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第二十六話

 翌日の午後、ガナードは友人たちに呼び出された。二日酔いの痛みが頭を襲う。手で頭を抑えつつ、訪れた場所は工房層の端っこ。そこは友人の一人が鍛造した武器のテストに使っているところだった。地下へと続く階段を降りていく。そして重厚な金属扉を開けた。



 円柱状の空間へと足を踏み入れる。井戸の底にいるかのように、首を上げれば空が見える。周りを見ればドワーフの国らしく、メカメカしい内装。金属のパイプや銅などが張り巡らされていた。ガナードはあたりを確認して、友人たちがいないことを不思議に思っていた。


「おーい。来たぞー」



 テストの管理室にいるのだろうと、大きな声を出す。カランカラン……と、内装の金属とぶつかりながら一つの石が投げ込まれる。



「これは……魔道具か。石の中に魔法陣――いや、太古の文字? これは失われた技術だったはずじゃが……」


「来たかガナード。そいつは俺の失敗作だ。数センチ程度の魔法障壁しか出せない」


 銅で作られたパイプの先が拡声器のように広がって、ガナードに声を届ける。


「何を言っておる。形にできただけでも技術等級が跳ね上がるぞ。この国では貴族という区切りではなく、その技術力で評価される。それを考えれば遊んで暮らせるほどの」


 友人の一人は笑う。


「はははっ。ガナード。俺がそんなものに興味を持たないことくらいは知っているだろ。それに試作品がもう完成間近だ。そしてそれを――お前にやる」


「やるだと?! それが一体どれだけの……」



「あぁ。富を友人に渡すようなものだ。だからどうした。富をお前に渡して、お前が無事である確率が増えるのならそれでいい。剣も盾も、大切なものを守るためにある。金のためじゃねーさ」



 ガナードは目を見開いた。二日酔いなど吹っ飛ぶほどの言葉を受け、手の中に収まった魔道具を握りしめた。そして友人は続けてこう条件を出した。


「使いこなせるようになるために、ここでトレーニングを受けてもらう。どんなに優れた装備でも、使い手が未熟なら宝の持ち腐れだからな。段々と難易度が上がっていくから気をつけろ。全てを避けるか守れ。以上だ」



 カシュッという何かが加速する音。ガナードの顔の横に、射出された石が見えた。死角から飛んできたその石にガナードは反応できなかった。頭が弾かれるように石が当たる。だが、このトレーニングは止まることなく即座に次へと進む。再びカシュッという音がする。ガナードは目つきを変え、石を握りしめて戦闘態勢を取る。視線を素早く動かし、飛んできた石の位置を把握する。



 そして、魔道具に魔力を込めて数センチの障壁を出した。しかし思った通りには行かなかった。座標が合わないのだ。顔面に石が衝突し、額から血が流れる。友人の声がパイプから届く。



「やめておくか? ガナード」


「答えは……お前が知っておるだろ」






 ――夜。ガナードの自宅でアマサカ達はくつろいでいた。アマサカ以外は装備を各々職人に預け、強化や修繕に出していた。そのため、長旅の疲れを癒やすようにのんびりとした時間を過ごしている。そんなのんびりした時間に紛れ込んだのは一人の家主。



 ガチャッ……と扉が開く。レオはパンをかじりながら扉の方向を見た。家主のガナードが帰ってきたんだろうなと。だが、ガナードの姿を見た途端、パンを口から落とした。


「……は!? いやいやいやおいまてよ! ガナードだよな? 顔パンッパンに腫れて一瞬判別できなかったぜおい! 胴体も痣だらけじゃねぇか!!」


 パンを置いて駆け出す。少女たちの面倒を見ているのでアイラはフィアンと一緒に別の宿にいる。そのためヒールを使えるものがここにはいない。仕方なくポーションを取り出して頭からかける。


「何がどうなったらこうなるんだよ!」


「もご、もごごごもご」


「わりぃ。何言ってっかわかんね。顔ボコボコすぎてまともに喋れないのか」



 急遽、アイラとフィアンを呼び出した。そしてアイラにはヒールを、フィアンには薬を調合してもらった。腫れは引いていき、喋れる状態には回復した。


「すまぬ。ちと修行をしておってな」



 多くは語らず、水を飲むガナード。その日の時間は流れ、就寝まで一刻という時間だった。宿から一度フィアンが戻って来る。あの後、ガナードのためにさらに薬を調合していたのだ。そしてリビングにはガナード、アマサカ、フィアンがいた。


「はいこれ。あんまり無理しないでね。ナディさんも心配してたんだから」


「すまぬ……当分この薬の世話になるじゃろう」


「無理する気マンマンじゃない……」


「……実はな」



 ガナードは事情を説明する。どんなトレーニングをしているのか。使う魔道具はどんなものなのか。


「というわけじゃ。魔道具の扱いと、攻撃の予測が難しい。お主は確か魔物の気配を察知して予測ができたはずじゃろう? コツを教えてくれんか」


 フィアンは頭を悩ませる。


「んー……石だと気配は感じないからなぁ。生物だったら死角でも把握できるけど……」


 アマサカはガナードの背後に立った。ガナードが不思議に思い、背後を振り向くと同時にアマサカは言った。


「ガナード。お前は今、どうやって俺が背後に来たことを知った」


「何を当たり前のことを。音がしたからじゃ」


「俺やフィアンのように気配を探る能力を使う必要はない。大事な能力ではあるがな」


「何が言いたいのだアマサカよ」


 アマサカは目を瞑る。フィアンにその辺のものを投げろと言った。フィアンは容赦なく近くにあったペンをぶん投げる。アマサカは目を開けることなくそれをキャッチした。



 ガナードは驚愕しながら問いかける。


「どうやったのだアマサカ」


「音がしたからだ」


「……」


 目を細め、訴えかけるような視線をガナードはアマサカに向けた。


「そんな目で見るな。ちゃんと説明する。俺やフィアンが使っているのは第六感と呼ばれるものに近い。魔力や五感を通して生物かそうでないかを判断している。ただこれは幼少期から長い時間訓練をする必要がある。過信すれば逆にピンチに陥ることもあるがな」


 フィアンは思い当たる節があるため、ウッと胸を抑えてダメージを受ける。


「俺が今やったのは、聴覚による情報を最大限に活かしただけだ。音を聞く、その場所を見るということは誰にでもできる。だがもっと正確な位置や形、速度を判別する」


「そんなことが可能なのか?」


「今やって見せただろ? 音の波を捉えるというコツがあるんだが、結局経験が物を言うからな。ある程度は教える。訓練の方法もな。あとは自分で導き出せ」


「うむ……よろしく頼む」



 その後、ガナードはアマサカからは五感の強化方法や考え方、フィアンからは魔道具のコツを夜通し教えてもらった。




 ――次の日の朝。ナディのたっぷりな朝食で腹が丸まったガナードは、またあの訓練場に来ていた。友人たちも集まっている。ガナードは戦闘態勢をとる。手にもつ斧を地面に軽く叩きつける。音の波長を捉える補佐だ。カシュッという音と共にガナードは魔道具に魔力を込める。


 フィアンから魔道具のクセを把握するようにと言われていた。最初は戸惑い、うまく扱うことはできないと思う。けれどその形や速度、硬さなどの情報がいずれ当たり前になる。だからよく観察すること。


 フィアンのアドバイスを胸に現実へと目を向ける。ガナードの出した小さな障壁は座標が少しズレたものの、石の軌道を変えることに成功した。


「うぬ。これを続ければ成ちょゴヘッ」


 気を抜いたガナードの頬に石が当たる。どうやら一回ごとに休憩があるとかではないらしい。


「油断したなガナード。一からやり直しだ」





 ――それからドワーフの国を出る直前の日まで、ガナードの顔はボコボコに腫れ上がるのだった。そして出立前日。大量の石がガナードに向かって射出される。カチンッという石の弾かれる音が無数に重なり合い、まるで雷の轟音のように聞こえた。すべて捌き切ると、そこへガナードの友人たちが足を踏み入れる。



「おつかれガナード。間に合ったな」


「もごご、もご」


「……すまん。やりすぎたな」



 過去一腫れていた。笑ってはいけないのだが、友人たちはブフォッと笑ってしまう。ガナードは拳を握りしめ訴えかける。まるでぶん殴るぞとでも言わんばかりだった。


「あはは。悪い悪い。ブフォッ」



 友人三人は頭に大きなたんこぶを作りながら咳払いをする。


「ごほん……あー、ガナード。これが俺達の作ったお前の装備だ。鎧、盾、斧。これで二回目だな。お前がレオと一緒に旅立つ前が一回目だ。懐かしいな」



 鋼鉄の鎧、重量が増え、レアメタルを使った頑丈な斧、そして白銀の何も描かれていない盾。だがその仕組みをガナードはよく分かっていた。しんみりとした顔で、ガナードは礼を言った。


「もごご、もご」


「「だはははははははは!」」



 カチンッとガナードは頭にくる。せっかくいい感じの雰囲気だったと言うのに。そして、増えたたんこぶを抑えながらガナードの友人たちはガナードの背中を押す。


「レオのことも頼んだぜ。死ぬなよガナード。最後に見たお前の顔がそれじゃ、笑えねーからな」







 ――出発の日。ガナード達は馬車へと乗り込む。ナディはレオとガナードを抱きしめる。


「無事に帰ってきてね。待っているから」



 そしてナディはこの一週間、面倒を見てきた奴隷だった少女達にも手を振る。


「また美味しいご飯を食べに来てね」


 少女達はそれぞれの思いで手を振り返した。馬車は山を登っていく。ここを超えた先に多種族国ユニオンが存在する。だがアマサカはユニオンの手前にある区域に行くように指示を出した。フィアンは問いかける。


「そこに何かあるの?」


「あぁ。あの奴隷だった少女達を預ける。あそこには知り合いがいてな」


「へー。知り合い……ね。その人って女?」


「あぁ。昔……一緒に旅をしたことがある。期間は短いけどな」


「……むすっ」


 フィアンはほっぺを膨らませ、そっぽを向いた。

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