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第二十四話

 アフィスは村に急いで戻り、他の村人である亜人達に協力を要請。アマサカは周囲にいる通常のグラフトボーンの始末に入る。数分で戻る、その刀からは腐った血が滴っていた。刀を振り払い、その血が地面に描かれる。


 残ったグラフトボーンもレオ達によって全滅。戦いが終わるとアイラの隣にアマサカが出現する。言葉を交わそうとしたが、アイラは突然持ち上げられた。片手で荷物のように抱っこされる。


「ふぁわぁぁっ! アマサカさん?!」


「すまん。急ぎだ」



 ギュンッとアイラの身体に重力がかかる。アマサカはアイラを持ったまま屋根を飛び乗って移動する。あまりの早さにアイラは気絶しそうになった。到着した先でぐったりとした亜人の少女達を見るとアイラはすぐさま回復フィールドを作る。マジックバッグから大量のポーションを取り出した。即座に村人に指示を出し、それを彼女たちに使うようにと言った。自分自身は魔力の瓶を取り出し、グイッと飲み込む。


 これは……推奨される行為ではない。自分で取り込み、生成したわけではない外部の魔力を一気に飲み込むこと。何が起きるか。それは身体が拒絶反応を起こし、気持ち悪くなるからだ。実際アイラも吐きそうな顔をしている。飲めば飲むほど、気持ち悪くなっていく。飲めば飲むほど視界が眩む。自分の意思では本来抗えないような吐き気。


 それでもアイラは続けて何本も飲んだ。その結果、アイラ達の助けもあって亜人の少女達は眠ってはいるが回復し始める。アイラはその場から離れ、誰も見えない位置に移動すると我慢していた分の嘔吐をした。


「はぁっ……はっ。うっ!」



 アマサカが背中をさする。


「よくやった。急激な魔力の取り込みによるものだな」


 アイラは頭をほんの少しだけ動かし、頷いた。アマサカに看病され、アイラも体調を回復させていく。





 そして翌日、アフィスはレオ達に深く頭を下げてお礼をした。


「こちら報酬になります。このたびはこの村を救っていただき、ありがとうございました」


 深々と下げられた頭。レオは報酬を受け取るとあまりの多さにちょっと引いた。


「こんなにもらうような仕事じゃ」


「いえ……元々用意していたものです。どうぞ受け取ってください。ね、アマサカ様」


 謎のグラフトボーン討伐を視野に入れれば確かに妥当とも言える金額だった。どうやらアフィスは謎のグラフトボーンについては誰にも話していないらしい。続けてアフィスは言った。



「亜人の少女達はどうしましょう。我々で引き取ってもいいですが……彼女達は奴隷のようです。今は一言も喋れないような状態ですし」


「俺達で引き取る」



 アマサカの衝撃なその一言に一同驚愕。レオは言った。


「いくら高い報酬もらったからって、こいつら全員の面倒なんか見きれないだろ!」


「問題ない。あてはある。絆に軽薄な村に置いておくのも気が引ける」


「おおおおい!! 村長がいる前で言うか?!」


「大丈夫だ。そのあたりの違いや現実を問題なく把握している女だ」



 アフィスは大丈夫ですよーっと手を振る。戸惑うレオをよそにアフィスは話を続ける。


「では、馬車をもう一台用意しましょう。なにぶんあの馬車一台ではぎゅうぎゅう詰めでしたから」



 そして回復した奴隷達を馬車二台に乗せ、自分たちが乗る馬車含めた計三台でこの村を出立する。アフィスは頭を下げる。最後にアマサカと交わしたまた花について語り合うという約束を思い出すと笑みがこぼれる。



 アマサカ達が見えなくなると表情が一変する。


「……あれがアマサカ様ですか。わたくしの作ったグラフトボーンでも傷一つ負わせられそうにありませんでしたね」


 その手で髪飾りのスカーフを撫でる。


「この村長という役柄も終わりですか。悪くはなかったのですが。それにしても、以前やってきたキースという男は簡単に殺せましたのに。アマサカ様という人間、あれは規格外ですね。完全に化け物です。魔王様くらいでしか相手できないのではないでしょうか?」





 ――時は遡り、まだアマサカ達がこの村にたどり着いていなかった頃。銀色の装備を身に着けた勇者らしい姿をしたキースという男は馬車に乗ってこの村へとやってきた。一台の馬車を林に隠す。中にいる奴隷達にここから絶対に出るなと命令する。


 そしてキースは歩いて村の中へと入る。


「Bランク冒険者のキースです」


 さわやかな笑顔を村長のアフィスへと向ける。アフィスは微笑み返し、依頼内容を説明する。一通り説明を聞いたキースは何度か頷いた後、村を見渡す。


「やはり前の村と同じで、個人への思い入れというものはうすそうですね」


「そうですね。我々は種が残ればそれでいいと考えるものですから」


 キースはアフィスを下から上まで、視線を動かす。


「村長さん、おきれいですね。どうでしょう? 私のものになるつもりはありませんか? 報酬は弾みますよ」


「申し訳ありません。役割がございますので。グラフトボーンが攻めてくる中で、村長の役割を降りるわけにはいかないのです」


 ピクッとキースの眉が歪む。また、金で買えないものだと。キースは交渉を続けた。


「……ではこうしたらどうでしょう? 私がグラフトボーンの依頼を解決したらあなたを買う。どうです?」


「それでしたら構いませんよ」


「では交渉成立ということで」



 キースはそのままレストランへと足を運んだ。とはいえ、まだ客足は自分たちだけだった。アフィスがお代は結構ですと言うとキースは首を横に振った。そして酒を飲み、食事を楽しみ心地よくなる。アフィスは口角を上げる。



「ねぇ、キース様。どうして冒険者に?」


 花の香りが充満し、キースはぼーっとする。


「……私は、冒険者になどなりたくはなかったのです。戦い方も知らないただの貴族だった。子供の頃は良かった。いろんな人や、いろんな友達に囲まれて。幸せだった。真実を知るまでは」


「真実?」


「金、地位のためだと……聞いてしまった。友達も、使用人も、先生も街の人も全員……親の名がほしかっただけだった。誰も私の価値など見ていない。何をしても褒められても、褒めているのは私ではない。そのさきにある父という姿だ!!」


 バンッ! と強い力で酒の入ったカップを机に叩きつける。もう片方の手で頭を抑えながら続けた。


「だから……利用することにした。どうせ私のことなど見ない。何にも価値がない。最大限に利用し、誰も信じず己のためだけに役を演じた。金さえだせば何でもしてくれた。どんなに惨めで、プライドを壊すようなことでもしてくれた。その優越感に浸った。だがある日のことだ。父が失墜した。その直後、私は集団に襲われた。これまでの恨みだと。おかしな話だろう? 金を支払い、その対価を受け取っただけなのに。私は……身動きが取れない状態で使用人に屋敷へと運ばれた。引きずられてな」


 つい、キースは笑みがこぼれる。くだらない話ですよと付け加えた。


「それからでした。私は……自害した父と母のせいで一人になりました。ですが、金は残ったのです。縁のなかった奴隷商と出会い、一人の奴隷を買いました。何をしても、文句一つ言わない。都合がいい。私は奴隷の虜となったのです。そして……その奴隷を愛しました」


「あら? 素敵なお話じゃないですか」


「ええ。私の暴力的な支配でも受け入れてくれていました。ある日の夜……奴隷は寝ている私にナイフを向けてきたのです。問いただしました。これまでのは嘘だったのかと。ええそうです。嘘でした。私は歪んでいるのでしょう。殺しましたよ。その奴隷。転がる奴隷を眺めながら……利用できるものはすべて利用して、地位を築き上げようとここに強く誓ったのです。


 冒険者となって、奴隷を買い、弄び、使い捨てました。身代わりにしたり、一人ひとりに戦わせたりしながらね。そうして私はBランクの冒険者にまでなりました。奴隷なんて所詮価値のないもの。特に亜人なんてものは人じゃない。家畜と同等だ。私はそう思っているのですよ」



「なるほど。キース様は幼少期の体験が今の状態を作り出しているのですね。おもしろいお話をありがとうございました。夜になるまでゆっくりとお休みください」



 アフィスがそう言うとより一層花の香りが強くなる。キースは倒れるように眠った。アフィスはレストランのマスターに宿へ運ぶように指示を出した。



 ――そして夜がやってくる。キースは宿で目を覚ました。レストランで酒を飲み始めたことは覚えているが、それ以外のことは覚えていなかった。


「……少し頭が痛いですね。ですがもう夜ですか。さて、奴隷を盾にこの依頼もこなしてあの村長をいただくとしましょうか。最初の奴隷以来、亜人の身体を弄んだことはありませんが……あの村長の歪む顔が見たいですから。あんなに美しい顔を持つなんて、それが金で手に入る。金がなければ、私に価値はない」


 キースは少し張り切るように宿の外へと足を運んだ。周囲を見ながらグラフトボーンを探す。うめき声が聞こえると剣を抜き、素早く対象の両足を切り落とした。


「……痛覚はないようですね。しかも死なない。では頭はどうでしょうか?」


 キースが頭を切り落とすと、グラフトボーンは身動きひとつ取らなくなる。笑みがこぼれるキース。確信した。これは勝てると。アフィスを想像し、剣を握る手が強くなる。


 集まってくるグラフトボーンを飛ぶような斬撃で頭部を切り落としていく。楽しいと思った。この残虐性が自身に喜びを与えている。自己を肯定してくれるかのように。



 ――村の外で大きな音がする。亜人の奴隷を隠していた場所だ。奴隷の誰かが逃げ出したのかもしれない。餌として使うためにもキースはその場から駆け出した。


「全く、外に出るなと言ったのに。本当に奴隷は使えませんね。餌やヘイト用に使うのはもう少し楽しんでからと決めていたというのに」



 そして村の外へと出ると奇妙な謎のグラフトボーンに遭遇する。亜人の奴隷達は、外には出ていなかった。数人の奴隷を解放して囮にしたいが謎のグラフトボーンの背後に隠れてしまっている。他のグラフトボーンと違い、明らかに強者である雰囲気を醸し出す謎のグラフトボーン。


「チッ……面倒ですね」



 足元に魔法陣が出現する。キースはそれが敵の攻撃だと即座に判断した。そして背後へとステップを踏み、魔法陣から離れた。警戒をしているのだから当然だった。しかし……後方へと下がった瞬間、何かが胸を貫いた。



 少しずつ口から血が流れていくのが分かる。銀色の鎧が赤く染まっていった。キースは自分の状態に気づき、ゆっくりと背後を見るとアフィスが短い剣を持っていた。



「キース様。突然後ろへと飛ばれると困ります」


 いたずらに笑いながらそう囁いた。


「な……ぜ」


 事故でないことくらいキースは分かっている。だからこそ問いかけた。アフィスはゆっくりと短剣を引き抜いた。


「なぜ……ですか? ただの生贄ですよ。少々わけあって大量の魔力や肉体の情報が必要なんです。これまで多くの冒険者が来てくださいました。村人が減っていると嘘をついてね。ただの人は生贄としては不十分なんです。足しにはなりますが」


「生贄、だと……」


「はい。使い終わった身体はこうしてあのグラフトボーンに吸収させているんです」


「くそ……私は、まだ」


「知りませんよ。あなたたち人間は家畜のようなものですから。魔族から見れば人間も亜人もただの家畜です」



「魔族……? そんなはずはない! お前はどうみても……」


「そうでしょう。わからないでしょうね。わたくし、気づかれない方法があるんです。さて、もう用済みですから食べられてくださいね」



「いやだっ! 私はッッ! 誰もが認める存在へと、私はッッ」



 謎のグラフトボーンがお辞儀をするように近づき、キースを食べるように取り込んだ。アフィスは指先で謎のグラフトボーンを撫でる。


「よくできましたね。だいぶ質のいい餌です。少し張り切りませんと。アビスギルドのマスターである狼くんが死んでしまいましたからね」



 髪飾りのスカーフを指で撫でる。


「創世記の聖遺物――盲目の侍女。かつて盲目の侍女は主人が同族ではないと知らなかった。そして、主人は盲目であることを理由にその侍女を置いていた。でしたかね。この聖遺物のストーリーは。


 さて、深い話は抜きにして、この聖遺物は本当に便利ですね。そのストーリーになぞられて、これを身につけるものは……自由に相手の種族認識を変えられる。しかも相手の警戒心を著しく下げるオマケつきなんて」




 アフィスは踵を返す。報告によれば噂のアマサカが来るのだとか。軍師のベスターにはアマサカが来たら諦めろと言われていた。アフィスはため息をつく。のんびりと過ごすのも終わりかもしれないと。


「もし生きていたら、次はどんな役割をこなすんでしょうね。わたくしは」

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