第五十話
――あれから数日が過ぎた。人間や亜人側の被害がゼロだったわけではない。だが、魔族との戦争になったと考えればあまりにも少なすぎる被害。それでも死者がでなかったわけじゃない。その弔いは人間と亜人合同で行われることが決定した。
その日、フィアンは酒場で無料で提供される高いお肉を頬張りながらニコニコしていた。隣にいるアマサカは変わらずいつもの酒を飲んでいた。だがいつもより表情は緩い。フィアンの食事風景を見ながら少し口角が上がっている。アイラ、レオ、ガナードの三人はまだ休んでいるという状態だった。フィアンは一皿をぺろりと平らげた後、アマサカに問いかけた。
「ねぇアマサカ。帝王との約束守るの?」
「あぁ……あれか」
あの戦いの後。最初にアマサカ達のもとに来たのは帝王だった。よくやったとアマサカを褒め称えた後、アマサカを凝視していた。そしてアマサカの実力を一体どこで知ったのか、お前が噂のアマサカかと尋ねてきたのだ。アマサカはそうだとすんなりと答える。帝王は、ふっ……と笑うと一度手合わせがしたい。歓迎するのでそのうち南の帝国に来いという提案をしたのだ。
アマサカはその出来事を思い出した後、フィアンに約束は守ると言った。
ただ、その時フィアンの中では大丈夫かなぁ? と不安だった。なぜなら二人の実力が高すぎて周囲への影響が怖かったからだ。
そこへ、いつもの受付嬢が疲れた様子でやってきた。
「はぁ。休憩です。すこしよろしいですか?」
フィアンはいいよーっと元気よく言った。
「ありがとうございます。魔王を完全に討伐したことで魔族地域の危険度が下がり、魔物の脅威の低下。これで仕事が楽になると思いきや……そこへの開拓ということで仕事がドッと増えまして……もう……あっ、そうだアマサカさん。おめでとうございます」
「……なんかあったか?」
唐突な称賛に、アマサカは身に覚えがないような受け答えをした。受付嬢は首をかしげながら答えた。
「ほら、勲章の件ですよ。王様から英雄としての勲章を授与されることが決まったじゃないですか。名指しなので有名人ですよ。みんな知ってますし。だからもうFランクじゃなくてもいいんじゃないですか? Sランクになっちゃいましょうよ!」
「あぁ。まぁ勲章を拒否するわけにもいかないからな。とはいえ俺はFランクのままでいい。この方が気楽だ。万年Fランク。それでいいさ」
「もう……セラさんだってSランクになったんですよ?」
「……そうだな。うれしいよ」
――それはあの戦いが終わり、王都は再び姿を現した頃のこと。レオ達が治療のために入院をしていた。その病院にレドフィアラとアマサカが集まっていた時のことだ。セラとアフィスが揃って登場した。ガナードは幽霊が出たと気絶。レオは開いた口が塞がらず、アイラはフリーズ。フィアンは驚きながらも抱きついて無事を歓迎した。
同時にアフィスが盲目の侍女をつけていなかったことで魔族であることが知られてしまった。けれど事情を聞き、みんなアフィスを受け入れた。セラも黙っててごめんねと謝る。セラが生きていたことでその場はお祭り騒ぎ。そして黙っていたアマサカはやっと肩の荷が降りたと安堵の息を吐いた。その後、ソートも見舞いに来る。平然とやぁセラと言うと、セラはクスッと笑った。やっぱり分かってたのねと。
ソートは当然だよと答える。けれど、やはり傷つけられたことは許せないとも言った。アフィスは縮こまりながらごめんなさいと謝る。という流れがあったのだ。
「アマサカ?」
フィアンはアマサカに話しかける。ぼーっとしていたからだ。そのフィアンの声でアマサカは現実に戻る。
「ん? あぁすまん。ちょっとセラが戻ってきた時のみんなの反応を思い出してた」
「あー。あははっ。あれはびっくりしたよー。私くらいには言っても良かったんじゃないの? 作戦で死んだことにしてるって」
「……いや、表情に出やすいからなお前は」
「うぅ」
そこへエイリーとスアリーが足を運んだ。
「よぉおぬしら。元気しとったかぁ」
スアリーは軽くお辞儀だけした。アマサカは元気だよと答えた。
「ふむふむ。そうか。それは良かった。そうじゃフィアン。勲章の授与式のあと、ちとこやつ借りるぞ」
フィアンは、ん? と何を言っているのかよくわからないという表情をした。
「こやつずーっとわしらを放置しておったからな。いい加減付き合わせようってことじゃ。食べるという意味で」
フィアンはぶーっと飲み物をこぼし、咳き込んだ。
「ちょっ! なにいってんの! だ、だめに決まってるじゃない! あっ、アマサカは私のなんだから!」
「ほぉ? わたしの……ねぇ? 抜け駆けしただけで、アマサカは誰のものでもないじゃろ。ちゃんと許可取りしにきただけでも感謝せい。どれだけ長い時間……待っておったと思っているのじゃ」
気持ちが痛いほどわかるフィアンはちょっと勢いが削られる。
「わしはこやつと少し時間をすごしたいんじゃよ。嫌ならアマサカをお主自身に繋ぎ止めるように努力するんじゃったな。それとも……まだ悩んでおるのか? 親友が同じものを愛しているから」
「なっ! そ、それは……う」
すべて図星である。エイリーは伝えるべきことは伝えたと、その場から去る。宿へ戻るついでにいろいろと王族としての仕事が残っているようだ。
――ギルドの応対室にて。元Sランク冒険者のジエンが腰掛けていた。正面では疲れ果てたダミアが天井を仰いでいる。ジエンは大声で笑いながら労う。
「王族との橋渡し、ギルドの仕事にSランク冒険者としての仕事。さらにはギルドマスターとしての責務。お主も大変じゃのお」
「笑わないでくださいよ。瞬間移動魔法の酷使でただでさえ疲れてるのに……この仕事量。冗談じゃないですよ。Sランクでレベル五とはいえ、下の方ですからね……」
「じゃが、その立場におれるのもお主しかおらん。諦めろ。書類仕事くらいなら手伝ってやるとも」
「それは助かります。それにしても……驚きましたよ。置換方式とはいえ、フィアンがあそこまでの魔法を使えるようになるなんて。それに……私の会得できなかった防御魔法をガナードが……彼らもSランクに上げたいくらいです」
「はははっ。Sランクとしての資格は充分じゃろう。あとは本人たちのやる気次第じゃな。こんなにもレベル五と生まれるとは驚きじゃ。今の若者は豊作じゃのお。セラという子も……自身への衝撃魔法をコントロールできるようになり、化け物じみた強さへと変わった。それがSランク昇格への後押しになったのじゃろうな」
「えぇ。彼女は努力家ですから。彼女が多くの依頼をこなしてくれることで、私も楽になっているのです」
ジエンは扉の方を見た。
「彼は……Fランクのままのつもりか」
「そうですね。そのようです」
「……ふむ。昔はギルド内でバカにされようとどうでもいい、という様子じゃったが……今彼を笑うものはただの一人もおらんじゃろうな。その戦いを見たわけではない。しかし……レドフィアラの全員が尊敬していること。そして王から唯一英雄の勲章を授与されるのが彼であるということを考えれば……誰もが嫌でもわかる。誰が魔王を倒したのか。それはレドフィアラだけではなくアマサカという英雄がどれだけ大きいものであるかを」
「ふふっ。個人的にはこれで良かったですね。本人は嫌がるでしょうけど。英雄譚を作ると各地の作家が押し寄せているらしいです。隻眼であり隻腕の英雄。だがFランクの皮を被る。そんなのが実在すれば飛びつきたくなるのも事実。この魔王との戦いも相まって人気を勝ち取れるでしょうから」
「はははっ! 違いない。さて、おしゃべりもここまでとするか」
「そうですね。この書類の山を……あぁ見たくない」
「座り直すな。立て若造」




