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第二十八話

 そして次の日、ユニオンへと向かうために馬車へと荷物を載せるアマサカ達。チェックリストを見ながら荷物の最終確認をしつつ、残った作業を進めていく。そして問題なく荷物を載せ終わり、馬車は出発する時間となった。スアリーはアマサカにお辞儀をする。



「早めのご帰還を願っております」


「あぁ。ダンジョンへの挑戦が終われば再び顔を出す。子どもたちは大丈夫そうか?」



「はい。今もぐっすりと眠っております。夜遅くまで食べて遊んででしたから」


「そうか……任せたぞ」


「はい。アマサカ様」





 馬車は動き出す。アマサカの作った居住区からユニオンまではとても近く、一時間程度で向かうことができた。馬車は大通りへと出ると、方角をユニオンへと変えた。巨人対策でもしているのか? と言わんばかりの高い城壁。門を越えていくと周囲は一気に騒がしくなる。そこは多くの亜人達が騒がしい日常を送るユニオンの街。ドリッグが荷馬車に囲われた布を少しめくる。


「かぁー! 帰ってきたなぁー。この騒がしさ。ザ・ユニオンって感じだぜ」


 アマサカはそうだなと微笑みながら言った。やはり一度ここに顔を出したことがあるアマサカも同様の感想を持つようだ。


「この騒がしさは王都の比じゃないからな。亜人が集まる地区は騒がしい。なにせ夜でさえ夜行性の亜人達が活動してるからな。休むことを知らない国だ」


 ドリッグは外を見ながら言った。


「んじゃ、俺はここいらでお別れと行くぜ。楽しい旅だった。この街のギルドに所属してっから、何かありゃ言ってくれ。力になるぜ」


「もう行くのか。いろいろと助かった。元気でな」


「あぁ。ダンジョン、気をつけろよ」




 ドリッグは各々と別れを告げると、馬車から飛び降りた。ドリッグが馬車を飛び降りてから一時間後、馬車はアマサカ達が指示していない場所へと向かっていた。馬車が速度を落とし、ゆっくりと止まる。アマサカ達が馬車の外に出ると、宿ではなく、巨大な城の中に居た。レオはどういうことだ?! と驚愕していたが、アマサカには思い当たる節があるらしい。


「……すまん。俺のせいだ。悪いがこのままこの城の中に入るぞ」





 空を見上げると城の高さは異常で、上部には霧がかかって見えないほどだった。


 黒い外壁、黒い瓦屋根を持つ和風の城へと踏み入れていくと、白木の匂いと香の匂いが漂う。廊下を歩きながら襖だらけの周囲を見渡すと、そのサイズ感が異常だと気づく。以前の亜人王のサイズに合わせているのだろう。襖のサイズが巨大な城壁のようだった。部屋それぞれに何々の間と名前が彫られている。どうやらユニオンに存在する亜人種族の名前を刻んでいるらしい。



 そしてアマサカは一つの部屋の中に入る。その部屋には名前が掘られていなかった。部屋に入るとアマサカは畳の上に座った。


「お前達も座った方がいい」


 アマサカから指示を受けた数秒後、強い重力が身体にのしかかる。レオ達は畳に両手をつき、重力に耐えていた。そして重力がなくなると、ぜーはーぜーはーと息切れをしながら座り直す。


「なんじゃこりゃ……」


 戸惑うレオに、アマサカは説明する。


「からくり屋敷だ。この城の部屋は縦横自由自在に移動させられる」


「すごいけど疲れないか?」


「本来はこんな速度ではない。それに最上階まで連れてこられたことも起因しているだろう。全く、相変わらず人のことを考えない小娘だ」





 ガラッ!! と襖が開けられる。何か小さなものがビュンッと飛び出してくる。それはアマサカの顔に抱っこをするように引っ付いていた。アマサカはその状態のままそれに訴えかける。


「ふぃきがふぇひん」


 訳:息ができん。



 その小さなものはより力を込めながらアマサカに怒鳴った。


「こんの大馬鹿もんがぁッッ! スアリーから聞いたぞお主ッ! ここに寄ることなく次の場所へと赴こうとしたようじゃなっ!! 襲われても文句は言えんじゃろ!!」



 困惑している周囲をよそにアマサカはその小さなものを引き剥がす。脇の下を掴まれ、抱っこ状態のその小さなものは蔑むような目をアマサカへと向ける。アマサカはいつもの調子でその小さきものに挨拶をした。


「久しぶりだなエイリー」


 エイリーと呼ばれた少女はガシッと素足でアマサカの顔を踏む。


「なぁにが久しぶりじゃ。帰ってくるつもりもなかったくせに……!

 はぁ。まぁよい。お主はそういうやつじゃ。にしてもずいぶんと大所帯になったものじゃな。ここじゃ息苦しいじゃろ。ついてこい皆のもの」



 エイリーは指示を出し、アマサカから畳におろしてもらった。白き髪。狐の耳を持ち、着物を纏った小さき少女エイリーは襖を全開にする。そして部屋から出ると、水の音がする。水の音の正体は自分たちの足音だった。



 天に遮るものはなく、床にはすべてを反射するかのような清らかな水面。まるで水面に浮かぶ庭園のようだ。エイリーが水面を歩きながら進む先に、大木が一本――そびえ立っていた。



 麓には小さな墓石。そして、元亜人王の爪が一つ残されていた。

 振り返ったエイリーは近くに足をあげて休憩できる場所があるから、そこで休めと提案する。



 アマサカ達は、この庭園の一角にある休憩場へと登っていく。なにもない白木の広場という印象。アマサカ達はそこに座り、エイリーの次の行動を待っていた。


「さて、アマサカ。お主……このまま定住しろ」



「断る」


「なぜじゃ。わしはお主の嫁じゃろうが」




「「は?」」



 アマサカとエイリー以外が完全に固まる。


 エイリーの衝撃的すぎるセリフに、情報の整理が追いつかないのだ。とくにフィアンとアイラなど、涙を浮かべている。


 アマサカは即刻否定する。


「お前の嫁になった覚えはない。全くもってない」


「じゃがわしはお主の嫁になると決めたぞ?」


「分かったかお前ら。現亜人王はこういうやつだ」


「侮辱しとる?」



 アマサカは説明に入る。昔、ある出来事をきっかけに知り合ったこと。そしてそのまま求婚されたこと。昔はずっとおんぶ状態で抱きつかれていたことなどを話した。だが重要な部分を話していないことに、エイリーは気づく。


「なんじゃお主、仲間なのに話しておらんのか」


「あぁ。あえて言うようなことでもない」


「それではこやつらも納得せんじゃろ」


「それでいい。今はそれで」



 エイリーはため息をついた。そしてアマサカと出会ったあの日の出来事を思い返していた。



 ――幼きエイリーは城の中を駆け回って助けを求めていた。父である亜人王の様子がおかしかったからだ。


 その要請はギルドへと届く。ギルドは当時の最高戦力の一人と、その連れが近くの街にいるのを確認し、ユニオンへと派遣した。彼らがユニオンへと向かうまでの間、エイリーは今か今かと待ち続けていた。



 待ちきれなかったエイリーは身バレ防止の仮面をして、街へと繰り出した。それはさらなる人員を探すためだった。エイリーも亜人王の娘、強さを見極めることくらいはできると考えてのだ。しかし、エイリーが思っていたよりも世の中は弱いものたちばかりだった。


「あれ? ここどこ?」


 頼りになりそうなものが誰も見つからぬまま、夜の時間がやってきた頃。箱入り娘だったエイリーは、自分がどこにいるのか分からなかった。顔を上げ、自分の城の位置を確認する。距離としてはだいぶ離れていた。エイリーは自身の強さを分かっていたが、それが心と同等とは限らない。心細さの中、夜の亜人達が街へと姿を表し始める。城と違い、ずっと騒がしい街の中。ついには息苦しさで一歩も歩けなくなったときだった。


「何をしている」


 声をかけられた。これがアマサカとの出会いだ。足音がしながった。気配もなかった。エイリーは不思議に思いながらも、褐色の女性と歩くアマサカに助けを求めた。


「城への帰り方が分からぬのだ。連れて行ってくれないか?」


「……仕方ない。道案内くらいはするか。それでいいなスアリー」


 アマサカは視線を当時のスアリーに向ける。スアリーは静かに頷いた。まるで荷物のようにエイリーを持ち運ぶアマサカ。歩き始めてからある程度時間が経った頃、一人の青年がアマサカの前に立ちふさがる。


「おいお前ッッ! そんな小さい子を誘拐するなんて。許せんっ! その子を離せッッ! このロリコン!!」


「誘拐ではない。そしてロリコンでもない」


「子供二人を連れて何を言うか!!」



 それが若き日のギルド長、ダミアとの出会いだった。フードを被り、仮面をした状態で姿を隠しているとはいえ、身長などから子供とバレても仕方がなかった。アマサカは飛びかかったダミアを片手だけで軽く制圧すると、ダミアの連れが声をかける。


「そのへんにしてもらえんか?」


 その老人はよぼよぼと歩きながら、アマサカにダミアを解放するようやさしく頼んだ。だが、アマサカは初めてこの世界で本気の警戒をした。エイリーをおろし、戦闘態勢をとろうとした時だった。老人はそれを止めさせた。


「戦う意思などないよ。そもそもわしじゃお前さんには確実に勝てんし。ほれ、青二才。ゆくぞ。亜人王からの依頼じゃからな。こんなところで道草を食っているわけにはいかん」


 ぴくっと荷物状態のエイリーが耳を反応させる。


「お、おぬしら、王都のギルド、メイアースから派遣されたものたちか?!」


「そうじゃが? おまえさんは?」


「わしは亜人王の娘じゃ! 頼む……父様の様子がおかしいのじゃ。早く助けを呼び……殺せと懇願するのじゃ……どうか、混乱したわしの父様を、助けてほしい!!」


「ふむ……事態は急を要するようじゃ。ちと、いそぐかのぉ。この青二才はわしが運ぶ。そこの御仁。その子を一緒につれてきてくれるかの? 少々早いがおまえさんなら大丈夫じゃろうて」


 アマサカは面倒事に巻き込まれたなと空いたもう片方の手でスアリーを抱きかかえる。老人も若き日のダミアをおんぶすると、一歩前へと出た次の瞬間、その跳躍はユニオンの遥か上を飛んでいた。眠らぬ街を飛び越え、アマサカ達は最上階へとたどり着いた。



 白き毛皮を纏いし亜人王。毛先はゆらゆらと揺らめき、電気がチリチリと発生している。顔は苦痛に歪み、うずくまっていた。片手で頭を強く抑え、食い込んだ爪によって、水面が赤く染まっていく。血走った目でありながら、どこか助けを求めるようだった。アマサカは二人を下ろすと刀の柄に手を乗せた。亜人王は叫んだ。


「我を殺せッッ!」



 理由を聞いている暇などなかった。その殺意はあのアマサカが冷や汗をかくレベルだったからだ。老人はアマサカの隣へとやってくると、自分の戦闘スタイルについて話す。アマサカはそれを聞くと自分の作戦を伝えた。そして老人はアマサカの前へと立った。向き合った亜人のに老人は問いかける。


「後悔はないな? 亜人王よ」



 亜人王はすでに言葉を話せる状態ではなくなった。激しい戦いの後、アマサカは片膝をついていた。大量の汗をかき、冷静さを見失い、過呼吸に陥っていた。スアリーはすぐさま駆け寄り、大丈夫です、もう終わりましたと落ち着かせる。


 一方老人は、その場に倒れていた。まだ息はある。だが、重篤な状態だった。そして亜人王は――亡骸となった。その亡骸にすがりつくようにエイリーは泣きじゃくっていた。父様、どうして。死なないで。エイリーが望んでいたのは健常に戻ること。だが実際はこうなってしまった。エイリー自身も分かっている。こうするしかなかったと。それでも、家族が死ぬのはつらい。



 激しい戦いを、見ていることしかできなかったダミアは老人に駆け寄り治療を始める。だが老人はそれを拒否した。


「治療でなんとかなるものではない。わしは引退じゃな……右腕と右足が動かんくなった。無理をしすぎたようじゃ。ダミア。お前はまだまだ若いが、ギルドのこと……頼んだぞ」


「マスター!!」


 老人は回復のために眠りにつくがまるで気絶するかのようだった。そして時間は経ち、ダミアと老人がギルドへと戻る日がやってくる。


「それではアマサカさん。私たちはこれで。もし王都によることがあればギルド、メイアースに立ち寄ってください。それから、今回の依頼報酬は山分けということにさせてください」


 ダミアはそう言い残すと老人をおんぶしながら、王都へと帰っていく。一方アマサカはこの城にまだ滞在していた。傷はほとんど塞がっていたが、激しい戦いのあとで休息を求めていた。それにエイリーのことが気になっていたからだ。



 エイリーはアマサカが休んでいる部屋へと足を運んだ。


「アマサカ……父様の遺体が消えた。そういうものか? わしは……死を知らぬから」


「……ありえないな」


「……なぜこうなってしまったのじゃ。父様の遺体さえ消えた。残ったのは爪一本じゃ……わしはっ……わしはただ、父様と静かに暮らせたらそれで良かったのに」


「それを知ることは難しいだろう。当の本人は……俺が殺してしまったしな」


「わしは……父様の代わりにこの国を背負わねばならぬ。まだ教えてもらってないことばかりじゃと言うのに」


 エイリーはアマサカに抱きついた。抱きつきながらも、今後について語る。


「わしはこのまま亜人王を名乗る。性質の違う亜人達をまとめるにはどうしても必要なことじゃ。父様は寿命で亡くなったことにする。本来であれば国民に遺体を見せてやりたいところじゃが、先程行った通りじゃ。それに、遺体が無くなったことが世間にしれてしまった。沈静化は図るが難しいじゃろう」


 アマサカは頭を撫でる。


「お前は役割をしっかりとこなそうとしている。充分だ」


「わしは……父様に胸を張れるじゃろうか」


「俺が保証する」


「お主、近々この国を出るのじゃろう?」


「そうだな」


「次はいつ、足を運んでくれるのじゃ?」


「……いつだろうな」


「……明日」


「無茶いうな」


「嫌じゃ嫌じゃ! 一緒に居てほしいのじゃッッ!」


 エイリーはより一層強く抱きしめる。


「一人は……心細いのじゃ。アマサカ――わしと結婚してくれ。そしたら離れてもずっと一緒じゃ。できることならずっと」


「それはできない。俺は結婚をするつもりは」


 その言葉を聞くと一瞬、エイリーの目が丸くなる。けれど、ほんの少しだけ微笑んだ。


「――わしがそう決めたのじゃ。わしはお主としか結婚せん。覚えておくのじゃぞ。一国のお姫様からのプロポーズを断る大バカものめ。わしはお主を絶対に逃さぬ」



 エイリーはゆっくりと離れる。泣き顔のくせに無理に笑った。


「わしはお主の帰りをいつまでも待っておるからな!」



 その後、アマサカはユニオンにて孤児となっていた者たちに出会った。彼らを全員引取り、その面倒をスアリーへと任せる。亜人王討伐の多額すぎる報酬をすべてスアリーへと譲渡した。アマサカはそのまま――一人で旅を続けた。

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