第三十九話
アマサカ達はドワーフの国を経由。そこで装備のメンテナンス後、数日を過ごしすぐに出発。そしてアフィスのいた村へと馬車を走らせた。そこは以前と変わらず、村の雰囲気はそのまま。馬車が村についたとき、村長であるアフィスはそれに気づいて外へと足を運んだ。アマサカが馬車が降りてきた時、腕の欠損に気づく。
「おや、アマサカ様……お怪我を?」
「あぁ。油断をしてな。片腕を失った」
「アマサカ様ともあろうものが……一体どんな相手だったのでしょう?」
「相手に関してはあとでゆっくりと話す。今日はこのままこの村に一泊したいんだが、それでもいいか?」
「ええ、構いませんよ。大歓迎でございます。そういえばリザードマンの方とレオ様がいらっしゃいませんが?」
「ドリッグのことか。あいつとはユニオンまでって話だったからな。レオはユニオンに残って修行中だ」
「そうでしたか。こちらで宿を用意していますのでどうぞ。以前と同じ場所で構いませんか?」
「それでいい」
アフィスは先導しながら後ろをチラッと見る。即座にアイラ、フィアンの二人とアマサカの距離感の違いを理解するとクスッと笑った。アマサカ様も人なんですね。そう思いながら。
宿で一泊をした翌日のこと。平然とアマサカ達と馬車の荷台に一緒に乗り込むアフィス。アマサカは十秒ほど理解ができず、ただ座る彼女を眺めていた。アフィスはにっこりと微笑みながら言った。
「もうグラフトボーンの脅威もありませんし、村長代理としての役割も充分でしょうから。それに、一度王都というものを見てみたいと思いまして。みなさんが普段いる場所はどんなところなのだろうと」
「村人は納得してるのか?」
「ふふっ。ええ。わたくしは最高権力者ですし、逆らうことも許されませんから」
アフィスを連れ、アマサカ達はついに王都へと戻ってきた。長い旅路のせいか、懐かしい空気に安堵が胸を包む。本当にここが帰る場所になっていたんだなと実感したアマサカ。それから報告のためにギルドメイアースに彼らは足を運んだ。これまでの功績からもうレドフィアラを笑うものは大分少なくなってはいた。だが、少なくなっただけであってまだ一部には存在するのだ。他人の成功はおもしろくない。そういうのもまた人である。
彼らが堂々とギルドに戻ると一部がクスクスと笑い始めた。
「おい、レオってやつがいないぜ? 代わりに女が増えてら」
「弱体化か? 男どもはいいな。あの女相当美人だぜ」
アフィスはため息をついた。あまり居心地がいい場所ではありませんねと。アマサカは撫でグセでもあるのだろう。アフィスを撫でながら言った。
「まぁそう言ってやるな。あくまで一部だ。いろんなやつが集まるからな」
「あっ、ああああのっ、頭を撫でるのは」
てれ顔で顔を赤くするアフィス。触れられ慣れていないようで慌てているが、避ける努力もしない。自由意志がまるでないように。アマサカはさっと手をどかす。
「すまん。つい」
「いえっ、別に不快だったというわけでは」
アイラとフィアンの目が据わる。ライバルか、ライバルだな。二人の心の意見は一致していた。
二人の殺気をもろに受けつつもアフィスとアマサカは会話を続ける。しかし、アマサカがアフィスを撫でた際に片腕がないのが受付嬢に見えてしまった。いつもの受付嬢が慌ててカウンターから出てきた。
「アマサカさん?! ど、どうされたのですか? その腕……」
「あぁ、少し油断してな」
「そんな……」
「心配するな。片腕が無くなっても剣は振れる」
「そういう問題じゃありませんっ! もうっ!」
アマサカは気にすること無くレオの代わりに手続きや報告を済ませる。ランクアップの申請などはレオが帰ってきてからやるという流れになり、アマサカ達はいつもの酒場でいつもの席に座った。
「ふぅ……やっとここに戻ってきたな。セラともだいぶ会っていないし顔を見せたいが、まだいないようだな」
アマサカがセラの名前を出すとアフィスが興味を持つ。
「おや、セラ様ってあのAランク冒険者のセラ様ですか?」
「有名なのか?」
「えぇ。村長ですので、各地のギルドの情報などが伝わってくるものです。セラ様は最近、Sランク級の依頼をこなしているようですし、とても有名ですよ? Sランク冒険者に格上げするんじゃないかって。現在のSランク冒険者は三人。亜人に一人、一人はこのメイアースのギルド長。そして遥か南に位置する帝国の王。その中に入るんじゃないかと言われていますから。まぁレベル五という話であれば他にも該当する方はいらっしゃいますが」
「そうだな。セラはまだまだ弱点というものはあるが……Sランクとなってもおかしくはない。亜人に一人というのは分かるが、帝国の王が冒険者でSランクというのはおもしろい肩書だな」
「そうですね。名前は存じ上げていませんが、元々冒険者で南の危険な魔物を全部一人で倒していたそうです。ですが当時の帝国の王にドラゴンの討伐を命じられました。そしてその冒険者はドラゴン討伐をしましたが帝国の王に裏切られ、無報酬かつお尋ね者になってしまったそうです。噂ではその冒険者を始末したかったとか。治安よりもその力に対する恐怖と、国民の信頼が冒険者に向くのが嫌だったようで……帝国ですからね。
結果、一番危惧していた革命が起きてしまったということです。そのまま冒険者でありながら帝国の王になるという自体に」
「なるほどな。面白い話だった。いずれ足を運んでみてもいいかもしれないな。どんなやつなのか一目見てみたい」
「そうですね。その際はわたくしも連れて行ってください」
「あぁ。別に構わないぞ」
二人の向かいの席でガナードがアイラとフィアンをなだめる。
「ドードー。気持ちは分からんでもないが酒場で武器を出すな」
それから数分後、久しぶりのギルド酒場の飯と酒が到着する。フィアンは懐かしの味に感動しながらパクパクと料理を次々口に運んでいく。
「んーっ! ユニオンの城のご飯も豪勢でめっちゃおいしいけど、やっぱこの味安心する―」
アフィスは一口食べると呟いた。
「……おいしい」
魔族は本来食事を必要としない種族が多い。アフィスもそうだ。しかし食事から栄養を摂取することも可能。アフィスは長らく食事というものを摂っていなかった。必要性がない。命令されていないからと。だが今、口に運んだものが非常に美味であると情報を与えてくる。
「アマサカ様、こちらとてもおいしいですよ」
アフィスは自分の食べていたハンバーグをナイフで切ると、それをフォークに突き刺してアマサカの口へと運ぶ。
「ん」
アマサカは特に抵抗もなく食べるとアイラの嫉妬が限界に達する。
「そこ、そこは……私の立ち位置……」
パラパラッと本をめくり始める。さすがにガチっぽいのでフィアンが止める。
「ストップストーップ! みんな氷漬けになっちゃうからっ!! いやゴーサイン出したいけどッッ」
そんなやり取りの中、アマサカをバカにするために他パーティーが近寄ってくる。無くなった腕の袖を軽く蹴る。袖だけがゆらりとなびいた。
「おいこいつ、片腕無くなってんじゃん。万年Fランクは雑魚しか相手できねぇのになんで欠損すんだよ」
明らかな陰口。しかしその声は確実に届ける。どうせゴブリンに斬られただとか、刀で間違えて切断しただの。言いたい放題だ。その瞬間、ガナードが本気でその冒険者を殴り飛ばした。もう一人の腹部にアッパー。悶えている冒険者の前で低く、怒りに満ちた声で言った。
「なんもしらんクソガキが。わしらの仲間を侮辱することはゆるさん」
いつも無口。絶対に手を出してこないとされていたガナードがそれをしたことが衝撃だった。もはやレドフィアラはこのギルドの中でもトップクラスの強さ。認知としては広まっていないが、ギルド内の冒険者達も薄々感づいている。手を出したくはない。アマサカというストレスの刷毛口が一つ消えたことを彼らは理解した。
「わ、悪かった……冗談だ」
パキンッと彼らの足が凍りつく。本を閉じながらアイラが彼らの前に立った。その目はいつもの弱々しいアイラのものではない。その目に睨まれた者たちは、ぞわっとした悪寒に襲われ腰を抜かした。
「次にアマサカさんを侮辱したら本気でその足を奪います。どんな罰がくだされようともです」
魔法を解くと、彼らはそこから逃げ出した。フィアンは二人に任せ、様子を見ているだけだった。一連の流れを見ていたアフィスはアマサカに言った。
「愛されていますね。アマサカ様。とても……羨ましいです。あそこまで感情的になってたった一人を」
ズキンッとアフィスの胸に痛みが走る。無理に笑う自分の顔が気持ち悪い。
「アマサカ様、今日はこのあたりで失礼します。宿へ向かいますのでこちらはわたくしのお代です」
アフィスは金銭を置くとその場から立ち去った。ギルドから出て、きれいな夕方の空を見上げる。
「……気持ち悪い」
それが何に対してか、自分でも分からなかった。




