表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/51

第四十二話

 セラはその魔族に飛びかかった。右手を伸ばし、魔族に触れようとした。しかし、その右手が魔族に届く前に何かにぶつかる。半透明の板状のバリアが目の前に現れていた。セラは気にすること無くそのままバリアに向かって魔法陣を書き込む。飛ぶように数歩下がり、衝撃に備えた。地下全体が激しく揺れ、天井から塵や砂がパラパラと落ちてくる。


 目の前の魔族は優雅に手袋の位置を直していた。



「まずは自己紹介をしよう。我の名はゼギル。魔王幹部の一人。さて、我の使う主な魔法はこの半透明のバリアを作り出すこと。自由に移動させることも大きさも自由だ。とても便利だろう?」


「随分とペラペラ喋るじゃない。魔族って愚かなのかしら?」


「ほんのささやかなプレゼントだとも。今日は空が美しい。君の死はとても映えるだろう。空も届かぬ地の下で、鮮血に染まり横たわる姿。きっとそそるだろう。そして君の魔法は知っている。触れたものに魔法陣を書き込む。書き込まれたものは強い衝撃を受ける。だがその威力が桁違い……だったかな?」



「よく知ってるじゃない。私ってそんなに有名だったかしら?」


「有名だとも。君は我に触れる必要がある。しかし……触れる前にバリアに阻まれる。勝ち目はあるだろうか? 君に」



「作るのよ」


 セラはゼギルの側面に瞬時に移動。バリアで阻まれる前に指先で触れようとするがバリアの出現が早すぎる。セラは次の一手として地面に一瞬触れる。爆発音と共に、ゼギルは突然体勢を崩した。地面に仕掛けられたセラの魔法陣が発動したせいだ。ゼギルの正面からカチッという音がする。セラは先程、バリアに触れて魔法陣を空中に残していたのだ。それが爆炎を巻き起こし、ゼギルを包みこんだ。



 セラは距離を取った。爆炎が収まると、ゼギルは少しコゲた衣服を気にしながら苦笑した。




「なるほど。最初に触れた時、魔法陣を発動せずに空中に置いたのか。足場を崩して隙をつき、同時に爆炎。なるほど、よく考えられている。非常に危なかった。気をつけなければ。にしても随分と威力が弱いね」



「もし私が威力を高めればこの地下は崩れて共倒れ。だから私をここへと移動させたんでしょ?」



「御名答」


 攻撃を察知したセラはガード体勢を取る。側面から形をもったバリアが鈍器のように衝撃を与えた。だが、セラの相手してきた大型の危険な魔物に比べれば大したことはない衝撃。セラは不思議に思った。これだけで勝てると? 魔王幹部の一人がこんなに弱いわけがない。そんな疑問をもった直後だった。


「かはっ!」


 喉を押さえるセラ。呼吸がしづらい。ゼギルはニヤついた。


「そういえば人間というのは呼吸をしないと生きられないとか。我々魔族のように魔力さえあればいい。というわけではないそうですね」


 すぐに感づいた。セラが目を凝らすと地下通路の両端に魔力のたまり場。つまりバリアが張られて、密閉された箱のような空間になっている。酸素が供給されない。戦えば戦うほど、空気が薄くなっていく。先程の爆炎は悪手だった。




「さぁ、我もそろそろ本気を出さねばなりません」



 禍々しいオーラを身にまとうゼギル。黒い悪魔のような翼が生え、肌の色が暗くなっていく。眺めている暇などなかった。セラは一瞬にして側面の壁に叩きつけられる。パラパラとえぐれた壁が落ちていく。


「っ……!」


「なるほど。今のも反応してガードできるのですか。すばらしい」



 逃げ場のなくなったセラ。繰り返されるゼギルの殴打。瞬時に魔法陣を展開し、衝撃による相殺はしているものの取りこぼしが増えていく。ゼギルは攻撃をやめ、煽るようにセラを見下した。セラは立ったまま口から血を流す。地面は全身の傷で赤く染まり始めていた。



「環境さえ整えてしまえばAランク冒険者もこの程度。弱い弱すぎる。人間サイズは苦手だそうですねぇ」



 なぜそんなことを知っているのか。そんな問いの答えを求めるほど余裕はなかった。ゼギルの巨大なバリアに押しつぶされる。背後の壁と板挟みになり、全身に強い痛みが走った。そしてバリアが消えると、瞳孔が揺れる。意識が……とびそうだ。



 ――死にたくないな。やっとアマサカくんと。




 自分は充分がんばった。そう思っている。けれど、アマサカくんに危険が及ぶかもしれない。アマサカくんは片腕を失って弱体化しているんだから、少しでも役に立たないと。助けてもらった恩がある。



 ゼギルはセラの頭を掴み、壁に叩きつけた。


「美しい顔だ。それがこうしてぐちゃぐちゃになっていくのは魔族として非常に興奮する。君は随分と優雅な戦い方をする。君は貴族かなにかか? 人間ごときが優雅さなど、聞いて呆れる」



 セラは苦笑する。


「本当よね。戦い方にもそれがずーっと残ってる。あなたに教えてもらわなかったら分からなかったわ。ほんと馬鹿みたい。きれいに戦おうなんて。死ぬその最後まできれいに? 醜く勝つのであれば優雅に死ぬ。吐き気がするわ」



 セラは血だらけの顔で微笑みながらゼギルの腕を掴んだ。


「つーかまえた」



 ゼギルは即座に自分の腕を引きちぎる。腕に魔法陣が描かれていたからだ。



「逃げないでよ。そっちの有利は変わらないんだから」


 セラは大きく呼吸をした。大量の酸素を溜め込み、集中する。腕だけだった魔力が全身に広がっていく。ありったけを使い切るつもりだった。ゼギルは集中し、魔力を込めて無くなった腕を一気に生やすという再生能力をみせた。


 そしてセラを捉えるために正面を向いた瞬間だった。先程ちぎったはずの腕が目の前に放り出されていた。危険を感じ、バリアで防ぐとその腕は想定以上の破壊力で全方位に強い衝撃を与えた。その衝撃で、足元がぐらつくほどだった。



「バカなっ! ここを崩すつもりか?」


 ゼギルがセラに対し、そんな訴えを叫んだ時だ。雷鳴が響いたと同時に、何かが顔に触れていることに気づいた。


「なぜだ。なぜお前が我の顔に触れている」



 即座に顔をずらしたが衝撃で顔が半壊する。即座に回復を始めるが、残った目が圧倒的な速度で迫ってくるセラを捉える。薄くはなってしまうが、バリアで自身の周囲を囲んだ。その際にちらりと見えたもの。それはセラの全身から血が吹き出していたという事実だ。それを見た瞬間、ゼギルはセラが行った行為に気づいた。


「まさか……雷魔法で筋肉を強制的に動かし、さらに初速をつけるために自分に向かって……衝撃魔法を使ったのか? あの強い衝撃を推進力として、動きの補助として? 自分を攻撃するようなそんな行為を」



 ゼギルの顔色が悪くなる。魔族を凌ぐセラの猛攻。バリアの再生成が間に合わない。ついにバリアにほころびが見えた。その隙間をセラが見逃すはずはなかった。ゼギルは雄叫びを上げながら全身に力を込めて応戦する。激しい殴り合い。ゼギルは回復できるが、セラの腕はそれに耐えらず、ボロボロになっていた。骨も筋肉も悲鳴をあげている。


「人間ごときがっっ!」


 ゼギルの拳による攻撃が空振った。セラがその場から離れたからだ。そして砂埃が晴れるとゼギルは絶望した。何百もの魔法陣が空中に描かれている。あの殴り合いの中でこれを設置したのか。


 セラは醜くも笑った。残った空気がもうほとんどない。


「私を殺そうとしたんだもの。絶対にあなたを殺すわ」




 ゼギルは全方位に対して必死にバリアを駆使しながら身を守ろうとする。しかしセラの攻撃速度に全く追いつけない。衝撃、炎、雷、氷などどんな魔法が来るかさえ識別ができない。ゼギルは全身を徐々に削られ、ついにはバリアを張るだけで何もできなくなった。


「……さすがだセラ。これがSランクに届くと言われる冒険者の本気。間髪入れずに浴びせられる魔法。全てにおいて威力は我以上。さらに速度も全てそちらが上。負けたよ。だがもう空気も残っていないはずだ。共倒れでいい。それに通路の両端にあるバリアは長い時間をかけて作ったもの。今のお前でも絶命する前に破壊し切ることは不可能だ。お前が死ねば我々の目的であるアマサカを殺すという目的、ギルドメイアースと王都の崩落は達成しやすくなる」



「おもしろい冗談ね。これでも私は他のことに集中していたのよ?」



「ほう? 喋る余裕があるのか?」


「えぇ。醜くても生き残れる可能性に賭けるわ」



 セラは天井を指差した。地下通路全体に広がる巨大な魔法陣。ゼギルは確実に消え去るだろう。セラも生き残れる保証は全くない。けれど何もしなければ死ぬのもまた事実。ゼギルがその現実を目にした瞬間、視界が歪んだ。地下を崩落させるほどの強い衝撃が広がった。セラは自分の魔法による衝撃を計算し、自分の周囲に残った魔力を使って魔法陣に変換し発動。自分の魔法に対する衝撃に備えた。



 地上にあった建物も地盤ごと破壊。一夜にして魔王城のある首都の一部が崩壊した。セラはまだ砂埃だらけの瓦礫の上に這い出た。


「はぁっ、はっ。生きてる……」


 だが、魔力もからっきし。ここで襲われればゴブリンにすら殺されるだろう。どこかで休まないと。けれど腕は現状使い物にならない。足も引きずりながらでしか歩けない。一歩、また一歩とどこか歩く場所を探していた時だった。



 ドスッと背中に小さな衝撃。そして熱が広がっていく。


「申し訳ありません。セラ様。ここで死んでください」



 セラが振り返るとアフィスが包丁を自分に突き刺していた。アマサカに褒めてもらった服が鮮血に染まっていく。


「どっ、どうして……あなたは、魔族なんかじゃ……」


 アフィスの背後にはいくつもの魔族の人影。一人がアフィスに処理をしておけと命令をする。アフィスはお任せくださいと頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ