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第二十一話

 ――数日後の早朝。王都、西の門へと足を運んだアマサカ。だいぶ早めに来たので最初の一人だと思っていたが、先に待ってるものが一人いた。それは自分の弓や聖遺物を磨きながら楽しそうにしているフィアンだった。


「随分と早いな。フィアン」


「ん、アマサカおはよ。気持ちが高ぶって早起きしちゃった」


 アマサカはフィアンの弓を眺めながら、疑問を持った。


「まだ弓を持つのか? 弓がなくとも矢を打てるようになったはずだが?」


「んー? まぁね。でも食料のための狩りとか、弱い魔物相手には聖遺物は使えないし。だってほら、魔力使うからさ。もったいないじゃん? 一緒に戦ってきたこの弓にも思い入れはあるしさ」



「なるほどな。話は少し変わるが、聖遺物の調整というのは何をしていたんだ? 以前お前がそうしているとアイラから聞いたのでな」


 アマサカは以前から気になっていたフィアンの、力の調整というものを教えてもらおうとした。



「あー、それね。実はさ。アビスギルドの一件の後、身体が回復してから試してみたんだけど……


 全然うまくいかなくて。それでいろいろ試しては失敗してを繰り返してたんだ。ただ魔力を流せばいいってもんじゃないみたい。毎日毎日魔力切れで倒れる寸前までやって、最近やっと安定してきたとこ。でもおかげでほら、これ見て」




 フィアンは遠く離れたある木に向かって弓を引く。だが矢は装填されていない。一言、サモンと呟くと矢が出現する。それは魔力で構成された矢だった。魔力の矢を放つとその矢は軌道を変え、葉っぱ一枚だけを射抜いた。しかしその速度から生まれたエネルギーが木の葉を大きく揺らす。


「ねっ。こんな感じでちょこっと矢を出すみたいなこともできるようになったの。力を借りるみたいな感じで、魔力の消費もめっちゃ少ないの。しかも事前に軌道をイメージしておけばその通りになるしっ」



 へへーん。すごいでしょーと、胸を張る。


「あぁ。すごいな。絶え間ない努力の賜物だ。イメージでそれだけ具現化したり、調整したりできるのは普段から弓に対しての姿勢があるからだろうな」



 フィアンはにこっと笑う。褒め上手だねと。



 そこへレオとガナードがやってくる。レオは随分と楽しそうだなと言いながら歩いている彼らも足取りは非常に軽い。ガナードもどこか気合が入っている表情をしていた。


 それからほんの数分遅れて、最後の一人であるアイラが到着した。


「あれ? みなさんまだ時間より早いのに……」



 レオは頭をかきながらアイラに言った。


「まぁ、みんな気合が入ってるってこった。どうせ当分徒歩だし、もう行こうぜ。金がねーから歩ける場所は歩くぞ。マジックバッグがあるおかげで荷物も少ないしな」



 そして彼らは旅路を始める。まずは徒歩で一週間。隣国へと歩みを進めた。時折、魔物に襲われるが成長した彼らにとって、このあたりの魔物は敵ではなかった。相手はゴブリンの集団。ガナードは前に出ることすらしなかった。代わりにレオが自信満々で前に出る。これは驕りではない。明確に相手との力量を把握していた。


「はっ、セラに比べりゃゴブリンの攻撃なんざ止まって見えるね」



 そうは言いつつも自分と相手の間合いを正確に図る。ゴブリンの数は五。一体のゴブリンが棍棒を振り上げ、襲いかかる。レオは後ろ足を軸に、元々前に出ていた前方の足を後ろに引く。その一歩分、レオの身体は後ろへと流れていく。ゴブリンの攻撃はスカッ……と空振る。そしてレオは後ろへと流れながら剣をスッ……と早くも滑らかに振り下ろす。


 ゴブリンの肉を斬っているにも関わらず、まるで抵抗のない太刀筋。



 動揺したゴブリン達を見据えるレオ。緩急をつけ、大きな一歩を踏み込むとゴブリン集団の中心に飛び込んだ。ゆったりとした時間からの素早い動きによってゴブリン達は事態を把握する間もないまま全滅した。



「どうよアマサカ! 結構強くなっただろ」


「あぁ。この短期間でこれだけの成長をするのは関心した」


 レオはついうれしそうな顔をするが、恥ずかしいのかすぐに真顔に戻る。口角以外。


「別にお前に褒められてもうれしくはねーよ?」



 アマサカの背後でフィアンが笑い転げていた。男版ツンデレとか始めてみたんだけどと言いながら。レオは顔を真赤にしてフィアンに喧嘩をふっかけようとしたが、ガナードに止められる。



 その日の夜。キャンプをしながらアマサカは刀を抜いていた。手入れをしている横でガナードが珍しく話しかけてくる。


「アマサカ……その刀、どこで手に入れた?」


「……悪いな。その情報を与えることはできないんだ」


「訳ありか。わしも鍛冶職人でないにせよ、ドワーフの端くれじゃ。多くの装備を見てきた」


「ドワーフは確か、装備の生産が長けているんだったか」


「そうじゃな。歴史的に見ればこの身長と力、集中力が向いておったのだろう。そのまま時が流れ……技術が進歩し、装備と言えばドワーフ。という印象と事実が根付いた。


 その刀の素材をわしは見たことがない。どんな鉱石じゃ。それすらも言えぬか?」



「すまない。俺はこの刀がどうやって作られたかまでは知らない」


「そうか……お前さんは秘密が多いな。すべてを語らえという意味ではない。詮索するつもりもない。じゃが、自分のことを誰にも話さぬというのは、辛くはないのか? 人は語らい、その重荷を分けるものじゃ」



 手入れを終えたアマサカは刀を鞘にしまう。そしてゆっくりと鞘を撫でる。


「語る予定はある。だが、話すことも話さないことも辛いということもあるさ」



 語る予定があると聞いて、ガナードは安心したのかアマサカの肩に軽く手を置くとその場から離れた。その瞬間、刀が少し揺れた。アマサカの動揺が手を震わせたのた。




 ――アマサカ達はその後、順調に最初の国へとたどり着く。備蓄を補充し、道中で倒した魔物の素材を売る。そして馬車を手配し、荷物を置いて乗り込んだ。馬車に揺られ、街を一つ、また一つと経由していく。豊かだった自然が徐々に減っていく。乾燥地帯へと入った。そして最初の亜人の街へと到着した。



 マジックバッグのおかげで荷物の少ないアマサカ達は馬車から降りると、ここまでの移動費を支払った。馬車は踵を返していく。大きな街ではあるが国というほどではない。活気は溢れ、人間と亜人が入り混じる。人間地域と亜人地域の貿易で立ち寄ることが多いのだろう。それを利用した収入資源でこの街は成り立っていた。


 レオは宿を探してくるとガナードと共に街へ繰り出した。アイラは私たちはどうしましょうかと言う。フィアンがそれに答える。


「んー、前の街からあんまり時間経ってないから、備蓄の補充も最低限でいいんだよねー。買い物しながらどっかでご飯でも食べよっか」


 アイラはそれに賛成し、二人にアマサカもついていく。そしてなにやら香ばしい匂いが漂ってくる。フィアンは唾を飲み込む。勢いよくグルッと振り返り、アマサカとアイラに同意を求めるかのような目をする。二人はまるで親になったような気分でつい笑みがこぼれてしまう。


 暗い色を使ったレンガの店に入ると、その香ばしい匂いはより一層濃くなる。がたいのいい男たちがデカい肉を頬張り噛みちぎる。ちぎれた部分から肉汁が皿に垂れ落ちる。


 席に座ると相席だった。トカゲのような見た目の男が、大量のとてつもなくデカい肉を次々と飲み込んでいた。アマサカは見ているだけで気持ちがいいなと関心していた。そのトカゲの亜人はアマサカ達に話しかける。



「あんたら……冒険者か? 交易をする連中には見えないぜ。武器持ってるしな。俺はリザードマンのドリッグだ。よろしくな」


「あぁ。俺達は見ての通り人間だ。俺はアマサカ。こっちのが魔法使い兼ヒーラーのアイラ。そしてこのちっこいのがフィアン。弓使いだ」



「ほぉー……両手に華ってやつか。スタイルのいい姉ちゃんに小柄な女。贅沢だねぇー……」



 アイラは慌てるように机をバンッと叩いて、覗き込むようにして言った。


「ち、ちちちがいます! 私はッ! 私たちは別にそんな関係ではなくてですねっ!! それに二人なんてそんな」



「お、おお……悪かったな。いやぁなに。女を何人もなんて珍しい話じゃないからな。嫌な思いをさせるつもりはなかったんだ。例えば、数日前にこの街にギラッギラした鎧つけた貴族の兄ちゃんが来てな。何人かの亜人を侍らせて歩いてるもんで、目立ってたよ。てっきりおれぁそういう類かと思ってな」



「とにかく……違いますからっ。そりゃ……冒険者の中には複数人でってパターンもありますけど、人って複雑なんです。あ……いえ、亜人でもそうだと思いますけど」


「はっはっは! 気にしちゃ―いねーよ。だからそっちも気にすんな。言葉の綾ってもんだ。嬢ちゃんの発言に差別の意図がねぇくらい分かってるさ。悪気がねぇやつを攻めるバカはいねーよ。ほれ、さっさと注文しな。そっちのちっこい嬢ちゃんは肉に夢中だぜ」



「え? フィアンさんいつの間に?! しかもそんなに食べるんですか?」


 一キロはあるであろう肉の塊をナイフとフォークを使ってモクモクと食べるフィアン。もぐもぐとほっぺがリスのように膨らんでいる。アイラは店員を呼び、アマサカと共に注文をした。肉汁の旨味に感嘆としながら食事を進める。食べ終わる頃には全員、背もたれに背中をつけてリラックスしていた。


 リザードマンのドリッグは頭の後ろに手を乗せながら言った。


「あぁー、美味かったぜ……そういやあんたら、今後の予定は?」



「えっと、このまま道なりに亜人の国を経由して亜人地域最大の他種族国、ユニオンへと向かいます。道中で、ある街に寄ってギルドの依頼をこなす予定です」



「あんたらユニオンに行くのか。ちょうどいい。案内してやるよ。ついでに馬車にも乗せてもらえるしな。俺は普段商人の用心棒ってのをしてるんだが、仕事を終えたところでね。ユニオンに帰るとこなんだよ。亜人地域に詳しいやつが居た方が便利だろ? 馬車代も分けりゃ安く済むし。どうよ?」



「えっと……」


 ちらっとアマサカを見るアイラ。アマサカは軽く頷いた。


「はいっ! ではよろしくお願いします。それから他にもパーティーメンバーが二人いるんです」



「よっしゃ。んじゃあ今日のとこはここで解散だな。出るのは明日か?」


「そうですね。明日の早朝、暑くなる前に出立します」


「なら街の出口で待ってるぜ。じゃあな」


「はい! また明日です!」



 ――そして次の日の朝。レオとガナードは隣で佇む謎のリザードマンを警戒していた。会話をするべきか? 何かを待っているようだが……自分たちだけなのが気まずい。ちらっと見上げると、リザードマンは目を閉じている。どうやら立ったまま寝ているらしい。図体がデカいこともあり、どうしても警戒心が抜けない。アマサカ達はまだかと助け舟を待っていた。



 突然パチッ! と目を開けるリザードマン。


「おーいお前達! やっと来たかぁ!」



 レオは助かったと思った。相手の待ち人が先に来たらしい。相手の待ち人は歩きながら大きく手を振って存在をアピールした。だが……レオはどうにも聞き覚えがある声だと思った。よーく目を凝らして相手の待ち人を見た。


「あっ! ドリッグさーん!! おまたせしましたぁ!」


「お前らかよ!!」

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