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第二十話

 数日後、アマサカはアイラに誘われた為、旅の準備のために商店街を歩いていた。お昼に近づいたこの時間帯の商店街は活気で溢れている。多くの冒険者や住民がごった返しになり、人混みに酔いそうになる。アイラはアマサカから目をそらしつつ、話しかけた。


「アマサカさん。今日はすみません……」


「気にするな。俺も少し用があった」


「ほんとですか? 本当はフィアンさんを誘ったんですけど、力の調整がしたいと言われてしまって……」


「力の調整? あぁ、あの聖遺物のことか。調整が必要なんだな。俺は聖遺物を使ったことがないから興味があるな。今度本人に聞いてみるか」



 会話の途中でアイラが足を止め、指を目の前の店へと向ける。


「あっ、アマサカさん。ここで道具を揃えましょう!」


 訪れたのは道具屋。主に便利アイテムなどを取り扱っているお店だった。売れ筋の商品が木材の棚に並べられている。道具屋のばあさんが、楽しそうにアマサカ達を見ていた。


「今日はどんな商品を探してるんだい?」


 戸惑いながらアイラは買う必要があるものを思い出す。


「えっと、西の方角が詳細に描かれている地図と、亜人地域の西の地図、後は戦闘に有利になりそうなアイテムを多めにって感じです。あとは見ながら決めようかなと思ってます」



「ほー、そっちの方で冒険に行くのかい。亜人地域となると、だいぶ長旅だね。ちょっとまってな」


 ばあさんは重い腰を上げると売り場を杖を持ちながら歩き回る。立ち止まっては杖でアマサカを軽くつついて合図をする。アマサカはその意図を察し、必要数をアイラに聞いてそれを手に取る。それを幾分か繰り返した後、ばあさんは裏からかなり大きいサイズのバッグと、小さいバッグをいくつか持ってきた。


「こりゃあね。マジックバッグというもんだよ。中に入れたもんを縮小させるっちゅー便利アイテム。こいつは結構稀少品だよ? 少しまけるから、パーティー分どうだい?」



「すごいですっ! アマサカさん! これは本当にレアですよっ。人気なのですぐになくなってしまうんです。今回は長旅ですし、保存食も大量に常備する必要があります! それにダンジョンでの戦利品もここに詰められますよ!!」



 アマサカは、その熱量に一歩後ろに引いた。そしてそのまま少し笑うと、返事待ちのばあさんに個数と値段を尋ねる。提示された金額に、眉をひそめる。アマサカはばあさんに、本当にまけているのかと聞いてしまうほどだった。だが相場を知っているアイラは本当ですよと笑った。結果、言われたままの金額で買い物を済ませた。買ったものをマジックバッグの中へと収納していく。


 店を出て、商店街へと戻る二人。


「いやー、良かったです! いつかこれを買いたいと思っていたのでっ! でもやっぱり高かったですね……だいぶ資金が底をついてしまいました……今回の依頼でちゃんと稼がないと、かなりマズイです……」



 背後で何やら騒がしい声が聞こえた。柄の悪そうな男たちが、先程アマサカ達が世話になった道具屋のばあさんを怒鳴りながら店の外へと出ていった。


「クソババアが! マジックバッグがねぇだ?! ここにもねぇのかよ!!」


 柄の悪そうな男たちとアイラ、アマサカの目が合う。そしてアイラとアマサカの手にはマジックバッグ。アイラは血の気が引いた。


「ちょっ、ちょちょっと待ってください。来ないでください!」


 男たちはマジックバッグがただで大量に手に入るぜと言いながら近づいてくる。アイラは必死に止める。


「だめですっ! 絶対にやめておいたほうがいいです!」


「ちっと面かせや、カップルパーティー」


 かぁーっとアイラは顔を赤くする。


「いえ、そんな……カップルなんて、おこがましいです」


「見せつけんなッッ!」


 結局、路地へと誘導される二人。


「おいあんたら、そのマジックバッグを寄越せ。えれーやつがそのバッグを探してんだよ」


 アイラは拒否する。


「だ、だめです。私たちもこのバッグを必要としていますから。それにちゃんと買ったものです!」


「痛い目みてぇんだな、いいぜ。女を殴るのは趣味だ」


「ちょっ、ほんとに、そのっ、落ち着ッ……」


 誰も認知できないような速度で、アマサカの攻撃を受けた男たちは地面を転がる。なぜ自分たちが地面を見ているのかすら理解できていなかった。アイラはだから言ったのにと、男たちの心配した。アマサカは手加減していると言ったが、男たちは当分起き上がれそうもなかった。そこへ見知らぬ青年の声が聞こえる。


「おやおや。騒がしいと思って来てみれば」



 その青年はまさに美少年と呼ぶにふさわしい。白銀の甲冑、赤きマント。腰に差した両刃の剣。まさに勇者のようだった。男たちは見上げると、怯えた。


「あっ、キース様!」


「様付けされるような人間ではないよ。これはどういうことだい?」



 アイラが事情を伝える。キースは一通り話を聞くと、ため息をついた。


「申し訳ない。この者たちが迷惑をかけたようだ」


「いえそんな……こちらこそ傷つけてしまい……それにあなたが謝ることでは」


「そんなことはないさ。実は彼らとはこの王都に来た時に知り合ってね。知り合ったというか襲われたんだ。ほら、こんな身なりをしているだろう? 金目のものを身に付けているようなものだ。



 けれど私も冒険者の端くれ。返り討ちにした後に、少し問いかけたんだ。マジックバッグを探しているんだとね。もし見つけたら相場の二倍の値段で買うと言ったら血眼で探してくれていたらしくてね。だから私が謝るべきだと思ったんだ。この状況を作ったのは私だ。申し訳なかった」


 キースは深々と頭を下げる。アイラは本当に大丈夫ですからと頭を上げさせた。キースは頭を上げると、交渉を始めた。そのマジックバッグを相場の二倍、いや三倍で買い取ると。あまりの金額にアイラは揺らいだが、報酬や持ち運び、入手難易度と緊急性を考えると手放すことができなかった。


「その、ごめんなさい……」


「そうか……いやいいんだ。無理を言ったね。君にも迷惑をかけた。君たちに怪我がなくてよかったよ」



 アイラとアマサカはキースの横を通り過ぎていった。路地裏では表情を変えることなく、キースが男たちの頭を踏みつけていた。


「まったく。役立たず共ですね。まぁ最初から期待などしていませんが。それにしても、あの金額でも売ってくれませんか。時折、金では買えないものがありますね。どうです? 久々に奴隷ではない時間を過ごした気分は」


「はい、幸福でございましたキース様」


 キースは男の頭をさらに強く踏みつけた。


「奴隷であったことが気に食わないと?」


「っっ! 違います!! わたくしはッッ」



 ――路地裏で一人となったキースは足を進める。赤く染まった地面を平気で歩いていた。


「さて、奴隷の数も減ってしまいましたし買い足すとしましょうか。どうせ亜人の国へ行くのです。彼らに亜人が家畜でしかないと見せつけてあげなければ。もちろん、しっかりと使い捨てのコマとして……その役割も果たしてもらいますが」



 キースは宿をひとつ、まるまる貸し切っていた。その宿の部屋に入るとキースは部屋に押し込んだ亜人達に冷たく言い放った。


「みなさん、おまたせいたしました。明日、出ますよ」



 多くの幼い亜人達が怯えていた。だが従わざるを得ない。奴隷なのだから。






 ――その頃、アマサカ達は武器屋に来ていた。


「あれ? アマサカさん。武器を新調するんですか? その刀を随分と大事になさっているのに」


「探しているのは俺の武器ではない」


「誰の武器です?」


「お前のだ」


「わ、私ヒーラーしかできませんよ?! 剣とか持ったことないです!!」


 ぽすんっと頭を撫でられるアイラ。驚きで言葉が詰まる。


「勘違いをするな。お前に前線で戦えとは言わん。魔法を覚えさせる」


「魔法、ですか? でも私にできるんでしょうか」


「俺が保証する。お前はパーティーにおける立場として、消去法とその性格でヒーラーを選んだのだろう。だがお前は魔法職になるべきだ」


「アマサカさんが言うのなら……不安ですけど頑張ってみます。でもどうやって魔法を覚えたらいいんでしょう? ヒールに関しては教会で教えていただきましたが……」



 アマサカは武器棚を眺めていた。その中から一冊の本を取り出した。中身をパラパラとめくると武器屋の店主に、これをくれと伝えた。買ってもらった本を手に取るアイラ。


「スペルブック……ですか?」


「あぁ、初歩的な魔法が書いてある。その内容をすべて暗記してもらう。だが同時にやってもらうことがある」


「やってもらうこと?」



 一度武器屋から出て、アイラの宿泊している宿へと向かった。そしてアイラの部屋へと入ると、荷物をすべて置いた。そしてベッドに座れと命令されるアイラ。


「ふぇ、ベッド……ですか? あの、まっ」


 アイラは自分の身体を抱きしめる。必死に記憶を掘り起こし、下着に問題がないか確認する。


「アマサカさん……教える代わりとか、ですか? そうですよね。アマサカさんも男ですし、私、アマサカさんなら……!」


 バクバクと心臓の音がアイラの全身に響き渡る。覚悟を決めたアイラはそっとアマサカを見上げる。アマサカは……いつも通りだった。



「何を言っているんだお前は……」


「あれ?」



 勘違いだと分かると、アイラはだらだらと汗をかいてごまかした。


「で、ですよねぇー! アマサカさんがそういう人ではないって分かってましたー!」


 なぜか少し残念な気持ちになるアイラ。彼女はこれまで、アマサカと長い時間を過ごした。フィアンの横で。そしてアマサカの英雄のような働きを見た。いつも肩で眠っていた。たくさん面倒を見てもらった。その積み重ねが意識をさせていたのだろう。



 そんなアイラの感情などつゆ知らず、アマサカはポンッと自分の手を叩くように合わせる。その手をゆっくりと開くと、中から黒い玉が出現した。アイラがそれはなんなのかと尋ねるとアマサカはこう答えた。


「これは俺の魔力を凝縮したものだ。量は多くない。そもそも俺は魔力の扱いが極端に下手くそだからな。アイラにはこれを吸収してもらう」


「吸収ですか? でもどうやって」


「日常的にできるだけ触れて、魔力を自分から蓄えるようにするんだ。アイラは今、呼吸や食べ物などから自然に生成されるのを待っている状態だ。だがそれでは量が少なすぎる。お前にとってはな。だから魔力を吸収し蓄えることを覚えるんだ」


「や、やってみますっ!」


「魔法を使う練習も忘れるなよ。旅の間も続けてもらう。ダンジョン攻略時には完璧になるように」


「期間がその……み、短くありませんか?」


「お前ならできる」


 その肯定にアイラは胸が高鳴った。信頼され、期待されている。レベル二の自分にこんなにも可能性を見出してくれてる。


「……はい! 絶対、やり遂げてみせますね!」



 その宣言を聞くとアマサカは床に座り込んだ。魔力の抽出に体力が持っていかれたらしい。心配するアイラにアマサカは事情を話す。アイラは肩を貸し、ベッドに寝かせた。その時だった。


「やっほーアイラー。調整終わったぁー……よぉー……」



 一分は時が止まっていただろうか。寝ているアマサカ。アマサカを寝かせるために覆いかぶさったように見えるアイラ。わなわなと震えるフィアン。ぷるぷると涙目になりながら言った。


「そ、そそそそっかぁー。そういう関係かぁー。あははー」


「違います! 違いますから!! そういう関係じゃないんです! フィアンさん! 落ち着いて!!」



 その後、長い時間をかけて誤解は解かれたが、アイラはフィアンの反応を見て何かが心の中で渦巻いた。アイラはまだ、その正体をうまく言語化できずにいた。

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