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第二十七話

 ――馬車がゆっくりと速度を落としはじめた。王都と遜色がないレベルの大国家が目の前に広がっている。様々な種族が入り乱れるこの国、ユニオンは門の外からでも分かるほど活気に溢れている。


 しかし、馬車はそんなユニオンの正面道路から外れ、森のある細い曲がり道を進んだ。木々のゆらぎが静かに音を鳴らす。多くの木がユニオンの活気の音を遮ることで、ここは静かな空間となっていた。


 そして馬車は足を完全に止めた。目の前には森の中に作られた小さな居住区。木材を中心とした建物が多く並んでいる。その居住区では人や亜人が楽しそうに暮らしている様子が伺えた。馬車から降りたフィアンはエルフの森での生活を思い出し、涙が出そうになる。ぽふっと頭をアマサカに撫でられた。


 フィアンは、ニッと笑いながら言った。


「やさしーじゃん。アマサカ」



 ただの気まぐれだと、アマサカは小声で返事をする。そしてどうしてここに来たのかと言おうとすると、フィアンに似た身長のダークエルフが姿を見せる。大きな杖を持ってゆっくりと近づいてくる。そして片足を地面につけて頭を下げる。



「お久しぶりです。アマサカ様。ずっと、待ち焦がれておりました」


「久しぶりだな。スアリー。役目はちゃんとこなしているようだな」


「はい。主人様の仰せのままに」




 フィアン含む一同は状況を飲み込めずにいた。レオは頭をかきながら、アマサカに説明を求める。



「あー……っと、その説明してくんね? この子はだれで、ここはどこなんだ?」


 スアリーと呼ばれたダークエルフは立ち上がると、レオに軽く会釈をした後に言った。



「私はダークエルフのスアリー。アマサカ様の――奴隷です」



 レオは鋭い目をアマサカに向ける。


「おいアマサカ。見損なったぜお前。奴隷を飼いならす趣味だったのかよ。しかも長い間放置してたってことだよな。しかもこんなちいせぇ子を」



「落ち着けレオ。ちゃんと言い訳はする。そしてスアリー。お前は奴隷ではないと何度も言っているだろ」


 スアリーは表情を変えずに答える。


「いえ、私は主人様の奴隷です」




 ため息をつくアマサカ。説明する前に腰を下ろす場所を提供してくれと言うと、建てたばかりの大きな家へと案内してくれた。大きな机を囲むように一同は座る。



 フィアンはある疑問点についてアマサカに訪ねる。


「ねぇアマサカ。あの子、本当にダークエルフなの? だってダークエルフは……絶滅したはずだけど」


 アマサカの代わりにスアリーがその疑問に答えた。


「私が答えます。私は間違いなくダークエルフでございます。数の減少と混血。そして少人数に分かれ、姿を隠すという生存方法の選択。これらが重なり絶滅したと認識されているのでしょう。

 少し……昔話をします。私が小さい頃、魔族の襲撃にあいました。生き残ったのは私だけです。私は奴隷として売られることとなりましたが、オークション会場へ向かう途中、アマサカ様に助けられました」


 スアリーは、あの頃と変わらぬアマサカを一目見る。特別な感情を向けながら話を続けた。


「私たちは旅の途中、ユニオンへと足を踏み入れました。そこで出会った二人の冒険者と一時的にパーティーを組み、亜人王を」


「スアリー」


「申し訳ございませんアマサカ様。

 話を戻しますと、アマサカ様はある依頼をこなすことで、巨額の資金を得ました。そして……ユニオンで問題となっていた孤児達をアマサカ様は引き取りました。この居住区はすべてアマサカ様のその資金によって成り立っています。アマサカ様はそのまま旅を続けました。ですが私は……アマサカ様に指示された通り、孤児の子たちの面倒を見るべくここに残りました」



 以上ですとスアリーは頭を下げる。ちらりとアマサカを見ると、アマサカはスアリーに頼み事をした。


「スアリー。道中で奴隷の子達を拾った。突然のことですまないとは思っている。その子たちの面倒を見てもらいたい。お願いできるか?」




 スアリーはピクッと眉が動く。何かを訴えるように数秒無言の後、静かに頷いた。そして立ち上がってくださいとお願いをすると、アマサカは素直に立ち上がる。スアリーはアマサカの胸に抱きついた。顔を埋めてそのまま擦り付けながら強く抱きしめる。それだけで、スアリーがどれだけアマサカに対して特別が感情があるのか周囲は理解する。


 無言でアマサカから離れるスアリー。リザードマンのドリッグはチラッとアイラとフィアンを見るとほっぺがパンパンに膨らんでいた。心の中で、モテるって大変なんだなと彼女たちをねぎらった。



 スアリーは表へと出ると、大きくなった孤児達を集める。


「いいですか。今日から多くの新人さんたちが入ってきます。ここでのルール、そして面倒を私たち全員で見ます。ただし、あなた達と同じように心に傷を負った者たちです。それを忘れずに家族として受け入れるように。主人様に恥じないよう心に留めておきなさい」



 恐る恐る馬車から奴隷だった少女達が姿を現す。孤児たちはしゃがみ、警戒心を解くように会話を始める。スアリーは住居を増やさなければなりませんねと呟いた。



 その様子を見ていたアマサカは問題なさそうだと安心する。



 指示を出し終わったスアリーが、アマサカに別室へ来てほしいとお願いした。アマサカは案内された別室で上半身裸の状態となる。スアリーの目に映るのは昔と変わらぬあまりにひどい傷だらけの身体。スアリーはベッドの上に膝立ちとなり、アマサカの背後へと回った。そして、ゆっくりと自分の衣服を脱いだ。素肌を当てながら目を閉じる。アマサカは触れられながらスアリーに言った。


「スアリー。成長したな」


「はい。ここの管理者としての時間も長いですから。どうして早く帰ってきてくれなかったんですか?」


「……傷つける意図はないということを理解しておいてくれ。恐怖だ」


「恐怖、ですか」


「あぁ。俺は……大切なものが怖い」


「……わかります」


 スアリーはゆっくりと離れる。


「問題ありませんアマサカ様。封印術式にほころびはありませんでした。侵食の進行はございません」


「あぁ。分かった。ごくろうさま」



「いえ。アマサカ様の為ですから」



 扉が開く。フィアンが入ってきたのだ。


「アマサカー。なんかドリッグがメシ食いたいって……ひぐっ……ぅっ、そう、だよね。長い間一緒に旅してたもんねっ」



「待て待て待て待て! そんな関係ではない!」


 慌てるアマサカをよそに、スアリーがぴとっと素肌を重ねる。


「私は大歓迎でございます」


「話をややこしくするなスアリー!!」



 フィアンが超号泣状態で飛び出そうとした瞬間、アマサカが全力でフィアンのお腹に手を回す。荷物のように持ち上げるとフィアンは暴れた。


「うわぁー! 離せバカー! アマサカのばかー!! ロリコン!!」


「やめろっ。暴れるな、そしてそんな言葉を大声で叫ぶなッッ」


 アマサカは慌てるようにフィアンを部屋の中へと閉じ込める。息切れをするアマサカを見て、スアリーは珍しいなぁーと眺める。



 荷物のように抱っこされたまま、フィアンは落ち着くと小さく震える声で言った。


「じゃあ……説明しなさいよぉ……」



「はぁ……あまり、言いたくはなかったが……スアリーは封印術式が得意なんだ。旅の途中でそれを知った。ダークエルフは代々その封印に関する能力を受け継いできたらしい。そして俺には封印が施されている」



「何が封印されてるってのよ」


「それは……今度話す」


 ジタバタと暴れるフィアン。抗議しているようだ。


「あぁっ! 暴れるなッッ! お前との全部話すという約束に関わりがあるからだ。ちゃんと二人になったときにすべて教える……だから落ち着け」


「ぶーっ」


「いいか? つまりだ。俺はスアリーによって安全に生きれる状態というわけだ。そのメンテナンスをするためにこうして素肌で触れられていた。だからそういう意図があったわけではない」


「あぁもう……分かったよ。理解しましたー。別に言いふらしたりしないから離して」



 フィアンはアマサカから解放される。


「……アマサカがいろいろ抱えてるのは理解したから。今は言及しないけど全部話してくれるって約束、ちゃんと果たしてね」




 ――その日の夜。大宴会が開かれる。明日はついにユニオンへと足を運び、再度アイテムを補充する。そしてついにダンジョンへの挑戦となる。そして居住区に住む者たちから主人への祝福、あらたな仲間への歓迎など、いろんな理由が込められていた。



 レオが巨大なキャンプファイヤーの前で、肉の刺さった串を持ったままぼーっとしている。ガナードが隣に座る。

「なんじゃ、怖いのか」


「んなわけねぇだろ。怖くなんか……いや、ちっとは怖いな。楽しみってのもある。いろんな感情が入り混じってるよ」


「わしもじゃ。ダンジョンに挑戦するなんぞ、もっと先のことと思っていた。じゃが、それももう目の前じゃ。たとえうまく行かなくとも全員の命を守って王都に帰る。それがわしの誓ったことじゃ」


「俺は……生きるのもそうだけど、何か積み上がるものがほしい。成長がしたい」


「それでよい。お主はそれでよい。守るのはわしの仕事じゃ。じゃからお主はわしの分まで前を向け。仲間と共にな」


「……あぁ」



 一方その頃、アイラはキャンプファイヤから離れた森の中にいた。隣にはアマサカが立っている。

「どうだアイラ。魔力の取り込みは」


「はいっ! だいぶできるようになりました。今なら魔力瓶を何本か飲んでも自分の魔力の形に変換できます!!」


「間に合ったな。だいぶ無理を言ったが、その成長速度は褒められるべきだ。よくやった」


「へへ……えへへ」


 アイラは両手をほっぺに当てて照れていた。魔法の方はどうだ? と聞くとアイラがギクッとてれ顔が落ち込み顔へと変化する。


「それがぁ……その、まだ出なくて。ずっと練習してるんですけど……」


「……仕方ないな。ダンジョンに挑戦しながら進めるしかない。魔力を取り込めるようになっただけ上出来だ。一つ使えるようになれば、他の基本属性の魔法も使えるだろ。今は初級魔法のことだけでいい。それ以外はすべて無視しろ」


「はいっ! 言われた通りがんばりますっ!」



 アマサカは背を向ける。その背をおいかけるアイラ。ふと、抱きついたらどんな反応をするだろうかとアイラに魔が差す。けれど行動に移す勇気はない。臆病者と心のなかで呟くと、アマサカの隣を歩いた。


「楽しみですね。ダンジョンッ! ユニオンについて、一泊したらすぐに挑戦ですっ!!」

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