2:お召し物
「…なんか、増えた?」
「父上が増やしたらしいですね。特に貴女の衣装は露出が少し多くなった」
「うわぁ…」
ディニダス家の衣装部屋は、無駄に広い。
ずらりと並んだ礼装の数は、この家がどれほど社交を重んじているかを雄弁に物語っていた。
「露出が多くなったって、それだけで気分が悪いわね」
「エネガンティア様の場合、今までが鉄壁すぎただけかと」
「言っては駄目ですよばあや。この人は自身のシルエットに誇りを持っていないのでしょう」
「アンタ良い加減にしなさいよ」
エネガンティアは腕を組み、吊るされたドレスの列を睨む。
淡い色、濃い色、装飾過多なもの、露骨に男受けを狙ったもの。
「…これ、全部着るの?」
「まさか。姉様に似合わないものを弾くだけで半分は消えます」
「喧嘩売ってる?」
ばあやが咳払いをしたので、二人は同時に口を閉じた。
「エネガンティア様は、こちらなどいかがでしょう」
「……ドレスか」
差し出されたのは、落ち着いた色合いのドレス。
派手ではないが、線は美しい。
「出来ればパンツスタイルが良いのよね。ドレスはちょっと」
「姉様には似合わないでしょうね。野生児…いえ、凛々しいお人ですから」
「この空間にばあやと私しかいないからって調子に乗らないでもらえる?」
慣れているのか、ばあやは黙々と衣装を選んでいた。
ヴィルが口を開く。
「僕はこれで」
「無難ね」
「黙ってください」
「社交界では“無難”は埋もれるという意味でもあるのよ」
……殴りたい。
ヴィルは深呼吸を一つした。
「じゃあ、貴女のおすすめは?」
「これかしら」
エネガンティアが示したのは、ヴィルの着るフリルが付いているものではなく、端正な服装だった。
「…悪くはないですね」
「でしょう」
「でも残念ながら、僕は姉様と違って可愛らしい顔立ちなので、こちらのフリルが似合います」
「…性格は全く可愛くないけどね」
「聞こえていますよ」
ばあやは二人を見比べ微笑んだ。
「エネガンティア様、ヴィル様の今の発言は、「端正な服装は姉様の方が似合う」という意味合いかと」
「ばあや?」
「あら、素直に言えば良いのに」
「気色の悪い勘違いをしないでいただけますか」
………数十分後。
先に着替え終えたのはヴィルだった。
いつも通りのフリルの付いた服装は、可愛らしさのあまり姫のように見える。
「……腹立つほど似合うわね」
「ありがとうございます」
その言葉に、エネガンティアはにこりと笑った。
…眉は顰めていたが。
数分後、エネガンティアが姿を現す。
選んだのは、フリルを最小限に留めたパンツスタイル。騎士のような品のある凛々しさが見えた。
「…悪くはないですが、もう少し女性らしさを出してみては?」
「似合わないと言ったのは貴方でしょうが。素直に褒めなさいよ」
ばあやが感嘆の声を漏らす。
「お二人とも、実にお似合いです」
「「当たり前よ/ですね」」
鏡越しに視線が交わる。
「…何かしら?」
「いえ、容姿に自信があるのは良いことです」
「嫌味?」
「さあ」
引き攣った笑顔で毒を吐く2人を見て、ばあやは静かに口を開いた。
「お気に召したようで何よりです」




