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香りひとつで世界は変わる ―追放された令嬢は辺境で『調香の奇跡』を起こす―  作者: 寿明結未(ことぶき・あゆみ)


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第11話 (エドワードSide) アメリアと言う女性③

ブックマーク、評価、感想、誤字脱字報告ありがとうございます。

 馬車に残る彼女の残り香は優しくて甘く、俺は幼い頃、母の寝室で嗅いだ僅かな香りの記憶を思い出していた。

 今は亡き母――毒霧の影響で肺を壊して若くしてこの世を去った。

 とても凛とした人でもあり、とても愛情深い人だった……。



「香りは、言葉にならない記憶を呼び起こす。不思議な力です」

「そうだな」



 部下のテリーにそう言われ、俺は軽く頷いて返事をした。

 テリーもこの香りに何かを思い出しているのだろう。

 すると――。



「ずいぶんと熱心に彼女を見ておられますね」



 ――茶化すように言われ、俺は静かに微笑む。

 香りに誘われるようにして、俺は素直に言葉を紡いだ。


 

「……気づけば、目が離せなくなっていました。彼女は、空気を変える力を持っている」

「空気だけですか?」

「……心も……かも知れないな」



 今まで浮いた話も、婚約の話も断ってきた俺にとって、初めて――弾けるように何かを感じた女性は彼女が初めてだ。

 それがまだ、恋心と言うのかは分からない。

 ただ、どれだけ長くいても足りず。

 彼女の傍にいると楽しくて、会話は弾み、何より彼女の笑顔に心が突き動かされる。


 もっと笑っていて欲しい。

 もっと声を聞かせて欲しい。

 その眼差しを、俺だけに。


 そんな欲が、胸の奥で静かに膨らんでいくのを感じていた。

 だが、それを表立って言う事はできない。


 彼女がひとりで背負っているものの重さを、完全には知ることができない。

 それでも――そばにいたい。

 支えになりたいと、心の内で決意するしかできなかった。

 彼女は、情熱と力強さをもって前に進んでいる。

 その姿に、俺はただ――惹かれていた。


 アメリア・ダグリスト。


「香りの令嬢」と名高い彼女が、なぜ辺境の地・エルメンテスに来たのか。

 普通の家ならば、絶対に外に出さない門外不出と言って良い令嬢だろうに。

 それこそ、婿を取らせ、家を繁栄させていくのが普通だと――……。

 そう思った途端、心のなかで「ソレだけは嫌だ!」と叫ぶ自分にビクリと肩が揺れる。

 ……どうやら本気で、俺は彼女に――?



「どう為さいました?」

「いや、少しな」



 この気持ちは一旦置いておこう。

 まずは、アメリアの事が色々と気になる。

 何故、かの家は彼女のほどの調香師を追い出したのか……。

 しかも、追放と言う形で……後々とんでもない状態になのが分からなかったのか?

 いや、そんな、まさかな……。


 だが、緩徐の腕前は確かだ。

 教会に浄香を納品し、マーヤ公爵夫人にまで愛された才女――。

 なのに、ダグリスト家は彼女を追放したのだ。

 こんな事、本来ならばあり得ない。

 神も、国もお許しにはならないだろう……。



「しかも、こんな才能を、追い出す家とは……」



 明らかに異常だ。

 俺はアメリアの過去に何があったのか全く知らない。

 一体何があってこんな事になってしまっているのか……。

 本人はどう思っているのか。

 これほどの調香師を家から追い出したというアメリアの家が気になり始める。

 俺は静かに部下に命じる。



「彼女の家について、詳しく調べてくれ」

「かしこまりました」




 ◆◆◆◆




 屋敷に到着すると、高台にある屋敷からは街が一望できる。

 その中でも、中心部だけはキラキラと輝き、浄香が聞いているのか、浄化されているのが見て取れた。

 彼女の作った香りが――街を守ってくれている。

 それが何故か誇りに思えた。



「美しな……」

「ええ、浄化されているのがよく分かります」

「今までの調香師ではこうは行かなかった」

「流石は、かの有名な〝香りの令嬢〟と言ったところでしょうか」

「そうかも知れないな」



 香りを盾にし、人々を守る。

 香りを盾にし、人々の心さえも守る。

 そんな調香師――アメリア。


 気にならないほうが可笑しい。

 彼女ほど有能な調香師見たことがない。

 さぞ、彼女の実家は今頃大変な事になっているだろう。

 追放した手前、戻ってこいとも言いづらいだろうしな。


 ならば、時が来るまで――彼女を俺が守ってもいい。

 囲うことはできずとも、支えることはできる。少なくとも、今だけは。




「今だけは……嫌だな」



 小さくぽつりと呟いた言葉。

 テリーは静かに頷いてから席を外した。

 俺は、窓の外に見える奇跡を――彼女の香りがもたらした安らぎの光景を、いつまでも眺めていた。


 これから頻繁に会えるというのに、もう会えなくて寂しい。

 ああ――やはり、この気持ちは。



「手を伸ばせば……届くだろうか?」



 返事はない。

 だが、狂おしいほどに胸を満たすこの思いは、もう無視できなかった。


 ――俺は、アメリアのことが好きなのだ。

 たとえ、それが叶わぬ恋だったとしても。


 この手を、取ってほしいと思ってしまう。

 けれど、今できることは限られている。

 彼女の周囲を守り、彼女の実家を調べる――たとえ、そのことで彼女がエルメンテスを去ることになったとしても。


 俺は、彼女を守ることを――選んだ。

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