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第三十八話

 アイラは息を吐きながらアマサカに体重をそのまま預けた。全部が終わった後、アマサカの心臓の音を聞く。アイラはまだ怖かった。いろんなことが。受け入れることが。それでもこの人の側にいれば大丈夫な気がする。アマサカの心臓の音を耳に残すと、ぐっと勢いをつけて起き上がった。


「よしっ! 私……フィアンさんに絶対負けません! アイラッいつも通りになりましたっ!」


 にひっと笑った。強がりでもなんでもいい。この人を好きな自分がいつも通りの私だ。だからそれを精一杯しようと心に誓ったのだ。アマサカは元気になった様子を見せると、複雑そうな顔をしながらも表情を緩めて喜んでいた。




 二人は衣服を手繰り寄せる。そして服をそのまま着ると、この後どうするかという話になったのだが……アイラは横になった。まだ呼吸が整えられていないのだ。


「うぅ……元気になったとはいえ……その、アマサカさんのアマサカさんがちょっと。なのですごく疲れたというか……当分立てそうにないです。よくフィアンさんできましたね」


 アマサカは照れた様子で頬をポリポリとかいた。その後、最悪のタイミングでフィアンが様子を見に来てしまった。さすがにフィアンもその様子を見ればすぐに気づく。


「なっ! はっ?! ちょっとアマサカ! 私というものがありながらアイラとっ?! んっがぁ!! あぁ複雑ッ! 嫌でもっ、んなぁ!」



 一人暴れるフィアンを見て、アマサカとアイラは面白いなと思った。アイラは宣言する。


「フィアンさん。私、アマサカさんのこと好きなので」


 フィアンはほっぺを膨らませた。


「むっ。私だって大好きだし。超大好きだし」



 バチッバチバチッと視線で火花を起こしながら最終的に笑いあった。どうしようか。どうしましょうかと。変わってしまった関係性の中で、三人はどう解決すればよいのか分からぬまま、みんなの元へと戻った。



 するとドリッグが顔を見せてきていた。


「よぉーアマサカ! 元気になったみたいじゃねーか」


 いつものようにお調子者と言った様子でアマサカの肩に腕を置く。アマサカはなぜここにドリッグがいるのかを知らない。そもそもなぜ元気になったかどうかを聞きに来たのだろうか?


「ドリッグ? なぜここに?」



 ことの経緯を説明するドリッグ。大変だったと、体を大きく使いながら表現していた。


「なるほど。つまりドリッグは俺達を助けてくれたと」


「まぁそういうこったな。ん?」



 ドリッグは鼻をひくひくさせる。そしてアイラの下半身にほんの少し近づいた瞬間、エイリーに蹴飛ばされる。


「なぁにをしとるかこのエロトカゲがぁ!!」


「ぐへぇあ!!」


 グシャリと壁にめり込むドリッグは最後の言葉を吐いた。


「や、やっぱお前らそういう関係なんじゃ、ねぇか」



 レオとガナードがドリッグに駆け寄り、叫ぶように医者を呼んだ。顎が変な方向に曲がっている。エイリーは息切れをしながら睨みつけていた。


「はぁ、はぁ。全く、見境いのない。なぁにがそういう関係……そういう?」



 スンスンッとエイリーは鼻を動かす。事実をはっきりと認識し、ゆら~っとアマサカを睨みつける。


「おぬしぃ……わしという結婚相手がいながら、こんのっ、浮気もんがぁ!!」


「なっ!!」



 アマサカはいつもより本気のエイリーを右腕一本を使って応戦する。エイリーは威嚇顔で言った。


「シネッ!!」


「断るっ!!」


「シャァー!!」



 戦いはエスカレート。エイリーはついに獣の力を解放。瞬時にエイリーの蹴りがアマサカの左側を狙う。左腕のないアマサカに対し、あまりにも容赦がない。アマサカは即座にしゃがみそれを避けた。しかし、すでにエイリーがしゃがみながらもう片方の足で蹴り上げていた。目の前に迫るエイリーの足。


 アマサカは右腕でガード。


「くっ」


 ピリピリッと腕が痺れる。連発される蹴り技。エイリーはより速度を上げようとした時だった。スアリーにコツンッと頭を叩かれ封印魔法を施される。通常状態に戻ったエイリーはパチクリと瞼を開けたり閉じたりしていた。


「ぼへっ」


 勢いが途中で切り替わったせいで頭から畳に叩きつけられる。


「エイリー様。お気持ちはひじょーに分かります。ボコボコにしないと気が済まないのは分かりますが落ち着きましょう。城がなくなります」


「うぇええっじゃってぇーじゃってぇ! アマサカのアホォがぁ」


「えぇ。ですが寝取れば良いのです」


「お主、だいぶイカれてね?」


 その言葉を聞いて、アイラは心当たりしかなく、数歩後ろに下がった。


「冗談です。見たところアマサカ様とお二方とはまだ恋仲ではない様子。であればまだ手はあります。それに側室という手もありますし。アマサカ様は押しに弱いですから。なんならみなさんで仲良く乱こ」


「うん。スアリー。お主ちょっと黙れ。というかそんなにいろいろ知っておるタイプだったとはな。わしは今非常に驚いておる」



 と、こちらはこちらで騒がしいのだが、この会話を聞き取れないほどにドリッグ達も騒がしかった。


「じ、じいちゃん……おれっ、やっと」


 そんな三途の川を渡ろうとしているドリッグに、レオとガナードがあわあわと必死に現実に引き戻そうとしていた。あまりにも騒がしい時間はあっという間に過ぎていく。顎が治ったドリッグは、アマサカ達に大きく手を振りながら帰路についた。アマサカ達も王都に戻ろうとしていた。



 エイリーは寂しそうに呟く。


「……どうしてもいくのか?」


 アマサカはエイリーを撫でながら言った。


「あぁ。俺達の拠点は王都だしな。安心しろ、頻繁に帰って来るさ」


 エイリーはそうじゃない。もっと、ずっとここに住んでほしい。そんな本音を飲み込んだ。


「……ふん。先を越されたのは癪じゃがそれならまぁよいか。よい面になったではないかアマサカ。今度来た時は襲うので覚悟せぇよ」


「……いつも襲われている気がするが」


「分かっておらんの」


 エイリーはアマサカにぴょんっとジャンプし抱きつくと耳元で囁いた。


「この間の、ほっぺへのキスの続きじゃよ。次は最後までやるからの。楽しみか? であればさっさと帰ってくる必要があるの? くくっ」


 ひょいっと離れると穏やかな笑顔でアマサカを送り出した。


「お主がもう……一人ぼっちにならなくて良かった」


 その本音だけは……飲み込まなかった。

 アマサカ達は王都に向かって馬車を進めた。しかし、レドフィアラの中で一人だけがまだユニオンに残っていた。


「さて、レオと言ったか。お主、わしに修行をつけてほしいようじゃの」


「あぁ、よろしく頼む」


「かっ。しかも聖遺物として、父の形見を求めるとはの」


「あの後も何度か、足を運んだんだけどさ。やっぱ、声がするんだよ。だから……多分」


「聖遺物は持ち主を選ぶ。わしではなくお前をか?」


「……なぜだかは、わかんないけどよ」


 エイリーは少し考えながら、レオの体つきを見て分析する。アマサカの所属するパーティーということもある。それに父の形見が聖遺物として反応しているというのは、やはり気になった。


「わしの修行についてこれたら考えてやらんでもない。じゃが相当きついぞ? お主は今、レベルで言えばざっと三の後半。もう少しで四というところかの」


「分かるのか?」


「うむ。アマサカは例外として、あの弓使い、レベルファイブに限りなく近づいとる。あの魔法使いの娘もな。ドワーフも四にはなっておるが序盤というところか。つまりお主が一番弱い」


「……だよな。強くなったと、思ってたんだけどよ」


 次の瞬間、レオの体がぐにゃりと曲がる。エイリーの蹴りによって数百メートルも先までふっとばされる。


「これくらいはあっさりと避けてもらわんと困るんじゃがの」


 壁に全身を強く打ったレオに壁のホコリや砂が降りかかる。突然の攻撃に、レオは不満を訴えかけようとした。


「いっでぇ! いきなりなにすん……」


 すでにエイリーは拳を構え、レオの正面に立っていた。レオの体にエイリーの影がかかっている。


「言っておくが、わしはレベル五じゃ。死ぬなよ」


「はっ?」


 強い衝撃音が響く。セラと違って一切の手加減がない。というよりはセラの場合は効率よく修行させるため休ませたりしていた。そのあたりもちゃんと考えられていた。だが、エイリーの場合は死にかけてから治してを繰り返すスタイルだった。その日からレオはエイリーによって日々死にかける修行の毎日を送ることになった。

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