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第四十四話

 その日、アマサカはレオを除くレドフィアラのメンバーはギルドの酒場に集まっていた。そして……アマサカはセラの訃報をその口から告げた。



「セラが死んだ」



 ガナードも、フィアンも、アイラも、動きを止めた。処理ができていないのだ。目の前で見たAランク冒険者の強さを信じていたからだ。あの実力者が死ぬ? 到底信じられない。しかし、アマサカが嘘をつくとも思えない。フィアンはふらっと歩きながらアマサカの前に立った。



「ねぇアマサカ。それ本当なの? あのセラさんが死ぬなんて、そんなの想像つかないんだけど。なんでそんなに平然としてるの? アマサカらしくないよ。セラさんが死んだんだよ!?」


「受け入れるしかなかった」


「ッ」


 フィアンは衝動的にアマサカのお腹を殴ろうとした。だが、その腕はアマサカに掴まれてしまう。フィアンが信じたくないと思いながら見上げると、アマサカの涙の痕を見つける。目を背けながらただ一言。


「……ごめん」


「気にするな」



 フィアンは何か言おうと口を軽く開いた。そしてまた閉じ、目を伏せる。背後の席ではうずくまって泣くアイラ。拳を強く握るガナード。そしてその訃報はエイリーの元で修行しているレオの耳にも届くことになる。




 全身の傷を癒やしながら、ユニオンの城にあるあの水上庭園に座りながら呼吸を整えていたレオ。エイリーが足音を鳴らしながら背後に立った。


「なんだよエイリー。まだ治ってないぞ」


「……セラとやらが死んだらしい。わしはそれが誰だか知らんが」



 レオは振り返る。その様子をみた瞬間、エイリーはセラという人間がレオにとってかけがえのない存在であったと悟る。レオはふらふらと近づきながら、エイリーの肩を掴んだ。


「死んだ? 師匠が? そんなわけあるかよ。Sランクにも届くくらいには強いんだぞ、レベル五だぞ!!」



「レベル五だからと言って死なぬわけではない。現に我が父である前の亜人王はレベルアンノウンじゃろうが。魔王だってそうじゃったはずだ」


「それは……」


 沈黙が訪れる。エイリーは自分の頭は何度かくしゃくしゃにしながら言葉を探したが見つからない。ただ、発散させる何かが必要だと感じ、レオに提案した。


「……修行するか?」


「……する」



 レオは怒りなどの感情に任せて拳を振るった。当然、その技がエイリーに届くことはない。全部受け流されるか空を切る。いつもであれば冷静になれと怒るところだが、エイリーはそのまま攻撃を受け続けた。大切な誰かが死ぬことはエイリー自身も経験している。受け止めてやりたかった。叫びながら殴りかかっているレオを見ると心がキュッとなる。



 ――辛いじゃろうな。





 その日の夜。レオは夢を見た。知らない土地。ただの草原。目の前に、白銀の毛並みを持つ亜人。


「ここは一体、どこだ? あんたは……もしかして亜人王か?」


「レオと言ったか。強さを求め成長を続けるお前を見ていた。そして今、さらに力を求めている」


「……そんな気分じゃねーよ。自分の知り合いが死んじまった。師匠なら絶対大丈夫だって、死ぬなら自分が先だって、俺は安心してたんだ。死ぬわけがねーって。ありえねぇってさ」


「その感情の揺れが我の聖遺物に強く反応しているのだろうな。我の若い頃に、いろいろと似ている。強さを求め、仲間を守ることを志とした。言っておくが当の本人である我はすでにこの世には居ない。所詮は残滓、すぐに消える。

 お前に我の聖遺物を使った戦い方を教える」



 たんたんと説明を始めるエイリーの父に、レオは怒鳴るように言った。


「こんな心の状態でそんなこと言われたってよ!!」


 エイリーの父は腕を組みながらレオを見下ろしていた。


「戦士だろ。貴様の握る剣は、なんのためにある。一人を失ったらその瞬間、心が回復するまで剣を置くのか。それがお前の戦士としてのあり方か。そうであれば我の見込み違いだ。去れ」


「っ」


 手を強く握る。確かに辛い。きつい。泣きたい。時間を巻き戻したい。けど、頭の中に流れ込んでくる役に立たなかった自分の惨めさ。率いくつもりのパーティーが、率いてもらう立場になっていた。守ってもらってばかり。レオはこころを戦士に変える。なぜ立つのか、なぜ戦うのか。なぜ強くなろうとしたのか。こんな自分を師匠が見たら、殴り飛ばされているだろう。



「それでよい。我が教えるのは使い方だけだ。エイリーに許可をもらったら、聖遺物を使っての修行に入れ。



 魔族が動き出すかもしれない。我が中立を破った時、魔王はそうなることを想定していた。我と勇者の居なくなった先の未来で復活するため、我の中に魔王の種を植えた。だが、それが発芽する前に我は死ぬことができた。

 とはいえあの魔王だ。魔王幹部の軍師ベスターを含め、我以外の方法で復活を目論んでいるはずだ」


「俺、そんなに頭良くねぇからいろいろ教えてもらっても困るんだけど? つか、エイリーに何も言わなくていいのかよ。伝えたいことがありゃ伝えとくぜ。というかエイリーは呼べないのか?」


「エイリーに我の聖遺物は必要ないからな。そして時間がない。魔力の残滓も消えかかっている。しかし少し甘えるとするか。我はお前の父であったことが誇らしい。それをエイリーに伝えておいてくれ」



 その後、レオはエイリーの父である亜人王に聖遺物の使い方を説明される。再び目を覚ますとエイリーが見下ろしていた。


「起きたか小僧。もう大丈夫そうじゃな」


「……お前の父さんに会ったよ」


 エイリーに確かな動揺が見えた。


「そうか。何か言っておったか」


「お前の父親で誇らしいってさ」


 エイリーは何も言わず、一人になると言ってその場から立ち去った。






 ――セラの訃報から一週間後、一人の老人が尋ねる。右腕右足が動かない彼は侍女に車椅子を押されながら現れた。



「ほう……懐かしいのぉ。お、アマサカ殿ではないか。久しいの」


 元Sランク冒険者のジエン。アマサカと共に亜人王を殺した冒険者だ。酒場に座るアマサカを見ると穏やかな笑顔で手を振る。アマサカは手を振り返した。


「久しぶりだなジエン。あの戦い以来か」


「そうじゃなぁ。わしは結局引退したからの。おまえさん、スアリーという連れはどうした」


「今は別の場所にいる」


「なんじゃそうか。どうせなら顔を見たかったのじゃが。隠居して暇なのでな。久しぶりに顔を見せようと思っての。ギルド長になったダミアが上手くやっているかどうかも気になるし」



「その件なら……今は都合が悪いかもな。ギルド長としての仕事はこなしているが、つい先日、Sランク候補の冒険者が亡くなってしまったんでな」


「ふむ……仕方ないの」



 ちらっと側にいるパーティーメンバーに目を向ける。


「なんじゃお主。パーティーメンバーがいるのか? お主の戦い方だとヘイトを常に自分に向けるのが最適解じゃろうに」


「あぁ……いろいろとあってな。今は一緒に戦っている」


「おぬしがのぉ……それに片腕を失っているではないか。お主にそんな傷をつけるとは……一体どんな相手が?」


「そのあたりは長くなる」


「ふむ、では呑むか」



 アマサカ、ジエン、フィアン、アイラ、ガナードは一緒に酒を交わす。元Sランク冒険者の冒険譚はどれも興味を引くものばかりだった。そして片腕と片足が使えなくなった理由を話した。


「本来一緒に使うことのできぬ魔法を同時に発動したがために後遺症で動かなくなったのじゃよ。脳か、魔力回路か、それとも神経か。


 ちなみに魔法のひとつはどんな攻撃であろうと一発だけ必ず防ぐ魔法。インターバルは必要じゃが魔力の消費が極端に少ない。

 もう一つは対象を指定位置に瞬間移動させる魔法。これらを同時に連発したせいで、このざまじゃ」



 ガナードが机を叩くように立ち上がる。魅力的な魔法だったからだ。今のシールド体勢に、万が一の必殺防御。これがあればあの機械じかけの赤黒い光線を疲弊なしに防げたかもしれない。より強くなるための鍵が見えた気がした。同時にフィアンも食いついた。瞬間移動をさせる魔法。それができれば戦いがいかに楽になるか。特にフィアンのように後方で戦況を見る立ち位置には、うってつけだった。



「教えてくれ!」

「教えて!!」


 食い気味の二人にジエンは食べ物が喉につまりそうだった。


「ふぉっ……危うく死因が窒息死になるところじゃった。教えてと言われてものぉ……」


 二人は懇願する。それが必要であることだと分かっているから。アマサカがジエンに言った。教えてやってくれと。ジエンはため息をついて仕方ないのと、受け入れた。


「しかし……しんどいぞ? 素質があるかどうかも分からぬからなぁ」



 二人ば大丈夫、やり抜いて見せると息巻いた。



 ――その頃、魔王城にて。魔王幹部である軍師、ベスターがチェスのような駒を動かしながら考えていた。


「んー……よい傾向ですねぇ。とても平和ボケしている。王都はいまだ兵を配置していない」


 境界の泡を使って出入りしていたアフィスは報告を終えると、こう訪ねた。


「もう始めるのですか?」


「うれしいことにアマサカさんが片腕となった。さらにセラさんを殺害することができ、相手の戦力は大幅ダウン。代わりにセラさんの攻撃で都市が一個壊滅しましたが。それにしてもアフィス。あなた……少し変わりましたか?」


「いえ、いつも通りでございます。もし変わったとおっしゃるのであれば、人間社会に触れすぎただけかと」


「そうですか」


 ベスターは駒を眺める。


「幹部も減りましたねぇ……魔王様が討伐されてから六人だったというのに。今はわたくしとあなた。そしてアギアの三人。問題はありませんがね。なにも戦力は幹部だけではありませんから。


 ギルドマスターはあっけなく殺されてしまいましたが……充分な生贄を長い年月で集めてくれたので良しとしましょう。一人は南のSランク冒険者に殺され、ゼギルはセラさんに殺されてしまいましたが、セラさんもあなたが殺してくれました」


 一つの大きな駒を盤の上に置く。


「本来であれば亜人王の体は魔王様のものとなるはずでしかが、ただの亡骸になってしまった。あのアマサカさんという男のせいで別のプランにする必要が出てきてしまった。おかげで六年も計画が遅れてしまった。魔王様と同じ情報量をゴミである人間や亜人を素材にし、埋めていく作業をすることによって復活させるという計画に。


 そしてそれももうじき終わる。今や魔王様に勝てる存在などいない。あのアマサカさんでさえ今は手負い」




 ベスターは高笑いをする。様々な作戦が完全に作用していると。


「皆殺しですっ! 中立を破った亜人も、敵対していた人間も。すべて……! 魔王様が頂点に立つ、ただそれだけのためにこの世のすべてを破壊しましょうっ! ですが報いは受けさせる。アマサカ、そしてメイアース。まずはそこから落とします。たかだか人間の知能など知れている。千年を生きたわたくしと、数十年しか生きられぬ人間の差など歴然っ! 境界の泡の研究も完全に終わったのだからっ!! 勝者ヅラしているゴミどもに報復をっ!」



 完全に酔いしれていた。抑えられない勝利への期待。当然だ。ベスターの想定ではアマサカはすでにレベルアンノウンではないと想定している。そしてレベル五がいくら集まろうと魔王様には勝てない。裏切った者たちへの、踏み込んで来た者たちへの報復、元来からのすべてを魔王様が所有するというゴール。それらがついに叶うのだ。


「ではわたくしはこれで。怪しまれるわけにはいきませんので」


 アフィスは頭を下げて王都にあるアマサカの部屋へと戻る。そしてアマサカに伝えるべきことを紙に書いていく。魔族は同族には疎い。興味が薄いという欠点をベスターは重視していなかった。まさか魔族であるアフィスが魔王様を裏切っているなどと微塵も思っていない。所詮は意志のない道具程度にしか思っていない。

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