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第二話

アマサカの肩で眠っていたアイラは呂律がうまくまわらないまま、右手を大きく掲げた。


「じゃあ私たちと一回パーティーを組みましょー!」


 きょとんとするフィアン。空気が自然と喉を通る感覚がする。まだ寝ぼけているアイラが雰囲気など理解するはずもなく、脊髄反射のように言葉を発したのだ。さきほどまでのオーラはどこへやら。アマサカでさえ現実に引き戻されるような衝撃だった。アマサカは戸惑いながらも少し口角を上げつつ言った。



「悪いな。俺の戦い方はパーティー向きではないんだ。一人でなければ戦えない」

「えー? いいじゃないですかー。きっと大丈夫ですよぉー。何かあっても今日みたいにガナードさんが守ってくれますし、フィアンさんの弓で相手の動きをちゃんと抑制できるはずですー」


 再び眠るアイラ。取り残されるは断りにくい状況を作り出されて困惑するアマサカとその様子がおかしかったのか爆笑するフィアン。



「あっははははは。さっすがアイラ!」


 ひとしきり笑ったあとにフィアン目が少しとろんとしていた。酔いがだいぶ回ってきたのだろう。



「んー、眠くなってきた。ねぇ、アマサカ。さっきは本当にごめん。嫌な思いさせちゃった?」

「謝るのはこちらの方だ。あのような空気を作り出すつもりはなかった。悪いな」


「へへっ。あんたいい奴じゃーん。じゃあさ。一緒に今度依頼こなそうよ。状況分析とか得意そうじゃん。戦わなくてもいいからさ」


 アマサカは無言になる。どこかパーティーを組んで戦うということに抵抗がありそうな雰囲気だ。フィアンは机に突っ伏しながら上目遣いで語りかける。


「ずーっとソロ? パーティーとか組んだことないの?」

「パーティーという考え方であれば、一度だけあるな。ただ、ある目的のために一回だけだ」


「へー……私たちは嫌? 弱いから? 一回だけ、お願い。もう行き詰まってるの。戦って戦って。負けて。ご飯もやっすいものばかり。もっと強くなりたい。自分もみんなも守れるくらい。だめ?」


 アマサカは沈黙していた。フィアンとアイラはそのまま熟睡してしまう。

 アマサカはまるで荷物のように熟睡したフィアンとアイラを持ち上げた。安宿に向かい、二人をベッドの上に寝かせる。水だけを置いてその場から立ち去った。翌朝。日が昇り部屋が温まってくるとフィアンが目を覚ます。


「んぁー。あー? ふぁ!!」


 いつの間にか宿にいる。そして隣ではアイラが寝ている。


「いやいやいや。まさか私、アイラと。あはははっ、いやいやいや」


 そっと布団をめくる。アイラはちゃんと服を着ていた。


「せ、セーフ? いやー。ほんとびっくりしたぁ」


 置いてあった水を飲む。んーっと両手を組んで上に伸ばしストレッチ。そのまま手を床につけてまるで猫のように伸びをすると窓の外を見た。少しずつ記憶が蘇ってくる。


「あー、そっか。アマサカが連れてきてくれたんだ。なんというか面倒見がいいというか。ついパーティーに誘っちゃったなぁー。おかしな話だよね。万年Fランクって言われている相手に一緒に戦おなんてさ」


 あの一瞬の恐怖。Aランク冒険者の威圧的な魔力による萎縮とは違う。アマサカのあれはまるで争いすらも無駄と思えてしまうほどのもの。あれは一体なんだったのだろうとフィアンは呟いた。隣でうめき声。頭を痛そうにしながらアイラが目を覚ます。ぽけーっとしながら周囲を見渡す。


「アイラ……昨日は、すごかったね」

「……?!」


 フィアンはわざと艶っぽくそう言った。アイラは顔を真赤にして自分の状態を確認したりシーツを確認したりしたが何事もなさそうだと安堵すると隣で笑い転げているフィアンを見ていたずらだったと気づく。


「フィアンさんっ! いたずらはやめてくださいっ! もうっ!」

「あははっ。ごめんごめん。なーんかいたずらしたくなっちゃって。でも昨日すごかったのは本当だよ?」


「もう騙されま……」


 アイラはすべてを思い出した。アマサカの肩でずっと寝ていたこと。パーティーに誘ったりしたことなど。おそらくここまで運んでくれたのもアマサカのおかげだろうと。アイラは人見知り気質がある。つまりあの状況はアイラにとってはとてつもなく恥ずかしいことなのだ。先程よりも顔を真赤にし、背筋が伸びていく。耐えきれなくなったアイラは布団の中に潜り込みゴロゴロ!! と左右に転がりながら呻く。


 それから数時間後、落ち着いたアイラとフィアンは再びギルドへと足を運んだ。酒場にて朝食を食べながらレオやガナードと合流する。そして話を聞いたレオは大声を上げる。


「はぁ?! 万年Fランクをパーティーに誘ったぁ?! バカかお前ら!! なんのメリットがあんだよ!!」


 アイラは酔っててーと言い訳し、フィアンは別にーと適当に返事をする。レオは頭を抱えた。自分がやらかすならまだしもこの二人がとは思っていなかったのだ。自問自答を繰り返す。どうするかと。もし参加すると言った場合断るか? だが一回だけなら。けれどフィアンの言う通り行き詰まっているのもまた事実だ。かと言ってあんな奴に? 繰り返される自問自答の中、扉が開く。アマサカも朝食を食べにやってきたのだ。フィアンは大きく片手を上げてニコニコとアマサカを呼ぶ。


「おーいっ! アマサカー! こっちこっちー!」


 おいいいいいとレオは動揺しながら心の中でツッコむ。なぜならどうするか決めていないからだ。歩いてくるアマサカに動揺を隠せないレオ。レオは思い切って謝罪しながら断ろうとしたその時だった。フィアンがこう言った。


「んじゃあ今回限りの五人パーティー結成! よっろしくー!」


 レオは馬鹿らしくなった。入る余地がなさすぎて。自分より単細胞がいるとは到底思っていなかった。自分が馬鹿みたいだと苦笑する。その後ろで昨日喧嘩をふっかけてきた冒険者がそれを聞いていた。


「おー、お前らパーティー組むのか。すんげえお似合いだぜ。雑魚同士。俺達は今度禁止区域にやべー魔物がいるってんでそいつを倒しに行ってくるわ。これでランクもレベルも一個上げてやるさ」

「あ? てめぇらの話なんかどうでもいいんだよクソ野郎」


 二人は睨み合いながらまた喧嘩しそうになっていたが、相手が他のパーティーメンバーに呼ばれる。手が出るような喧嘩まで発展することはなく事態は落ち着く。アマサカは不思議そうに言った。


「確かガナードと言ったか。お前なら問題なくアレとやりあえそうだが」


 ガナードはゆっくりと口を開く。


「わしは守ること。それだけを信念にしている。無意味に武力を使うつもりはない」

「そうか。そこのバカとは違って冷静なんだな」


「ぶん殴るぞ」


 レオの威嚇も虚しくアマサカはため息をつきながら言った。


「俺は……パーティーには」


 だがフィアンは見つめてくる。断らないでと。アマサカは再び深くため息をつくと言った。


「どんな依頼を受けるつもりなんだ?」


 レオはニッと口角を上げると言った。


「ここから2日ほど歩いた先にある村に集団の魔物が出没してるんだってよ。相手は四足歩行で狼型の魔物だ。グレイハウンドの集団。噛みつかれ生命を失うとそのまま灰になるっつー話だ。雑食性で家畜や農作物が食い荒らされて困っているらしい。依頼としてはDランク以上だけどな」


 フィアンがバンッと机を叩く。


「あんたさ! またそんな高ランク受けようっての?! 毎回毎回それで負けているんでしょ? いつか死ぬわよ!! ガナードに守ってもらってばっかりでわからないかもしれないけどさ!」


 アイラが慌てて止める。レオはもう受けちゃったもんねーと挑発する。アマサカとガナードは小さくため息をついた。アマサカは言った。お前も大変だなと。ガナードは頷く。



 数日後、準備を整え一行は王都グランディアを東に向かって歩み始めた。アマサカはガナードの荷物の大きさにすごいなと関心していた。やはりドワーフの身体的特性なのか、それだけ筋力が発達しているのだろう。中には数日分の食料が全員分、ポーションなどの必需品などを詰め込んでいた。ガナード自身は全く苦ではない。人間で言うのであれば少し荷物の入ったリュックのようなものだった。



 ここからは2日の旅路。とはいえ危険なこともなく時折キャンプをしながらゆっくりと進んでいく。時間は過ぎ、村へと到着する。多少の歓迎を受けるが村人の表情はよくない。Fランク冒険者達であることもそうだが、随分長いこと誰も来てくれなかったのだ。このクエスト依頼は割に合わないという欠点があったからだ。報酬を出そうにも村の資金源となる家畜や農作物を奪われている状況では報酬も安くなる。だと言うのに相手はDランク以上の冒険者でなければ対応ができない。レオは口を開く。


「しけてんな。冒険者の数が足りてないってもあるけどよ。最近は魔物も増えてるらしいし。どいつもこいつも生気のない目をしてやがる」



 そこへ村長がやってきて、二階建ての宿を提供してもらった。どうやら現在宿屋の主人は不在のようだ。村長は申し訳なさそうに彼らにこう言った。


「やめてもよい。この村は終わりじゃ。あなた方が無駄に死ぬ必要はない。もう村の若いもんと女を逃がそうと思っておる。食料も少なくなってきた。わしら老人や男は残り」

「うるせぇな。勝手に負けたとか決めつけんじゃねぇよ。俺は弱くねぇ。魔物には負けちゃいけねぇんだよ」


「そ、そうか。すまなかったな」



 村長はその場から立ち去った。アイラはそんな言い方しなくてもと言ったがレオは言った。


「くやしくねぇのかよ。役立たず扱いされて。あいつらだって何もかも諦めちまってよ。女子供の命さえ守れればいいだ? ふざけんじゃねぇよ。そいつらの家族はお前らだろうが。失われるんだぞ家族が。それなのにあの生気のない目。充分頑張りましたっつー自己満足。ムカつくだろ。いや、俺も人のことは言えねぇけどよ。ただ、なんかムカついたっつーか」


 ガナードはフッと笑う。レオは顔を赤くしてガナードに文句を言った。そんな雰囲気の中、一行は眠りにつく。アマサカだけは壁に背中を預け座りながら眠った。唯一の武器である刀を抱くように。

 ――一行が来てからの被害者……三名。


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