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