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第二十九話

 思い出に浸っていたエイリーはゆっくりと目を開ける。アマサカがこの国を去ったあと、ダークエルフのスアリーと交流を続けていたことも思い出す。いつまでも帰ってこないアマサカに愚痴を言い合う仲だった。


 目に映るアマサカは帰ってきた思えば、仲間を作っている。自分のことは放置しておいて。なんか考えていたら段々と腹が立ってきた。


「のぅ、アマサカ」


「なんだエイリー」


「殴ってよいか?」


「許諾するわけないだろ」



 グルルッと威嚇し始めるエイリーを撫でながらなだめるアマサカ。妙に撫で方がうますぎる。エイリーはその心地よさに逆らう事ができず、そのまま眠りへとついた。


「うっ……やめぃ、アマサカ……それ、やっ……くぅー」


 エイリーをなだめ終わったアマサカはレオ達にこう言った。


「見て分かる通り、俺はエイリーと知り合いということだ。さすがに今日はここに一泊するしかないな。今は寝ているが、こいつも俺達を逃がすつもりもないだろうし。お前達はそれでもいいか?」


 アマサカの提案を断れるはずもなく、レオ達は受け入れる。だがフィアンとアイラは頭を抱えていた。ライバルがさらに増えたからだ。面倒なことになったと思いながら、アマサカに撫でられ気持ちよさそうに眠っている姫様を見る。二人はつばを飲み込み、羨ましいと心の中で嫉妬する。


 自分があそこに頭を乗せ、撫でられながら眠ったら……そんな妄想をする二人がニヤついているのを見て、レオはドン引きした。



 エイリーがパッと目を覚ます。


「ん……つい眠ってしまった。なにかに対して、すごく怒っていた気がするがまぁよいか」


「エイリー。ここに一泊するけどいいか?」


「わしがお主の提案をことわるわけがなかろう」


 エイリーは拒む理由もなく、むしろ歓迎する様子で一泊することを承認した。先程の動く部屋へとアマサカ達を誘導するエイリー。



 レオがその中に入ろうとしたときだった。バッと振り向いた。その視線は亜人王の爪へと向けられていた。エイリーはどうかしたのか少年? と問いかけたが、レオは何でもないと答えた。ほんの少し、呼ばれた気がしたと。そんなわけがないか。レオはそう納得し、みんなの後を追った。



 空白の間に全員が入ると部屋がゆっくりと移動し始める。ひとりでに襖が開き、現れたのは机や布団が敷かれた部屋。エイリーはそこを指をさしながら言った。


「ここで休むと良い。食事の時間になれば食事処と部屋をつなげてやる。じゃがアマサカはちとツラを貸せ」



 どうやら何に怒っていたか思い出したらしい。アマサカは空白の間に残った。不安そうなフィアンやアイラに、アマサカは問題ないと伝える。二人はアマサカが戦闘における危険かどうかではなく、恋路的な意味で聞いたのだが、おそらくアマサカはそれに気づいていないだろう。



 そんな心配をよそに、空白の間に二人だけが存在している。その二人きりという状況が起こると同時だった。エイリーは跳躍しながらアマサカに飛び蹴りをかました。


「六年も放置するとはの。これはスアリーの分も含めておるから覚悟せいアマサカ」


「すまん」


 ブチッと切れる音がする。アマサカが不器用だとわかってはいても、それはそれ、これはこれである。そのあっさりとした返答に冷静でいろというのが無理な話だ。エイリーは畳が浮かび上がるほど足に力を入れて跳躍する。そして全身を縦に回転させながら踵をアマサカの頭に落とす。だがアマサカは片腕でそれを受け止めた。


「強くなったなエイリー」


「はっ。これでも手加減しておるよ。わしらが本気だしたらこの城も持たんからの。じゃが死ね」


 エイリーはまるで空中に足場でもあるかのように華麗に舞いながらアマサカに連続攻撃を与えた。軽々とアマサカはその攻撃を捌いていた。



 ある一言までは。


「そんなに長く付き合うことが怖いか。臆病者」



 ぴくっと手が止まった。その一瞬、エイリーは目つきを変える。その目は獣のものへと変わり、速度が何段階も上がった。そのままアマサカは腕をエイリーの足に絡められ、身動きがとれなくなった。アマサカは畳に倒れる。エイリーは足を絡めながらアマサカの胸に座り続ける。アマサカは無理に抜け出すこともできるが、それはエイリーを傷つけることになる。


 エイリーはアマサカの胸に座ったまま、アマサカの顔に両手をつけた。そして顔を覗き込みながら言った。


「わしをごまかせるとでも思うたか。馬鹿者め。お主が個人と深く長く関わることを避けておることくらい見抜いておるわ。あの者たちも関わるようになってからは長くはないのじゃろうな。一年未満というところか」


「……」


 アマサカは何も答えられなかった。しかし、エイリーにとってはそれが返事だった。


「じゃろうな。お主自身はまた逃げようとしておる。違うか? このダンジョンの攻略が終わったら消えるつもりじゃろ。自分のことばかりじゃなお主は。相手をどんなに傷つけても自分を優先するか」


「俺は」


 エイリーは息が当たるほど顔を近づけた。思いの丈をぶつけるように叫んだ。


「わしはっっ!! お主がいなくなってからどれだけ毎日が苦しかったか! 心細かったか……考えもせんかったか? 会いたいと願って一年、また一年と過ぎていく。この痛みをお主にどう与えたらいい? そんな痛みをまたお主はばら撒くのか? 世界中に居場所がなくなるその日まで続けるのか?」


 アマサカの頬に、エイリーの涙が伝う。エイリーはずっと会いたかったと言うと、アマサカを抱きしめた。まるで子供のような泣き顔。届かぬことが悔しい。


 あの日、道でアマサカと出会った。そのあと――自分の心の大部分であった父を失い、突然亜人の上に立たねばならないという大きな責任がのしかかった。その心を支えてくれたアマサカは、エイリーにとって絶対的な柱となっている。ゆえに、アマサカがいなかった期間がとても苦しかったのだ。明日来るかな、今日かな。そんな日々を毎日続けた。激務だとしても、城の前で待ち続けていた。



 アマサカは、言い訳をしようとした。だが、エイリーは何も言わなくてよいと言った。お主の心臓が物語っておると付け加えながら。




 エイリーはアマサカの拘束を解いた。


「わしのやつあたりもここまでじゃ。思う存分ダンジョンで暴れてくると良い。じゃが、叶うことならその恐怖を乗り越えてほしいものじゃな。あの者たちがお主を変えてくれると信じるほかないの。はぁ、次はいつ帰ってくることやら」


 ため息をついて振り返ったエイリーは、一瞬で距離を詰め――アマサカの頬にキスをした。


「これ以上の褒美を与えるのは……お主がその恐怖を乗り越えて成長してからじゃ。よいな?」


 エイリーはアマサカの返事を待たない。空白の間が開くと同時にアマサカの背中を蹴って、レオたちの部屋へと押し込んだ。空白の間が閉じると空白の間は最上階へとゆっくりと移動した。エイリーは中でぴょんぴょんとはねていた。キスしちゃったーと乙女のように喜びながら。




 一方、蹴り出されたアマサカは畳の上に突っ伏していた。目の前でレオが何やってんだお前と見下ろしている。アマサカはこってり叱られたと一言で済ませると座り直した。そして静かに壁を眺める。エイリーの言っていたことも確かだとは思っている。



 ――大切な人を作ることへの恐怖。唯一アマサカが乗り越えられぬもの。エイリーやスアリーの気持ちを知っておきながら、それに向き合うことのできぬ自分の弱さ。まだ、激しい心臓の音がなっている。



 フィアンに視線を移す。フィアンは目が合うと顔をそらした。アマサカはフィアンと約束してしまった。全部話すと。だがその後もまだ、フィアン達のそばにいられるかは……やはりわからない。



 アマサカは一度考えることをやめた。昔の記憶が蘇ってきそうだったからだ。魂に刻まれた呪いに目を向けたくはなかった。



 少しの時間のあと、カコンッと音がして襖が開いた。複数人の亜人達が座っている。頭を下げながら食事の用意ができましたとアマサカ達を案内する。低い机に並べられた食事はアマサカ達だけで食べるには豪勢すぎるものだった。様々な種類の魚が生、焼き、煮るなど様々な調理法で並べられていた。港町に直結しているという理由をあるのだろう。メインは魚料理だった。しかし肉がないというわけではない。


 レアに焼かれたステーキが中央にこれでもかと盛られていた。しかも炭と燻製の香りが鼻をくすぐる。つややかな肉汁が光を反射していますぐにでも手を伸ばしたくなる魅力がある。米に野菜と栄養価として非の打ち所がない。レオはこれ本当に食っていいのか? とアマサカに許可を求める。


 アマサカは構わない。食えとだけ言った。アイラとアマサカ以外のレオ、ガナード、フィアンはガツガツと食事に手を伸ばす。どれもとにかく新鮮、そして歯ごたえは残しながら柔らかい。しかも旨味が段違いである。



 その横でアイラがお酒の入った徳利を、アマサカのおちょこに当てる。ゆっくりと注いでどうぞ呑んでくださいと勧める。アマサカはゆっくりとそれを流し込んだ。米の香りが広がりながらそれを懐かしむ。久しぶりに呑んだこの酒の味と香りが、心を満たすのだ。


「美味いな、やはり。酒の作り方もずっと変わっていないな。アルコールは少々強めながらも、米の風味をうまく残している。喉越しは柔らかく飲みやすい」



 上機嫌なアマサカがうれしいのか、アイラはもう一杯どうですかと徳利を傾けた。アマサカはその酒を受け取りながら、俺のことは気にしなくていいからお前も楽しめと言った。アイラは自分がしたくてしていることですからとお酒を注いだ。



 アイラは自身もお酒を飲みながらレオたちの食事風景を眺めた。明日のダンジョン挑戦が無事に済めばいいなと、この時間に浸った。





 夜、食事も終わり大浴場へ。当然男女別で案内される。フィアンとアイラは服を脱ぎ、バスタオルを体に巻いた。湯船へとゆっくり浸かる。


「「ふぁーー……」」


 二人は大浴場の温泉に浸かりながら声が勝手に漏れる。幸せーと意識が朦朧としていく。フィアンはちらっとアイラを見る。相変わらずいいスタイル。ふと、ある違和感に気づいたフィアンは目つきを変える。


「……胸、大きくなった?」


 アイラはバッと胸を隠す。


「な、ななな何を言ってるんですか?! そんなっ、別に……大きくなんてなってませんよ? ひゃぁっ! ちょっ、フィアンさん。触れるのはッ」


 フィアンは真剣な表情で計測した。そして悲しそうな顔をしながら天井を仰ぐ。



「でっかくなってる……前より」


「はぁっ、はぁっ……他にっ、計測方法ないんですか? というか太っただけですっっ! 最近食べてばっかりだったので!!」


「違うね。明らかに違うね。胸だけが成長したと私は断言する。私は……悲しいよアイラ。また置いてけぼりにするんだね。ぐすんっ」



 もにゅもにゅっとアイラの胸にふれるエイリー。


「ふむ。胸だけならレベル五じゃな」



 アイラは一瞬にして胸をガードした。


「ななななななな!!」



「おお。ついに一文字しか喋れんくなったか。おもしろいのこの娘」



「なんでっ! いるんですか?! というかも、もも揉まないでくださいっっ!」



「わしも入りたいと思うたらおったんでな。わしの城じゃし。足を運べば何やら胸部の話をしているようじゃからの。どんなもんかと」



 エイリーはケモミミをピクピクと動かしながら、湯船に浸かる。


「心地よいのー……ダンジョンが終わったらまたここへ来ると良い。わしは歓迎しておるからな。そしてまた揉ませるのじゃ」


「揉むのはだめですっ!!」


「はははっ。まぁ別にわしは勝手に揉むが。それは置いておいて、明日へ向けて心の準備はできたかの? どういう場所かというのは、よくわかっておるのじゃろ?」


「うぅ……置いてかれました。でも、まぁはい。どういう場所なのか調べはついています。難易度が潜るパーティーによって全く違うという特徴がありますね。再現性はあるようですが……高難易度だった場合の危険度は当然警戒しています。それを前提に準備を進めましたから」



「ふむ。まぁアマサカがおるのなら大丈夫じゃろ。じゃが、あやつも心まで強いわけではない。何を言うとるのか、わからなくても良い。じゃからな、アマサカのことは任せたぞ。わしはうまい飯と風呂、そして温かい寝床を用意しとるでな」



「……はい。私も、フィアンさんも、レオさんやガナードさんも……アマサカさんを支えます。五人でパーティーですから」


「くくっ。それは良いの。土産話を楽しみにしておくかの。わしは先にあがる。お主らはゆっくりとすると良い。まぁそっちの小さいのは……お湯に頭をつけたまま死んだかのように浮かんでおるが」



「浮か……? フィアンさん!?」


 フィアンはぷかーっとお湯に浮かんでいた。どうやらのぼせたらしい。アイラはぽけーっとするフィアンの面倒を見ながら着替えをしてやる。そして先に部屋へと戻り、窓を開けた。夜風に当てながらフィアンとの時間を過ごす。



 窓の外から見えるダンジョン。創造神の作ったとされる塔の一つが天に向ってそびえ立つ。その景色を眺めながら気持ちを高ぶらせた。

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